星の守護龍 ~覚醒と混沌へのカウントダウン~

雪月 光

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1章~石版の伝承~

19.~奴隷商人~

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「……ッ…」

まだ薬が抜けずに、くらくらする頭痛に耐えて瞼を開けたがまだ視界がぼやけていてよく見えない。
ガシャンッ…

「……」

金属音のした方に視線を投げかけてみた。
ご丁寧に両手足に魔縛の鎖…、ただでさえ魔力の弱まる人間の土地で、更に魔力を封じる鎖とは…。対魔族対策がしっかりし過ぎてはいないだろうか?
それにあの強力な魔薬…人間の土地で取れるものではないし。

「お目覚めかい?」

「……いい趣味とはいえないな?」

「おや?そうかな?」

嘲笑うような態度でジンを見下ろしながら口にした。

「今まで何人か、魔族を捕縛してきたけど、貴方のように美しい魔族は初めてですよ」

一応褒められているらしい。嬉しくもなんとも無い、男が男に何を言われようと…。

「……俺をどうする気だ?」

「どうする気って…決まっているじゃないですか?」

「…奴隷として売る気か?」

男はニヤリと口元に笑みを刻み”分かってるじゃないですか”と笑う。

「……甘く見るなよ?人間?」

「…いつまでそのような口が利けるか楽しみですね?」

そう言って薬が抜けなくて動けないジンの腕を取り、何かを注射して檻を出て行った。

「………ッ」

地下深くの場所なのだろう、光も届かなければ音すらも何もしない。
横たわったまま静かに目を瞑りかけた。

「みぅ」

「リ…アン?」

「みッ」

頭の上から顔を出しジンの目の前に座った。
人間にはドラゴンの子供は珍しい、生きたまま高値で取引だってされている。

「…リアン…隠れてろ」

売られてしまう…

「みゅう…」

しゅんとした寂しそうな顔をして、またジンの頭の上にもぐりこんだ。リアンの定位置だ。
長いジンの髪に埋もれて隠れるのが好きらしい。
ジンは静かに瞼を閉じ眠りに着く。

ドクンッ……

「う…ッ」

「おや、お目覚めですか?」

手には昨日と同じ注射器。
何だか息苦しい。

「何を…して、いる?」

身体が熱い、魔縛の鎖だけのせいではないのだろう、身体が鉛のように重い。

「大人しくしていて下されば、危害を加えるつもりはありませんから…」

「……ッ…」

「ほとんど抵抗も出来ないでしょうけど?最高でしょう?この薬」

「……何故…」

「人間が簡単に手に入れれるものではないというんでしょう?」

言いたいことを読み取るように、クスクス笑いながら男は続けた。

ジンはただ男をまだ狂気を含んだ目で睨んだ。

「ある魔族から、取引しているのです」

「!」

「彼の階級や名前は明かせませんよ…、お互い命がけですからねぇ」

「……分かったら、その命…狩りとってや、る…」

「…まだ、そのような口が利けるのですか」

溜息混じりに男は腰のバックから何かを取り出した。
手のひらに収まりそうな小瓶を取り、蓋を開けた。

「?」

「勿体無いですが、仕方ありませんねぇ」

男はジンのあごに手を乗せグイッと上を向かせると、手にしていた小瓶の中身を全部ジンの口に流し込んだ。

「ぐぅッ?!」

飲み込まないように必死で抵抗する。

「抵抗しても苦しいだけですよ?」

そう言って、鳩尾に拳を叩き込んだ、その勢いでジンはそれを飲み込み鳩尾を抱えて転がった。投与を終え男はまた檻を出て何処かへ行ってしまった。

はぁ…はぁ・…ッ

頭がグラグラして何も考えられない、視界もぼやけてほとんど何も見えず、舌も麻痺しているのか全く動かない。
これではただ生きているだけの植物と同じだ。
それから暫くしてまた男がやってきた。時間の感覚などはもうとうにない。

「気分はどうですか?」

「………」

僅かに声に反応するように男に曇った目を向けたまま、荒い呼吸の音だけが辺りに響く。

「…悪くはなさそうですね、立てますか?」

男はジンの腕を引き、立たせてみる。

「……」

足に力が入らないのか直ぐに膝を折り座り込んでしまった。

「そうだ、まだ名前教えて無かったですね?」

「……」

「キースと申します…聞こえてないでしょうけど…」

苦笑して檻を出てジンを連れ地下から出るとジンを店の中の別の檻に入れた。
檻に背を預けぐったりと座ったまま、曇った目を外にむける。
よく聞こえないけど声がする。
品物を観察するような、舐めるような嫌な視線。

「……」

口の端から零れた唾液をキースは優しく拭い笑う。

「流石です、初日で凄い高値がついてますよ?」

何をいっても無駄だと知りながらも話しかける。

「…ぁ……」

僅かに動いた唇から微かに声が漏れる。

「おや…薬の時間ですかね」

注射器を取り出してジンの腕にあの魔薬の原液を注射する。

100倍に薄めて使うように言われているけど、魔族相手だし原液でもいいだろうと注入していた。

ドクンッ…ドクンッ…ドクッン…ドッ・・ドッ・・ドッ…

鼓動が何だか早い。
苦しい。心臓が張り裂けそうだ…。
大きく口を開け酸素を必死で取り入れようともがく。

「え…どうしました?!」

様子がおかしいジンに少し慌てた様子のキースが声をかけた。
痙攣する体、口の端からこぼれる大量の唾液。
曇った目の瞳孔が広がり、視線が定まっていない。

「……少し薬が強すぎたようですね」

強い鎮静剤を投与し、ぐったりしたジンを寝かせて檻に鍵をかけた。

その頃麻衣は、助けてくれたあの女性の家に招かれていた。

「ありがとう」

「気にしなくていいよ、あいつら私も嫌いなんだ」

赤い短髪が風に靡きさらさらと舞う。

「私はエレナ、あんたは?」

「麻衣です」

「麻衣か、よろしくね!」

握手を交わし、いろいろな会話をして情報交換をした。
ジンを攫ったあの組織は大きく、後ろには魔族も絡んでいて迂闊に手が出せないという。
エレナは盗賊で、この街を拠点にいろいろ財宝とか集めているらしい。
見せられた財宝の中に、石版の欠片を見つけた。

「石版…これ」

「ああ、要らないんだけど、一応戦利品だしね?捨てれずに居たわけ」

ジッと食い入るように見つめる麻衣にエレナは不思議そうに視線を投げかけた。

「欲しいのかい?」

麻衣は静かに頷いた。

「いいよ、どうせ使えないものだ、あげるよ」

「ありがとう!」

渡された石版を手に取りバックにしまった。

「エレナさん、私の連れが…」

「分かってるよ、取りかえそう!力を貸すよ、とりあえず今日は家に泊まっていきな?」

「ありがとうございます!」

素直にお礼を言って、夕飯までご馳走になりベッドまで借りてしまった。
何故此処まで親切に力を貸してくれるかは分からないけど、心強い味方が出来たことには変わりは無かった。
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