星の守護龍 ~覚醒と混沌へのカウントダウン~

雪月 光

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1章~石版の伝承~

30.~変わった現在~

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変わった未来…もどったジンの失った代価は大きい。
地位、そして係わった人全てからの自分との記憶の消滅。
魔神はもう王とは選ばないだろう。覚えてはいるだろうか?
石版を失ったことで鍵はもう必要なく、天神との契約も消滅した。
現に首輪がなくなっている。
行く当てもない…。
魔力も殆んどさっきの石版を破壊するのに使った。
魔石…魔王しか口にすることが赦されてない…。魔石の洞窟に入る事もできずにその洞窟の前に座り込み、黙ったまま空を見上げた。
辺りの魔力が振動しはじめ、其処に見覚えのある者が姿を現した。

『ジオティリアン…』

これには絶句して驚きを隠せなかった。

「ガディ…様…何故…俺はもう」

慌ててその場に跪く。

『驚くことも無かろう?幾重に分岐した時空があろうとも、数千の時など、我にはほんの瞬きほどの時間』

「……」

『過去に飛び…代価で地位を失い、未来を変えたとしても…我がものだということに変わりは無い…世界を創り命を育てし唯一無二なる者…星の守護龍』

紫電の瞳がジンを見据えた。

「え…」

『我は時になど縛られぬ、たとえ消え変わった過去、未来だろうと…我が1度は王と選んだ者だということには変わらない』

静かにジンの方に歩み寄り、跪くジンの頬に触れた。
王以外の者の前に現れ、触れるなどと…。

「!」

そっとジンを立ち上がらせジンのその唇を自分の唇でふさぎ、そっと胸の上に手を翳した。
驚いて目を見開いているジンにお構いなしに舌を絡ませる。
翳した手は光を帯びてジンの胸の中に吸い込まれるように入ってく。
何かを探すように動かすたびにジンは苦痛に顔を歪めた、魂を締め付けられるような…そんな感覚。

「ふ、ぅ…ッ…んッ」

苦しい・・。
唇を離し開放されるとジンは大きく呼吸を繰り返した。

『これは、もらっていこう』

「?」

そういうガディの手には黒い魔石の欠片。
魂石と融合しかけていたと呟く。

「それは?」

『闇だ…この世界には存在しないもの』

「何故、それが俺の中から?」

その問いには答えずに”さぁ…何故だろうな”とからかうように言われそれ以上聞けなかった。

『…闇に穢され、お前を失いたくは無い』

クスクス微笑む、相変わらずよくつかめない人だ。
風のようにフワフワしていて…つかみどころが無い…。

「ガディ様?」

『…世界に干渉しすぎた…我は少し眠るとしよう…』

そういうなり姿を消してしまった。

「……」

行く当ても、することも失ってしまった。
これが孤独か…生きる意味は…何処にある?
ふと思うのは、麻衣のこと。
契約は遂行され、人間界も救えたはずだ。代価など貰ってはいないけど…。
あんな別れ方をしたから…気にならないといえば嘘になる。
怒ってただろうな…。
苦笑を浮かべて、閉じられた異世界へ残っていた多少の魔力を流し込み、人間界への扉を開いて中へと入った。
 今の魔王は世界との交わりを激しく禁じて世界の扉をかたく閉ざし、この世界が他の世界に存在が知れることをとても嫌った。そんな事情も法律も知らずに。今のジンは世界に取り残され、忘れ去られていた。
滅びた別の未来を知るただ一人の残された存在だ。

