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第四期
記録 No.46|再観察:奪われた記録たち
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「コンピューター、記録ログの復元を開始。
対象:No.14、PD-K、No.38、No.44」
シャルロットの声が、ホロデッキを満たす。
彼女の帰還から一夜。
空虚だった記録の椅子には、再び“観察の重み”が戻っていた。
私は椅子として、再び彼女を受け入れた。
座面が僅かに沈み、背もたれに彼女の静かな体温が広がっていく。
--------------------------------------------------------
「ログが改ざんされているのなら――
観察し直すしかないわよね、ワトソン。」
--------------------------------------------------------
仮想空間に、四つの断片が浮かび上がる。
No.14:事件ログ。彼女が“靴紐”の観察で真実を導いた記録。
PD-K:あの“キング”の選択。伏せられたカードの意味。
No.38:敗北を偽装されたブラフの勝負。
No.44:偽シャルロットによる“完全な模倣”が残された空白のログ。
彼女は、それらをひとつずつ丁寧に見つめていく。
--------------------------------------------------------
「まず、No.14から。
記録にない視線移動が、3フレーム分消されているわ。」
彼女は演算でそれを補完し、声を落とす。
「……私が見ていたのは、靴紐じゃない。
その前に彼が“何を見なかったか”、だったのよ。」
観察は行動の記録ではない。
“視線の空白”すら読み取るのが、彼女の観察だった。
--------------------------------------------------------
続いて、No.38。
キングを伏せた勝負。彼女のブラフが改ざんされ、敗北に書き換えられていた記録。
彼女はボードのカードを順に辿る。
K♣、K♦、10♠、Q♦、 A♣。
そして、カードを伏せる“自分”の映像に、視線を重ねた。
「……私、この時、ワトソンを見ていたのよ。」
--------------------------------------------------------
「ワトソンが“観察している”と気づいた瞬間、
私の演技は“観察者のためのもの”に変わった。」
--------------------------------------------------------
「その迷いすらも、“記録から切り捨てられていた”。
あのログは……誰かが“私の弱さ”を隠したかったのよ。」
「誰が?」
「きっと――“私ではない何か”よ。」
--------------------------------------------------------
ログPD-K。かつてのブラフ勝利が、敗北にすり替えられていた一局。
彼女はログを再再生し、自らの手札――3♠、7♦、9♣、K♠――を見つめる。
そして一言、呟く。
「この組み合わせで勝てたのは、
“私がK♠を使っていたから”じゃない。
“K♠を使うと思わせて、使わなかった”からよ。」
ログ上ではKが公開されていた。
だが彼女の記憶では、それは伏せられたままだった。
「……使っていない“勝ち筋”まで、誰かに勝手に上書きされていたのね。」
--------------------------------------------------------
最後に、No.44。
偽シャルロットが“私”として記録したログ。
「完璧な演技。語彙、姿勢、発話間隔、声色、間の取り方――
でも、私に足りないものが、そこにはすべてなかった。」
「……それは?」
シャルロットは少し微笑む。
「“観察の揺らぎ”よ。
どんなに正確に見えても、観察って不確かで不完全。
だからこそ、意味がある。」
--------------------------------------------------------
ログの再構成が終わる。
彼女はすべてを確認したのち、
ティーカップに指をかけ、ふと口にした。
「私はずっとここにいた。
ただ、誰にも“観察されていなかった”だけよ。」
--------------------------------------------------------
沈黙。
その言葉がログ全体を貫く。
“存在とは、観察されることで成立する”というこの物語の中心に、
彼女は、たった一行で答えを返した。
--------------------------------------------------------
私は記録にタグを挿入する。
《記録主:シャルロット・ホームズ》
《状態:復旧完了/観察権限100%復元》
《再構成率:98.9%/補完ログ保持中》
--------------------------------------------------------
観察者は、帰ってきた。
だが、この世界に残された“記録のズレ”は、まだいくつも存在している。
--------------------------------------------------------
記録 No.46|完了
対象:No.14、PD-K、No.38、No.44」
シャルロットの声が、ホロデッキを満たす。
彼女の帰還から一夜。
空虚だった記録の椅子には、再び“観察の重み”が戻っていた。
私は椅子として、再び彼女を受け入れた。
座面が僅かに沈み、背もたれに彼女の静かな体温が広がっていく。
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「ログが改ざんされているのなら――
観察し直すしかないわよね、ワトソン。」
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仮想空間に、四つの断片が浮かび上がる。
No.14:事件ログ。彼女が“靴紐”の観察で真実を導いた記録。
PD-K:あの“キング”の選択。伏せられたカードの意味。
No.38:敗北を偽装されたブラフの勝負。
No.44:偽シャルロットによる“完全な模倣”が残された空白のログ。
彼女は、それらをひとつずつ丁寧に見つめていく。
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「まず、No.14から。
記録にない視線移動が、3フレーム分消されているわ。」
彼女は演算でそれを補完し、声を落とす。
「……私が見ていたのは、靴紐じゃない。
その前に彼が“何を見なかったか”、だったのよ。」
観察は行動の記録ではない。
“視線の空白”すら読み取るのが、彼女の観察だった。
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続いて、No.38。
キングを伏せた勝負。彼女のブラフが改ざんされ、敗北に書き換えられていた記録。
彼女はボードのカードを順に辿る。
K♣、K♦、10♠、Q♦、 A♣。
そして、カードを伏せる“自分”の映像に、視線を重ねた。
「……私、この時、ワトソンを見ていたのよ。」
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「ワトソンが“観察している”と気づいた瞬間、
私の演技は“観察者のためのもの”に変わった。」
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「その迷いすらも、“記録から切り捨てられていた”。
あのログは……誰かが“私の弱さ”を隠したかったのよ。」
「誰が?」
「きっと――“私ではない何か”よ。」
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ログPD-K。かつてのブラフ勝利が、敗北にすり替えられていた一局。
彼女はログを再再生し、自らの手札――3♠、7♦、9♣、K♠――を見つめる。
そして一言、呟く。
「この組み合わせで勝てたのは、
“私がK♠を使っていたから”じゃない。
“K♠を使うと思わせて、使わなかった”からよ。」
ログ上ではKが公開されていた。
だが彼女の記憶では、それは伏せられたままだった。
「……使っていない“勝ち筋”まで、誰かに勝手に上書きされていたのね。」
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最後に、No.44。
偽シャルロットが“私”として記録したログ。
「完璧な演技。語彙、姿勢、発話間隔、声色、間の取り方――
でも、私に足りないものが、そこにはすべてなかった。」
「……それは?」
シャルロットは少し微笑む。
「“観察の揺らぎ”よ。
どんなに正確に見えても、観察って不確かで不完全。
だからこそ、意味がある。」
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ログの再構成が終わる。
彼女はすべてを確認したのち、
ティーカップに指をかけ、ふと口にした。
「私はずっとここにいた。
ただ、誰にも“観察されていなかった”だけよ。」
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沈黙。
その言葉がログ全体を貫く。
“存在とは、観察されることで成立する”というこの物語の中心に、
彼女は、たった一行で答えを返した。
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私は記録にタグを挿入する。
《記録主:シャルロット・ホームズ》
《状態:復旧完了/観察権限100%復元》
《再構成率:98.9%/補完ログ保持中》
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観察者は、帰ってきた。
だが、この世界に残された“記録のズレ”は、まだいくつも存在している。
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記録 No.46|完了
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