寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

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番外編・祭

特別任務【四】

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 二十二日の朝、白い息を吐きながら朱雀の駐屯地にて、あからさまに肩を落とす三人が居た。

「何だい、行くのはアタイ達だけなのかい? 雪緒ゆきお君は? 雪緒君が来ないんじゃ帰ろうかねえ」

「雪兄様は行かないのですか?」

「雪緒さんは来ないのか…」

 みくと月兎つきと瑞樹みずきである。

「…お前達な…」

 そんな三人に、高梨は目元をヒクヒクと痙攣させていた。
 雪緒が来なくて一番残念な思いをしているのは高梨なのだが、三人は知ったこっちゃあないと、がくりと肩を落としている。
 みくと月兎は解るが、瑞樹も、とはと高梨は内心驚きを隠せない。あの日、夕餉に招いたのが理由だとは思うが、どうやら瑞樹も雪緒に懐いた様だった。瑞樹には優士ゆうじが居るから、そちらの方面では何の心配もしては居ない。居ないが、その優士がたまに高梨に塩の目線を送って来るのだ。今も、その塩を荒くした目線で高梨を見ながら、物資を車に運んでいる。勘弁してくれと高梨は思う。

「月兎なら解るだろう。学校はまだ休みには入っていない。雪緒が仕事を投げて遊びに行くなぞする筈が無いだろう。それより、親父は来ないのか?」

 てっきり、朝から杜川の濃い顔を見るのかと思っていただけに拍子抜けだと、高梨は肩を竦めて苦笑した。
 それよりも、今回のこれは任務である。仕事であるのだが"遊び"と口にしている時点で、この男も大概である。

「親父殿は用事があるので、現場に直行するそうです。後で会おうねって言ってました」

「…結局来るのか…」

 解ってた。知ってた。津山も口にしていたが、あの杜川が、この祭りに参加しないと云う選択肢を持ち合わせている筈が無いのだ。ただ、高梨はそうと知りつつも、頭の中から消しておきたかったのだ。

「えいみっつぁんが来るって言うから、俺は参加したんだぞ! まあ、タダで温泉に入れんなら文句は無えけどな!」

 と、カラカラと笑うのは、討伐隊の医務室に常駐している須藤だ。

「須藤さん! 俺にばかり荷物運ばせないで下さいよっ!」

 と、治療器具を運びながら恨めしげな声を出すのは、治療隊の中山だ。中山は三十一になるが、まだ独身だ。
 須藤と中山が、今回、津山が選んだ二人だった。いや、須藤は自ら立候補した。そもそも、須藤は一線から身を引いている。それなのに、話を聞いて飛び付いて来たのだ。代わりに、津山が討伐隊の医務室に常駐となっている。まあ、これで、新月の夜にふらふらと出歩く事は失くなるだろう。本人が聞いたら『私を誰かさんと一緒にしないで下さい。あの時は、本当に橘君の様子を自分の目で確かめる為にですね』と、延々と言いそうであるが。

「にしても。電気も無い、水道も無い、当然瓦斯も無い。良くもまあ、そんな僻地に保養所を作ったよなあ~」

 保養所ブームに乗り遅れたのだから、仕方が無い。目ぼしい処は既に買い手がついていたのだ。

「俺のカミさん『温泉は良いけど、そんな僻地に行くくらいなら、家でのんびりしてるわ。亭主元気で留守が良いって言うものね』って、ヒラヒラと手を振り…っ…くっ…!!」

 隊員の一人が目に涙を浮かべれば、それは周囲に伝播して行く。

「俺も俺も『あ、じゃあ残った奥さん達とディナーに行こうかしら』って、計画立ててた…っ…!!」

「同じく…っ…!!」

「新月終わったら、呑んだくれてやる…っ…!!」

「誰が一番あやかしを討伐出来るか競争だ!」

「いや、せいで決まりだろ。無駄無駄」

「それでも! この気持ちの遣り場がっ!!」

 駐屯地の訓練場は、寂しい既婚者達の怨嗟の念に包まれていた。

「…妖討伐に燃えるのは良いが、まずは建物の修繕からだ。管理者なぞ常駐していないからな。建てられてから放置されているそうだから、妖に荒らされている可能性がある」

 ちらりと高梨がベニヤや角材等を運ぶ天野に目を向ければ、わいわいと嘆いていた隊員達は、その場へとへたり込んでしまった。

 五十嵐は良い点、悪い点を報告しろと言っていたが、現状悪い点しか浮かばない。

「…俺達…朱雀だよな…」

「…何時から土建屋になったんだ…」

「…はは…死んだお袋が花畑で俺を呼んでるぜ…」

 そんな呟きを飲みながら、ひゅう~と、冬の冷たい風が訓練場を吹き抜けて行った。
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