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2章~時の契約~
3.~召喚の授業~
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1番苦手な召喚の授業。
嫌すぎて憂鬱になる、むしろサボりたい!
溜息混じりに召喚の教室に移動する。
思わず息をのむほど異質な空間が其所には広がっていて毎回ドキドキする・・・。
大きく描かれた魔法陣、不思議な模様と文字が赤と青と黒と紫で幾重にも複雑に絡みつくように描かれている此処は召喚のためだけに用意された部屋だった。
そこで順番に召喚を行っていく。
そこで召喚に成功して強力な者でも使役できれば、ポイントが上がり将来も安泰!出世コースまっしぐらだ。
・・・現実はそんなに甘くはないんだけど・・・今まで数十回やって全滅・・・お先真っ暗すぎて・・・
「日坂結衣さん・・・次は貴方です」
「・・・・はい」
“どうせなら、この間あったジンのような綺麗な魔族を使役したい。“
そう思いながら寄越された本を手にすると開く前に何かが頭に響いた。
“汝、運命を受け入れる器を備えし者ならば、その魂の盟約に従い古代の式を与えん、して汝は是か非か?”
えー・・・えっと・・・どういうことだろう?・・・とりあえず、“はい”で。コクリと頷きながら頭の中で答えた。
その後暫くすると召喚式が頭に浮かんだ。
その言葉を正確に口に出していう。
周りはざわついていたが、そんな声すらももう聞こえない。
『闇夜の黒き十字架、暗黒の審判者、そは美しき闇、黒き光纏て、太陽を孕む真夜中の闇よ、鋼の杭を砕き、時を駆ける疾風となりて我が下へ!その不浄なる力を持って我が召喚に答え今此処へ現れよ』
魔方陣が光を帯びて黒い光が一気に辺りを包んだ。
「・・・まさか、俺を呼ぶ式を知るものがいるとは・・・」
そう呟く声は聞き覚えがあった。
しかし激しい魔力の渦、それは痛いほど体を締め付けてきて立っているのがやっとだ。
「え・・・」
「・・・何が望みだ?」
銀色の髪に左右違う翠と深紅の瞳、漆黒の6枚の翼。
「ジン?」
「・・・結衣?」
驚いたような表情で2人は暫し固まっていた。
「えっと・・・どうすればいんだっけ・・・」
困惑した表情の結衣をジンは黙ったまま見据えた。
「俺は、捕縛されて己の意思に反して使役されるのはごめんだ」
「・・・え・・・どうすれば?」
周りの先生に救いを求めるように見詰めたが、どうやら時間が止まっているようだ。
「何を望む?内容によっては契約くらいならしてやる・・・」
「契約?・・・魂を捧げろって言うあれ?」
不機嫌そうなジンの表情が見えた。
「俺はその辺の魔族とは違う、魂など要らない」
「ごめん・・・」
望みを中々言わない結衣にジンは別の気になっていたことを聞いた。
「・・・1つ聞かせてくれ」
「何?」
「何処で、俺の召喚式を?」
「・・・分からない、勝手に頭に浮かんだ言葉を言っただけ」
何処かで聞いたことがあるということだろう。現世でなくても前世とか・・・。
「・・・まぁいいだろう、気に入った」
ちゃんと真剣にジンの質問に答えを返した結衣、これが代価でもかまわない。
「え」
「これで、左手を切りその血を捧げろ」
手渡されたのは装飾された綺麗な短剣。
ジンも自らの右手を切りつけて、ボタボタと噴き出して零れる血に気にもせず、結衣を見る。
結衣も意を決して左手を切りつけた。
一瞬の熱を帯びた痛み、ズキズキと脈打っているのが気持ち悪い。
「手を…」
