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小さな贅沢
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ここは、俺の家だ。
主は俺だ。
「そんなこんなで、雪緒君育成計画会議を始めるよ~」
「ええ」
「おう」
「あ~、早く会いたい~」
その筈なのに。
「雪緒君はね、とにかく胃袋が小さいから、無理に食べさせようとしたら駄目だよ~」
「少量でも良いから、とにかく回数を増やせば良いのですわよね?」
「しかし、腹一杯食えないってのは辛いよなあ。まだ小さいのに」
「そんなに小さいのかい?」
その筈なのだが。
「うん。そうだよ~。出来るだけ間食させてあげてねえ~」
「あらあら。でしたらお茶に誘うのも良いですわよね?」
「甘い物が好きなんだよな?」
「伊達巻き作って持って来たよッ! 食べてくれるかな?」
卓袱台を囲って、先陣を切っているのは相楽で、その後に、鞠子、天野、みくと続いている。
俺は、その輪から外れてそれを見ていた。
いや、確かに、あの栄養失調状態を何とかしなければならないのは、解る。解るが。
少々、度が過ぎてる様な気がするのは、気のせいだろうか?
「…いや…。あの、な? 雪緒の事を思ってくれるのは有り難いんだが…そんなに急がずとも…」
「紫君は、雪緒君が可哀想じゃないのかなあ~?」
「そうですわ。小さなチョコレート一つに、あんなに時間を掛けて…」
「俺は、チョコ食べてるの見ていないけどな!」
「とにかく、気軽に摘まめる物があれば良いんだろ?」
ゆっくりで、と、言おうとしたら、相楽と鞠子は泣き真似をするわ、天野は腕を組んで踏ん反り返るわ、みくは伊達巻きを見せてくるわで、茶の間はいっそう混沌とした。
頭が痛い。
◇
今、僕は途方も無い贅沢の中に居ます。
暖かな午後。
麗らかな陽射しの下。
満開の桜が咲く公園のべんちで、贅沢を戴いています。
「ほら。揚げたてのコロッケは何も付けなくても美味しいだろう?」
「はい! 僕、こんなに美味しいころっけは初めて食べます!」
お妙様の言葉に、口の中にありますころっけを飲み込んでから、僕はお返事をしました。
買い物の荷物を持った御褒美だと言って、お妙様が僕にほくほくのころっけを買って下さったのです。
荷物持ちは当然の事だからと、お断りしたのですが。
『ばあちゃん一人でコロッケ二つはキツいなあ。今だけでも、孫になったつもりでさ。孫に御褒美をあげるのが、ばあちゃんの楽しみなんだけど…そっかあ、雪緒はばあちゃんが嫌いかあ』
と、涙を流されてしまいましたので、戴く事に致しました。
揚げたてのころっけは、ほくほくとほんのりと甘くて、とっても美味しいです。
そんな僕を見て、お妙様が何故か泣き出してしまいました。
ころっけが喉に詰まったのでしょうか? 大丈夫でしょうか?
心配していましたら、涙を拭いながらお妙様が笑います。
「いんや、ちょっと目にゴミが入っただけさ。ほら、気にしないで食いな」
「はい!」
再び食べ始めましたら、お妙様がにこにこと笑顔になりました。
満開の桜の下で、お妙様の笑顔に見守られながら、僕はとっても贅沢なころっけを戴きました。
主は俺だ。
「そんなこんなで、雪緒君育成計画会議を始めるよ~」
「ええ」
「おう」
「あ~、早く会いたい~」
その筈なのに。
「雪緒君はね、とにかく胃袋が小さいから、無理に食べさせようとしたら駄目だよ~」
「少量でも良いから、とにかく回数を増やせば良いのですわよね?」
「しかし、腹一杯食えないってのは辛いよなあ。まだ小さいのに」
「そんなに小さいのかい?」
その筈なのだが。
「うん。そうだよ~。出来るだけ間食させてあげてねえ~」
「あらあら。でしたらお茶に誘うのも良いですわよね?」
「甘い物が好きなんだよな?」
「伊達巻き作って持って来たよッ! 食べてくれるかな?」
卓袱台を囲って、先陣を切っているのは相楽で、その後に、鞠子、天野、みくと続いている。
俺は、その輪から外れてそれを見ていた。
いや、確かに、あの栄養失調状態を何とかしなければならないのは、解る。解るが。
少々、度が過ぎてる様な気がするのは、気のせいだろうか?
「…いや…。あの、な? 雪緒の事を思ってくれるのは有り難いんだが…そんなに急がずとも…」
「紫君は、雪緒君が可哀想じゃないのかなあ~?」
「そうですわ。小さなチョコレート一つに、あんなに時間を掛けて…」
「俺は、チョコ食べてるの見ていないけどな!」
「とにかく、気軽に摘まめる物があれば良いんだろ?」
ゆっくりで、と、言おうとしたら、相楽と鞠子は泣き真似をするわ、天野は腕を組んで踏ん反り返るわ、みくは伊達巻きを見せてくるわで、茶の間はいっそう混沌とした。
頭が痛い。
◇
今、僕は途方も無い贅沢の中に居ます。
暖かな午後。
麗らかな陽射しの下。
満開の桜が咲く公園のべんちで、贅沢を戴いています。
「ほら。揚げたてのコロッケは何も付けなくても美味しいだろう?」
「はい! 僕、こんなに美味しいころっけは初めて食べます!」
お妙様の言葉に、口の中にありますころっけを飲み込んでから、僕はお返事をしました。
買い物の荷物を持った御褒美だと言って、お妙様が僕にほくほくのころっけを買って下さったのです。
荷物持ちは当然の事だからと、お断りしたのですが。
『ばあちゃん一人でコロッケ二つはキツいなあ。今だけでも、孫になったつもりでさ。孫に御褒美をあげるのが、ばあちゃんの楽しみなんだけど…そっかあ、雪緒はばあちゃんが嫌いかあ』
と、涙を流されてしまいましたので、戴く事に致しました。
揚げたてのころっけは、ほくほくとほんのりと甘くて、とっても美味しいです。
そんな僕を見て、お妙様が何故か泣き出してしまいました。
ころっけが喉に詰まったのでしょうか? 大丈夫でしょうか?
心配していましたら、涙を拭いながらお妙様が笑います。
「いんや、ちょっと目にゴミが入っただけさ。ほら、気にしないで食いな」
「はい!」
再び食べ始めましたら、お妙様がにこにこと笑顔になりました。
満開の桜の下で、お妙様の笑顔に見守られながら、僕はとっても贅沢なころっけを戴きました。
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