寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

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僕から君へ

贈り物【六】

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(しかし…)

 と、高梨は頭を押さえていた手を下ろして行く。

(…こいつ、動揺するとこんなに雄弁になるんだな)

 優士ゆうじは無表情を装い、塩を貫いているのだろうが、その形の良い唇から紡がれる言葉までは塩に塗れている訳では無い。

(何とも可愛らしい物だな)

 目の前で瑞樹みずきから贈られた襟巻きを指先で弄る優士を見て、高梨は小さく口元を緩めるが。

「ですから、このままお預け期間が続きますと、俺は嫌がる瑞樹を無理矢理にと云う可能性が無きにしも非ずと云う訳でして。昨夜瑞樹が接吻をして来なければ、未だ我慢出来たのですが、そうされてしまった以上は、もう抑える事が苦しく…俺を犯罪者にしたくなければ、ここは先駆者として人生の先輩として良い知恵を授けて欲しいと」

 しかし、それは直ぐに引き締める処か、きつく結ばれる事になった。

(可愛く無いっ!!)

「…おい…」

 相談をしに来た筈が、何時の間にか上司を脅迫している優士に高梨がスッと目を細めた。

「瑞樹は貴方を尊敬しています。貴方の様な人間になりたいと。そんな貴方から『お前は強くなった』と言われれば、瑞樹も納得するかと」

「…む…」

 褒められて気分を害する者は居ない。
 それは高梨とて例外では無く。
 高梨の細めた目からは険が消え、右手で口元を押さえる。

「俺としては、無愛想な瑞樹は見たくないので、あくまでも貴方は掲げた目標として、情けない笑顔が可愛い瑞樹のままで居て欲しいのですが」

「…おい…」

 右手で押さえた高梨の口元がヒクヒクと小刻みに動く。
 何なら目付きも先程よりも険しくなっている。
 果たして優士は相談をしに来たのか、脅迫をしに来たのか、はたまた惚気に来たのか。

 これは、これまでにこいつが問い掛けて来た事を丸投げにして来た報復なのか。
 どうしてくれようか、この後の訓練で徹底的に扱いてやろうかと、少々凶悪さを孕んだ考えが脳裏を過るが、そんな事に意味は無い。
 こいつは、何らかの答えを求めているのだ。
 それを先送りにしては、本当に犯罪に走りかねない。
 生真面目な者ほど、何を仕出かすのか解らないのだ。

 と、雪緒ゆきおが仕出かした数々の事を思い出しながら、高梨は長い息を吐いた。

「…強く、か。橘の事は津山から聞いている。治療隊は己の身を守る為に懐刀を持つが、橘は普通の刀を持ち、妖に遭遇すれば屠っているとな。あの日に蹲っていた奴だとは、到底思えんな。目覚ましい変化だと思う。強くなったかと云えば、十分に強くなったと俺は思う。だが、橘はそうではないんだな?」

 こくりと優士は襟巻きを弄りながら頷く。

「…何を強さとするのか。それは人によって変わる物なのだろう。…橘は、目に見える強さより、そうでは無い強さを求めていると云う事か?」

 また、無言で優士が頷く。

「…そんな果ての無いもの。自分で、自分の中で折り合いを付ける物だと思うがな」

 喋り過ぎたか、と、高梨は温くなった茶を一口飲む。
 ぽかぽかとしたそれは、喉を伝い、ゆっくりと身体に沁みて行く。

「…まあ、良い。土曜日の夜は空いているか?」

「え?」

「その日は帰らずに、橘と俺の仕事が終わるまで待っていろ。俺が一番強いと思う奴に合わせてやろう」

「おじさんっ!!」

 不敵に笑う高梨に、優士が瞬きをした時、部屋の扉が勢い良く開いて、せいが飛び込んで来た。

「何だ。お前、今日は休み…」

 高梨がソファーから立ち上がり、特徴である馬の尻尾をぐちゃぐちゃにして、赤い顔で目に涙を浮かべる星に近付こうとしたが。

「つきとがおいらの尻の穴にちんちんを入れたいってっ! おいら、どうしたらいいんだっ!?」

 星の叫びに高梨は目を閉じ、天井を仰いだ後に、

「帰れ―――――――――っ!!」

 力の限りに、そう叫んでいた。
 優士はただ、無言で襟巻きを弄っていた。
 ただ、その頬は解りにくいが、薄っすらと桃色に染まっていた。
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