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新しい世界の始まり

ハードンでの休息

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ルーデン砂漠を抜けた先の中規模の街ハードン、周りを砂漠に囲まれていて魚や野菜などの食料は手に入りづらいが、砂漠の地下に眠る豊富な鉱石がとれることから街を発展してきた。

周囲を砂漠に囲まれているため他国の敵に襲われることも少なく、安全な土地としても有名だ。


「報告も無事終わって良かったです」


リチェリーがにっこり微笑んで言う。冒険者ギルドは一時突然現れた巨龍で大騒ぎになっていたらしい。

討伐するにも人でも戦力も足らない状況だが、逃げ惑う人々を守るクエストとか色々出たらしい。


「・・・少しゆっくり休みたいな・・・・」


ゼノンが言う。


「あっちに宿があるみたいだぜ」


ディオルの脅威の視力と嗅覚で一行は宿へと向かった。




―宿屋オアシス―


砂漠の中の街の宿らしい名前だった。外装はこじんまりとした石畳造りだ。

中に入ると、奥にはカウンターがあり、手前にはいくつかのテーブルと椅子のセットが置かれていてそこで泊まらず食事だけの人も食べれるらしい。


「いらっしゃいませー、何名様ですか?」

「4人で!」


リチェリーが受付の女性と話をしている間、3人は手前の椅子に座って待っていた。


「お部屋の方は?」

「えーっっと・・・・・3つ?」

「3つですか?」


どういう計算、いやどういう割り振りでそう応えたのか・・・。

リチェリーの中では、自分とゼノンが1部屋。

シズルとディオルで1部屋づつという認識だった。


「部屋は開いているの大丈夫です、防音も完備です!」

「「・・・・・・・」」


受付の女性とリチェリーの会話は狭い部屋の中なのでばっちり聞こえている。

ディオルとゼノンは苦笑する。

シズルは無表情で無言のまま。


「朝夕の食事付き宿泊で、お一人様1泊・・・10000カロンですので・・・4名様で40000カロンです」


大銀貨4枚をリチェリーと受付の女性の間にさり気なく置くゼノン。


「あ、ゼノン・・・良いの?」

「大丈夫だ」


バックの中には大金がまだまだ・・・売ってない素材の山もまだ眠っている。


「こちらが部屋の鍵です」


連続した部屋の番号が書かれた木の札が付いた鍵を受け取り、一行は2階の部屋へと足を進めた。


「朝と夕飯はでるけど、お昼は自分たちで外で食べないとだね」


リチェリーがそう言いながら階段を上り、前を行くゼノンの後を付いて普通に同じ部屋に入っていく。


「・・・・・あの2人って・・・そういう仲なのか?」


後ろを歩いていたディオルは驚いたような表情のまま呟く。


「・・・私も別に、ディオルと、同じ部屋でも・・・良かったよ?」

「ッ!!?」


更に驚いてディオルは慌てて用意された自分の部屋へと逃げるように入った。


「・・・・・・・」


ポツンと取り残されたシズルは無言のまま用意された自分の部屋に入った。



「・・・・・敢えて聞かなかったが、どうして普通に同じ部屋に・・?」

「えー?別に・・・節約と、あとお互い知らない仲でもないし?」

「宿の部屋が空いてないなら分かるが、やはり・・・」

「ゼノンは幼女にも興味あるの?」

「・・・・・・・」

「やはり、大人の女性が好みかなぁ?」


リチェリーが誘うように自分の身に纏っている装備を脱ぎ始めた。


「おい、リチェリー! いい加減に・・・」


ゼノンの胸の上に馬乗りになっているリチェリー。


「私は!! こんな姿でも・・・・ゼノンのことが好きだよ?」

「!」

「私の所為で・・・腕・・・失って・・・それでも私の側に居てくれるって言って貰えて・・・本当に嬉しくて・・・私・・・」


ポロリと温かい涙がゼノンの頬に零れ落ちる。


「・・・・・」

『ゼノンよ、此処まで女性に言わせたのだ、此処は男として・・・・』

(分かってる・・・けど・・・俺なんかで良いのか?)