お互い切りつけた手を重ね、血が交わった時そこから光が帯のように広がり2人を絡めるように広がって、結衣の左手の甲に赤い傷のような烙印がうかび、ジンの首には首輪が現れ、光の帯びは消えた。
ジンは自分の人差し指に噛み付きその血と魔力を凝縮させて小さな紅い石をつくった。
「?」
それを結衣に差し出す。
「飲み込め」
一言だけそう発した。
「え・・・えええ?!」
作ってる過程を見ると到底飲み込めない。
「契約印と真名が刻んである、主である結衣だけが知り持つことができる物だ・・契約は魂を支配する戒めの鎖となるものだから、他の誰にも奪われるわけにはいかない、体に取り込んでくれないか?」
「・・・・」
渋々受け取り、その赤い石を見詰めた。
赤い石の中で更に生きているかのように渦巻く赤黒い模様。
「・・・・・」
じっと石を見つめてから、ジンに視線を向けた。
「・・・俺の真名を知るものは誰もいない・・・結衣だけだ」
「・・・・・」
意を決して石を口に含んで飲み込んだ。
ゴクン・・・
「!」
一瞬頭に浮かぶ不思議な文字。
”ジン・エクセクロトリア”
見たこともなくて読めないはずなのに、何故か読めた。
「覚えておくだけでいい・・・」
「今のがジンのほんとの名前?」
「ああ」
ジンは静かに頷いた。
「契約は完了だ、結衣」
「あ、ありがとう」
「この姿で傍にいると目立つから、呼ばれたときだけ姿を現そう・・」
「うん・・」
ジンが消えると時間が動き出した。
「日坂さん!今の式はなんですか?!ちゃんと本に書いてある通りに読めば呼べるんですよ?!」
「・・・すみません」
「もういいです、つぎは・・・火月さん貴方がやってみて」
「はい」
本の通りに式を紡いでいく。
「!!」
そこにいた皆が息をのんだ。
魔方陣が光ってでてきたのは大きな角をもった獣だった。
『ガァアアルルル!』
「ッ魔本よ!かのものの真名を!!」
先生が手にしていた本に手を翳しそういうと本は光って勝手にページを捲って行く。
「火月さん、名を!”グロアルス”です」
「捕縛!我に従え!グロアルス!!」
『ギャアアァァァァァ!!』
光の楔が幾つも獣に突き刺さり最初暴れていたが次第に獣は大人しくなった。幾重にもその体に絡まる白い鎖。
互いの利益を有した契約とは違って、捕縛は一方の利益だけを有し、無理やり従える。
「すごいわ・・火月さん中級の魔物よ」
周りの生徒や先生が火月を取り巻き騒ぎ立てている。
「ねぇ、ジン・・・どうして、契約なんて・・・」
リアンの黒い目が僅かに揺れている。
「・・・どうしてだろうな・・・気まぐれかもな・・・」
出会った時に感じた懐かしいと思わせた結衣を取り巻くオーラ。
麻衣に似ていたのかもしれない。
失った嘗ての契約主。大事にしていた、共に生きたいとさえ思った存在。
ジンは俯いたまま苦笑した。
「・・・・ほんと・・・嘘が下手だよね・・ジンは」
リアンはボソリと呟いてジンを見据えた。
リアンも知っている、小さかったとはいえ麻衣には会ったことがある。あの優しく温かいオーラ。けれど、どこか不安定で触ると壊れてしまいそうな儚い部分もあるとても淡い色。
「何か、此処澱んでるような感じがする・・・」
空を仰ぎ目を細めながらリアンが口にした。
「魔力が存在しないからじゃないのか?」
とくに変った様子も感じられない、ただ大気に魔力がない分少しだけ息苦しいだけだ。
「んー・・・そうなのかな?それならいいんだけど・・・」
遠くからジンたちは結衣の様子を窺っていた。
ドジなのか、失敗が多いように見える。
「あの子・・・凄いね!」
