星の守護龍 ~覚醒と混沌へのカウントダウン~

雪月 光

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2章~時の契約~

9.~トラブルは続く~

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神月の授業。
どこかいつもと違っていた・・・。
何が・・と聞かれると返答に困るのだけど・・・何かがおかしかった。
授業で用意されたのは蛇がはった様な良く分からない文字のようなものが書かれた紙切れだ。

「なんだろう?」

結衣は首を傾げ後ろのジンに伺うようにチラリと視線を投げかけた。

「さぁ・・・俺にもわからない・・・」

何らかの術が施されているのは一目で分かるが、どんな術なのか見当もつかない。
摘まむ様に持っていた結衣のその紙切れが突然窓から入ってきた風により教室の端に飛ばされた。
窓側の1番後ろの席の結衣、立ち上がって取ろうと椅子を引いたら、ジンが先に動いてくれていた。

「俺が取る・・・」

紙に触れた瞬間雷でも落ちたのかと思わせる音と光が周囲を包んだ。触れた指から全身にビリビリと痺れたような変な感覚に襲われた。

「!?」

吃驚してジンは思わず咄嗟にその紙を手放した。

「どうしたの?」

結衣が不思議そうに小声で尋ねジンを見据えていた。

「・・・・」

あの光と音をこの至近距離で分からないはずがないのに・・・。本当にみえてないのだろうか?

「・・何でもない」

結局結衣は自分で落ちていた紙を拾い上げ普通に授業の続きを受けた。
授業が終わり真紀が結衣の机の所までお弁当を持ってやって来た。

「天気いいし外で食べよう?」

「うん」

真紀の後を結衣もついて行く。

「きゃ!」

何も無いところで結衣が派手に転んだ。

「大丈夫?!結衣!」

「う、うん・・・」

真紀に差し出された手を素直にとり立ち上がろうとした時だ。

「あれ・・・?お弁当・・・」

手に持っていたはずのお弁当がないことに気がついた。

「・・・・・・・日阪さん・・貴方・・・喧嘩うってますの?」

「え?」

声の方に視線を向けると、ひっくり返ったお弁当を頭にのせた火月が居た。もちろんひっくり返った中身も頭に乗せたまま固まっている。

「え・・・あ・・ごめんなさい!」

あわてて謝ったが、火月は今にも怒りが爆発しそうな表情だった。
床に落ちた残りのおかずとお弁当箱の蓋を拾い上げ綺麗に片付け、火月には何度も謝った。

「・・・・・」

ジンは黙ったまま結衣と真紀を見守る・・。
何故だ・・・自分がそばに居るから平気なはずなのに、また前みたいに結衣が周囲の邪気を吸収している・・・?それに前よりもさらに悪化している気がする。

購買でパンを買おうとしたら目の前で売切れ、真紀から恵んでもらったおかずは鳥に持っていかれた。

「な・・・何なの・・・もぅ・・・訳分からない・・・ぅう・・・。」

涙ぐむ結衣に真紀が必死で宥めていた。

「どうなっているの?ジンさん?」

真紀が後から来たジンに問い詰めた。

「分からない・・・」

本当に分からなかった。自分の力が弱まった訳ではないはずだ・・・。周囲の人間がジンの姿をまだ見つけていないから・・・。
神月の授業の時の、あれが原因なのだろうか?
あの女はああ見えて人間ではないから、何かしたのかもしれない・・・。

「・・・少しこっちで調べてみる・・・」

ジンはそういって結衣と真紀のそばから離れていった。
きっと神月に会えば分かるだろう・・・。
不思議なことにジンと離れてから、さっきみたいな酷い不幸は続かなかった。プチトラブルだけ。

