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2章~時の契約~
22.~眷属への変化と支柱の森~
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ジンは空を見上げたままその場に立ち止まった。
歪みが大きくなっていた。
それにさっきの次元の扉の気配。
開ける者は限られている。
「・・・行ってみるか・・」
小さく呟き羽根を広げその場を飛び立った。
▲結衣サイド▲
「ねぇ・・どうして・・・」
「・・・今は何も言うな」
「・・・・。」
暗い洞窟を抜ければ妖精の村があると聞き、2人は洞窟に足を踏み入れた。何でも妖精には未来を見通す力があるとか、その力を借りようと思ったのだ。
其処までは良かった。
予想外にいくつもの罠が行く手を阻む。よそ者を寄せ付けたがらないとは聞いていたけれど・・・。
結衣の体質がさらに拍車をかけるように状況を悪化させていく。
ぼろぼろになりながら今は暗い崖に必死でしがみついているところだった。
下は流れの急な冷たい水の激流だ、落ちたら怪我だけではすまないかもしれない。
「手を離すなよ?」
「う・・・うん・・・」
そうは言っても結構限界だった・・。
ジェロの右手は崖の上に、左手は結衣の右手首を掴んでいるこの状況。
「・・・・・ぐぬぬ・・・」
引き上げる力もなければ、片手で上れるほど器用な力もない。
体力だけが消耗していく。
「ジェロ・・・私はいいから・・・」
結衣が言いかけたのをジェロが遮った。
「良いわけねぇえよ!」
叫んだ拍子にズルリと右手が崖の上の土を抉った。
爪を突き立てどうにか支えているが、2人分の体重は流石に少し辛い。
「結衣お前、少し太・・」
言いかけたジェロに結衣は睨んだまま遮るように言った。
「それ以上言ったら、殴るよ?」
「・・・・」
大人しく黙った。一瞬恐ろしいほどの気を感じたから。
しかしこの状況どうしたら打開できるか見当も付かない。
あいつが居てくれたら・・・
ふとジンを思い出し、首を横に振ってその考えをかき消した。
「ジェロ・・・」
唐突に弱々しく結衣が口を開いた。
「何だ?」
「・・・何かもう・・・無理みたい」
「え?」
手が痺れて冷え切っていた。
ふいに右手にかかる重圧が軽くなった。
結衣の手を掴んでいた自分の左手に視線を向け言葉をなくした。自分のその手は青くなって小刻みに震えていた。
そして居たはずの結衣の姿がない。
「結衣?!」
慌てて叫ぶ、返事はない。ただ流れる激しい水の音と、洞窟内に響く木霊した声だけがその静寂を破っていた。
ジェロは崖の上に飛び乗り辺りを見回した。
耳をピンと立て僅かな音も聞き逃さないように。
そして激流の流れる方向に沿って走り出した。
う・・・ッ・・
寒い・・・。
体が動かないよ・・。
感覚がない。
突き出た岩肌に何度か体をぶつけながらも、水にもみくちゃくちゃにされながらも流れに逆らう気力もなかった。
冷たい水が喉を通って一気に体の中へ流れ込んでくる。
苦しい。
寒い・・・。
そのまま瞼を閉じ意識を手放した。
激流の流れるままに。
暗くて淀んだ意識の中フェルヴァが見えた気がする。
まだあの時の傷が治ってないのだろう、苦しそうに座り込んでいた。そっと近づいていく。
-結衣・・?-
顔を上げ結衣を見上げた。その表情は驚いたように目を大きくしていた。
-どうして、此処に?-
「分からない、此処は何処?」
-此処は、お前の・・・心の奥深く-
「真っ暗なのね・・」
落ち込んだように結衣が口にした。
-上は明るく眩しい位だ、此処はずっと下の最深部、暗くて当然だ-
宥めるようにフェルヴァは口にした。
「そうなんだ・・・」
-我も1つ尋ねよう・・・何故此処に居る?-
「どういう・・・こと?」
-・・・器なる体が死を感じない限り精神は此処へは来れないはず-
「死・・・?」
-・・・どうやら、こんな所でのんびり傷が治るのを待っていられない状況のようだな-
「え・・?」
よろりと立ち上がるフェルヴァ。
-・・・今すぐにでも我が眷属に迎えよう、さあ結衣我が元へ-
手を伸ばしながら口にする。
「あ・・えっと、・・・私今精神っていったよね?」
血なんてないではないか?