リアンが面白い物でも見つけた子供のように目を輝かせて結衣をみていた。
「・・・・」
ジンは黙ったまま見据える。
何か悪いの物でも周囲から取り込んでるのかと思わせるほど、はたからみると不幸なのかドジなのか。
帰宅した結衣の前にジンはその姿を現した。
「!」
吃驚した結衣は段差に足を引っ掛け体が前のめりになった。
「・・・・大丈夫か?」
倒れる前にジンに支えられ転ばずには済んだ。
「あ、ありがとう」
凄い近くで見るとジンの左右の目に違和感を覚えた。じっと見詰めてくる結衣を不思議そうに見詰めかえす赤と翠の瞳。
「?」
結衣はジンの右側の長い前髪を恐る恐る避けてみた。
対抗もせずジンは黙ったまま。
「この右目・・・」
言いかけた結衣にジンは苦笑しながら答えた。
「昔、眼球ごと失って、これは義眼だ」
「・・・見えてるの?」
「殆んど霞んで見えてないが、無いよりはいい」
結衣を抱えたままの姿勢のジンに後ろから忘れ去られていたリアンが、口を出した。
「・・・ねぇ?・・・僕を忘れてない?」
リアンの黒い瞳がジッと2人を見つめながら不貞腐れたように言った。
「!」
結衣は慌てて立ち上がり、リアンの方を見据えた。
「ドラゴン?」
その質問にはジンが答えた。
「ああ、名をリアンという」
「・・・よろしく、結衣」
「よ、よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げた結衣にリアンは機嫌を直した。
「夕飯、あるもので作るけど・・・いい?」
結衣がキッチンに向かいながら言った。
「俺達のは気にしなくていい」
「え?食事とらないの?」
「僕達は、人間がとる食事では栄養をとれないんだ」
リアンが答えた。結衣はキッチンから戻ってきてリアンとジンを見据えた。
「じゃあ、何を食べるの?」
「此処には存在しない魔力を食べるんだ、魔力は命と力の源」
リアンが結衣の質問に的確に答えていく。ジンは黙ったまま2人を見つめているだけ。
「魔力・・・此処に存在しないなら・・・死んでしまうんじゃ?」
「大丈夫!そのために僕がいる!」
そういったリアンの口から白い光が散って、魔方陣が浮かぶと同時にいくつかの赤や青の透き通った宝石のような石が床に落ちた。
「それは?」
「魔力が時間をかけて結晶化した石、魔石っていうんだ、魔界のガディ様からこうして送られてくるんだ」
取り出した石をジンに渡しながらリアンは言った。
ジンは受け取った魔石を口にいれ舌で転がした後噛み砕き飲み込んだ。
「・・・・おいしいの?」
「・・・味も匂いもない」
ジンが静かに答えた。
「本来なら契約した主の生命力を喰らいながら人間界に留まり、主の願いを叶え、主の命を喰らいつくすと、その魂を奪いもとの世界に帰るのが普通の契約だが」
「!!」
青ざめた表情の結衣にジンは苦笑して付け加えるように言った。
「大丈夫、俺にはリアンがいるから食事には困らない、魂にも興味は無い」
「・・・それが本来の契約なら・・・授業でやってる捕縛って・・・?」
結衣が不思議そうにジンを見据え、答えを待った。
ジンは目を細め、僅かに怒りが籠められた口調で答えた。
「・・・捕縛は、食事なんて与えず、体を締め付け呪縛と飢餓に狂うか死ぬかするまで使うのをいう、自分の意思に反して利用されるだけされて苦痛の中、酷使して使えなくなったら使い捨てられる・・・」
「・・・・・」
「ただでさえ、人間界には魔力が無いから苦しいんだ、捕縛なんて・・・」
リアンが口を出した。
「食事を与えたら・・・どうなの?」
