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序章 こうして僕は『殺』されかけました
第11話 まずは『手紙』を届けることから始めよう!
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「でもまぁ。よく分かったぜ。ミナトがアルナって嬢ちゃんに相当惚れこんじまっているってことがな!」
「は? そんなことは一言もっ!」
「照れるな照れるな! ミナトにもようやく春が来て俺様は嬉しいぜっ!」
「ち、違うんだってばっ!」
やっぱり話すんじゃなかった。
下品で豪快に笑い、バンバン背中を叩く。しかも手加減無し。こっちは怪我人!
「それと退院後に鈍り具合を見てやる。手合わせするぞ」
「ええぇっ! 身体が万全でも、ハウアさんとじゃ体格さあり過ぎて、組手にならないよ!」
「なぁに腑抜けたことほざいてやがる。これからてめぇはヤバイ奴を相手にしなきゃならねんだぞ?」
そうだよね。それくらい跳ね除けられるようじゃなきゃ。駄目だよな!
「分かりました。あと言い忘れていたんですけど、溺れていたところを助けてくれたこともありがとうございます」
ハウアさんは高らかに笑って、多分照れ隠し。ハウアさんのそんな粋な姿に小さい時から憧れていた。
すこし乱暴なところはあったけど、とても強く逞しい。
でも正直照れ臭くて面と向かって伝えたことは無かった。
「水くせぇ奴だなっ! それこそ気にしてんじゃねぇよ!」
調子に乗ったハウアさんは突然僕の背中を全力で叩きやがった。
なまじ腕力があるから、顔面が激しく打ち付けられる。
床を滑っていく姿は差し詰め人間モップだっただろう。
「あ、悪りぃ」
前言撤回。こういうところが嫌いなんだよなぁ。
ヘンリー教授の病室では、奥さんである金髪碧眼で容姿端麗なリーシャさんが、丁度花瓶の水を替えていた。
彼女は【耳長種】と【只人種】の混血。
元々色白の顔が疲れている所為もあってかなり青ざめて見える。
「あっ! ハウア――って、え!? ミナトっ!?」
「よう、ミナトがどうしてもっつぅからよ、連れてきてやったぞ」
「もうミナト! そんな身体で無茶して! フラフラじゃないっ! 夫を気遣ってくれるのはありがたいけど、大人しく寝ていなきゃだめよっ!」
お叱りを受けてしまった。多分怒られるとは思っていたけど予想通り。
リーシャさんの足元に隠れて、僕等の様子を窺っているのは娘さんのクロリス。
寡黙で照れ屋な5歳の女の子。
顔立ちは母親譲りの髪と瞳で耳長なところが愛くるしく、まるで人形のように可憐だ。
控えめな性格で、3歳くらいの頃から知っている。
「ほら、クロリス。ミナトが来てくれたわよ。挨拶しなさい」
リーシャさんは優しくクロリスに促すとようやく出てきた。
何も言わずに脚にしがみついてきたので、頭をそっと撫でてあげる。
これがクロリスなりの挨拶。別に話せないという訳じゃなく、家族だけの時はとてもおしゃべりらしい。
「ごめんなさいね」
「はは、大丈夫です。クロリス……今日はね。君に届けものがあってきたんだ」
不思議そうに首を傾げるクロリスへ、カレンの手紙を渡した。
「すっかりぐしゃぐしゃになってしまってゴメン。昨日中に持ってくる予定だったんだけど、これカレンから」
「え……」
「喧嘩のこと謝りたいって話していたよ。でも家が分からなくて、凄く辛そうで、悲しんでいた。今度仲直りしてあげて」
クロリスは受け取った手紙をギュッと抱きしめる。きっとこの子も気に病んでいたんだ。
「そうだったの、じゃぁクロリス、今度カレンを家に招待しましょうか?」
「うん」
と首を縦に大きく振るクロリス。どうやら仲直り出来そうで良かった。
「おーい。クロリス? ハウアお兄さんにはしてくれねぇのか?」
徐にハウアさんはしゃがんでさぁ飛び込んでおいでと言わんばかりに胸を開き、にいっと微笑む。
まるで卑しい悪人面。
「ハウアさん。もうそれじゃぁ脅しだよ。ほら、クロリス、怖がっちゃったじゃん」
案の定クロリスは僕の背中に隠れ、引っ付いて離れようとしない。
「まいったなぁ。こりゃぁ」
ぼりぼりとバツが悪そうに頬を掻くハウアさんは放っておいて。
「まだ目を覚まさないんですね。教授」
教授は無表情でベッドに寝たまま、まるで時が止まったかのように微動だにしない。
「ええ、お医者様の話では容体は安定しつつあるって。それよりもハウアから貴方も溺れて病院に運ばれたって聞いて驚いたわ。一体何があったの?」
どうしよう。昨日の今日でまだ心も頭もぐちゃぐちゃで、どう話したらいいのか。
そもそもいったい教授とアルナの間に何があったのか。
「まぁ、良いじゃねぇかリーシャ。とりあえずそいつはまた今度で、ミナトも整理がついてねぇだろ?」
そんな自分の気持ちを察してかどうか分からないけど、ハウアさんが割って入ってくれた。
昔からハウアさん、間の取り方が上手いんだよな。
「そ、そうね。ごめんなさい。多分例の通り魔……いえ、もしかしたら研究に関わることかしら……」
鋭い、夫婦ってこういうものなのかなぁ。確か教授は人類の起源について調べていた。
そのことで教会に目を付けられている可能性は十分にある。
「悩んでも仕方がねぇだろ? ヘンリーをやった野郎は俺様達で捕まえるからよ。そっちは任せてリーシャは旦那の世話をしてやんな」
「は? そんなことは一言もっ!」
「照れるな照れるな! ミナトにもようやく春が来て俺様は嬉しいぜっ!」
「ち、違うんだってばっ!」
やっぱり話すんじゃなかった。
下品で豪快に笑い、バンバン背中を叩く。しかも手加減無し。こっちは怪我人!
