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1章~石版の伝承~
6.~魔王の帰還1~
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2人は祭壇を離れ奥の険しい山のふもとの洞窟を歩いていた。短い洞窟だから直ぐに開けた森にでるはずだ。
「ねぇ、ジン…さっきの人大丈夫かな?」
隣を歩く麻衣が突然そんなことを言った。
「…さぁな…」
冷たくそうあしらわれ麻衣は少しムッとした。
「ジン冷たい!死んでるかもしれないじゃない!?」
ジンは少しだけ目を細め麻衣を見据える。
「導くために血も与えた、その”声”を聴き力を手にするか、暴走して魔道に墜ちるかまでは知らない」
少し苛立ちを含む口調でそう言った。
「導くための血?」
「…力だけなら、魔力の凝縮された宝玉だけで十分だからな」
またジンはスタスタと歩き出した。
祭壇には石版はなかった、早く集めなければならないのに…。あいつより先に…。
魔族どもに一声命じれば楽だろうが、私欲に使う者も居るだろうし、なにより強い意志を持つものだけではないし‥完全なる忠誠を持ったものは極僅かで、危険すぎる。
ふとジンと麻衣の下に何かが降り立った。
「…王…」
その者はジンの前に跪き俯いたまま声を発する。
「…軍の者が何故此処に?」
「魔王軍1番隊、副長シェルスト此処にご報告にあがりました」
「…許す、話せ」
「はッ、なにやら最近城下でも噂になっております、不思議な力を使うものたちが集まりつつあると」
「不思議な力を使うもの?」
「何かと契約した者達とも違う異質な能力を持つものたちです」
シェルストは俯いたまま淡々と答える。
麻衣は黙ったまま2人を見据える。
「いづれ、城下に攻め入られるのでないかと、皆怯え士気をなくしております」
「…全て、側近のゼアルに任せてきたのだがな?あいつは何をしている?」
「ゼアル様の命で、私が此処へご報告にあがりました」
ゼアルでも手に負えないということか、小賢しい…。
「やることがあると言ったはずだ…」
「王!どうか、皆にその姿を見せ安心させるだけでも…」
王の不在というのは皆を不安にさせる大きな要素だ。
「…何度も言わせるな…」
苛立ちを隠せずにジンがそう口にすると、シェルストはビクッと身を縮めた。
「ジン!行ってあげようよ?」
麻衣が見かねて口を挟んだ。
シェルストは驚いたようにジンの横の麻衣にチラリと視線を向けた。
魔王を恐れないだけではなく、口答えまでして…・いったい何者…?しかも傍に居ることを許しているようだ。
「……」
ジンは麻衣と目の前に跪くシェルストを交互に見据えてから一言”仕方ない‥”と吐き捨てた。
これにはシェルストは驚いて麻衣を凝視した。
「何をしている?行くぞ?」
「!は、行意」
シェルストは慌てて立ち上がり待たせてある飛竜の下へ急いだ。
巨大な飛竜は硬い鱗に身を包み長くて立派な牙と角を持っていた。
大きな翡翠色の瞳をジンとシェルストに向け、小さく喉を鳴らす。
3人を背に乗せ大きな翼を力強く羽ばたかせた。
地上に旋風が巻き起こり一気に上昇する。
見る見る地上が小さくなっていく。
「凄い、早い…」
風が道を作っているかのように抵抗がほとんどない。
「飛竜は風の隙間を見つけられるからですよ」
シェルストが麻衣を観察するように見定めてから言った。
まだこんな幼い人間の娘…何故王は傍においているのだろうか…
グァァァ!
