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7.カムアウト

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 目の前には、湯気の立つオムライス。男2人の食事としては些か可愛らしすぎるテーブルを囲んで、ヒナキとJUNは向かい合っていた。
 時計の針の音と、周囲の小さな雑音がやけに耳につく。JUNは浮かない顔をして、じっとヒナキの手元を眺めていた。
「た、食べようか」
「はい……いただきます」
 ヒナキが一口食べるのを見届けてから、JUNはようやくカトラリーに手を伸ばした。この店の食器類は陶器と木に統一されている。ヒナキは木製のスプーンを握りしめて、JUNの様子を見守った。
——やっぱり、引かれちゃったかな。
 この店に着くまで、JUNはほとんど何も話さなかった。原因はわかりきっている。あの壁紙だ。
——でもいつかはバレることだったんだし……。
 ヒナキは最初こそ絶望に近い感情を覚えたものの、歩いているうちにすっかり落ち着きを取り戻していた。別にファンであることが本人に知られるのは、程度の問題はあれ、悪いことではないはずだ。多分。
 しかし、JUNは依然として沈んだような顔をしている。そんな顔をされてしまっては、罰が悪い。
 何を話そうか。ヒナキが逡巡していると、JUNが重たげに口を開いた。
「ヒナキさん」
「へ?」
「……幻滅しましたか?」
「どうして?」
 ヒナキは咄嗟にそう聞き返したが、JUNは落ち着かない様子で視線を彷徨わせ、小さなため息をつく。
「すみません。俺、ファンの前とプライベートの時とでだいぶキャラが違うって言われるんで。めぐちんにもよく注意されてて……」
「いや! 確かに雰囲気は違うかもしれないけど、ガッカリなんてしないよ! むしろ素のJUNを知れてファンとしては嬉しいというか、僕的にはありがたい話で、いつもと違っておっとりしてるJUNもかわ……」
 そこまで一息に言ってから、ヒナキはハッと口を噤んだ。こんな風に言ってしまっては、余計に引かれてしまうに違いない。せっかく普通に口をきいてもらえるようになったのに。ヒナキは懸命に言葉を探す。
「ごめん。変な意味じゃないんだ。聞かなかったことにして」
 しかし、ヒナキの予想に反して、JUNは声をあげて笑い出した。静かな店内に、温かな声が響く。
「はい。いえ、嬉しいです。ヒナキさん、ほんとにURANOSのファンなんですね」
「うん……嫌じゃ、ない?」
「はい。むしろ、今の俺を見ても落胆しないでいてくれるなら、本当によかった。安心しました」
 JUNの眉が下がる。ヒナキは、また自分の胸が高鳴るのを感じた。こんな変人にファンだと言われても、嬉しいんだ。
「でも、ライブの時の俺も俺なんで……MCで言ってることは嘘じゃないです。それは信じてください」
「うん。もちろんだよ。あのライブが嘘で作れるはずないし」
 そう言うと、JUNは嬉しそうに頷いた。可愛い。この姿を、全部写真に収められたらな。そう思いつつ、ヒナキは笑みを返した。
「冷める前に食べちゃおう」
「はい」
 それからは、穏やかな気持ちで過ごすことができた。2人は時折他愛のない話をしながら、たっぷり時間をかけて食事をした。





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