それになんだか怖い。逆らえない声。意思とは関係なく勝手に体がフェルヴァの方へと歩みを進めていた。
-精神は血より更に濃厚で至極な存在だ、そしてその身を差し出すことでやがて器も変異を遂げる-
気がつくとフェルヴァの手を取り目の前に跪いていた。
静かにフェルヴァの牙が首筋に突き立てられた。
やはり、痛みも何も感じない。
暫くすると牙を抜きフェルヴァから解放された。
-見た目は然程変わらないだろうが、全てにおいて人を凌駕するだろう、その頃に激しい餓えを感じたなら1度我が純血を与えてやろう、所有する主の証として-
よく分からない。
とりあえずの問題を口にしてみる。
「・・・・とりあえず、どうやって体に戻るの?」
その質問にフェルヴァは黙ったまま苦笑して結衣を見据えた。
そして静かに人差し指を上に向けた。
結衣も釣られるように上を見上げる。
小さい光が見えた。
-深く落ちてきたのだ、上へ進めばいずれ目が覚めるだろう-
納得したように結衣は頷いた。
そしてふとフェルヴァに視線を戻した。
「あ、えっと、どうやって上まで飛ぶの?」
当然と言えば当然の質問だったのに、フェルヴァは呆れたような表情をした。
-言ったはずだ、此処はお前の心の最深部だと、ただ望めばいい-
「そ、それだけ?」
静かに頷く。
静かに目を閉じて上へ、と望む。
体がふわりと浮いた感覚がする。
再び目を開くと結衣は薄暗い洞窟の中に倒れていた。
体中が激痛で動かせない。
寒いし、痛いし・・・。ジェロも居ないし・・・。服も水で濡れて重たい。
目だけを動かして傷の様子を伺う。
擦り傷から始まり、ぶつけたのか青く腫れ上がっている腕と足首、体を起こそうとすると激痛が走る。
肋骨も折れているのかもしれない。
「・・・・・」
暫くすると聞き慣れた声が遠くの方から聞こえた。
「結衣ーッ!何処だ-?!」
「・・ッ・・」
痛くて声が出ない。掠れた息だけが漏れた。
「結衣ー?」
声は段々近付いてきた。
凄い耳の良さだ。
これには感心させられた。
「結衣!大丈夫か?!」
ジェロが倒れている結衣を見つけて慌てて駆け寄ってきた。
この寒いのに汗で髪や服が濡れていた、必死で探してくれたのだろう。
「結衣?」
結衣は声が出ない分にっこり微笑んで見せた。今できる精一杯だった。
「動けないのか?」
心配そうに覗き込むジェロの表情。
結衣は静かに頷いた。
指先が小刻みに震えていたのをジェロは見逃さなかった。
「寒い?なら俺様が暖めてやる!」
いきなりそんなことを言い出したジェロに結衣は頬を赤くしながら吃驚した。
ジェロはその場で変化すると大きな獣の姿になり、結衣を抱きかかえるようにまるまった。
獣になれることをすっかり忘れていた。
「暖かい?」
「・・・・ん」
照れたように毛に顔を埋めて頷いた。
ふさふさの毛並み。一定のリズムを刻む力強い鼓動が聞こえる。
本当に暖かかった。
結衣は安心したのか静かに再び瞼を閉じた。
もう最深部のフェルヴァのもとには辿り着けなかったけれど。
「ん・・・?」
目を開けて辺りを見回した。
傷の手当てがされている、ジェロがやってくれたのだろうか?
