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新しい世界の始まり

魔狼VS鬼人

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 翌朝、朝食を済ませ、ゼノンは洞窟の外の少し開けた場所で体を動かしていた。


「・・・・ゼノン大丈夫だよね?」


リチェリーは昨日とは打って変わって心配そうに素振りをするゼノンを見上げていた。


「どうだろう?俺は、あいつの戦っているとこ見てないから・・・」


相手の実力が掴めて居ないのに、余裕で勝てるなんて強気にはなれない。


「あ・・・そっか・・・・そうだよね・・・・・」


あからさまに、ションボリするリチェリーに、ゼノンは慌てて声を掛けた。


「ッ・・・けど、簡単に負けてやるつもりも無いからッ」


リチェリーとそんな話をしていると、ディオルが洞窟から外へとやってきた。


「よぉおぉ、よく寝れたかぁ?俺様の下僕になる決心は出来てるかぁぁ?」

「・・・・・負ける気無いけどな?」

「はぁぁ?角生えただけの人種に魔狼である俺様が負けるはずねぇだろうがぁぁ!!」

「・・・・・俺が勝ったら、取り敢えずその汚い言葉遣い治して貰おうかな」

ゼノンの台詞にディオルは俯いたまま体をプルプル小刻みに揺らしていた。


「・・・・・ッて・・・・」

「「?」」


小声過ぎて良く聞こえない。


「・・・ッてっめぇえええええ良い度胸だ!今直ぐ引き裂いて血反吐吐かしてやんよ!!!

「え・・えええ?!いきなり始めるの?!」


リチェリーは慌ててゼノンから離れて洞窟の入り口の方へと走った。巻き込まれては大変だ。

ゼノンの手には、夜鎖神が握られている、一方のディオルには両手に短刀が握られていた。


「武器は自慢の爪じゃないのか?」

「この爪使ったらマジでてめえ挽肉になるぜ?下僕にする予定なのに挽肉になんかしねぇぇよ?」

「・・・・・」


ディオルの素早い動き、躱すのが精一杯で反撃の剣が届く前にディオルは距離を取る、素早い攻撃を仕掛けて、相手が反応する前には距離を取るを繰り返している、ヒットアンドウェイの戦闘タイプのようだ。


『意外だのぅ、てっきり猪突猛進タイプの熱血系かと思っておったが・・・』

(俺も、そう思ってた・・・あいつ速すぎて攻撃当てられないんだけど・・・)

『速くて自ら当てられないのなら、自分から当たりに来て貰えば良かろう』

(え?どういう事?)

『麻痺、鈍足、感電、まぁ他にも様々な状態異常と呼ばれる効果をもたらす魔法が存在するのだが、これは、地面に指定したりする“罠タイプ”と直接敵に与える“攻撃タイプ”これには、武器に纏わせて相手に状態異常を付加するのも入る、これがポピュラーじゃな、最後に・・・あまり知られては居ないが・・・自らの体に状態異常効果を纏わせて相手が触れたら発動する“纏いカウンター”
と呼ばれるものがある、これは、普通状態異常効果ではなく、様々な属性魔法を纏う鎧として使うのが一般的なのだがの、相手からの攻撃魔法の威力を軽減するための防御としてな』


長々と少女が説明をしてくれた、その間ゼノンはディオルの攻撃を防いだり躱したりしながら必死で耳を傾けていた。

のらりくらりと躱したり防御したりするだけのゼノンの動きにディオルの怒りのゲージが最早振り切ってぶっ飛びそうになっていた。


「てっめぇええええええッさっきから!!!ふざけやがってぇぇッ!!!!」

(・・・麻痺とかの効果を纏えるかな?相手が麻痺したとこに・・・極大魔法をぶち込む)

『・・・うむ・・・ゼノンお主意外と・・・・・まぁ可能じゃ』

「パラライズアーマー」


小さく呟くとゼノンは一瞬ピリッとした静電気のようなモノを感じた、直ぐにそれは全身を包み込み、暫くすると発動者のゼノンには何も感じられなくなった。

ディオルはあまりの怒りに手にしていた短刀2本をしまい込んで、自らの長く鋭い爪を剥き出しゼノンに飛びかかってきた。

目にも捕らえられないほどの素早い動き、これは躱すことが不可能で、普通なら相手は引き裂かれて血だまりの中その体を沈めていただろう。・・・・・そう普通なら。


「が・・・・ぁぁ?!な・・・・ッに・・・・?!!!」


攻撃を仕掛けてゼノンの肩に爪の先が触れ引き裂こうとしていたはずだった・・・。

何が起きたかディオルには理解できなかった。ゼノンは剣術が凄いわけでは無かった、素早いわけでも無かった。

優勢だったはずなのに、何故か地面に片膝をついて動かない自分の体。

時間でも操るのか?!ディオルは何をされたのか理解できずに苦痛そうに麻痺して体は動かないが、目だけをゼノンに向け睨み付ける。


「・・・・ッ」


声も出ない。体も動かない。この状況の中ディオルは絶望的なまでの“力”を目の当たりにした。

何だあれ・・・?魔法?桁外れの魔力・・・到底敵うはずも無いほどの差が其所にはあった。

ゼノンの上には赤く燃え、螺旋の渦を幾重にも纏った巨大な炎の塊があった。

太陽が墜ちてきたのかと錯覚させるような巨大な炎の玉の塊。

近くに居るだけで熱く、焼けてしまいそうな程のそれを気にした様子も無くゼノンは軽々と支えていた、アイツは・・・化け物か?まさか・・・アレを放つつもりじゃ・・・?この辺一帯焼け野原というか焦土にするつもりか?


「降参する気は・・・ないのか?」

「・・・・ッ」


降参も何も。もはや戦う気さえ等に失せたのだが・・・体と一緒に痺れて声が出ないのだ。


「・・・・ッ」


ディオルが何の反応も示さないからゼノンは溜息交じりに仕方ないなって素振りで“アレ”をディオルに向かって放とうとした。


「!!ッ・・・・」


頼む、助けてくれ!!あんなの食らったら骨すら残らねぇよ!!

ゼノンを睨むように見据えていたディオルの目からポロリと涙が零れた。
死を覚悟した。


「・・・・・それが答えか?」


ゼノンは静かに言った。

その瞬間もうあの炎の塊は消えている。あの熱量、あの魔力の塊を一瞬で何処へ消したのか考えたくも無いが、取り敢えず助かったらしい。


『ゼノンよ・・・・まずは麻痺解除してやらねば、ちょっとだけ可哀想になってきたぞ』

(ああ、忘れていた・・・)

「ハイリカバリー」

「!・・・ッぁ・・・・動、ける・・・?!」


慌ててディオルはゼノンから飛び退いて距離を取った。


「・・・・・まだやる?」

「・・・・何だよ・・・・あの力・・・・魔法剣士・・・つぅうより、あれは最早・・・特級魔法士以上だろ?!」


特級魔法士は単独で国1つ殲滅出来るほどの力を持つと言われる。

詠唱もしないであんな魔法を一瞬で出したり消したりとか・・・・それ以上かマジの化け物か・・・

どっちにしろ・・・相手にしたらダメな奴って事だな、命がいくつあっても足りねぇぇ。


「俺様の負けだ、・・・・あんたらのパーティーで働いてやる・・ッ」


こうして、ゼノン達のパーティ白銀の疾風に新たに2人メンバーが増えた。






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段々寒くなってきました!寒いです!冷え性だから余計に・・・風邪も引きやすくて・・・グッタリです・・・。

さらにのんびりですが・・・ちょくちょく進めたいと思います(><; ゆっくりですみません・・・。



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