星の守護龍 ~覚醒と混沌へのカウントダウン~

雪月 光

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1章~石版の伝承~

20.~脱出と薬の副作用~

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翌朝、エレナと麻衣は、偵察するように1つの建物を食い入るように見据えていた。
チャンスは1度、売買が成立して店を出てきた買い手が馬車に積み込む一瞬の隙。
暫く見ていると、手足に黒い鎖を付けられて、1人では歩けないほど衰弱したジンがキースに抱えられて出てきた。

「!」

「まだ、だよ」

飛び出そうとする麻衣をエレナが制した。
暫く見ていると馬車の荷台にジンを横にならさせ、キースは買い手の人と何かを話していた。

「いまだよ!」

「はい!」

一気に飛び出して、2つの短剣を手にエレナが慣れた手つきでキースと買い手の前に躍り出た。

「!!」

麻衣はその隙に荷台に回りこみ、ジンに駆け寄った。

「ジン!」

「………」

声には僅かに反応し曇った眼を麻衣に向けるけど、それ以上の返答はなかった。

「…今助けてあげる」

黒い鎖に小太刀を当て切断しようとするが、切れそうに無い。

「また貴方ですか?!盗賊が何度邪魔をしたら気がすむのですか?!」

キースがエレナと応戦しながら叫んだ。

「私は、闇の組織なんて…嫌いだよ!何度でも邪魔して潰してやるよ!」

2つの短剣を巧みに操りキースを追い込んでいく。
キースの視界に荷台に居る麻衣の姿が映った。

「早く馬車をだしなさい!ここは私が抑えておきます!」

「あ、ああ…頼んだよ!」

馬車が一気に動き出し、麻衣は転げ落ちそうになって必死に耐えた。

「全く、毎回毎回小ざかしい手を使ってくれますね?」

キースがうんざりした様な口調で口にした。

「私のほうが1枚上手のようだけどね?」

クスクス笑いながら力強く踏み込んで行き、片方の短剣をキースの喉もとに当てた。

「……口の利き方がなっていませんね…女性だと思い、手加減してるだけだというのに」

そう言いながら、剣を手にした逆の左手をエレナに向けた。

「ッ?!」

鋭い氷の刃が数本エレナの頬を掠めていった。慌てて間合いをとり飛び退いたのに。
血が滲む頬を腕の甲で擦り血を拭った。

「ただの、裏に魔族がいる組織だけではないようだね?」

「甘く見ないでもらおうか」

「ジン!」

「……」

僅かに唇が動いて何かを言いたそうにしているが、声にならず、吐息となって漏れるだけ。
とりあえず、この荷台から脱出しないことには話にならない。
ジンを抱えてみると、凄い軽い。

「え」

風の守護と呼ばれるものが働いているらしい。羽を持つ魔族は皆風の守護のもとにある、とエレナが昨日いってたっけ…と考えながら麻衣は動く馬車からジンを抱えたまま飛び出せずに居た。

「………こわッ」

無理だ・…。
涙が出てくる。

「……」

ジンが麻衣の胸の心臓の上に手を翳すと、一気に身体が熱くなり炎が2人を取り巻いた。

「何、何をしたの?」

グァァァァッ!!

大きな地を割くような鳴声、荷台から顔を出し声のするほうに目を向けた。

「!」

『久しいな、麻衣』

火龍が翼を羽ばたきながら麻衣とジンを見据えていた。

「助けに来てくれたの?!」

『呼んだのは、汝だろう』

「え?」

さっきの?