とうのジェロの姿が見当たらないようだけれど。
「目が覚めたのか?」
聞き慣れたジェロとは別の声。
結衣は声の方に視線を向け、その名を口にした。
「ジン!」
「・・・・何故俺の名を?」
「・・あ・・・また別の次元なのね」
「・・・ほぅ・・色々聞かなきゃならないようだな?」
此処までのやりとりで結衣は、普通に声が出ていることに気づいた。
「あれ・・私・・・怪我・・・」
「手当はしておいたが・・・必要なかったようだ」
ジンが言う。
殆どの傷もふさがり激痛も引いていた。
「凄い再生能力だな?お前何者だ?」
「人間だよ!」
平然とした顔で答えた。
「・・・・・」
そんな力を持った人間が居るはずないだろうという疑いの沈黙なのだろう。
「まぁいい、聞かせてもらおう」
「え?」
「俺の名を知る理由と次元の理を知り移動してきた理由を」
真面目な表情。
それ程重要だという事だろう。
結衣は静かに口を開いた。
自分がジンと契約してること、来るときに落ちてはぐれたこと、ガディによってジェロという護衛をつけてもらったこと、そして一番重要な・・・次元を、別の次元のジンを殺して回っている存在のことを。
「・・・・・」
重い沈黙が辺りを包んだ。
「それで次元が最近歪んでいたんだな・・・」
ふいにジンが溜息混じりに言った。
遠くの方から聞き慣れた足音が近付いてきた。
耳も大分良くなっているようだ。
「結衣ーもう起きて平気なのか?!」
ジェロが驚いたように結衣を見回した。
そしてふと横に居たジンに今頃気がついたのか吃驚して後ろにぴょんと飛び退いた。
「・・・お前・・・」
「・・・?」
「あ、ジン、こっちが言っていたジェロよ」
「ああ、お前が・・・?」
「な、何だよ?」
「いや、・・・何でもない」
「・・・・」
「そうか、次元を破壊する者か、此処にもいずれ現れるだろう・・・」
ジンが言うと結衣はビクッと体を強ばらせた。
またあの惨劇を繰り返すのかと・・・。
「はぐれたのだったな・・・一番安全で確実な場所に送ってやる」
「・・・それは・・・何処?元の世界?」
「全ての命の生まれ帰る支柱の森、つれが俺だったなら其処へ行くだろう」
「支柱の森・・・?」
「生きた人間や魔族が踏み入れてはいけない聖域だが、まぁ・・・・状況なだけに仕方ないだろう・・」
苦笑しながらジンはジェロと結衣に赤い小さな宝玉を差し出した。
「これは?」
「持っていろ、証明となり聖域にも入れる代物だ」
「ありがとう・・」
結衣は素直にお礼を口にした。
「開くぞ」
きたときと同じように歪んだ光の奥に反対側の風景が浮かび上がっていた。
「さぁ行け、ベルゼアスによろしく」
ジンがふいにそう口にした。
誰のことだろう?
