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たくさんの流れ星
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「…ふわ…お空が曇っていてお星様が見えませんね…」
今日は流れ星がたくさん見られる日らしい。全く何処でそんな情報を仕入れてくるのやら。
「このくそ寒いのに、戸に張り付いて風邪を引いても知らんぞ」
シュンシュンとストーブの上で音を立てるヤカンの向こうに見える、廊下の戸に張り付く雪緒の背中に声を掛ける。
「湯たんぽを抱いていますから、然程寒くはありませんよ。旦那様も如何ですか?」
そうすれば雪緒はゆっくりと振り返り、胸に抱き締めていた、手拭いを何枚も重ねて巻いた楕円形の物を真面目な顔で見せて来た。
「…俺は良い。お前と違って鍛えているからな」
「…うぅん、意地悪です」
盃を手に口の端で笑えば、雪緒は僅かに唇を尖らせて俺にまた背中を向けてしまった。
…だから、そっちを見るな。
曇っていて見えないと言っただろう?
諦めてこちらへ来い。
そんな薄っぺらい身体では本当に風邪を引くぞ。
と、思った処で、雪緒がこちらへ来る筈も無く。
俺は盃を卓袱台に置き、軽く頭を掻いて立ち上がる。
「…ったく、月も見えないのに星が見えるか」
雪緒の隣に並んでぼやけば、その小さな肩がぴくりと震えた。
そして、空を見る為に上を向いていた顔が徐々に下がって行く。
「…ですが…その…たくさんのお星様が流れると、倫太郎様からお聞きしまして…」
また、あいつか!
これで雪緒が風邪を引いたら、あいつの処へ行かなければならないな。
「…それほどにたくさん流れるのでしたら、僕でも一つくらいは見えるかと思いまして…そうしましたら、お願い事も出来るのでは、と…」
「何を願う気だったんだ?」
「は…その…旦那様が息災であります様にと……」
「…は…?」
「あああああっ! 僕なんかが烏滸がましいですよね! 旦那様の健康を信じていない訳では無いのですが…っ…!」
「いや…まあ…。…あ、流れ星!」
「ふわ!? ど、何処ですか!?」
「上の方だ!」
「ふわわわわ!?」
顔を上げて空を見上げる雪緒の旋毛を見ながら、俺は緩みそうになる口元を手で覆い隠した。
こいつ、どうしてくれようか。
何故、お前はそう俺を喜ばす事しかしないのか。
自分の事を願えば良いのに、それより前に俺なのか。
「うぅん…遅かった様です…」
…嘘だったのだが…。
雪緒は俺の言葉を疑う事無く、肩を落として溜め息を吐いた。
…こいつのこんな顔は見たくは無いな。
「…いいか、雪緒。見ようとするから見えないんだ」
「…ふえ…?」
「俺が代わりに見ててやるから、お前は目を閉じて願い事を呟いていろ」
「…ふえぇ…?」
「星が流れたら合図するから、即座に言える様にしておけ。いいな?」
「ふぁひっ!!」
雪緒の肩に腕を回して抱き込む様にして言えば、身体を硬くしてコクコクと頷いた。
全く。これぐらいは、いい加減慣れて欲しいものだ。
だが、まあ慌てる事は無いか。時間は無限では無いが、未だ幾らでもあるのだから。
「今だ! 右の方に見えるぞ!」
「はひっ! だん、だんにゃしゃ…っ…! しょ、そ、ず、じゅっと一緒に居られます様に…っ…!!」
こいつ、俺を殺す気かっ!?
その言葉を聞いた瞬間に、俺は雪緒の肩に回していた手を離し、廊下に崩れ落ちた。
「ふは…っ…! ぶ、無事に言えましたでしょうか!? って、旦那様? 廊下に座っていましたら風邪を引かれますよ?」
閉じていた目を開き、廊下に蹲る俺を雪緒が不思議そうな顔で見て来る。
誰のせいだと思っているんだ!
「ああ、そうです! この湯たんぽをお布団の中に入れて置きますね! 暖かくしてお休みになられて下さいね!」
「あ、いや…っ…!」
それはお前が使うべきだろうが!!
あんなに冷たい肩をしていたくせに、何を言うのか!