「それと退院後に鈍り具合を見てやる。手合わせするぞ」
「ええぇっ! 身体が万全でも、ハウアさんとじゃ体格さあり過ぎて、組手にならないよ!」
「なぁに腑抜けたことほざいてやがる。これからてめぇはヤバイ奴を相手にしなきゃならねんだぞ?」
そうだよね。それくらい跳ね除けられるようじゃなきゃ。駄目だよな!
「分かりました。あと言い忘れていたんですけど、溺れていたところを助けてくれたこともありがとうございます」
ハウアさんは高らかに笑って、多分照れ隠し。ハウアさんのそんな粋な姿に小さい時から憧れていた。
すこし乱暴なところはあったけど、とても強く逞しい。
でも正直照れ臭くて面と向かって伝えたことは無かった。
「水くせぇ奴だなっ! それこそ気にしてんじゃねぇよ!」
調子に乗ったハウアさんは突然僕の背中を全力で叩きやがった。
なまじ腕力があるから、顔面が激しく打ち付けられる。
床を滑っていく姿は差し詰め人間モップだっただろう。
「あ、悪りぃ」
前言撤回。こういうところが嫌いなんだよなぁ。
ヘンリー教授の病室では、奥さんである金髪碧眼で容姿端麗なリーシャさんが、丁度花瓶の水を替えていた。
彼女は【耳長種】と【只人種】の混血。
元々色白の顔が疲れている所為もあってかなり青ざめて見える。
「あっ! ハウア――って、え!? ミナトっ!?」
「よう、ミナトがどうしてもっつぅからよ、連れてきてやったぞ」
「もうミナト! そんな身体で無茶して! フラフラじゃないっ! 夫を気遣ってくれるのはありがたいけど、大人しく寝ていなきゃだめよっ!」
お叱りを受けてしまった。多分怒られるとは思っていたけど予想通り。
リーシャさんの足元に隠れて、僕等の様子を窺っているのは娘さんのクロリス。
寡黙で照れ屋な5歳の女の子。
顔立ちは母親譲りの髪と瞳で耳長なところが愛くるしく、まるで人形のように可憐だ。
控えめな性格で、3歳くらいの頃から知っている。
「ほら、クロリス。ミナトが来てくれたわよ。挨拶しなさい」
リーシャさんは優しくクロリスに促すとようやく出てきた。
何も言わずに脚にしがみついてきたので、頭をそっと撫でてあげる。
これがクロリスなりの挨拶。別に話せないという訳じゃなく、家族だけの時はとてもおしゃべりらしい。
「ごめんなさいね」
「はは、大丈夫です。クロリス……今日はね。君に届けものがあってきたんだ」
不思議そうに首を傾げるクロリスへ、カレンの手紙を渡した。
「すっかりぐしゃぐしゃになってしまってゴメン。昨日中に持ってくる予定だったんだけど、これカレンから」
「え……」
「喧嘩のこと謝りたいって話していたよ。でも家が分からなくて、凄く辛そうで、悲しんでいた。今度仲直りしてあげて」
クロリスは受け取った手紙をギュッと抱きしめる。きっとこの子も気に病んでいたんだ。
「そうだったの、じゃぁクロリス、今度カレンを家に招待しましょうか?」
「うん」
と首を縦に大きく振るクロリス。どうやら仲直り出来そうで良かった。
「おーい。クロリス? ハウアお兄さんにはしてくれねぇのか?」
徐にハウアさんはしゃがんでさぁ飛び込んでおいでと言わんばかりに胸を開き、にいっと微笑む。
まるで卑しい悪人面。
「ハウアさん。もうそれじゃぁ脅しだよ。ほら、クロリス、怖がっちゃったじゃん」
案の定クロリスは僕の背中に隠れ、引っ付いて離れようとしない。
「まいったなぁ。こりゃぁ」
ぼりぼりとバツが悪そうに頬を掻くハウアさんは放っておいて。
「まだ目を覚まさないんですね。教授」
教授は無表情でベッドに寝たまま、まるで時が止まったかのように微動だにしない。
「ええ、お医者様の話では容体は安定しつつあるって。それよりもハウアから貴方も溺れて病院に運ばれたって聞いて驚いたわ。一体何があったの?」
どうしよう。昨日の今日でまだ心も頭もぐちゃぐちゃで、どう話したらいいのか。
そもそもいったい教授とアルナの間に何があったのか。
「まぁ、良いじゃねぇかリーシャ。とりあえずそいつはまた今度で、ミナトも整理がついてねぇだろ?」
そんな自分の気持ちを察してかどうか分からないけど、ハウアさんが割って入ってくれた。
昔からハウアさん、間の取り方が上手いんだよな。
「そ、そうね。ごめんなさい。多分例の通り魔……いえ、もしかしたら研究に関わることかしら……」
鋭い、夫婦ってこういうものなのかなぁ。確か教授は人類の起源について調べていた。
そのことで教会に目を付けられている可能性は十分にある。
「悩んでも仕方がねぇだろ? ヘンリーをやった野郎は俺様達で捕まえるからよ。そっちは任せてリーシャは旦那の世話をしてやんな」
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