「・・・捕縛をするような者が、自分の命を削ったり、別の命を与えるとは思えないが・・・」
「・・・・・じゃあ、主ではない人が、食事を与えたら?」
どうにか捕縛されたものを助けたいという結衣の優しさが伝わってくる。
「それは無理だ、捕縛された者は、この世界のものを主の許可なしには何も口にすることが出来ない・・・」
「・・・・・」
「もし捕縛の鎖を切っても、簡単には元の世界に戻れないし・・・野良で人間界に存在するほうが苦しいと思うよ?」
リアンが結衣を見据えて口を出した。
「え・・・そうなの?」
「契約も捕縛も、こっちの世界でも存在できるようにある程度だけど体を守る結界のようなものだ・・・それを断ち切ったら、この魔力の無い空間は毒でしかない、余りにも蓄積すると命を落とす」
そう言いながら、ジンは包帯が巻いてある左手の中指の指輪にふれた。
銀色の指輪で真ん中に深紅の小さな魔石が埋め込まれていた、これはかつて受けた黒晶石の刀身の傷の進行を留めてくれている、この指輪をはずしたら左腕は再び細胞の壊死が始まり腐り落ちてしまうだろう。
「まぁ、魔石があれば、万事解決なんだけどね」
リアンが付け加えるように言った。
魔力が結晶化した石、食べずに持っているだけでも体を守る結界と同じ役割を持つ。
「そういうことだ・・・」
そう言いながら、ジンは結衣が来た奥のキッチンに視線を向けた。
「・・・焦げ臭い・・・」
ジンが僅かに眉を顰めて呟くと、結衣は思い出したように大きな声を上げた。
「ああぁぁッ!!」
慌ててキッチンへと走った。
「・・・・ぅうう・・・」
真っ黒にこげた肉の残骸と、炭になったパン
「・・・・・・」
「あーあ・・・それたべるの?」
リアンがフライパンを覗き込みながら聞いた。
「ここまで真っ黒だと、流石の私でも食べれない・・・」
「あはは、結衣はこげたのをいつも食べてるんだ?」
がっくりと肩を落とす結衣と、楽しそうなリアンをジンは優しく微笑みながら見守る。
やはり、結衣を選んでよかった。
リアンも楽しそうだし、何より居心地がいい。
「ああ、結衣・・・周りに姿を見えないようにして、傍にいることにした」
唐突にジンがいうと、結衣は吃驚してジンに視線を向けた。
「え・・・どうしたの?」
「そのほうが都合がいい・・・」
結衣の周りの空気はおかしいほど清浄だ、これは結衣が無意識に悪いモノを取り込んで浄化しているということだ。
だからあれだけおかしなことが重なる。邪気が少ないからまだこれで済んでいるけど、狭量範囲をこえたら体を破壊しかねない。
「そ、そっか」
結衣は照れくさそうに俯いたまま頷いた。
嫌すぎて憂鬱になる、むしろサボりたい!
溜息混じりに召喚の教室に移動する。
思わず息をのむほど異質な空間が其所には広がっていて毎回ドキドキする・・・。
大きく描かれた魔法陣、不思議な模様と文字が赤と青と黒と紫で幾重にも複雑に絡みつくように描かれている此処は召喚のためだけに用意された部屋だった。
そこで順番に召喚を行っていく。
そこで召喚に成功して強力な者でも使役できれば、ポイントが上がり将来も安泰!出世コースまっしぐらだ。
・・・現実はそんなに甘くはないんだけど・・・今まで数十回やって全滅・・・お先真っ暗すぎて・・・
「日坂結衣さん・・・次は貴方です」
「・・・・はい」
“どうせなら、この間あったジンのような綺麗な魔族を使役したい。“
そう思いながら寄越された本を手にすると開く前に何かが頭に響いた。
“汝、運命を受け入れる器を備えし者ならば、その魂の盟約に従い古代の式を与えん、して汝は是か非か?”