結衣とジェロは次元の扉を潜った。
眩しい光が一気に辺りに広がった。
「ん?」
目を開くと一面緑の森だった。
キラキラと輝き大樹に覆われた神々しい程の美しい森。
「凄い・・・」
『ようこそ?支柱の森へ』
「?!」
声の方をジェロと結衣は振り向くと、そこには大きな深紅の巨体を持ち金色の目と額に青い石を持った龍が居た。
「誰だ?!」
警戒するようにジェロが牙を剥いた。
『此処には”敵”など居ない』
諭すようにベルゼアスが言った。
『我は支柱の番人、ベルゼアス・・・全てを知る存在だ』
ジンが最後に言っていた・・名前・・人ではなく龍だったんだ・・。
結衣はベルゼアスを見上げたままそんなことを考えていた。
『そう、幻龍・・ジン・・、彼が此処へ2人を導いたのだったな』
「はい」
『じきにジン達も此処へ訪れるだろう、ゆっくりしていくと良い』
「え?」
どうしてそんなことが言えるのだろう・・・確信があるかのように・・。
『番をしていると全てが見えるのだ、過去も未来も・・・その思考さえ』
「!!」
『さぁ、まだ時間がある、折角来たのだ支柱の元へ案内してやろう』
ベルゼアスが来た道を引き返していく。
結衣とジェロも後を追いかけた。
暫く歩くと開けた場所に出た。
「大きい・・」
思わず上を見上げたまま本音が漏れた。
「綺麗だな・・・」
ジェロもあまりの美しさに魅とれていた。
いくつもの光に包まれ、キラキラと白く輝く巨大な大樹。
上の方はあまりにも高くて見えない。
太い根と大きな幹、そして上からたれた長い蔦しか目には見ることが出来なかった。
『触るなよ?命が惜しければ・・・』
釘を刺しベルゼアスは定位置なのか木の前の岩の上に座った。
岩の横にある2つ並んだ青い水晶が結衣の目にとまった。
そっと近付いて行くにつれ結衣は目を丸くした。
中に眠るように寄り添っていた男女の体。
な、なにこれ・・・
『遠い昔、世界を闇から救った英雄だ、互いに思いながらすれ違い・・・最後にやっと一緒になれた悲しい者達だ』
思い出すようにベルゼアスが語った。
本当に思考が読めているようだ。
『ああ、言い忘れていたが此処は時間の流れが他とはずれているから・・・』
「え?」
ジェロの方を見た。
あまり変化がない・・・。
自分はどうだろう?
目の前にあった水晶に自分の姿を写してみた。
「髪少し伸びてる・・・?」
『時間の流れが速いのだ、此処では”生きた人間”はすぐに老いて骨になりやがて塵になってしまう』
「・・・・・私・・」
ベルゼアスは結衣を見ただけでそれ以上は何も言わない。
始祖の純血の吸血鬼ファルヴァ・・・彼が結衣を人から別の存在へと変えてしまった。
命を救うためとはいえ・・・。
ファルヴァに噛まれたから?
『責めているのか?終わるはずだった命を救われて・・・』
「・・・・えっと・・・」
『まぁ・・・今死んだとしてもその身は光となって散るだけだ・・魂は輪廻の輪を外れた魂として・・・逝く当てもなく彷徨うだろう』
「・・・・・」
それは・・良いことなのか悪いことなのかよく分からなかった。
『ふむ。・・・最後の儀式はまだのようだな、・・・・よく考えることだ』
結衣を見つめたままベルゼアスは続けた。
「・・?」
困惑した表情の結衣にお構いなしにベルゼアスは笑う。
未来が見えると言った、きっともう見えているのだろう・・・。
『何があっても自分の直感を信じてやれば良い、今はそれしか言えない』
只見守るだけの傍観者は未来を変えるようなことを口にしたり、手を出したり等世界に干渉するのは禁止されている。干渉により大きな歪みを起こして世界に起こるはずのない変革を招いたりすればその身に大きな代償を受けるからだ。
「・・・・ぅ・・・」
くらっと目眩がした。
『少し休むと良い、時期にジン達が来る・・・』
「うん・・・・」
時の流れが速いと言った・・。
この体が人間離れするのも早まるのだろう・・・。
ジンと真紀にあうのに全然違う姿になってたらどうしよう。
『それはないと思うが、確かに急激な変化は良くないかもしれない・・・時間のない空間を創ろう・・そこで休むと良い』
「あ、ありがとう・・」