ジンの方に視線を投げかけてみる、相変わらず曇ったままの眼が麻衣と火龍に向けられていた。

『さぁ、乗るがいい』

言われるままに火龍の背に飛び乗り2人は荷台を後にした。

一気に上昇し、街までもどってきた。

「!」

エレナが傷だらけで横たわっている姿が視界に入った。

「あそこ、あそこに向かって?」

『麻衣、我が名はフェレイだ』

急降下しながら火龍は口にした。

「フェレイ…あそこにいるエレナさんを助けて!」

麻衣は横たわっている女性に指を刺して言う。
横たわるエレナにキースが止めの剣先をむけていた。

「!」

キィィィィィンン…

硬い金属のようなものに剣先が弾かれ、キースは驚きを隠せずその硬いものを見上げた。

「なッ」

巨大な赤い龍。

『効かぬ、そんな諸い刃』

流石は硬い巨龍の鱗、フェレイはその巨大な身体をくねらせ、尻尾でキースを吹き飛ばすと足でエレナを掴み上昇した。

「火龍…何故此処に…」

獲物をことごとく逃がして、とても気分的にも疲れた。

「火の加護どころか、火龍の加護を受けているとは…おしい獲物を逃がしたな…」

キースはぼやきながら建物の中に入っていった。

「エレナさん!」

「う…麻衣、無事だったんだね?」

「はい、エレナさん…大丈夫ですか?」

「これくらい掠り傷さッ」

そう言って立ち上がろうとして、今の自分の状況を知った。

火龍に乗って空飛んでる……。

「すごいな、こりゃ…」

街を見下ろしながらエレナは呟いた。

『どの辺におろせばいい?』

「エレナさんは家の近くに降ろすね?」

「あんた達はどうするんだい?」

「ジンがこれでは、旅できないからいったんお城に戻る」

「城?」

エレナはいったい何者だい?って顔で麻衣とジンを見据えた。

『降りるぞ、しっかりつかまってな』

麻衣が指示した付近に着陸してエレナを降ろすとまた一気に上昇した。

「またねー」

互いに挨拶して別れた。

「ジン…」

『中央都市の城でよいのか?』

「うん」

『!』

城に近付くに連れ黒いいくつかの影がみえた。
飛龍に乗った魔王軍だ。

「そこの怪しいやつ止まれ!!」

『!?』

「え?」

地に着陸させられ、取り押さえられた。

「何者だ?!」

「おい!この方は魔王陛下だ!随分と弱ってらっしゃる!」

別の者がフェレイの背の上のジンに気付いて口を挟んだ。

「怪しいやつ、この者を牢へ!!」

「ま、待ってよ!!」

麻衣は慌てて抵抗したが、その抵抗もむなしく薄暗い牢に放り込まれた。

「し、信じられない…」

泣きそうになる。

半日位すると、慌てた様子でバタバタと麻衣のもとに数人駆け寄ってきた。

1人は魔王軍1番隊副長シェルスト、もう1人は四天王の1人のライド、後は先ほど麻衣を捕らえて牢に放り込んだ兵士。

「麻衣様!」

「話は聞いた、すまなかったね」

「分からなかったとはいえ、本当にすみません!!」

土下座する兵士に2人は見向きもしないで牢へ近付きライドは牢から麻衣を出した。

「いえ、少し吃驚しただけですから…」

苦笑してシェルストたちに言いながら、土下座する兵士に”気にしなくていいよ”と告げ、ライドたちと共にジンの部屋に向かった。

「ああ、そうだ、あの火龍は誤解が解けたことを告げたら住処へと戻っていったよ?」

シェルストが思い出したように麻衣に告げた。

「そうですか、あ…ジンの様子は?」
伺うようにシェルストとライドを交互に見つめた。

「私は、軍の者なので、部屋には入れませんが…ライド様、貴方なら」

ライドは頷いて、2人に視線を向けた。

「強い魔薬を多量に投与されてて、まだ危ない状態です」

「!」

「王のことですから、命には別状無いと思うのですが…」

難しい表情で語尾を濁らせた。

「……油断は出来ません」

「…そんな…」

「今は中和する薬を調合して投与してます」

そんな話をしながら歩いているとジンの部屋に前に着いた。

コンコン…

控えめにノックしてライドと麻衣は中へ入った。

「!」

首や手首に通された細い管が1番最初に飛び込んできた。
ヒュッヒューッと掠れた吐息。
ジンは虚ろな目をライドと麻衣に僅かに向けた。

「ジン!」

虚ろな目が僅かに細められ、口元が微笑んだように見えた。

「具合はどうです?」

ライドは部屋の隅に居た老医に訊ねた。

「相変わらずですよ…大分中和はしておりますが、何分高濃度の魔薬が多量に血液に混ざりこんで
おりまして…」

「……」

「時間が掛かります」

「頼みます」

「ええ、任せてください」

2人の会話に混ざるように麻衣が口を出した。

「大丈夫なんですか?」

「大丈夫、ご安心ください」

老医は皺をさらに深く顔に刻んでにっこり麻衣に微笑みかけた。

「あの、私ここでジンの看病してても?」

「…看病するのもいいですが、食事を取らないと貴方まで身体を壊してしまう」

ライドはにっこりと微笑み麻衣に言った。

「……」

麻衣は心配そうにジンに視線を投げかけた。

「王なら、ロギス殿が診ててくだいますから、食事を取り体力を付けませんと」

「……」

静かに頷きライドの差し出した手をとった。
部屋を出てからライドは思い出したように口にした。

「ああ、申し訳ありません。遅くなりましたが、私ライドと申します、王の古くからの友で今は四天王と呼ばれております」

「あ、私は麻衣といいますッ」

「話は常々王から聞いてますよ、麻衣様」

「え…」

どんなことを言ってるのだろうか…気にならないといえば嘘になる。

「本当に可愛らしいですね」

「!」

麻衣は照れくさそうに俯いてしまった。

「麻衣様!お帰りなさいませ!」

「ティリルさん!」

「食事の用意ができております、どうぞこちらに」

ティリルに手を引かれ、ライドのほうに視線を向けると”私はもう済ませてありますので”と言われた。
そんな広くも無い部屋に通され、こじんまりとした机の上に所狭しと相変わらず豪勢な食事がのってあった。

