星の守護龍 ~覚醒と混沌へのカウントダウン~

雪月 光

文字の大きさ
39 / 66
2章~時の契約~

4.~日常~

しおりを挟む
家を出てからすぐに、いつもと違うと結衣は感じた。
近所の犬に吼えられないし、電車で人ごみにつぶされることも無ければ、階段で転ぶことも無い。
ジンは黙ったまま結衣の後ろを歩いているだけだが、こうもいつもと違うと変な感じがする。

「何か、変な感じ」

ボソリと呟く。

「・・・・これが普通だろう」

「!」

辺りを慌てて見回したが誰もジンには気付いてないようだ、姿だけではなく声も聞こえないようだ。

「心配要らない、よっぽど力があるもの以外には俺の存在は今は空気と同じ」

それは、よっぽど力がある人にはジンが見えるということになる。
学園で魔物を使役してる人はその分類に入るのではないのだろうか。急に不安になってきた。
不安を抱きつつも学園に無事着いた。ほんとに何事もなく。

「おはよう、結衣」

「あ、おはよう真紀」

廊下で声をかけられ、結衣はすぐに振り向きながら挨拶を返した。
親友の真紀だ、薄い茶色の肩位までの髪と淡い灰色の瞳を持つ元気な女の子で、誰からも慕われている。
教室に入り、辺りを見回してみるが誰一人してジンの存在に気付くものはいない。

「はい、静かに・・!」

教室に入ってくるなり、ざわつく教室を一声で静かにさせた厳しそうな長い黒髪の女の先生。
魔術や呪いに対抗する術を教える先生で、名を狩谷坂真有里。

「・・・・」

「結衣さん!」

「ッひゃい?!!」

いきなり名前を呼ばれて結衣は吃驚して変な声が出た。

「・・・何ですか、その返事は・・・それよりも、どうしたんですか?」

ジンのことがばれたのかと思った。

先生が言うが、結衣の左手の甲の赤い傷のようなジンとの契約の烙印のことだと気付くと安堵の息が出そうになった。

「え、えっと・・・転んで怪我しただけです」
痛い言い訳だけど、周りの人は皆結衣を知ってるいるからすぐに納得していた。これはこれでちょっと傷つくよね・・・皆私をどんな目でみてるんだろう?

「そうですか、気をつけてくださいね」

「はい、ありがとうございます」

普通に授業が始まり、何事も無く平穏に普通に終わっていく。
しかし平穏は突然破られる。魔法の授業のとき、1人の男子生徒がふざけて力をこめ過ぎて暴発し、教室のガラスが一斉に割れて降り注いだ。
一瞬で教室はパニックになる。

「!!」

いつもは殆んどのガラス片を浴びて大怪我をしてそうなこの状況、ジンが結衣を庇うように立っていて、見えない壁にでも遮られてたように辺りにガラスが散っていた。
窓際にいたのに無傷なのは結衣だけで、周りの生徒は皆負傷していた。

「大丈夫か?」

結衣は静かに頷いた、けれど自分だけ無傷で周りの皆がガラスで体中傷だらけだ。

「結衣さんは無事みたいね」

声のほうを振り返ると、火月がそこにたっていた。その横には呼び出したグロアルスが体中にガラスを浴びて血を流している。

「そのこを盾にしたの?」

「・・・何か問題があるかしら?身を守るための捕縛でしょう?」

悪びれもせずに火月は口にした。

「可愛そうだよ・・・」

「・・・それよりも、落ち零れの貴方は、どうして無傷なのかしら?」

棘のある嫌な口調、上から弱者を見下ろすような冷たい目。

「・・・・」

俯いて黙ってしまった結衣に火月は面白くもなさそうに鼻を鳴らしその場を去っていった。
殆んどの生徒が保健室に担ぎこまれて教室は結衣とジンと離れた席にいた真紀と数人の生徒達だけが残された。
こんな時何も出来ないのが悔しい。

「結衣さん・・・ほんとに何処にも怪我は無いの?」

不思議そうに先生達が駆け寄ってきた。
窓際で1番被害を受けそうなのに無傷だったのが余程おかしいのだろう、火月のように捕縛も出来てない身で。

「・・・はい」

「・・先生何ですか?結衣が何かしたとでもいうんですか?」

厳しい口調で結衣を庇って先生に詰め寄る真紀。

「いいえ、そういうわけではないの・・・一応上には報告しとくわ」

「・・・・」

先生達はそういって教室を後にした。

「大丈夫?」

「真紀、ありがとう・・・」

「いいの、先生達のあの態度が何か赦せなかったのよ」

こういうとき心強い友達がいることを凄い感謝した。

「・・・・・」

複雑そうな表情でジンは結衣と真紀を見据えた。
午後の授業は無くなって結衣と真紀は一緒に学園の門をくぐった。
元気の無い結衣を気遣ってか真紀は結衣の家の前まで送ってくれた。

「折角だから、あがっていかない?」

「そうね、久しぶりにお邪魔しようかな」

家に入ろうとした結衣にジンが口を開いた。

「・・・その人間は信用できる人間か?」

結衣は静かに頷いた。

「そうか」

真紀が家に入るなり飛び込んできたのは白っぽいドラゴンの姿。

「何かいる!!」

「・・そのこは、リアンていうの」

「ふぇッ!結衣?・・・僕、まずかった?」

やってしまった?という訴えるような視線を結衣と結衣の後ろのジンに向けた。

「大丈夫・・・リアン親友の真紀よ」

結衣が答える。

「な、何?結衣捕縛成功してたの?!」

「結衣とは契約した」

「!!」

結衣の後ろから突然姿を現したジンに真紀は驚いて腰を抜かしそうになった。

「ジン・・・」

「真紀といったな?よろしく」

銀色の長い髪に、白い肌、翠の左目、凛とした美しい透き通った水のような声。
見惚れてしまって差し出された手には気付かなかった。

「真紀、私が契約したジン」

「契約?・・・・凄い綺麗・・・」

結衣が作った食事を取りながら、色々会話が弾んだ。
やはり聞かれるのは、捕縛と契約についての質問。

「ジンさんは、上級の魔族なんですか?」

不思議と敬語になる真紀。頬は赤く目は伏せ目がちだ。

「・・ああ・・・一応・・・そうなるな」

「今日は焦がさなかったのよ!」

自慢げにリアンに見せ付ける結衣にリアンは笑いながら結衣を見上げていた。
あっという間に時間は過ぎて、日は傾いた。

「もうこんな時間・・・」

真紀が呟いた。

「泊まっていく?」

「んーん、帰るわ」

「外凄く暗いよ?」

リアンが窓から外を眺めながら呟いた。

「・・・・・・・・・」

「・・・途中まで送っていこうか?」

ジンが沈黙を破るように申し出てくれた。

「いいの?」

「かまわない」

暗い夜道、横を静かについてくるジンに真紀は気になっていたことを聞いた。

「昼間、結衣をガラスから守ったのもジンさん?」

「ああ」

「ずっと傍に居たんだ?」

「そのほうが都合がいいからな、結衣は危うすぎる」

それには真紀も笑いながら頷いた。

「周りの人から見えなくする術まで使えるのね」

「俺の存在を認識したものにしか見えない」

「えっと、それじゃあ、私には見えるの?」

その質問にジンは苦笑した。

「現に今、見えているだろう?」

「!」

姿を隠していたということは、周りからは真紀がずっと独り言を言っているように見えるということだ。
凄い恥ずかしい。

「こ、此処でいいわ」

「そうか」

「ありがとう・・・又明日ね?」

「ああ」

真紀がバスに乗ると、ジンは翼を広げてもと来た道を戻っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...