ベルゼアスの前に球体の空間が突然現れた。
『さあ、この中へ』
「・・・」
『案ずるな、何も心配いらない・・ジンが来たら呼ぶそれまでは眠るといい』
結衣は頷いてその空間の中へと足を踏み入れた。
ジェロは神木の大樹をまだ見上げていた。
歪みが大きくなっていた。
それにさっきの次元の扉の気配。
開ける者は限られている。
「・・・行ってみるか・・」
小さく呟き羽根を広げその場を飛び立った。
▲結衣サイド▲
「ねぇ・・どうして・・・」
「・・・今は何も言うな」
「・・・・。」
暗い洞窟を抜ければ妖精の村があると聞き、2人は洞窟に足を踏み入れた。何でも妖精には未来を見通す力があるとか、その力を借りようと思ったのだ。
其処までは良かった。
予想外にいくつもの罠が行く手を阻む。よそ者を寄せ付けたがらないとは聞いていたけれど・・・。
結衣の体質がさらに拍車をかけるように状況を悪化させていく。
ぼろぼろになりながら今は暗い崖に必死でしがみついているところだった。
下は流れの急な冷たい水の激流だ、落ちたら怪我だけではすまないかもしれない。
「手を離すなよ?」
「う・・・うん・・・」
そうは言っても結構限界だった・・。
ジェロの右手は崖の上に、左手は結衣の右手首を掴んでいるこの状況。
「・・・・・ぐぬぬ・・・」
引き上げる力もなければ、片手で上れるほど器用な力もない。
体力だけが消耗していく。
「ジェロ・・・私はいいから・・・」
結衣が言いかけたのをジェロが遮った。
「良いわけねぇえよ!」
叫んだ拍子にズルリと右手が崖の上の土を抉った。
爪を突き立てどうにか支えているが、2人分の体重は流石に少し辛い。
「結衣お前、少し太・・」
言いかけたジェロに結衣は睨んだまま遮るように言った。
「それ以上言ったら、殴るよ?」
「・・・・」
大人しく黙った。一瞬恐ろしいほどの気を感じたから。
しかしこの状況どうしたら打開できるか見当も付かない。
あいつが居てくれたら・・・
ふとジンを思い出し、首を横に振ってその考えをかき消した。
「ジェロ・・・」
唐突に弱々しく結衣が口を開いた。
「何だ?」
「・・・何かもう・・・無理みたい」
「え?」
手が痺れて冷え切っていた。
ふいに右手にかかる重圧が軽くなった。
結衣の手を掴んでいた自分の左手に視線を向け言葉をなくした。自分のその手は青くなって小刻みに震えていた。
そして居たはずの結衣の姿がない。
「結衣?!」
慌てて叫ぶ、返事はない。ただ流れる激しい水の音と、洞窟内に響く木霊した声だけがその静寂を破っていた。
ジェロは崖の上に飛び乗り辺りを見回した。
耳をピンと立て僅かな音も聞き逃さないように。
そして激流の流れる方向に沿って走り出した。
う・・・ッ・・
寒い・・・。
体が動かないよ・・。
感覚がない。
突き出た岩肌に何度か体をぶつけながらも、水にもみくちゃくちゃにされながらも流れに逆らう気力もなかった。
冷たい水が喉を通って一気に体の中へ流れ込んでくる。
苦しい。
寒い・・・。
そのまま瞼を閉じ意識を手放した。
激流の流れるままに。
暗くて淀んだ意識の中フェルヴァが見えた気がする。
まだあの時の傷が治ってないのだろう、苦しそうに座り込んでいた。そっと近づいていく。
-結衣・・?-
顔を上げ結衣を見上げた。その表情は驚いたように目を大きくしていた。
-どうして、此処に?-
「分からない、此処は何処?」
-此処は、お前の・・・心の奥深く-
「真っ暗なのね・・」
落ち込んだように結衣が口にした。
-上は明るく眩しい位だ、此処はずっと下の最深部、暗くて当然だ-
宥めるようにフェルヴァは口にした。
「そうなんだ・・・」
-我も1つ尋ねよう・・・何故此処に居る?-
「どういう・・・こと?」
-・・・器なる体が死を感じない限り精神は此処へは来れないはず-
「死・・・?」
-・・・どうやら、こんな所でのんびり傷が治るのを待っていられない状況のようだな-
「え・・?」
よろりと立ち上がるフェルヴァ。
-・・・今すぐにでも我が眷属に迎えよう、さあ結衣我が元へ-
手を伸ばしながら口にする。
「あ・・えっと、・・・私今精神っていったよね?」
血なんてないではないか?
