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新しい世界の始まり

砂の大地、ルーデン砂漠

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あの後4人はガルゼットに戻り新規メンバーの登録とクエストの報告をギルドにしてから、新たに別のクエストを受けた。
預かった品を別の街に届けるお使いのようなクエストだった。




そして現在。



「くっそ・・・・何だよッ此処!砂ばっかじゃねぇえか!!」


  文句を言いながらも素直に歩いて着いてくるディオルと物怖じした様子も無く黙ったままのシズル。

  両者両極端な者が新たに加わって白銀の疾風は大分賑やかになった、主にうるさいのはディオルが、だが。

  魔力の温存のためにレンカは召喚していない。故に4人とも徒歩で大きな砂の土地、ルーデン砂漠を横断中だ。

  照りつける日光は熱く、足下の砂地も足を取られ体力をじわじわと削る。

  ディオルのイライラは常にマックスなのだろうか。


「あああああッ熱ぃ、日陰や水場ないのかぁぁぁ?!」


  黙々と前を歩くゼノンとリチェリーにずっと愚痴を吐いているディオル。
かれこれ4時間はこの状況の中歩き続けている。イライラするのも無理は無い。


「・・・・・・方向はあってるはずです・・・このまま進めばいずれ着くはず」


地図を持つリチェリーの台詞にディオルが即座に反応した。


「いずれ?いずれって何だよ?いつまで歩くんだぁ?干からびて干しものになっちまうぞ?」

「・・・・・・・」


先ほどから黙ってディオルの後ろを着いてきていたシズルがバタリと倒れた。


「「「――?!!――」」」

「シズル!大丈夫?!」


リチェリーがシズルを抱き起こすと、シズルは青白い顔色で額には汗がびっしょりだった。


「取り敢えず、少し休もう・・・日陰は・・・・」


ゼノンが辺りを見回すが、一面砂と天から降り注ぐ太陽の灼熱の大地で陽を遮れるような物はなかった。


「・・・・こんな広大な砂漠徒歩で横断とか死ぬ気かよって思ってたんだ・・・・ッ何かの修行か?!ってな・・・リーダーがただの後先考えない無謀者だったとはッ・・・」


ディオルが吠える。


「取り敢えず、シズルに水を!」


リチェリーは自分のバックから水筒を取り出しシズルの口に流し入れた。

最初は咳き込んで飲めなかったが、次第に意識を取り戻したのかゴクゴクと水を飲んだ。


「助かった・・・・ありがとう、リチェリー」

「良かった・・・・」


半分ほどになった水筒を受け取り、いつ街にたどり着くかも知れないこの砂漠で水分は貴重だ。

大事に使わないと、とリチェリーは自分のバックにそのまま水筒を戻した。


(このままだと結構しんどいんだけど・・・・何とかならないかな?)

『ふむ・・・・・体を水と風の結界で覆うとかも手だが・・・・1番速いのは乗り物じゃろう?』

(乗り物借りてこなかったし、レンカを召喚するの?)

『レンカだと精々2人乗りだのぅ』

(他に乗り物なんて持ってないぞ?)


脳内でゼノンと少女が語っていると、ディオルが騒ぎ出した。

視線を向けると、砂が大きく膨れあがっていた。


『ゼノン、先ほどの答えじゃが、あるじゃろう?強くて速い“乗り物“を呼べる――”龍笛“が』

(!!)


この現状を打破し、なおかつ安全に目的地へと皆を運んでくれるだろう。

ゼノンは急いでアイテムバックから龍笛を取り出し、それを力強く吹いた。

しかし何の音も聞こえない。

ディオルだけは一瞬驚いたようにゼノンの方を振り返ったようだが、何か聞こえたのだろうか?

