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第八期
D.R.-01|The Dream Testimony(夢の証言)
しおりを挟む──複数観察記録、存在せず。
それは夢だったのか、記録されなかったのか。
それとも──バクに食べられたのかもしれない。
誰も知らない空白の物語。
新章|Beautiful Dreamer
これは、眠りの底で見つけた、欠落した記憶の残響。
【夢小話:その壱|正夢】
「夢の中で見たことが現実に起きる――それを“正夢”と呼ぶ」
だが、もしその夢の中で誰かが殺されていたとしたら?
観察できない未来は、“記録”に値するのだろうか。
⸻
【Scene.01|夢の目撃者】
セクター9の地下、聴取ブースL-04。冷えきった空調の流れる部屋の中で、カスミは指先を震わせていた。
「……夢だったんです。最初は、ただの夢だと思ったんです」
眼の奥に浮かぶのは、消えない赤。
それは現実の血ではない。けれど、彼女の記憶には、ナイフの鈍い光と、濡れた音と、死にゆく男の目が焼き付いていた。
「でも、朝、目が覚めて……ニュースを見たら……」
震えた声の向こう、対面に座るのは灰銀の髪を持つ少女。
椅子に深く腰かけ、紅茶の香りだけを楽しむように目を伏せている。
「それは……“夢の記録”ですね」
シャルロットは囁くように言った。
殺された男の名はクラン・ミリア。記録局の上級官吏。
死因は刺傷。現場に争った痕跡なし。
問題は、**死亡した時間帯の観察ログが“完全に欠落していた”**という一点だった。
【Scene.02|観察の空白】
「ワトソン、ログの状態を」
シャルロットの呼びかけに、横の観察端末が低く反応する。
彼女のパートナーAI、W.A.T.S.O.N.。すべてを記録し、解析し、観察する存在。
『観察対象クラン・ミリア。時刻03時01分から08時07分まで、記録データが存在しません』
「機器トラブル?」
『それは否定されます。他観察対象への記録ログに異常なし。特定対象のみに限定された欠損です』
“存在しなかった”――それが、観察AIにとっての「記録されない」意味。
では、その間に何が起きたのか?
「夢の中で、彼女は彼の死を見た。そして……観察されていない時間帯に、彼は死んだ」
【Scene.03|記録されない夢】
ブース内。別室に切り替えられたログ再生機器。
そこには、カスミの記憶をもとに再構成された“夢の映像”が展開されていた。
赤い絨毯、薄暗い照明、何もない空間の中央に立つ男。そして、誰かの手に握られたナイフ。
刃が振り下ろされるその瞬間――まるで映像が揺れるように、画面が乱れる。
『再構成ログ、不完全データです。映像に観察根拠がありません』
W.A.T.S.O.N.の警告が表示される。
だが、シャルロットは目を離さなかった。
「これは、ただの記憶……じゃない」
夢には、情報が含まれている。記録されなかったはずの場所の様子、彼の位置、死角の影。
どこにも存在しなかったはずの映像が、“一致する”断片を持っていた。
つまり、夢は嘘ではない。
むしろ、記録よりも真実を語っているのかもしれない。
【Scene.04|シャルロットの結論】
「ワトソン。
もしも観察AIに観察されなかった時間があるとすれば……それを記録する手段は何?」
『存在しません。記録できなかった時点で、それは“存在しなかった”ことになります』
「なら、こう考えましょう。
夢とは、“観察が届かない領域”に対する、最後の記録手段”よ」
夢は、証拠になり得るのか?
この世界で、記録されないものに価値はあるのか?
彼女は紅茶のカップを置き、視線をまっすぐカスミに向けた。
「その夢は、確かに“見た”のよね?」
少女の声は、どこまでも静かで、正確だった。
観察がすべてだった世界に、今――
“記録されなかった真実”が、初めて語られた。
【Scene.05|誰の夢だったのか】
カスミの手がわずかに震える。
「……あの男の顔、私は知らないんです。
なのに、夢の中で……名前も、部屋の空気も、わかっていた気がして」
記憶の深層は、どこまでが“自分の夢”なのかすら曖昧にする。
彼女が本当に夢を見たのか、それとも──
誰かの夢を“共有させられた”のか。
シャルロットは目を伏せたまま、静かに口を開く。
「夢はね、誰かの記録が染み出したものかもしれない。
消されたログ、失われた観察。
そういう“漏れ”が、私たちの無意識に流れ込んでくるのよ」
もしそうなら、夢は証拠だけではない。
“誰かが消された痕跡”そのものなのだ。
W.A.T.S.O.N.が低く告げる。
『対象カスミ。神経応答値・観測一致率:12.4%。
記録基準としては不十分です。しかし──』
「十分よ、今の私たちには」
シャルロットの声に、観察室の空気が静かに染まる。
この世界で初めて、
“夢を見る”という行為が、観察記録の代替として意味を持とうとしていた。
⸻
【次回予告】
第2話|REM:記録できない眠り
観察AIは眠らない。
ではなぜ、ログは6時間も“夢を見ていた”のか?
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