それになんだか怖い。逆らえない声。意思とは関係なく勝手に体がフェルヴァの方へと歩みを進めていた。
-精神は血より更に濃厚で至極な存在だ、そしてその身を差し出すことでやがて器も変異を遂げる-
気がつくとフェルヴァの手を取り目の前に跪いていた。
静かにフェルヴァの牙が首筋に突き立てられた。
やはり、痛みも何も感じない。
暫くすると牙を抜きフェルヴァから解放された。
-見た目は然程変わらないだろうが、全てにおいて人を凌駕するだろう、その頃に激しい餓えを感じたなら1度我が純血を与えてやろう、所有する主の証として-
よく分からない。
とりあえずの問題を口にしてみる。
「・・・・とりあえず、どうやって体に戻るの?」
その質問にフェルヴァは黙ったまま苦笑して結衣を見据えた。
そして静かに人差し指を上に向けた。
結衣も釣られるように上を見上げる。
小さい光が見えた。
-深く落ちてきたのだ、上へ進めばいずれ目が覚めるだろう-
納得したように結衣は頷いた。
そしてふとフェルヴァに視線を戻した。
「あ、えっと、どうやって上まで飛ぶの?」
当然と言えば当然の質問だったのに、フェルヴァは呆れたような表情をした。
-言ったはずだ、此処はお前の心の最深部だと、ただ望めばいい-
「そ、それだけ?」
静かに頷く。
静かに目を閉じて上へ、と望む。
体がふわりと浮いた感覚がする。
再び目を開くと結衣は薄暗い洞窟の中に倒れていた。
体中が激痛で動かせない。
寒いし、痛いし・・・。ジェロも居ないし・・・。服も水で濡れて重たい。
目だけを動かして傷の様子を伺う。
擦り傷から始まり、ぶつけたのか青く腫れ上がっている腕と足首、体を起こそうとすると激痛が走る。
肋骨も折れているのかもしれない。
「・・・・・」
暫くすると聞き慣れた声が遠くの方から聞こえた。
「結衣ーッ!何処だ-?!」
「・・ッ・・」
痛くて声が出ない。掠れた息だけが漏れた。
「結衣ー?」
声は段々近付いてきた。
凄い耳の良さだ。
これには感心させられた。
「結衣!大丈夫か?!」
ジェロが倒れている結衣を見つけて慌てて駆け寄ってきた。
この寒いのに汗で髪や服が濡れていた、必死で探してくれたのだろう。
「結衣?」
結衣は声が出ない分にっこり微笑んで見せた。今できる精一杯だった。
「動けないのか?」
心配そうに覗き込むジェロの表情。
結衣は静かに頷いた。
指先が小刻みに震えていたのをジェロは見逃さなかった。
「寒い?なら俺様が暖めてやる!」
いきなりそんなことを言い出したジェロに結衣は頬を赤くしながら吃驚した。
ジェロはその場で変化すると大きな獣の姿になり、結衣を抱きかかえるようにまるまった。
獣になれることをすっかり忘れていた。
「暖かい?」
「・・・・ん」
照れたように毛に顔を埋めて頷いた。
ふさふさの毛並み。一定のリズムを刻む力強い鼓動が聞こえる。
本当に暖かかった。
結衣は安心したのか静かに再び瞼を閉じた。
もう最深部のフェルヴァのもとには辿り着けなかったけれど。
「ん・・・?」
目を開けて辺りを見回した。
傷の手当てがされている、ジェロがやってくれたのだろうか?
