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新しい世界の始まり

魔狼と少女

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「!!」


ハッとして目を覚ますと、見知らぬ洞窟の中に居た。


(此処は?)


未だに動かない体の代わりに視線だけで辺りを見回すが特に何もない洞窟のようだった。


『気が付いたか?ゼノン?』

(何とか・・・・あの後どうなって今になったんだ?)


少女に尋ねると、少女は困ったような表情のまま暫し黙った。


『かなり簡潔に言うと、あの後魔物に襲われているところを、助けられたのじゃ』

(え!?魔物に襲われた?!リチェリー達は無事なのか?!)

『うむ。大丈夫じゃ・・・・まぁ・・・助けられた?・・・・からのぅ・・・』


何やら少女の歯切れが悪いように感じる。


(何か・・・不味い状況なのか?)

『・・・うーむ・・・・そうともとれる・・・かもしれぬ・・・』


そんなやり取りを脳内でしていると、突然洞窟の入り口から人影が入っていた。


「おぅ、目が覚めたかよぉ?仲間を危険地帯に置いたまま1人気絶たぁ随分へなちょこだなぁおい?根性足りてねぇんじゃねぇか?」


突然現れた青年は乱暴に寝たままのゼノンの胸ぐらを掴んで、軽々持ち上げ洞窟の壁に押しつけた。


「ぐっ!?」


相手の力が強く、手を振り払おうにも払えずにゼノンは苦痛な表情のまま相手を見据えた。

黒い髪の毛、頭からピンと立った耳・・・赤い瞳・・・時折見える長く鋭い犬歯。
そして何より、リチェリーと同じように足の間から左右に揺れるフサフサの尻尾が見える。


「あぁん?何とか言ったらどうなんだ?!反論もねぇぇのか?!」

(何だ・・・この乱暴な人?!敵か?!)

『あー・・・そやつが、魔物から助けてくれた?者じゃ』

「はッ・・・なせ!」

「聞こえねぇぇな?何だって?」

「ディオル・・・それじゃあ話せない」


洞窟の入り口から別の人影が入ってきた。
小さな大人しそうな少女だ。

「魔力欠乏症・・・だった、気絶も仕方ない」

「・・・・だとしても!貴様が気絶してる間に仲間が魔物共に生きたまま、食い散らかされても平気かぁ?気絶してる間に食われれば絶望も感じねぇぇもんなぁ?」

「・・・・ッ・・・」

「ディオル、手離して」


少女が淡々と言う。


「・・・・・チッ」


ディオルと呼ばれた青年は掴んでいたゼノンの胸ぐらをパッと離す。やっと解放されたゼノンだが、まだ体力が戻ってないのかそのまま洞窟の堅い岩盤にドサリと背中から墜ちた。


「大丈夫?ディオルは口も態度も目つきも悪い・・・」


少女がそこまで言いかけたときにディオルが牙を剥き出しながら吠えた。


「ぁぁああん?喧嘩うってんのかぁぁ?上等だ!かってやるぜ?!!」

「・・・・けど、根は優しい・・・」

「・・・・・・」


少女が最後まで言うとディオルは黙ったまま振り上げていた拳をそっと戻した。


「・・・・これ、飲んで?」


少女がゼノンに差し出したのは紫色のドロリとした液体が入った瓶。


「・・・・・・・」

(大丈夫かな・・・?)

『・・・・・“毒”は入っていないようだのぅ』


素直に受け取りゼノンは小瓶の中身を一気に喉の奥に流し込んだ。


「んぐッ?!」

「貴様は・・・・知らないやつから貰ったものを警戒も無く・・・・良く口に出来るなぁ?馬鹿が着くほどのお人好しか、ただの間抜けかぁ?」


遠くでディオルのそんな呆れたような悪態が聞こえる。

ゼノンはクラクラする意識の中再び意識を失った。


「・・・・ぅ・・・」

(もの凄く・・・この世の物とは思えないほど不味かったのしか覚えてない・・・)


再び目を覚ますとゼノンの胸の上に毛玉が乗っていた。


「レンカ?」


声を掛けると毛玉はもぞりと動いて円らな瞳をゼノンに向けた。


『主!!良かった!』

「ゼノン?!目が覚めたんだね!心配したよ!」


リチェリーも怪我が無いようで直ぐにゼノンに駆け寄った。


「もう、大丈夫」


少女がリチェリーの後ろから来てそう口にした。

最後に彼女から止めを受けたような気がするのだが。


「薬が効いた」

「ありがとう!シズル」


リチェリーは少女にお礼を述べその手を堅く握っていた。


「ほぉ、無事だったかぁ、貴様運は良いんだなぁ?」


ディオルが横になっていたゼノンを見下ろしながらからかうような口調で言うと、レンカとリチェリーがディオルをキッと睨むように見つめた。


「ゼノンは強いんですょ!連戦続きで魔力は切れちゃったけど・・・普段なら貴方みたいな人にだって負けません!」

「・・・ほぉ、言ってくれるじゃあねぇか?俺様より強いって?そんな細い体をして?片腕で?」

「ッ・・・腕は・・・私を庇ったからで・・・・」

「・・・・・・・」


ゼノンが口を挟む前にリチェリーとディオルの激しい口論バトルが勃発していた。


「・・・・・今日は泊まっていったら良い・・・何も無いけど・・・」


シズルは気にした様子も無く淡々と冷静だ。


「すまない・・・助かる・・・」


ゼノンが言うとシズルは少しだけ微笑んだ。


「良いぜぇ、なら明日どっちがつえぇか勝負しょうぜ!!」


後ろの方でそんな物騒な台詞が飛び交っている。


「絶対に負けませんよ!ゼノンは強いんですから!」

「・・・・・・」


本人の意思を無視して白熱する2人。知らない間に勝負する羽目になっている。

「俺様が勝ったら・・・お前ら全員俺様の下僕な?」

「!な・・・ッ・・・ならゼノンが勝ったら・・・」

「くく・・・貴様らが勝つことは無いだろうけど、そうだなぁぁ?俺様が負けたら俺様達がお前らのパーティーに入って働いてやるよッ」

「!何でそんなに上から目線なんですかぁ!!パーティーに加入させるにしてもこっちだって人選びます!!」


プリプリ怒るリチェリー。


「・・・・何でお前ら本人無視して話進めてるんだ?」


ゼノンが言うと、リチェリーは「流れで、けどあっちが悪いんです!」と指をさす。

「何だよ?仲間の前でズタボロに負けるのが怖いのかぁぁ?逃げても良いんだぜぇ?そしたら不戦勝で俺様の勝ちだがなぁ?貴様ら皆俺様の下僕決定だなぁ?」


ディオルが挑発してくるが。ゼノンは冷静に・・・・顔には出さずに・・・声も荒げないように意識した。


「・・・・リチェリーとレンカを助けてくれたのは礼をいう、ありがとう」

「・・・・優しいだけじゃ何も守れねぇよ・・・ッ明日!逃げんじゃねぇぇぞ!?」


そう言い残しディオルは洞窟から出ていった。



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