飛竜が一声吼えるとシェルストは手綱を引いた。
次第に高度を落とし開けた陸地に着陸した。
シェルストは飛竜をつれ大きな小屋に入っていき、暫くして戻ってきた。
「お待たせしました」
ふとシェルストは麻衣に視線を向けあえて気になっていたことを口にした。
「?」
「見たところ普通の人間の子供のようですが…‥」
口に出したが、思わず語尾が濁る。
何かまずいのだろうか…。不安になってくる。
「麻衣といいます…」
とりあえず自己紹介をしてみる。
「俺の連れだ、丁重に扱えよ?」
ジンが溜息混じりにそう言うとシェルストは麻衣の前に跪いた。
「…魔王軍1番隊副長、シェルストといいます、どうぞお見知りおきを」
そう言い、麻衣の手をとりその甲に軽く口付けをした。
麻衣は驚いてジンを見上げる。
ジンは気にした様子もなく”挨拶だ”とだけ言った。
城の中に入るなり、すれ違うものたちは皆”王の帰還だ”と歓喜に震え跪く。
3人は長い廊下をこえ、中庭の噴水を横切り奥へと足を進める。
やがて大きな扉の前で立ち止まった。
シェルストが扉を開けその場に跪く。
ジンは気にした様子もなく颯爽と中へ入り奥の宝石などで装飾された長椅子に背を預け座った。
麻衣はどうしていいのか横のシェルストに、助けを求めるように視線を投げかけた。
「…麻衣様は王の傍にいてよろしいかと…」
囁くように跪いたままそう答えた。
「そうなのかな…」
麻衣はジンを見据えて、シェルストに再び視線を戻してから”いってみるありがとう”と告げてから扉をくぐった。
椅子にもたれて目を瞑っているジンの横に麻衣は行った。
「ジン?」
「…此処は清い濃度の高い魔力が吹き出ている…」
横に居る麻衣を見上げてから、再び前を向き目を瞑る。
暫くしてから別の扉から背の高い金色の髪の青年が出てきた。
一瞬麻衣に視線を向け、眉を顰めた。
男は王の前に跪き、目を閉じて椅子にもたれているジンに静かに声をかける。
「王…」
その声に反応し、ジンの瞼が微かに震え、静かに瞼を開け目の前に跪く青年を見た。
「…ゼアル…」
魔力を十分に取り込んだジンは深紅の双眸でゼアルを見据える。何の感情も読み取れない分余計に怖い。
鋭い棘の様な冷たい魔力の気にゼアルは苦痛そうに顔を歪めた。
「シェルストから話は聞いた、お前の言い分を聞こうか?」
「…ッ‥ぁ‥」
冷や汗がポタリと床に落ちた、背中にも鳥肌と冷や汗が。
震えて、声が出ない…。
「…どうした?」
そう問うジンの口元は笑っている、ゾッとするほどの冷たい魔力の渦が周囲を包み込んで、一瞬で周囲の温度が下がった気がした。
「…ジン!」
何かを訴えるように麻衣がジンの名を呼ぶ。
ジンは麻衣を驚いたように見据えてから”からかい過ぎたな…”と苦笑し溢れ出した魔力を抑えた。
「…ッ」
ゼアルは唇を噛んで麻衣を睨んでから、口を開いた。
「城下での反乱もすでに起こっているのです、皆不安で兵士達の士気も下がっています」
「…お前に任せたのだが…役不足だったか?」
冷たく言い放つジンにゼアルは俯いたまま許しを請うようにうな垂れながら呟く。
「はい、…私では手に負えませんでした‥ッ‥もうしわけ…ありません‥」
「…まぁ気に病むな、俺はお前を高く評価している」
さっきまでの冷たい気はなく、穏やかな優しい暖かい気が流れている。
嬉しそうにジンはそう言い、再び目を瞑る。
「王?」
「少し寝る…」
「この者はいかがしましょう?」
ゼアルは麻衣を見てからジンに声をかける。
「俺の連れだ、丁重に扱え…確か部屋は余っていたな?」
「はい、では使いの者にご案内させましょう」
「ああ、たのむ」
シェルストは扉を閉めその扉の前に立ちまわりを警戒した。
最近の不穏な動きは城下だけでなく城内でもおこっていたからだ。