とうのジェロの姿が見当たらないようだけれど。
「目が覚めたのか?」
聞き慣れたジェロとは別の声。
結衣は声の方に視線を向け、その名を口にした。
「ジン!」
「・・・・何故俺の名を?」
「・・あ・・・また別の次元なのね」
「・・・ほぅ・・色々聞かなきゃならないようだな?」
此処までのやりとりで結衣は、普通に声が出ていることに気づいた。
「あれ・・私・・・怪我・・・」
「手当はしておいたが・・・必要なかったようだ」
ジンが言う。
殆どの傷もふさがり激痛も引いていた。
「凄い再生能力だな?お前何者だ?」
「人間だよ!」
平然とした顔で答えた。
「・・・・・」
そんな力を持った人間が居るはずないだろうという疑いの沈黙なのだろう。
「まぁいい、聞かせてもらおう」
「え?」
「俺の名を知る理由と次元の理を知り移動してきた理由を」
真面目な表情。
それ程重要だという事だろう。
結衣は静かに口を開いた。
自分がジンと契約してること、来るときに落ちてはぐれたこと、ガディによってジェロという護衛をつけてもらったこと、そして一番重要な・・・次元を、別の次元のジンを殺して回っている存在のことを。
「・・・・・」
重い沈黙が辺りを包んだ。
「それで次元が最近歪んでいたんだな・・・」
ふいにジンが溜息混じりに言った。
遠くの方から聞き慣れた足音が近付いてきた。
耳も大分良くなっているようだ。
「結衣ーもう起きて平気なのか?!」
ジェロが驚いたように結衣を見回した。
そしてふと横に居たジンに今頃気がついたのか吃驚して後ろにぴょんと飛び退いた。
「・・・お前・・・」
「・・・?」
「あ、ジン、こっちが言っていたジェロよ」
「ああ、お前が・・・?」
「な、何だよ?」
「いや、・・・何でもない」
「・・・・」
「そうか、次元を破壊する者か、此処にもいずれ現れるだろう・・・」
ジンが言うと結衣はビクッと体を強ばらせた。
またあの惨劇を繰り返すのかと・・・。
「はぐれたのだったな・・・一番安全で確実な場所に送ってやる」
「・・・それは・・・何処?元の世界?」
「全ての命の生まれ帰る支柱の森、つれが俺だったなら其処へ行くだろう」
「支柱の森・・・?」
「生きた人間や魔族が踏み入れてはいけない聖域だが、まぁ・・・・状況なだけに仕方ないだろう・・」
苦笑しながらジンはジェロと結衣に赤い小さな宝玉を差し出した。
「これは?」
「持っていろ、証明となり聖域にも入れる代物だ」
「ありがとう・・」
結衣は素直にお礼を口にした。
「開くぞ」
きたときと同じように歪んだ光の奥に反対側の風景が浮かび上がっていた。
「さぁ行け、ベルゼアスによろしく」
ジンがふいにそう口にした。
誰のことだろう?