落としたら大変だから取り敢えず、笛をバックにしまい、ゼノンも夜鎖神を手に構えた。


「・・・サンドワームだ、あいつら自由に砂の中を移動しやがるから厄介だ!!」


ディオルが敵の情報を皆に共有した、シズルは戦闘職では無いから、リチェリー、ゼノンが武器を構えて敵の攻撃に身構えた。

現れたサンドワームは巨大な5m程のミミズで、頭には目は付いておらず音や熱に反応するらしい。
 
頭がグパーっと上下左右の4つに裂けると幾重にも並んだ鋭い牙が見える。

開けた口からダラリと流れる落ちる液はシュウッと音を立てて砂に消えた。


「な・・・・何あれ!きもぃ!!」


リチェリーが叫んでいる、正直ゼノンも気持ち悪いと思ってしまった。


「あの液も牙にも触れるなよ!?溶けちまうぜ?」

「ひぃいい・・・ッ」

『素晴らしいな。彼の観察眼は。』


少女が感心したようにディオルを見ている。今の透明な彼女を見ることはゼノンしか出来ないが。


サンドワームの攻撃を避け、素早く爪で反撃を繰り出すデイオル、槍を手にサンドワームの攻撃を華麗に受け流しているリチェリー。

ゼノンは夜鎖神を持ったまま魔法を発動。


「ウィンドカッター!」


風を纏った刃がサンドワームを切り裂き、頭部と胴体とを切り離した。凄い威力だった。


「相変わらず、出鱈目な威力だなぁ・・・1撃かよぉ・・・」


そう言いながらサンドワームの胴体を爪で引き裂いて倒し終えたディオル。

周囲はまだまだサンドワームに囲まれていて全然余裕なんて無いのだが、ディオルは何故か確信があった。

―“こいつ”が居れば、何とかなるんじゃないかって。―

出鱈目な魔法を使う、変な奴だけど。悪い奴では無い。


ゴオォォォォォと強い風に周囲の砂が舞い上がる、そして突然周囲が日陰に覆われた。


「「「?!!」」」


リチェリー、ディオル、シズルは頭上を見上げて頭が真っ白になった。

翠色の鱗に覆われた巨大な・・・・・浮遊する島のような・・・・


「「「龍!!!?」」」


数匹居た目の前のサンドワーム達は激しい風圧と龍の威圧によりあっという間に姿を消した。

龍は砂漠に着陸すると金色の瞳をゼノンに向けた。


『お久しぶりです、ゼノン殿』

「翡翠・・・」


ゼノンを最初に試練した翠の龍だった。


『笛の音が聞こえ、皆自分が!と行きたがっていましたが、初試練を与えた私が!』


何やら嬉しそうにカラカラと喉を鳴らしながら翡翠が言う。

ゼノンと翡翠を遠巻きに見つめる視線が3つ。


「・・・・龍だよな・・・・何であんな親しそうに・・・おかしい奴だとは思ってたが・・・・」


ディオルは唖然としながらも頭を抱えている。


「はわわ・・・・本物ですねえ・・・・初めて近くで見ました・・・」


リチェリーは目をキラキラさせている。


「・・・・すごい、おっきいい・・・・」


シズルは普通に見た感想を述べていた。


『ゼノン殿、あちらの方達は?』


龍がギョロリと巨大な金色の目をディオル達に向けた。


「「!!!」」


ビクリと強ばる2人。ディオルとリチェリーだ。


「ああ、俺の仲間で同じパーティメンバーだから、大丈夫、右からリチェリー、ディオル、シズルだ」

『おお、そうでしたか』


鋭い眼光で見据えてた翡翠が警戒を解いて威圧を解除した。


「い、生きた心地がしねえぇぇぇ・・・・心臓に悪すぎんだろ・・・」

「ふひぃい・・・」


2人ともブワッと膨らんだ尻尾とすっかり垂れ下がった耳をしていた。


『私は、翡翠、ゼノン殿に試練を与えた龍です』

「・・・・試練・・・・龍の国には入るために行うって言うアレか・・・・てことは、こいつ・・・龍に勝ったのか?!」


ディオルが言うと翡翠は即座にディオルをギッと睨みつけた。


『狼ごときがッ!言葉を慎め!!、ゼノン殿は我が国を救ってくれた英雄だ・・・その方を“こいつ”呼ばわりは許さないッ』


激しい怒りの威圧がディオルに向けられた。


「ぐ・・・ッ」


身動きが出来ずに冷や汗が全身を流れていくのが分かった。ゼノンと戦った時以上の、圧倒的な実力差を感じる。


「わ、悪かった・・・ゼノン」

「・・・・大丈夫だ、翡翠もそう怒らなくていい」

『お優しいですね、ゼノン殿は・・・所で私が呼ばれたのは・・・?』

「ああ、俺たちをこの砂漠の先の街まで運んで欲しい」

『ああ、この砂漠をこのまま抜けるには“人の足”で後1ヶ月は掛かりますからねえ』


翡翠がサラリというとディオルは、驚いたようにリチェリーとゼノンを凝視した。

1ヶ月もかかる砂漠の横断を少ない食料で徒歩でとか・・・・完全なるイカレタ自殺志願者だろう。


「「・・・・・・」」

「広大な砂漠だったんだな?」

『空から見ても結構広いですからね、まぁ私が本気を出せばあっという間です!』

「翡翠、宜しく頼む」

『お任せ下さい!背中・・・ですと風圧で振り落としてしまいそうなので、こちらに・・・』


翡翠に促されるままに翡翠の大きな手の上に乗るゼノン達。

ディオルが乗るときだけ一瞬嫌そうな表情をしたが、多分誰も気付いていない。

翡翠は両手で包むように優しくゼノン達を手の上に乗せ翼を羽ばたかせ、一気に上空へと舞い上がる。

ぐんぐん加速していくそのスピードに、手の中で皆唖然としていた。

指の隙間から見える景色が一気に後ろに流れていくのだ。

空しか見えないが、雲の流れがおかしいのだ。

下を覗き込むと一面砂地で、凄い広大な砂漠だったのが窺い知れた。

徒歩での横断はやはり無謀だったのだろう。

10分ほどで目的地の街の上空に到着した。


「・・・・」


何やら下が騒がしい。

悲鳴や、叫ぶ声など・・・。よくよく耳を傾けて聞いてみると・・・。


「うあああッ!この世の終わりだ!!」

「巨龍が攻めてきた!!」

「逃げろおおお!!」

「キャー」

「武器を取れ!住民が逃げるまで時間を稼ぐぞ!!」


等と騒々しい程の声が聞こえる。


(ですよね・・・いきなり街にこんな巨大な龍が現れたら・・・パニックなるよね・・・)

『だのぅ、自然な流れじゃな。街の離れた外で下ろして貰うのが賢明だろうのぅ』

「・・・翡翠、悪いんだけど。街の外の見えないとこで下ろして貰って良いか?」

『承知しました』


翡翠は旋回し街から離れ、人気のない見えないところで着陸しゼノン達を下ろした。


「ありがとう、助かった」

『いえいえ、何時でもお呼び下さい、それではッ』


そう言って翡翠は再び翼を羽ばたかせて空へと舞い上がると一気に姿が見えなくなった。

あの速度で飛んだのなら砂漠も一瞬だろうなっとゼノンはしみじみ思うのだった。




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