「おい・・・居るんだろう?」

神月の部屋の扉を乱暴に開けて中へ入った。

「女性の部屋に入るときは、ロックくらいするものよ?礼儀がなってないわ!」

「・・煩い・・黙れ・・・」

「・・・・・ほんとに礼儀が無いわね・・・最低・・・・・とりあえず扉閉めてくれない?」

機嫌悪そうに神月はジンが入ってきた扉を閉めるように促した。

「・・・・」

ジンは扉を素直に閉めて、神月を睨んだ。

「何をした?」

「・・・何のことかしら?」

「とぼけるな・・・・・」

翠色の左の瞳の色が次第に紅く変わっていく。

「・・・こんな所で無駄な魔力なんて使って平気なのかしら?」

机に神月を押し倒し魔力で動けないように縛り上げた。

「無駄でもないさ・・・」

災いの元凶を潰せるならば・・・。多少の苦痛など気にはしない。
細い神月の首に指を絡め、少しづつ力を籠めていく。
怯えた様子も見せずに、口元には相変わらず人を蔑む様な笑みを浮かべていた。

「言えよ?・・・何をした?」

「愚かな子ね・・・」

嘲笑うように神月が笑みを浮かべたまま楽しそうに言った。

「何・・・?」

冷たい刃の様な気、深紅の両目、次第に力が入っていく指、どれを取っても絶望的なこの状況でまだ虚勢を張るということは、まだ何か策があるのだろうか?

「・・・ッ・・ぁ・・・ぅッ」

さらに力を籠める・・・こんな細い首、一瞬で圧し折ることだって出来るのに・・・。

「・・・・・何を企んでいる?お前も、あの理事長も・・・」

ふと結衣たちが心配になった。
こんなことをしている場合ではない・・・。
溢れた魔力を抑え、神月の細い首から手を離し、苦しそうに咳き込んでいる神月に背を向けると部屋を後にしようとした。

「ふふ・・・特別に教えて、・・あげるわ」

どんな心境の変化なのだろうか・・・。

「・・・・?」

「呪術、で・・・呪いをかけたの・・・」

「結衣に?」

深紅の左目を僅かに細めた。
神月は首を横に振った。

「貴方によ・・・」

くすくす笑う神月。

「・・・・・呪い?どんな・・・」

「もう気付いているんじゃないのかしら?」

「・・・・・・・・・」

やはり周囲との断絶・・・・か。
認識した真紀や契約した結衣にはその影響は無く見えているとしても・・・。
結衣には影響があるのか・・・。契約して、それなりの力を持った彼女が、守りの壁の恩恵もなく、周囲の邪気を吸収しているんだ・・・。今まで以上の不幸・・・下手したら命の危険さえ・・・。

「・・・・・」

俯いたまま考え込んでいたジンに神月が付け加えるように囁いた。

「早く行ってあげたほうがいいんじゃないかしら?」

言われなくても分かっている・・・。一々癇に障る・・・。

「・・・・」

再び神月を睨んだ後、急いで部屋を出て結衣たちを探した。


「結・・・・・」

姿を見つけて声をかけようとしたジンを遮って火月の怒鳴り声が響いた・・・。

「いい加減にして!!わざとやってるんでしょう?!・・・貴方がその気ならいいわ・・ッ」

何があったかなんて聞かずとも一目見ただけですぐに分かった。ごみを捨てに行った結衣が階段で転んで、下を歩いていた火月にぶちまけたのだと・・・。

「ご・・・・ごめんなさい・・・」

必死で謝っている結衣。

「もう許さない・・・ッ!!グロアルス!!」

捕縛した大きな獣を呼び出した火月。

『がるるるるッ!!』

「やってしまいなさい!!」

ジンは飛び掛るグロアルスと結衣の間に慌てて飛び込んだ。

「こんな人目の多い狭い所で、そんな大きい獣なんて出して何考えている・・・?」

ジンが火月を見据えたまま言った。グロアルスの牙はジンの左腕に食い込んで血が流れ出ていた。

「・・・なんです?あなた・・・・・・・日阪さんを庇うのですか?そんな落ちこぼれにあなたのような綺麗な方が?・・本当に気に入らないわね・・・・・・・・まぁいいわ・・ここが狭いから駄目だというのなら広い場所ならいいのかしら?」