と、止める間もなく雪緒は俺の部屋を目指して廊下を駆け出した。
「…ったく…」
溜め息を吐いて、軽く腰を浮かせて顔を上げれば、目の端にきらりと光る物が映った。
「…雪緒と同じだ…」
音も無く夜空を流れるそれに、俺は軽く肩を竦めて首の後ろを掻いて笑った。
今日は流れ星がたくさん見られる日らしい。全く何処でそんな情報を仕入れてくるのやら。
「このくそ寒いのに、戸に張り付いて風邪を引いても知らんぞ」
シュンシュンとストーブの上で音を立てるヤカンの向こうに見える、廊下の戸に張り付く雪緒の背中に声を掛ける。
「湯たんぽを抱いていますから、然程寒くはありませんよ。旦那様も如何ですか?」
そうすれば雪緒はゆっくりと振り返り、胸に抱き締めていた、手拭いを何枚も重ねて巻いた楕円形の物を真面目な顔で見せて来た。
「…俺は良い。お前と違って鍛えているからな」
「…うぅん、意地悪です」
盃を手に口の端で笑えば、雪緒は僅かに唇を尖らせて俺にまた背中を向けてしまった。
…だから、そっちを見るな。
曇っていて見えないと言っただろう?
諦めてこちらへ来い。
そんな薄っぺらい身体では本当に風邪を引くぞ。
と、思った処で、雪緒がこちらへ来る筈も無く。
俺は盃を卓袱台に置き、軽く頭を掻いて立ち上がる。
「…ったく、月も見えないのに星が見えるか」
雪緒の隣に並んでぼやけば、その小さな肩がぴくりと震えた。
そして、空を見る為に上を向いていた顔が徐々に下がって行く。
「…ですが…その…たくさんのお星様が流れると、倫太郎様からお聞きしまして…」
また、あいつか!
これで雪緒が風邪を引いたら、あいつの処へ行かなければならないな。
「…それほどにたくさん流れるのでしたら、僕でも一つくらいは見えるかと思いまして…そうしましたら、お願い事も出来るのでは、と…」
「何を願う気だったんだ?」
「は…その…旦那様が息災であります様にと……」
「…は…?」
「あああああっ! 僕なんかが烏滸がましいですよね! 旦那様の健康を信じていない訳では無いのですが…っ…!」
「いや…まあ…。…あ、流れ星!」
「ふわ!? ど、何処ですか!?」
「上の方だ!」
「ふわわわわ!?」
顔を上げて空を見上げる雪緒の旋毛を見ながら、俺は緩みそうになる口元を手で覆い隠した。
こいつ、どうしてくれようか。
何故、お前はそう俺を喜ばす事しかしないのか。
自分の事を願えば良いのに、それより前に俺なのか。
「うぅん…遅かった様です…」
…嘘だったのだが…。
雪緒は俺の言葉を疑う事無く、肩を落として溜め息を吐いた。
…こいつのこんな顔は見たくは無いな。
「…いいか、雪緒。見ようとするから見えないんだ」
「…ふえ…?」
「俺が代わりに見ててやるから、お前は目を閉じて願い事を呟いていろ」
「…ふえぇ…?」
「星が流れたら合図するから、即座に言える様にしておけ。いいな?」
「ふぁひっ!!」
雪緒の肩に腕を回して抱き込む様にして言えば、身体を硬くしてコクコクと頷いた。
全く。これぐらいは、いい加減慣れて欲しいものだ。
だが、まあ慌てる事は無いか。時間は無限では無いが、未だ幾らでもあるのだから。
「今だ! 右の方に見えるぞ!」
「はひっ! だん、だんにゃしゃ…っ…! しょ、そ、ず、じゅっと一緒に居られます様に…っ…!!」
こいつ、俺を殺す気かっ!?
その言葉を聞いた瞬間に、俺は雪緒の肩に回していた手を離し、廊下に崩れ落ちた。
「ふは…っ…! ぶ、無事に言えましたでしょうか!? って、旦那様? 廊下に座っていましたら風邪を引かれますよ?」
閉じていた目を開き、廊下に蹲る俺を雪緒が不思議そうな顔で見て来る。
誰のせいだと思っているんだ!
「ああ、そうです! この湯たんぽをお布団の中に入れて置きますね! 暖かくしてお休みになられて下さいね!」
「あ、いや…っ…!」
それはお前が使うべきだろうが!!
あんなに冷たい肩をしていたくせに、何を言うのか!
と、止める間もなく雪緒は俺の部屋を目指して廊下を駆け出した。
「…ったく…」
溜め息を吐いて、軽く腰を浮かせて顔を上げれば、目の端にきらりと光る物が映った。
「…雪緒と同じだ…」
音も無く夜空を流れるそれに、俺は軽く肩を竦めて首の後ろを掻いて笑った。
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