女の従者に部屋に案内するように言いゼアルは立ち去ってしまった。
案内されて入った部屋はとても広くてそして綺麗に片付けられていて麻衣は驚いた。
ベッドのシーツはシルクで毛布はフカフカで風のように軽い。
「凄い…やわらかい…」
従者はクスクスと微笑みベッドに寝転がる麻衣を優しく見つめる。
「私、麻衣様のお世話をさせていただきます、ティリルと申します」
軽くスカートの端を持ちお辞儀するティリルに麻衣も思わずベッドの上に正座して頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「早速ですが、麻衣様湯の準備が整ってありますよ」
お風呂…此処へ着てからまともなお風呂なんて入ってないなぁ、と内心ぼやきつつ案内するティリルの後を追う。
「此処でお召し物をお脱ぎください」
言われるまま脱いで浴場への扉を開ける。
「!…広ッ!!」
白い蒸気でよくは見えないけど…無駄に広い。
ティリルに体と髪を丁寧に洗われ、誘われるまま大浴場の湯にその身をつける。
「湯加減はどうでしょうか?」
「丁度いい」
満足そうに麻衣はティリルに微笑みかけた。
ふと見ると湯に何やら赤い花びらが浮いている。
「これは?」
「イグドラシルの花びらです、美容と長寿に効きます、傷などを治す効果もあるんですよ」
きつ過ぎず、甘いほのかな香りで嫌いではない。むしろ好感が持てる。
「では、私はお食事の用意をしてきますので、どうぞごゆっくり」
そう言いティリルは浴場を出て行った。
1人残された麻衣は泳いだり、鼻から下を湯に入れブクブクと遊んでみる。
「!」
支えていた腕がずるりと滑り体が湯に沈んだ。
溺れる!!必死でもがいて湯から顔を出すと、ティリルが扉のとこに立って麻衣を見ていた。
「…ッぷはッ…」
「麻衣様?何を…・?」
「!」
見られてた…麻衣は恥ずかしそうに俯いてしまった。
麻衣はティリルにふわふわの白いタオルで水気を拭かれ服を着せられた。
髪はよく水気を拭き取ってから火風の石と呼ばれる宝石を近づけられた。途端に乾いたのには吃驚したけど。薄い青と白のドレスだが、刺繍と装飾で綺麗にまとまっていてとても好感が持てた。
「大広間で王がお待ちです、麻衣様」
「え?」
大きなテーブルの端っこの椅子にジンは腰を下ろしていて、やってきた麻衣に微笑みかけた。
「似合っている」
衣服のことだと気付いて照れくさそうに麻衣はうつむき、そのままティリルに椅子を引かれ、大人しく座った。
暫くしてテーブルいっぱいの料理が運ばれてきた、よく見るとどれもいやな形を保っていない。とても美味しそうに見える。
気を使わせてしまったのだろうか…
回りの壁にはウェイトレイスみたいな人たちがいっぱい立っているし。
ナイフとフォークを持って器用に食べるジンを見て、真似するように麻衣もナイフとフォークを手にする。目の前の食事に戦いでも挑むかのような気迫で見つめてからナイフとフォークを動かした。
「…」
目の前に皿に盛り付けられている肉…うまく切れない。
必死に格闘していると、やっとで切れた肉の欠片が床に逃げた。
「…」
ショックを隠しきれない凄い顔でもしていたのだろう。
ふとジンの方に視線を向けるとクスクス笑っていた。
「…見てた?」
「見てた…何を遊んでいるのかと」
まだクスクス笑っている。
「…こんな豪勢な食事も、箸以外のこれもはじめてみたの…」
ナイフとフォークを掲げてムッとしたように麻衣は言う。
「好きに食えばいい、誰も食べ方など気にしない」
「けど…」
そういい、麻衣は辺りを気にするように立っている者たちに視線を向ける。
「ああ…気にしなくてもいい」
