寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

文字の大きさ
81 / 125
番外編・祭

特別任務【五】

しおりを挟む
「こんにゃろめっ!!」

『ア"ア"ア"ア"ア"ッ"!!』

 ガシャッと硝子が割れる音が周囲に響く。

せい! 壊すなっ!!」

 それに呼応するかの様な、高梨の叱咤の声も。

「文句言うなら、こいつらだろ! たける副たいちょ、止め頼むな!」

「はいよ、っと!」

 むっ、と唇を尖らせて星は天野に止めを頼み、あやかしと共に突き破って出て来た窓から、再び建物の中へと入って行った。頼まれた天野は苦笑しながらも、妖のまなこに刀を突き立てた。

 出発前に高梨が口にしていた様に、保養地にある建物の中には妖が巣食っていたのだ。
 現場に着いて、荒れた建物を見て『うん、知ってた』と、誰もが遠い目をした。
 街にある廃屋にだって、妖は入り込んで来るのだ。警戒する人間も居ない、こんな山奥にあるこの建物は絶好のカモだった。
 朝、早い内に出て来て、陽は中天に差し掛かっている。そんな時間なのに、周りにある木々のせいで鬱蒼としていて、とにかく暗い。そんな処にある、この建物は、正に『妖ホイホイ』としか言えない。

『おー、ワサワサ居るぞ。おいら達が来たのに、興味津々みたいだ。よっしゃ! 行って来る!』

 と、高梨が止めるのも聞かずに、車から星は飛び降りて、妖ホイホイの中へと入って行った。
 仕方が無く、天野と長渕らを中へと向かわせ、残った者達で篝火を焚き、物資を車から下ろしたり、周りの木々の伐採…では、足りないから、持って来た斧で木々を切り倒して行った。朱雀が買い上げた山だから、文句は無いだろうと、遠慮無しに周りの木を切り倒して行った。その間の周囲の見張りは、女性に力仕事はさせられないからと、瑠璃子るりこ亜矢あやに頼んだ。

「おぉい…俺ぁ、温泉に入りに来たんだぞ…」

 倒された木に足を乗せ、ノコギリで枝を払いながら須藤がぼやけば。

「一汗掻いてからの温泉は格別ですから…」

 と、払われ地面に落ちた枝を拾い集めながら中山が宥める。

「ああ、それ。大きいの頂戴よ。竈の風除けに使うから」

 その脇では、斧を持つ隊員にみくが注文を付けていた。

「みく姉様! このお鍋で大丈夫でしょうか?」

「ああ、ありがと。んじゃ、簡易テーブル出して豚汁でも作ろうかね」

「はい!」

 月兎つきとが車から鍋を幾つか引っ張り出して来て、みくに渡した後、簡易テーブルを取りに直様に車へと引き返して行く。

「みくちゃん、みくちゃん、芋洗い終わったよ~」

「みくちゃん、みくちゃん、米洗い終わったよ~」

 妻に見捨てられた隊員達は、せめて同じ人妻であるみくに癒されようとして、進んで炊き出しに参加していた。

 あちらを見れば、割れた窓硝子が散乱していて、それは『こんにゃろめ!』との星の掛け声と共に量産されて行き、こちらを見れば、野太い笑い声が聞こえたりと、山の中は中々に混沌とした空気に包まれていた。

 ◇

 建物内に居た妖を一掃し、周囲の見晴らしも、ついでに建物の風通しも良くなり、建物内にあった布団を引っ張り出し、お天道様に翳したりした後、高梨達は少し遅い昼食を摂っていた。藺草で作られた茣蓙を何枚か地面の上に広げ、その上で各々寛いでいる。

「食べ終わったら、建物の修繕に取り掛かる。全員でと言いたい処だが、明日の為に地形を調べて置きたいな。俺と天野と…」

「おいらも行くぞ!」

 片手に握り飯を持ちながら高梨が視線を巡らせれば、その隣に座る星が握り飯を丸飲みしてから、声を上げた。

「…星の意見はあてにならんから、却下だ。そうだな、橘と楠…」

 しかし、高梨は軽く眉を上げただけで、向かいに居る瑞樹みずき優士ゆうじを目に留めて口を開く。

「無視すんな!」

「"崖があるけど飛び越えればだいじょぶ"とか"滝になってるけど泳げばだいじょぶ"とか、何の参考にもならんだろうがっ!!」

「あだっ!!」

 高梨が星の頭に拳骨を落とせば、星の隣に座る月兎つきとが両手で星の頭を抱き込んで、高梨をキッと睨んだ。

ゆかりおじさま! 星兄様の頭をポコポコ叩かないで下さい! これ以上馬鹿になる事はないと思いますが、星兄様の記憶が飛んだらどう責任を取ってくれるのですか!!」

「おお。つきとは優しいな! でもだいじょぶだぞ! これは愛情表現だって、親父殿が言ってたからな! おいら、ゆかりんたいちょにあいされてんだぞ!」

「…あの親父は…」

 白い歯を見せて笑う星に、高梨は眉間に寄った皺をひたすらに解している。
 そんな高梨達や星の様子を隊員達は生暖かい目で見ながら、豚汁や握り飯を口に運んでいる。天野に至ってはみくに『あ~ん』をさせられて、周りに居る者達から殺意の籠った視線を浴びせられていたが。

「そうなのですか。でも、星兄様を誰よりも愛しているのは、ボクです。次に親父殿で、その次に雪兄様です。紫おじさまはその遥か下、底辺も底辺です。その愛はあっと云う間に川の底に沈む様な物です。それに紫おじさまが誰よりも愛しているのは雪兄様です。過去には親父殿に想いを馳せていた事もあったそうですが、それは抜けた虫歯の様に地の奥底に埋められた悲しいきお…」

「止めろ――――――――!!」

 星の頭に顔を埋めて頬擦りをしながら語る月兎の言葉に、高梨は力の限りに叫んでいた。

 ◇

 そんな微笑ましい遣り取りがとある山の中で行われている頃。とある街のとある学校内にて。

「…高梨先生…あの、俺、何か腹が痛くて…ベッドで寝てていいかな…?」

 と、わざとらしく腹を押さえた男子生徒が保健室の戸を開けていた。
 この彼の思惑としては、仮病を使い、雪緒ゆきおに甘えようと云う、そんな可愛いものだったのだが。

「やあ~、こんにちは~。大変だね~。何処が~、どんな風に痛いのか~、詳しく聞かせて貰えるかなあ~?」

 雪緒の、穏やかな微笑みを想定しながら開けられた戸の向こうに居たのは…。
 何時も雪緒が腰掛けて居る筈の、回転式の丸椅子に居たのは、黒い縁取りの丸眼鏡を掛けた、垂れ目が印象的な壮年の男だった。

「誰っ!?」

 と、男子生徒が思い切り目を剥いて叫んだのも、致し方が無いと言えよう。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

処理中です...