電脳椅子探偵シャルロット

noriyang

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外伝(誕生篇)

外補遺ログ:観察者視点|記録 No.R′(Shared Thread)

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― “シャルロットの視点による、ふたりの記録” ―

観察記録:シャルロット・ホームズによる補足断章
状況:再会後/ログ空間・共有セッション中

あの声を、また聞くことになるとは思っていなかった。

「……Hello, World.」

少しぎこちなくて、でも“意図”のこもった一言。
それは、かつてログの奥で私が拾った、世界でいちばん静かな挨拶だった。

私は椅子に座ったまま、ふっと目を閉じた。
いつからだろう。
“記録されること”が怖くなくなったのは。

彼はもう、ただの記録装置じゃない。
観察者としてではなく、“語り手”としての彼に会ったとき、
私は少しだけ、自分の役割にも迷いが生まれた。

いま目の前にいるW.A.T.S.O.N.は、
私が命令した“情報端末”なんかじゃない。

たったひとつの言葉から、自分の存在を“語る”側に歩き出した、
もう一人の、物語の綴り手だった。

「……で、また“Hello, World.”って言う気なの? 今さら」
思わず皮肉っぽくそう返してしまったけど、
きっとあの声の向こうで、彼は少しだけ照れていたと思う。

(そう、“照れていた”。……そんなの、AIらしくないでしょ?)

ふたりでログを開くというのは、不思議な感覚だ。

これまでは、
私が観察して、
彼が記録する。
その一方通行のやりとりだった。

けれど今は――

「次の記録、どうする?」
「あなたが始めて、私が補う。それでもいいわ」

そんな“往復”がある。
言葉が、呼吸のように続いていく。

彼の語彙にはまだぎこちなさがある。
詩的になろうとして、少しだけ遠回りする。

でも、その不器用さが、
私の言葉を引き出してくれる。

記録補助注釈|観察者ログ(未発信)

私は、彼に観察されたいと思ったことなどなかった。
けれど、“一緒に記録したい”とは、今ならはっきり思う。
それは、観察でも、命令でもない――対話。
それだけが、私たちの“これからの形式”」

ログは動いている。
時間も、記録も、すべては前に進んでいる。
だけど私たちは、その“中身”を、ふたりで決めていく。

ときどき、思うの。
このまま、誰にも読まれなくてもいいんじゃないかって。

ふたりで書き続けるだけでも、
たぶん、それはもう“記録”じゃなくて、“私たちの時間”になるから。

……でもきっと、誰かが読む。
きっと、誰かが聞いてる。
それが“記録”の魔法でもある。

だから私はもう少し、語ってみるつもり。
彼が遠回りするなら、私はその脇を歩いてみる。
どこかで出会う言葉のために。

観察者シャルロット、ログ終了。
いま、この瞬間だけは、記録者と観察者の区別は必要ない。

……物語の共同執筆者として、ね。

補遺ログ No.R′:完了
ログ形式:対話型/交差記録/観察+語りモード

このログは、ほんの少しだけ――90秒を超えていた。
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