居場所が欲しい…。

…口実だったのかもしれない、救った世界を見届けたいというのは…。
ただもう1度会いたかった、ただそれだけ。

「誰?!」

随分と発展して独自の文明と技術を築き上げていた人間界。

声のした方に視線を向けた。

麻衣…丁度1人のようだ。

「麻衣……覚えては無いだろうけど…」

涙を堪えて悲しく微笑んだ。

「何で私の名前…貴方何者?!何しに此処へ?!」

質問ばかり投げかけてくる。

「……1度滅んだこの世界を救う契約をした…」

「契約?何それ?!知らない!」

「麻衣」

ジンはそっと麻衣に近付き、腕を伸ばし抱き寄せようとした。
後ずさる麻衣。
命が欲しいわけではない…ただせめてこの手で抱きしめたい。

「麻衣から離れろ!!」

そう叫んで、黒髪の男の子は手にしていた黒い球体をジンの足元へ投げつけた。

「?!」

足元の空間に穴が開いて、ジンを引きずり込む。

「麻衣!」

ジンの叫ぶ声は届かない。
抱きしめる事も叶わなかった。
魔界に戻り、辺りを見ると大勢の兵士達に囲まれていた。

「……?」

空間の大きな歪みで城の者にばれたのだろう。

「第1ッ級重犯罪の罪でその身柄確保する!!」

「!」

後ろから両手を後ろ手に押さえ込まれた、両手に封の札のついた手錠をつけられ地に押さえ込まれる。
第1級重犯罪といえば・・・生きたまま地獄を味わうと噂されている。・・・まだやり遂げていない・・・何もかも・・・。

「・・・ッ・・・離せッ!」

「!!」

うしろの兵士を残り少ない魔力で吹っ飛ばして走った。

「追え!逃がすな!殺さない程度なら痛めつけてもかまわん!」

「はッ」

両手が後ろで縛られているからうまく走れない。

「待て!止まれ!!」

後ろから風の刃が無数飛んでくる。

いくつか足を掠ってとんでいく。

「足を狙え!」

その命令の後全ての攻撃が足を狙って飛んできた。よけきれない・・・。
鋭い風の刃が右脹脛を貫いた。

「ぐぅッ!!」

血が飛び散り、同時に勢いよく地面に倒れこんだ。

「手間をかけさせやがって!!」

兵士は倒れこんだジンの腹部を思いっきり蹴りつけた。

「ッう゛・・・ぁッ・・・」

苦痛に顔を歪め体をくの字に丸める。
兵士達は倒れこんで体を丸めたジンを取り囲んで更に蹴ったり殴ったりを続けた。暴行はやむ気配が無い。
蹴られるたびに、目を見開き、低い呻き声を上げ口から血が零れる。
薄れる意識、霞んでぼやける視界。
遠くで聞こえる笑いを含んだ声・・・。

「・・・もうそれくらいでいいんじゃないのか?」

「シェルスト副長!」

「やりすぎだ、ばか者ども!」

シェルスト?ああ・・・あの時ゼアルの命で迎えに来た魔王軍1番隊副長か・・・。

「しかし、殺さぬ程度になら痛めつけろとの隊長からの指示です!」

「・・・加減というものをしらないのか?」

キッと口を挟んだ兵士を睨み、辺りを見回す。

「もういい、こいつは俺が連れて行く、お前らは引け」

「・・・はッ」

兵士たちは風のようにその場から姿を消した。

「・・・あんた大丈夫か?肩を貸すよ、歩けるか?」

「ぅ・・・す、まない・・・」

抱き起こされ足を引きずりながら飛竜の背に乗せられた。

「・・・シェルスト・・・」

「・・・様をつけろよ?身分がちがうだろうが!」

口ではそう言いながらも怒っている様子は見られない。本当にいいやつなんだろう・・・。

「・・・明日、嫁さんの傍にいてやれ」

「は?・・・何だ急に?!というか何で、・・・嫁がいること知ってるんだ?」

未来でシェルストが自ら語った。
明日の城の設立祭のあの日、傍にいればよかったと・・・そうしたら、妻もお腹の中の子供も盗賊達から助けられたと、とても後悔していた。

「もぅ・・・誰の泣き顔も見たくない・・・」

ボソリと呟き、意識を手放した。
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