えー・・・えっと・・・どういうことだろう?・・・とりあえず、“はい”で。コクリと頷きながら頭の中で答えた。
その後暫くすると召喚式が頭に浮かんだ。
その言葉を正確に口に出していう。
周りはざわついていたが、そんな声すらももう聞こえない。
『闇夜の黒き十字架、暗黒の審判者、そは美しき闇、黒き光纏て、太陽を孕む真夜中の闇よ、鋼の杭を砕き、時を駆ける疾風となりて我が下へ!その不浄なる力を持って我が召喚に答え今此処へ現れよ』
魔方陣が光を帯びて黒い光が一気に辺りを包んだ。
「・・・まさか、俺を呼ぶ式を知るものがいるとは・・・」
そう呟く声は聞き覚えがあった。
しかし激しい魔力の渦、それは痛いほど体を締め付けてきて立っているのがやっとだ。
「え・・・」
「・・・何が望みだ?」
銀色の髪に左右違う翠と深紅の瞳、漆黒の6枚の翼。
「ジン?」
「・・・結衣?」
驚いたような表情で2人は暫し固まっていた。
「えっと・・・どうすればいんだっけ・・・」
困惑した表情の結衣をジンは黙ったまま見据えた。
「俺は、捕縛されて己の意思に反して使役されるのはごめんだ」
「・・・え・・・どうすれば?」
周りの先生に救いを求めるように見詰めたが、どうやら時間が止まっているようだ。
「何を望む?内容によっては契約くらいならしてやる・・・」
「契約?・・・魂を捧げろって言うあれ?」
不機嫌そうなジンの表情が見えた。
「俺はその辺の魔族とは違う、魂など要らない」
「ごめん・・・」
望みを中々言わない結衣にジンは別の気になっていたことを聞いた。
「・・・1つ聞かせてくれ」
「何?」
「何処で、俺の召喚式を?」
「・・・分からない、勝手に頭に浮かんだ言葉を言っただけ」
何処かで聞いたことがあるということだろう。現世でなくても前世とか・・・。
「・・・まぁいいだろう、気に入った」
ちゃんと真剣にジンの質問に答えを返した結衣、これが代価でもかまわない。
「え」
「これで、左手を切りその血を捧げろ」
手渡されたのは装飾された綺麗な短剣。
ジンも自らの右手を切りつけて、ボタボタと噴き出して零れる血に気にもせず、結衣を見る。
結衣も意を決して左手を切りつけた。
一瞬の熱を帯びた痛み、ズキズキと脈打っているのが気持ち悪い。
「手を…」
お互い切りつけた手を重ね、血が交わった時そこから光が帯のように広がり2人を絡めるように広がって、結衣の左手の甲に赤い傷のような烙印がうかび、ジンの首には首輪が現れ、光の帯びは消えた。
ジンは自分の人差し指に噛み付きその血と魔力を凝縮させて小さな紅い石をつくった。
「?」
それを結衣に差し出す。
「飲み込め」
一言だけそう発した。
「え・・・えええ?!」
作ってる過程を見ると到底飲み込めない。
「契約印と真名が刻んである、主である結衣だけが知り持つことができる物だ・・契約は魂を支配する戒めの鎖となるものだから、他の誰にも奪われるわけにはいかない、体に取り込んでくれないか?」
「・・・・」
渋々受け取り、その赤い石を見詰めた。
赤い石の中で更に生きているかのように渦巻く赤黒い模様。
「・・・・・」
じっと石を見つめてから、ジンに視線を向けた。
「・・・俺の真名を知るものは誰もいない・・・結衣だけだ」
「・・・・・」
意を決して石を口に含んで飲み込んだ。
ゴクン・・・
「!」
一瞬頭に浮かぶ不思議な文字。
”ジン・エクセクロトリア”
見たこともなくて読めないはずなのに、何故か読めた。
「覚えておくだけでいい・・・」
「今のがジンのほんとの名前?」
「ああ」
ジンは静かに頷いた。
「契約は完了だ、結衣」
「あ、ありがとう」
「この姿で傍にいると目立つから、呼ばれたときだけ姿を現そう・・」
「うん・・」
ジンが消えると時間が動き出した。
「日坂さん!今の式はなんですか?!ちゃんと本に書いてある通りに読めば呼べるんですよ?!」
「・・・すみません」
「もういいです、つぎは・・・火月さん貴方がやってみて」
「はい」
本の通りに式を紡いでいく。
「!!」
そこにいた皆が息をのんだ。