「どうぞ、お召し上がりくださいませ」

「ありがとう」

引かれた椅子に座り、不器用ながらもナイフとフォークを手に取る。

「…済みましたら、およびください」

そう言ってティリルは部屋を出て行った。
1人残された麻衣は、気を使わせてしまったのだろうかと思いつつ、お腹がすいてたので食事に手を付けた。
人目を気にせず黙々と食べ終え満足げに背伸びをした。

コンコン

控えめなノックと共にティリルが部屋に入ってきた。
呼んでもないのに見計らったような凄いタイミングだ、隠しカメラでも着いているのではないだろうかと疑ってしまう。

「麻衣様、湯の用意が出来ました」

「ありがとう」

食器を数人の女性たちが片付け、ティリルと麻衣は湯船に向かった。
相変わらず無駄に広い、湯からはほのかな花の香り。
体の疲れを癒し、湯から出て急いで着替えるとジンの部屋に急いで向かった。

「おや、おかえりなさい、もういいのかい?」

老医が部屋に飛び込んできた麻衣に優しく問いかけた。
頷きながら老医に視線を向けた。

「何をしているのです?」

老医の手がジンの腹部に乗せられていたからだ、不思議そうに麻衣が聞いた。

「身体に溜まっている老廃物、穢れた魔力等を取り除いているのですよ」

老医の手には濁った赤い石が握られていた。

「便利ですね」

「ですが、魔薬は簡単には取り除くことは出来ませんがね…」

残念そうに老医は口にする。

「ジン…」

管がつながれて居ないほうの手を取り名を呼んでみる。

「……では、後はお任せしますね、何かあったらお呼びください」

老医は静かに部屋を出て行った。

「ジンッ」

瞼を閉じたままのジン、長い前髪をかきあげ頬に触れてみた。
ほんのりとした温かさが触れた手に伝わり少しだけ安心した。

「……」

ジンは瞼を開け、僅かに麻衣のほうに視線を向ける、相変わらず光の無い曇った目だ。

「ッ……」

その目を見ていた麻衣の目から涙が零れた。いつもの見慣れたジンの姿なのに…。

「……」

「!」

ジンの指が麻衣の目に溜まった涙を優しく拭った。
目は相変わらず何も映してなくて、見た目には何の変化もないのだけど。何か少しずつ変わってきているような感じがした。
何泣いてるんだ?といわれたような気がする。
僅かに細められた目と口元が微笑んだように見えた所為かもしれないけれど。
 それから一週間くらいすると大分ジンの容態がよくなった。
まだ動けないようだけど、意識がはっきりして目ももう曇ってないし、なによりちゃんと話せるようになった。

「ジン!心配したんだから!」

「…悪かった…」

苦笑しながら涙を浮かべた今にも泣き出しそうな麻衣の頭を撫でた。
やがて麻衣はそのままうとうとと夢に誘われる様に眠りに落ちた。

コンコン

控えめなノックの後ライドが部屋に入ってきた。

「王…お体の具合はどうですか?」

「大分いい…」

「そうですか、それと…気付いていると思いますが…」

ライドがいいにくそうに語尾を曇らせた、何のことか察したのかジンが続ける。

「…ゼアル…消息が途絶えたらしいな?」

ライドは静かに頷いた。

「王が倒れられたというのに、側近が傍を離れるなどッ…」

怒りを含んだ口調でライドが言う。

「…何か用事でもあるのだろう、強制などする気はない」

「甘いです!何を言っているのですか?!王らしい態度できっぱりと示さなくては!!」

これにはジンは驚いたようにライドを見つめた後クスクスと微笑んだ。

「俺より、よっぽど王に向いてそうだな?ライド」

「ッそんな……出すぎたことを、申し訳ありません…」

そう言いながらジンのベッドに顔を埋めて眠る麻衣に視線を向けた。その視線に気付いたジンが苦笑しながら麻衣に目を向けた。

「ああ、疲れて寝てしまったようだ」

「…お邪魔なら、部屋に運びましょうか?」

「……いや、このままでいい」

愛しそうに見詰めるジンにライドは”そうですか”と微笑みながら返した。

「でも、このままでは風邪を引いてしまいますね…」

そう言って部屋を出て、直ぐに戻ってきたライドの手にはフカフカの毛布。

「ああ…すまない」

麻衣をフカフカの毛布で包みながらライドは口を開く。

「いえ、王も早く良くなってください…」

「ああ」

「では、失礼します」

1礼してライドは部屋を出ていった。

「……」

「みゃ…」

リアンが眠そうに目をしばしばさせながらジンの頭の上から顔を出した。

「リアン…お前も眠れ…」

「みゅぅ」

リアンはごそごそと髪の毛の隙間にもぐりこんで静かに目を閉じた。
気持ちよさそうに眠る麻衣に視線を向けた後、ジンも静かに瞼を閉じた。

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