『本人に直接聞けば良いのじゃ』

「・・・・リチェリー、俺なんかで良いのか?他にも一杯・・・」


世の中には男がいるだろう。そう言いかけたのをリチェリーが遮る。


「ん・・・」


甘い口づけで。


「ゼノン、それは肯定・・・でいんだよね?」


そういうリチェリーの表情はとても可愛らしく、そして綺麗だった。


「ヤバいな・・・・」


理性が保てそうに無い、反則だろう、あの笑顔は・・・。



「・・・・・」

「・・・・・」


朝の10時くらいに宿に来て、陽の傾き加減からしてもう14時くらい。


「ごめん・・・・」

「んーん、私が誘ったから・・・」


薄めの毛布に身を包みリチェリーが照れくさそうに笑う。


「ちょっとお腹すいたかも・・・」

「何か、食べるものを買ってこよう・・・」

「私はちょっと、今動けないかな・・・・」

「・・・・何か買ってくる」

「お願い」


さっと軽装に着替えてゼノンが部屋から出ると、ディオルもタイミング良く部屋から出てきた。


「・・・何か食い物買ってこようかと思ってな・・・」


ディオルが言う。


「ああ、俺も同じだ」

「すっかり寝過ごしちまった・・・あんな砂漠を歩いたからなぁ!」

「悪かったよ、シズルは?」

「ああ、今頃ぐっすり夢の中じゃないか?アイツは基本夜行性だしな」

「そうなのか・・・・」


変な薬とか作ってたり、謎の実験をしたり、未だに全貌が掴めては居ない彼女。


「・・・・変な奴だと思うか?」


急にディオルに問われてゼノンはどう答えて良いのか困惑して結果沈黙した。


「まぁ、ゼノン程じゃ無いがな?」


そう返されてしまった。ちょっと心外なのだが。


「シズルは凄い錬金薬術師だ、俺も昔助けられたからな」

「錬金薬術師・・・凄いな」


出会った時に飲んだ強烈な薬を思い出して呟く。


「・・・ッ・・腕は良いんだが・・・薬の性能は凄いんだ!効果抜群だしな・・・」

「・・・ああ・・・」


そして悟ったゼノンは相づちを打ち成る程っと頷いた。

気絶するほどの副作用をもたらす効果抜群の薬。副作用の方が、残念だなと2人は意気投合した。


「味音痴・・・と言う奴か」

「と言うより、アイツは元々使われる側を配慮してないかも知れない・・・効果出るしいいや、みたいな・・・」

「・・・・・・・」


そんなことを話ながら宿を出てディオルの嗅覚便りで、旨そうな匂いの方へと足を進める2人。


「こんなとこで・・・肉が!」


目の前で焼かれる巨大な肉の塊。コンガリじっくり焼かれて、食欲をそそる甘そうなタレが滴り見ているだけでお腹がソレを求めるようにクウっと鳴った。


「う、旨そうだな・・・これ、これにしよう!!これが良い!」


ディオルの尻尾が激しく左右に振られていた。


「・・・・4人・・・・・・いや6人分切り分けて貰おう」


店の主人に頼んで1口大に切り分けた物を袋に小分けして貰いソレをバックに入れゼノンが代金を支払った。


「あっちからも旨そうな匂い・・・・」


尻尾がブンブン振られる様は大型の犬の様だ。

ディオルについて歩き、買い食いをして回った。

砂トカゲの蜂蜜揚げ、砂ウサギの煮込み等など。


「宿に着く前に満腹にしたら夕飯食えなくなるぞ?」


ゼノンに言われ、ディオルがハッとしたような表情をした。


「・・・・・わりぃ、こういうの初めてだったから・・・・つい・・・」

「・・・?」


2人は宿屋に戻り、シズルとリチェリーにお土産の甘そうなタレが付いた肉を渡し、共に1階の食堂で食べた。


「うめぇぇぇぇッ!!」


感激したように叫ぶディオル。

至福そうに頬張るリチェリーと、黙々と食べるシズル。


「ん、うまいな」


皆違った反応をしながら遅めのお昼を食べ終わると思い思いに部屋に戻る。

シズルは再び寝るようだ。

リチェリーも毛布に包まってうとうとしている。


「ゼノンー」

「なんだ?」

「そんなとこに座ってないで、一緒に寝ようよ」

「え・・・」

「大丈夫、寝るだけ・・・」


微睡むリチェリー。

ベットの端にゼノンも仰向けで寝転がると、次第に眠気が襲ってきた。


「・・・・・」


ディオルが宿屋の近くに温泉があると聞きつけて部屋に入ってくるまでゼノンもリチェリーもぐっすりと夢の中に入っていた。





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