「・・・・・そういう問題じゃない・・・」

ジンは痛みに僅かに眉をしかめながら溜息交じりに言った。

「なら、どういう問題なのでしょう?日阪さんの度々の無礼・・・どう責任をとってくれるのです?」

「結衣は謝っただろう?」

「・・・謝ればすむというのですか?」

火月の怒りに反応してグロアルスは更に牙に力を籠めていく。

『がるっるう・・・・・ぅぅぅッ』

「・・・ッ」
太くて鋭く硬い牙が更に深く腕に食い込んでいく。ボタボタと零れた血液が床を赤く染めていく。
ここで手を出したら余計に拗れそうだ・・・。人間とはめんどくさい生き物だな・・
この事態も結衣のトラブル吸収体質に拍車が掛かっている証拠なのだろう・・。
・・・それにしても、この火月という娘・・・心の器の小さな人間だ・・・。

「・・・結衣が迷惑をかけた分、気が済むまで俺をやればいい・・・手は出さない」

「・・・・・・・いい心掛けですね・・・グロアルス!」

「・・・ッジン!ジン・・・ぅぅッう、うぁああ・・」

涙を一杯ためて結衣がジンの背中にしがみ付いた。
鋭く硬い爪が容赦なく体を切り裂くたびに血が辺りに飛び散った。

「ぅ・・ッ!」

グロアルスの長い爪が食い込んで肺を傷つけた。

ゴホッ・・・

苦痛に顔を歪めた口から血の泡が零れた。あたりの床や壁は血で真っ赤に染まっている。
ぐらりと力を無くし床に膝をつき、そのまま倒れこんだ。
ジンは意識が無いのか目を閉じたまま動かない。流石に火月はやりすぎたと思ったのか、慌てた様子で当たりに散った大量の血痕と横たわるジンを横目にはき捨てるように言った。

「・・・・こ、これくらいで許してあげるわ・・・」

火月はグロアルスを戻し、そそくさとその場を後にした。

「ジン!!ジン!」

血で制服が汚れるのも気にせずジンに駆け寄って抱き起こした。

「う・・・」

涙で顔をくしゃくしゃにした結衣がジンを覗き込んでいた。

「・・・・・・大、丈夫・・・」

苦笑しながらジンは答えた。
まったく・・・なんて顔してるんだ・・・今の結衣・・すごい酷い顔してる・・・

「少し・・・休めば・・・・」

静かに再び瞼を閉じた。
暫くすると聞きなれた声が上から飛び込んできた。

「あらあら・・・大変なことになっているわね・・・?」

「・・・あ・・・神月先生・・・えっと・・これは・・」

どう言い訳していいかに困惑した様子の結衣。
血溜まりのなか横たわるジンを抱えた血に汚れた結衣の姿・・・。
普通に見れば、結衣が何かしたとしか思えない状況だ・・・。

「・・・・誰かが来る前に此処は片付けておくから、もう帰りなさい?」

「あ・・!・・・はぃ・・・」

素直に頷いた。
しかし、こんな状態のジンが人目に付かない術を使ったままだとしても・・・家まで運ぶには到底結衣の力は足らなすぎる。
とりあえず、真紀と一緒に学院の建物の裏までは運んだ。

「どうしょう?」

「その前に、私的には何があってこんな状況なのか聞きたいんだけど?」

真紀のもっともな質問に答えようとしたときだ、空から声がした。

「結衣ー!」

声の方を見上げると、見慣れた姿があった。

「リアン?!」

「ジンに呼ばれたから迎えに来たよ!うぁ・・何があったの?」

すぐにジンの様子を見るなりリアンは真ん丸い目を結衣に向けた。
ことの一部始終を話してから、リアンは納得したように笑った。

「ジンらしいね・・・」

吐き出した魔石を自分で食べ、姿を大きくしたリアンはジンを背中に担ぎ翼を羽ばたかせた。

「先に戻っているね?」

「うん・・これ、鍵。すぐ追いかけるから・・」

結衣は血のついた制服をぬぎ、置いておいたジャージに着替えて急いで帰宅した。


部屋に着くと、リアンは自分で出した魔石を自分で食べ、目を閉じたままのジンに取り込みやすい気体状にした魔力を吐き出していた。
高密度の魔力は光を帯びていて、ジンの体に触れるなり吸い込まれるように消えていった。