察したのか宥める様に優しく言うジン、しかしまだ不満そうな麻衣の様子にジンは小さく溜息を吐きまわりに立っていたものに”さがっていい”と一言だけ発した。
周りの者たちは一礼してすぐに去って行った。
「これでいいか?」
「…ぅん…」
静かに頷いて麻衣は料理に手をつける。フォークを突き刺して次々に食事を口へ運ぶ。
「美味しい…」
豪快な食べっぷりだ。満足そうな満面の笑みを浮かべる麻衣にジンも思わず微笑む。
「美味しかった!」
ほとんど平らげ満足そうな麻衣。
「疲れただろう、もう休むといい」
「うん…そうする」
眠そうに瞼を擦りながら自分の部屋へ歩いていく。
ジンも席を立ち自分の部屋へ向かっていた。
「王」
不意にゼアルがジンを呼び止めた。目の前に跪くゼアルに少しだけ目を細めゼアルの台詞を待つ。
「…」
「清めの湯の準備が整っております」
「ああ、わかった‥」
それでもその場を動こうとしないゼアルにジンは眉を顰めた。
「…まだ何かあるのか?」
苛立ちを含んだ冷たい視線と言葉を投げかける。
「……・」
沈黙を守ったままのゼアルにジンはそのまま跪くゼアルを残し歩き去ろうとした。
「‥ッ何故、人間の小娘…などを…食べるためですよね?!私がさばいて…」
言いかけたゼアルはビクッと体を強張らせた。
苛立ちを超え怒りをあらわにする深紅の双眸がゼアルを捉えていたからだ。
「ッ…ぁ…ッ」
静かに歩み寄りゼアルの前に屈みこみ、ゼアルの頬に触れ指を滑らせグイッと顎をあげた。
震えるゼアルに気にも留めずジンはそっとゼアルの左瞼に口付ける。
「!ぁッ…ぅぁ…ッ」
ゼアルの左目から流れ出た血を舐めジンは静かに立ち上がる。
「いくらお前でも、あいつに手を出すことは許さない」
「…ッ」
「覚えておけ、次は左目だけでは済まない」
スタスタと歩き去っていくジンの後姿を見送ってから、疼く左目を覆うように左手を乗せる。
王の怒りの洗礼は癒えない傷…。その部分の魔力を根こそぎ剥ぎ取られて、魔力の流れが止まる。止まったとこには外部から魔力を取り込んでももう2度とその失ったとこには流れが行かない。つまりもう再生せず、2度と視力がもどらない。
「ねぇ、ジン…さっきの人大丈夫かな?」
隣を歩く麻衣が突然そんなことを言った。
「…さぁな…」
冷たくそうあしらわれ麻衣は少しムッとした。
「ジン冷たい!死んでるかもしれないじゃない!?」
ジンは少しだけ目を細め麻衣を見据える。
「導くために血も与えた、その”声”を聴き力を手にするか、暴走して魔道に墜ちるかまでは知らない」
少し苛立ちを含む口調でそう言った。
「導くための血?」
「…力だけなら、魔力の凝縮された宝玉だけで十分だからな」
またジンはスタスタと歩き出した。
祭壇には石版はなかった、早く集めなければならないのに…。あいつより先に…。
魔族どもに一声命じれば楽だろうが、私欲に使う者も居るだろうし、なにより強い意志を持つものだけではないし‥完全なる忠誠を持ったものは極僅かで、危険すぎる。
ふとジンと麻衣の下に何かが降り立った。
「…王…」
その者はジンの前に跪き俯いたまま声を発する。
「…軍の者が何故此処に?」
「魔王軍1番隊、副長シェルスト此処にご報告にあがりました」
「…許す、話せ」
「はッ、なにやら最近城下でも噂になっております、不思議な力を使うものたちが集まりつつあると」
「不思議な力を使うもの?」
「何かと契約した者達とも違う異質な能力を持つものたちです」
シェルストは俯いたまま淡々と答える。
麻衣は黙ったまま2人を見据える。
「いづれ、城下に攻め入られるのでないかと、皆怯え士気をなくしております」
「…全て、側近のゼアルに任せてきたのだがな?あいつは何をしている?」
「ゼアル様の命で、私が此処へご報告にあがりました」