結衣とジェロは次元の扉を潜った。
眩しい光が一気に辺りに広がった。
「ん?」
目を開くと一面緑の森だった。
キラキラと輝き大樹に覆われた神々しい程の美しい森。
「凄い・・・」
『ようこそ?支柱の森へ』
「?!」
声の方をジェロと結衣は振り向くと、そこには大きな深紅の巨体を持ち金色の目と額に青い石を持った龍が居た。
「誰だ?!」
警戒するようにジェロが牙を剥いた。
『此処には”敵”など居ない』
諭すようにベルゼアスが言った。
『我は支柱の番人、ベルゼアス・・・全てを知る存在だ』
ジンが最後に言っていた・・名前・・人ではなく龍だったんだ・・。
結衣はベルゼアスを見上げたままそんなことを考えていた。
『そう、幻龍・・ジン・・、彼が此処へ2人を導いたのだったな』
「はい」
『じきにジン達も此処へ訪れるだろう、ゆっくりしていくと良い』
「え?」
どうしてそんなことが言えるのだろう・・・確信があるかのように・・。
『番をしていると全てが見えるのだ、過去も未来も・・・その思考さえ』
「!!」
『さぁ、まだ時間がある、折角来たのだ支柱の元へ案内してやろう』
ベルゼアスが来た道を引き返していく。
結衣とジェロも後を追いかけた。
暫く歩くと開けた場所に出た。
「大きい・・」
思わず上を見上げたまま本音が漏れた。
「綺麗だな・・・」
ジェロもあまりの美しさに魅とれていた。
いくつもの光に包まれ、キラキラと白く輝く巨大な大樹。
上の方はあまりにも高くて見えない。
太い根と大きな幹、そして上からたれた長い蔦しか目には見ることが出来なかった。
『触るなよ?命が惜しければ・・・』
釘を刺しベルゼアスは定位置なのか木の前の岩の上に座った。
岩の横にある2つ並んだ青い水晶が結衣の目にとまった。
そっと近付いて行くにつれ結衣は目を丸くした。
中に眠るように寄り添っていた男女の体。
な、なにこれ・・・
『遠い昔、世界を闇から救った英雄だ、互いに思いながらすれ違い・・・最後にやっと一緒になれた悲しい者達だ』
思い出すようにベルゼアスが語った。
本当に思考が読めているようだ。
『ああ、言い忘れていたが此処は時間の流れが他とはずれているから・・・』
「え?」
ジェロの方を見た。
あまり変化がない・・・。
自分はどうだろう?
目の前にあった水晶に自分の姿を写してみた。
「髪少し伸びてる・・・?」
『時間の流れが速いのだ、此処では”生きた人間”はすぐに老いて骨になりやがて塵になってしまう』
「・・・・・私・・」
ベルゼアスは結衣を見ただけでそれ以上は何も言わない。
始祖の純血の吸血鬼ファルヴァ・・・彼が結衣を人から別の存在へと変えてしまった。
命を救うためとはいえ・・・。
ファルヴァに噛まれたから?
『責めているのか?終わるはずだった命を救われて・・・』
「・・・・えっと・・・」
『まぁ・・・今死んだとしてもその身は光となって散るだけだ・・魂は輪廻の輪を外れた魂として・・・逝く当てもなく彷徨うだろう』
「・・・・・」
それは・・良いことなのか悪いことなのかよく分からなかった。
『ふむ。・・・最後の儀式はまだのようだな、・・・・よく考えることだ』
結衣を見つめたままベルゼアスは続けた。
「・・?」
困惑した表情の結衣にお構いなしにベルゼアスは笑う。
未来が見えると言った、きっともう見えているのだろう・・・。
『何があっても自分の直感を信じてやれば良い、今はそれしか言えない』
只見守るだけの傍観者は未来を変えるようなことを口にしたり、手を出したり等世界に干渉するのは禁止されている。干渉により大きな歪みを起こして世界に起こるはずのない変革を招いたりすればその身に大きな代償を受けるからだ。
「・・・・ぅ・・・」
くらっと目眩がした。
『少し休むと良い、時期にジン達が来る・・・』
「うん・・・・」
時の流れが速いと言った・・。
この体が人間離れするのも早まるのだろう・・・。
ジンと真紀にあうのに全然違う姿になってたらどうしよう。
『それはないと思うが、確かに急激な変化は良くないかもしれない・・・時間のない空間を創ろう・・そこで休むと良い』
「あ、ありがとう・・」
ベルゼアスの前に球体の空間が突然現れた。
『さあ、この中へ』
「・・・」
『案ずるな、何も心配いらない・・ジンが来たら呼ぶそれまでは眠るといい』
結衣は頷いてその空間の中へと足を踏み入れた。
ジェロは神木の大樹をまだ見上げていた。
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