「大丈夫なの?」

「心配要らないよ、こんな無茶しても魔石があればすぐ良くなるし」

「すごいのね・・魔石って・・」

結衣のその台詞にリアンが頷いた。

「こんな高純度の魔石、本来なら魔界の現魔王だけが口に出来るんだ・・1個で凄い力があるから、強い力を持ったまま長生きできる、そのへんの魔物なら1個で250年は何も食べなくても生きられるほどね・・」

「一杯取れるの?リアンがいつも一杯出してるけど?」

この質問にはリアンは首を振った。

「魔石はとても貴重なんだ、こんな高純度の透明な魔石は尚更・・・。僕もジンも特別なんだ・・僕は”魔界”そのものの存在ガディ様と契約したから、魔界から魔石を送ってもらえてるけど」

「そうなんだ・・・・?」

「・・けど魔石をあんなに食べてるジンは・・・」

いいかけた結衣の次の台詞を悟ったリアンは続けた。

「言ったろう?ジンも僕も特別だって・・・・・・結衣はジンと契約した主だから知っててもいいかな・・・ジンはこの星の守護龍、いわば星そのもの・・・この星に最初の3世界、魔界、人間界、天界を作った3神龍を創った始祖幻龍をその体に宿してるんだ」

想像以上のスケールの大きさに開いた口がふさがらない・・・。

「えっと・・・神様?」

「それは・・正しくない・・・天上の・・・人間たちが”神様”と呼び崇める存在さえも神龍が創造したんだから・・・生と死、時さえ司るんだよ」

リアンの黒いつぶらな真ん丸い眼が結衣をジッととらえていた。

「まぁ・・・ジンの中の”彼”(始祖幻龍)は眠っているけど・・それでもその力を維持するには・・・一杯魔石食べないといけない・・・いくら食べても満腹になんてなれないんだから」

「・・・何か大変ね・・・」

「自分の命とか力の分も魔石取らないと、大変なことになるからね・・・・」

ボソリとリアンは呟いた。

「うぅ・・・・ん」

ジンは部屋の明かりが眩しいのか瞼を掌で覆いながら結衣とリアンに視線だけを向けた。まだぼんやりしていて霞んでいる。

「大丈夫なの?」

結衣の心配そうな表情が飛び込んできた。

「ああ・・もう大丈夫・・・心配かけたな・・・」

「ほんとに心配した!あんなに血が・・・出てて・・・」

また目に涙を浮かべる結衣にジンは苦笑した。

「泣かれるほうが辛い・・笑ってくれ・・・・」

腕を伸ばし、宥めるように頭を撫でながら囁いた。

「ぅ・・・ん」

涙を浮かべたまま不器用に無理やり笑ったから、どんな複雑な表情になったのかは分からなかった。

「・・・・」

「ジン、自分で食べれるだろう?ここに置いておくね?」

「ああ、ありがとう」

リアンが出したいくつかの魔石を掴み口の中に入れて齧った。
結衣はまだ心配そうに見つめている。

「結衣、結衣」

「?」

「栄養は取れないけど、人間が作った食事僕たちも食べれるよ?ちゃんと味とかも感じられるから・・・・」

こっそりとリアンが結衣の耳元で教えてくれた。元気付けようとしてくれているのだろう・・・。リアンもジンも本当に優しい。

「腕によりをかけて作らないとね!」

「・・・結衣の得意な・・・黒焦げは食べれないよ?」

「!・・・それは私だって食べれないわ。」

「あはははは」

「・・・・・・たしか果物あったはず・・」

楽しそうな笑い声、心地いい・・・。

ジンは魔石を食べながら瞼を閉じた。

昔に戻ったようだ・・・懐かしくて、暖かい・・・。
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