ゼアルでも手に負えないということか、小賢しい…。
「やることがあると言ったはずだ…」
「王!どうか、皆にその姿を見せ安心させるだけでも…」
王の不在というのは皆を不安にさせる大きな要素だ。
「…何度も言わせるな…」
苛立ちを隠せずにジンがそう口にすると、シェルストはビクッと身を縮めた。
「ジン!行ってあげようよ?」
麻衣が見かねて口を挟んだ。
シェルストは驚いたようにジンの横の麻衣にチラリと視線を向けた。
魔王を恐れないだけではなく、口答えまでして…・いったい何者…?しかも傍に居ることを許しているようだ。
「……」
ジンは麻衣と目の前に跪くシェルストを交互に見据えてから一言”仕方ない‥”と吐き捨てた。
これにはシェルストは驚いて麻衣を凝視した。
「何をしている?行くぞ?」
「!は、行意」
シェルストは慌てて立ち上がり待たせてある飛竜の下へ急いだ。
巨大な飛竜は硬い鱗に身を包み長くて立派な牙と角を持っていた。
大きな翡翠色の瞳をジンとシェルストに向け、小さく喉を鳴らす。
3人を背に乗せ大きな翼を力強く羽ばたかせた。
地上に旋風が巻き起こり一気に上昇する。
見る見る地上が小さくなっていく。
「凄い、早い…」
風が道を作っているかのように抵抗がほとんどない。
「飛竜は風の隙間を見つけられるからですよ」
シェルストが麻衣を観察するように見定めてから言った。
まだこんな幼い人間の娘…何故王は傍においているのだろうか…
グァァァ!
飛竜が一声吼えるとシェルストは手綱を引いた。
次第に高度を落とし開けた陸地に着陸した。
シェルストは飛竜をつれ大きな小屋に入っていき、暫くして戻ってきた。
「お待たせしました」
ふとシェルストは麻衣に視線を向けあえて気になっていたことを口にした。
「?」
「見たところ普通の人間の子供のようですが…‥」
口に出したが、思わず語尾が濁る。
何かまずいのだろうか…。不安になってくる。
「麻衣といいます…」
とりあえず自己紹介をしてみる。
「俺の連れだ、丁重に扱えよ?」
ジンが溜息混じりにそう言うとシェルストは麻衣の前に跪いた。
「…魔王軍1番隊副長、シェルストといいます、どうぞお見知りおきを」
そう言い、麻衣の手をとりその甲に軽く口付けをした。
麻衣は驚いてジンを見上げる。
ジンは気にした様子もなく”挨拶だ”とだけ言った。
城の中に入るなり、すれ違うものたちは皆”王の帰還だ”と歓喜に震え跪く。
3人は長い廊下をこえ、中庭の噴水を横切り奥へと足を進める。
やがて大きな扉の前で立ち止まった。
シェルストが扉を開けその場に跪く。
ジンは気にした様子もなく颯爽と中へ入り奥の宝石などで装飾された長椅子に背を預け座った。
麻衣はどうしていいのか横のシェルストに、助けを求めるように視線を投げかけた。
「…麻衣様は王の傍にいてよろしいかと…」
囁くように跪いたままそう答えた。
「そうなのかな…」
麻衣はジンを見据えて、シェルストに再び視線を戻してから”いってみるありがとう”と告げてから扉をくぐった。
椅子にもたれて目を瞑っているジンの横に麻衣は行った。
「ジン?」
「…此処は清い濃度の高い魔力が吹き出ている…」
横に居る麻衣を見上げてから、再び前を向き目を瞑る。
暫くしてから別の扉から背の高い金色の髪の青年が出てきた。
一瞬麻衣に視線を向け、眉を顰めた。
男は王の前に跪き、目を閉じて椅子にもたれているジンに静かに声をかける。
「王…」
その声に反応し、ジンの瞼が微かに震え、静かに瞼を開け目の前に跪く青年を見た。
「…ゼアル…」
魔力を十分に取り込んだジンは深紅の双眸でゼアルを見据える。何の感情も読み取れない分余計に怖い。
鋭い棘の様な冷たい魔力の気にゼアルは苦痛そうに顔を歪めた。