魔方陣が光ってでてきたのは大きな角をもった獣だった。
『ガァアアルルル!』
「ッ魔本よ!かのものの真名を!!」
先生が手にしていた本に手を翳しそういうと本は光って勝手にページを捲って行く。
「火月さん、名を!”グロアルス”です」
「捕縛!我に従え!グロアルス!!」
『ギャアアァァァァァ!!』
光の楔が幾つも獣に突き刺さり最初暴れていたが次第に獣は大人しくなった。幾重にもその体に絡まる白い鎖。
互いの利益を有した契約とは違って、捕縛は一方の利益だけを有し、無理やり従える。
「すごいわ・・火月さん中級の魔物よ」
周りの生徒や先生が火月を取り巻き騒ぎ立てている。
「ねぇ、ジン・・・どうして、契約なんて・・・」
リアンの黒い目が僅かに揺れている。
「・・・どうしてだろうな・・・気まぐれかもな・・・」
出会った時に感じた懐かしいと思わせた結衣を取り巻くオーラ。
麻衣に似ていたのかもしれない。
失った嘗ての契約主。大事にしていた、共に生きたいとさえ思った存在。
ジンは俯いたまま苦笑した。
「・・・・ほんと・・・嘘が下手だよね・・ジンは」
リアンはボソリと呟いてジンを見据えた。
リアンも知っている、小さかったとはいえ麻衣には会ったことがある。あの優しく温かいオーラ。けれど、どこか不安定で触ると壊れてしまいそうな儚い部分もあるとても淡い色。
「何か、此処澱んでるような感じがする・・・」
空を仰ぎ目を細めながらリアンが口にした。
「魔力が存在しないからじゃないのか?」
とくに変った様子も感じられない、ただ大気に魔力がない分少しだけ息苦しいだけだ。
「んー・・・そうなのかな?それならいいんだけど・・・」
遠くからジンたちは結衣の様子を窺っていた。
ドジなのか、失敗が多いように見える。
「あの子・・・凄いね!」
リアンが面白い物でも見つけた子供のように目を輝かせて結衣をみていた。
「・・・・」
ジンは黙ったまま見据える。
何か悪いの物でも周囲から取り込んでるのかと思わせるほど、はたからみると不幸なのかドジなのか。
帰宅した結衣の前にジンはその姿を現した。
「!」
吃驚した結衣は段差に足を引っ掛け体が前のめりになった。
「・・・・大丈夫か?」
倒れる前にジンに支えられ転ばずには済んだ。
「あ、ありがとう」
凄い近くで見るとジンの左右の目に違和感を覚えた。じっと見詰めてくる結衣を不思議そうに見詰めかえす赤と翠の瞳。
「?」
結衣はジンの右側の長い前髪を恐る恐る避けてみた。
対抗もせずジンは黙ったまま。
「この右目・・・」
言いかけた結衣にジンは苦笑しながら答えた。
「昔、眼球ごと失って、これは義眼だ」
「・・・見えてるの?」
「殆んど霞んで見えてないが、無いよりはいい」
結衣を抱えたままの姿勢のジンに後ろから忘れ去られていたリアンが、口を出した。
「・・・ねぇ?・・・僕を忘れてない?」
リアンの黒い瞳がジッと2人を見つめながら不貞腐れたように言った。
「!」
結衣は慌てて立ち上がり、リアンの方を見据えた。
「ドラゴン?」
その質問にはジンが答えた。
「ああ、名をリアンという」
「・・・よろしく、結衣」
「よ、よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げた結衣にリアンは機嫌を直した。
「夕飯、あるもので作るけど・・・いい?」
結衣がキッチンに向かいながら言った。
「俺達のは気にしなくていい」
「え?食事とらないの?」
「僕達は、人間がとる食事では栄養をとれないんだ」
リアンが答えた。結衣はキッチンから戻ってきてリアンとジンを見据えた。
「じゃあ、何を食べるの?」
「此処には存在しない魔力を食べるんだ、魔力は命と力の源」
リアンが結衣の質問に的確に答えていく。ジンは黙ったまま2人を見つめているだけ。
「魔力・・・此処に存在しないなら・・・死んでしまうんじゃ?」
「大丈夫!そのために僕がいる!」
そういったリアンの口から白い光が散って、魔方陣が浮かぶと同時にいくつかの赤や青の透き通った宝石のような石が床に落ちた。
