寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

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離れてみたら

【七】時よ止まれ

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「んじゃ、頑張れ、みずき!」

 せいの音頭によって、カチャカチャとコップのぶつかり合う音が店内に鳴り響く。

「明日も仕事の者は呑み過ぎない様に」

 との高梨の言葉に『はいはい』とか『ちぇー』との返事が飛び交う。
 今日は瑞樹みずきの送別会だ。馴染みの店でそれは開かれていた。三席あるお座敷席を貸し切って、真ん中の席には瑞樹と優士ゆうじが並んで座っている。他の席には各々好きな様に陣取っていた。ここに居るのは高梨率いる十一番隊の他に。

「うわ、どうやったら、こんなに筋肉が付くんですか? 教えて下さい、えみおじさま」

「んん? さあ? 特に変わった事はしていないのだがね?」

 ぺたぺたと亜矢あやに腕を撫で回されて、ニコニコと笑う杜川もりかわの姿があった。杜川の右に亜矢、左に星、その前には瑠璃子るりことむすり顔の高梨に、酒が呑めれば何処でもいいやと笑う天野が居た。
 因みに『えみおじさま』とは杜川の事であり、杜川自らがそう呼んで欲しいと口にしたのだった。付け加えるならば、それは過去にも幾度も口にしてはその度に袖にされて来た事でもある。

「星君、月兎つきと君は? 一人でお留守番なら連れて来ても良かったんだよ?」

「ん? つきとなら、ゆきおのとこだぞ! な、おじさん!」

 瑠璃子の問い掛けに、星はその心配は必要無いと言う様に高梨へと話を振った。勤務外なので、呼び方は普段のそれだ。

「ああ、みくも一緒にな」

 話を振られた高梨は、僅かに目を細めてコップへと口を付ける。
 先日の杜川の襲来と共に、こちらへと帰って来たみくだ。その時に軽く会話はしたが、僅かと言って良い程の時間だった。今頃は月兎と三人で飯を食べながら、話に花を咲かせているに違いないだろう。
 高梨のその僅かな微笑みを杜川の背中越しに瑞樹と優士は見ていた。
 雪緒の事を想って居るのだろう、高梨の表情はその声音と共に、何処までも優しく、柔らかくて、春の穏やかな陽射しを思わせる。
 それは優士が語った様に、やはり羨ましい物だと瑞樹も思った。自分も何時かはそんな風に優士の事を想いながら、語れる日が来るのだろうか? と。周りに砂を吐かせたい訳ではないが。言葉にせずとも、その目が、その声が、ただ、それだけで想いが伝わってしまう様な。そんな空気を纏う事が出来るのだろうか? と。瑞樹にはそんな風になれる自信が無かった。残念な事に、昨日の優士の『合鍵』発言にとんでもなく明後日な発言をしてしまった瑞樹には。その発言に優士はスンッと顔から表情を消した。元から感情を表に出さない優士だったが、その無表情過ぎる無表情に、瑞樹はだらだらと冷や汗を流しながら、無言で掌を差し出す優士のその手の上に、着物の袖から取り出した部屋の鍵を乗せたのだった。

「そういや、みくちゃんには何て頭下げて戻って来て貰ったんだ?」

「何度も言ってるだろ。愛想つかされた訳じゃ無いって。ちょっと用事があって留守にしてただけだ」

 高梨から放たれるやたら甘い空気を消そうとした隊員の誰かが、天野にからかう様な声を掛けるが、天野は軽く手を振って口の端で曖昧に笑うだけだ。
 本当の事等話せる筈も無い。それをこの場で知っているのは、天野の他には、発起人の杜川に、星と高梨だけだ。
 それで会話を断ち切ろうとした天野だったが、酔いが回った隊員は退こうとせずに踏み込んで来る。

「ちょっとじゃないだろ~? 何年留守に…」

「星兄様!」

 しかし、全てを言い切る前に、この場には相応しくない高い少年の声が届いた。

「お? つきと? ゆきおにみくも? どした?」

 それに直ぐに反応したのは星だった。立ち上がり座敷を降りて、今しがた店内に入って来た三人の元へと歩み寄って行く。一拍遅れて、高梨と天野もその後に続く。

雪緒ゆきお? どうした? 迎えなら必要無いと…」

「みくちゃん、迎えに来てくれたのか? でも、まだはや…」

 それぞれの相手に声を掛けようとした二人だったが、それよりも早くに月兎が星の胸に飛び付いて、口を開く方が早かった。

「ボクも雪兄様がゆかりおじさまにされたみたく、星兄様におちんちんを弄って欲しいですっ!!」

 時間が止まった。
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