「シェルストから話は聞いた、お前の言い分を聞こうか?」
「…ッ‥ぁ‥」
冷や汗がポタリと床に落ちた、背中にも鳥肌と冷や汗が。
震えて、声が出ない…。
「…どうした?」
そう問うジンの口元は笑っている、ゾッとするほどの冷たい魔力の渦が周囲を包み込んで、一瞬で周囲の温度が下がった気がした。
「…ジン!」
何かを訴えるように麻衣がジンの名を呼ぶ。
ジンは麻衣を驚いたように見据えてから”からかい過ぎたな…”と苦笑し溢れ出した魔力を抑えた。
「…ッ」
ゼアルは唇を噛んで麻衣を睨んでから、口を開いた。
「城下での反乱もすでに起こっているのです、皆不安で兵士達の士気も下がっています」
「…お前に任せたのだが…役不足だったか?」
冷たく言い放つジンにゼアルは俯いたまま許しを請うようにうな垂れながら呟く。
「はい、…私では手に負えませんでした‥ッ‥もうしわけ…ありません‥」
「…まぁ気に病むな、俺はお前を高く評価している」
さっきまでの冷たい気はなく、穏やかな優しい暖かい気が流れている。
嬉しそうにジンはそう言い、再び目を瞑る。
「王?」
「少し寝る…」
「この者はいかがしましょう?」
ゼアルは麻衣を見てからジンに声をかける。
「俺の連れだ、丁重に扱え…確か部屋は余っていたな?」
「はい、では使いの者にご案内させましょう」
「ああ、たのむ」
シェルストは扉を閉めその扉の前に立ちまわりを警戒した。
最近の不穏な動きは城下だけでなく城内でもおこっていたからだ。
女の従者に部屋に案内するように言いゼアルは立ち去ってしまった。
案内されて入った部屋はとても広くてそして綺麗に片付けられていて麻衣は驚いた。
ベッドのシーツはシルクで毛布はフカフカで風のように軽い。
「凄い…やわらかい…」
従者はクスクスと微笑みベッドに寝転がる麻衣を優しく見つめる。
「私、麻衣様のお世話をさせていただきます、ティリルと申します」
軽くスカートの端を持ちお辞儀するティリルに麻衣も思わずベッドの上に正座して頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「早速ですが、麻衣様湯の準備が整ってありますよ」
お風呂…此処へ着てからまともなお風呂なんて入ってないなぁ、と内心ぼやきつつ案内するティリルの後を追う。
「此処でお召し物をお脱ぎください」
言われるまま脱いで浴場への扉を開ける。
「!…広ッ!!」
白い蒸気でよくは見えないけど…無駄に広い。
ティリルに体と髪を丁寧に洗われ、誘われるまま大浴場の湯にその身をつける。
「湯加減はどうでしょうか?」
「丁度いい」
満足そうに麻衣はティリルに微笑みかけた。
ふと見ると湯に何やら赤い花びらが浮いている。
「これは?」
「イグドラシルの花びらです、美容と長寿に効きます、傷などを治す効果もあるんですよ」
きつ過ぎず、甘いほのかな香りで嫌いではない。むしろ好感が持てる。
「では、私はお食事の用意をしてきますので、どうぞごゆっくり」
そう言いティリルは浴場を出て行った。
1人残された麻衣は泳いだり、鼻から下を湯に入れブクブクと遊んでみる。
「!」
支えていた腕がずるりと滑り体が湯に沈んだ。
溺れる!!必死でもがいて湯から顔を出すと、ティリルが扉のとこに立って麻衣を見ていた。
「…ッぷはッ…」
「麻衣様?何を…・?」
「!」
見られてた…麻衣は恥ずかしそうに俯いてしまった。
麻衣はティリルにふわふわの白いタオルで水気を拭かれ服を着せられた。
髪はよく水気を拭き取ってから火風の石と呼ばれる宝石を近づけられた。途端に乾いたのには吃驚したけど。薄い青と白のドレスだが、刺繍と装飾で綺麗にまとまっていてとても好感が持てた。
「大広間で王がお待ちです、麻衣様」