「それは?」
「魔力が時間をかけて結晶化した石、魔石っていうんだ、魔界のガディ様からこうして送られてくるんだ」
取り出した石をジンに渡しながらリアンは言った。
ジンは受け取った魔石を口にいれ舌で転がした後噛み砕き飲み込んだ。
「・・・・おいしいの?」
「・・・味も匂いもない」
ジンが静かに答えた。
「本来なら契約した主の生命力を喰らいながら人間界に留まり、主の願いを叶え、主の命を喰らいつくすと、その魂を奪いもとの世界に帰るのが普通の契約だが」
「!!」
青ざめた表情の結衣にジンは苦笑して付け加えるように言った。
「大丈夫、俺にはリアンがいるから食事には困らない、魂にも興味は無い」
「・・・それが本来の契約なら・・・授業でやってる捕縛って・・・?」
結衣が不思議そうにジンを見据え、答えを待った。
ジンは目を細め、僅かに怒りが籠められた口調で答えた。
「・・・捕縛は、食事なんて与えず、体を締め付け呪縛と飢餓に狂うか死ぬかするまで使うのをいう、自分の意思に反して利用されるだけされて苦痛の中、酷使して使えなくなったら使い捨てられる・・・」
「・・・・・」
「ただでさえ、人間界には魔力が無いから苦しいんだ、捕縛なんて・・・」
リアンが口を出した。
「食事を与えたら・・・どうなの?」
「・・・捕縛をするような者が、自分の命を削ったり、別の命を与えるとは思えないが・・・」
「・・・・・じゃあ、主ではない人が、食事を与えたら?」
どうにか捕縛されたものを助けたいという結衣の優しさが伝わってくる。
「それは無理だ、捕縛された者は、この世界のものを主の許可なしには何も口にすることが出来ない・・・」
「・・・・・」
「もし捕縛の鎖を切っても、簡単には元の世界に戻れないし・・・野良で人間界に存在するほうが苦しいと思うよ?」
リアンが結衣を見据えて口を出した。
「え・・・そうなの?」
「契約も捕縛も、こっちの世界でも存在できるようにある程度だけど体を守る結界のようなものだ・・・それを断ち切ったら、この魔力の無い空間は毒でしかない、余りにも蓄積すると命を落とす」
そう言いながら、ジンは包帯が巻いてある左手の中指の指輪にふれた。
銀色の指輪で真ん中に深紅の小さな魔石が埋め込まれていた、これはかつて受けた黒晶石の刀身の傷の進行を留めてくれている、この指輪をはずしたら左腕は再び細胞の壊死が始まり腐り落ちてしまうだろう。
「まぁ、魔石があれば、万事解決なんだけどね」
リアンが付け加えるように言った。
魔力が結晶化した石、食べずに持っているだけでも体を守る結界と同じ役割を持つ。
「そういうことだ・・・」
そう言いながら、ジンは結衣が来た奥のキッチンに視線を向けた。
「・・・焦げ臭い・・・」
ジンが僅かに眉を顰めて呟くと、結衣は思い出したように大きな声を上げた。
「ああぁぁッ!!」
慌ててキッチンへと走った。
「・・・・ぅうう・・・」
真っ黒にこげた肉の残骸と、炭になったパン
「・・・・・・」
「あーあ・・・それたべるの?」
リアンがフライパンを覗き込みながら聞いた。
「ここまで真っ黒だと、流石の私でも食べれない・・・」
「あはは、結衣はこげたのをいつも食べてるんだ?」
がっくりと肩を落とす結衣と、楽しそうなリアンをジンは優しく微笑みながら見守る。
やはり、結衣を選んでよかった。
リアンも楽しそうだし、何より居心地がいい。
「ああ、結衣・・・周りに姿を見えないようにして、傍にいることにした」
唐突にジンがいうと、結衣は吃驚してジンに視線を向けた。
「え・・・どうしたの?」
「そのほうが都合がいい・・・」
結衣の周りの空気はおかしいほど清浄だ、これは結衣が無意識に悪いモノを取り込んで浄化しているということだ。
だからあれだけおかしなことが重なる。邪気が少ないからまだこれで済んでいるけど、狭量範囲をこえたら体を破壊しかねない。
「そ、そっか」
結衣は照れくさそうに俯いたまま頷いた。
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