「え?」
大きなテーブルの端っこの椅子にジンは腰を下ろしていて、やってきた麻衣に微笑みかけた。
「似合っている」
衣服のことだと気付いて照れくさそうに麻衣はうつむき、そのままティリルに椅子を引かれ、大人しく座った。
暫くしてテーブルいっぱいの料理が運ばれてきた、よく見るとどれもいやな形を保っていない。とても美味しそうに見える。
気を使わせてしまったのだろうか…
回りの壁にはウェイトレイスみたいな人たちがいっぱい立っているし。
ナイフとフォークを持って器用に食べるジンを見て、真似するように麻衣もナイフとフォークを手にする。目の前の食事に戦いでも挑むかのような気迫で見つめてからナイフとフォークを動かした。
「…」
目の前に皿に盛り付けられている肉…うまく切れない。
必死に格闘していると、やっとで切れた肉の欠片が床に逃げた。
「…」
ショックを隠しきれない凄い顔でもしていたのだろう。
ふとジンの方に視線を向けるとクスクス笑っていた。
「…見てた?」
「見てた…何を遊んでいるのかと」
まだクスクス笑っている。
「…こんな豪勢な食事も、箸以外のこれもはじめてみたの…」
ナイフとフォークを掲げてムッとしたように麻衣は言う。
「好きに食えばいい、誰も食べ方など気にしない」
「けど…」
そういい、麻衣は辺りを気にするように立っている者たちに視線を向ける。
「ああ…気にしなくてもいい」
察したのか宥める様に優しく言うジン、しかしまだ不満そうな麻衣の様子にジンは小さく溜息を吐きまわりに立っていたものに”さがっていい”と一言だけ発した。
周りの者たちは一礼してすぐに去って行った。
「これでいいか?」
「…ぅん…」
静かに頷いて麻衣は料理に手をつける。フォークを突き刺して次々に食事を口へ運ぶ。
「美味しい…」
豪快な食べっぷりだ。満足そうな満面の笑みを浮かべる麻衣にジンも思わず微笑む。
「美味しかった!」
ほとんど平らげ満足そうな麻衣。
「疲れただろう、もう休むといい」
「うん…そうする」
眠そうに瞼を擦りながら自分の部屋へ歩いていく。
ジンも席を立ち自分の部屋へ向かっていた。
「王」
不意にゼアルがジンを呼び止めた。目の前に跪くゼアルに少しだけ目を細めゼアルの台詞を待つ。
「…」
「清めの湯の準備が整っております」
「ああ、わかった‥」
それでもその場を動こうとしないゼアルにジンは眉を顰めた。
「…まだ何かあるのか?」
苛立ちを含んだ冷たい視線と言葉を投げかける。
「……・」
沈黙を守ったままのゼアルにジンはそのまま跪くゼアルを残し歩き去ろうとした。
「‥ッ何故、人間の小娘…などを…食べるためですよね?!私がさばいて…」
言いかけたゼアルはビクッと体を強張らせた。
苛立ちを超え怒りをあらわにする深紅の双眸がゼアルを捉えていたからだ。
「ッ…ぁ…ッ」
静かに歩み寄りゼアルの前に屈みこみ、ゼアルの頬に触れ指を滑らせグイッと顎をあげた。
震えるゼアルに気にも留めずジンはそっとゼアルの左瞼に口付ける。
「!ぁッ…ぅぁ…ッ」
ゼアルの左目から流れ出た血を舐めジンは静かに立ち上がる。
「いくらお前でも、あいつに手を出すことは許さない」
「…ッ」
「覚えておけ、次は左目だけでは済まない」
スタスタと歩き去っていくジンの後姿を見送ってから、疼く左目を覆うように左手を乗せる。
王の怒りの洗礼は癒えない傷…。その部分の魔力を根こそぎ剥ぎ取られて、魔力の流れが止まる。止まったとこには外部から魔力を取り込んでももう2度とその失ったとこには流れが行かない。つまりもう再生せず、2度と視力がもどらない。
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