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序章 こうして僕は『殺』されかけました
第10話 今、『僕』がやるべきことは何ですか?
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「おいおい、またかよ。おっさん」
ハウアさんはコートの内ポケットから出した鉛筆を、レオンボさんへ投げた。
「うちのカミさんが、毎朝渡してくれるんだけどよぉ、いつもどこか行っちまうんだ」
毎回同じ言い訳。対格の良いわりに低姿勢で、つかみどころが無くて、いつも調子が狂うんだよなぁ。
「はぁ……それで、聴きたいこととは?」
「そう固くなるなって。こいつぁ形式的なもんだ」
緊張ならあなたの巧みな話術でとっくに解けていますって。
昨日起きたことを掻い摘んで話しをした。
彼女は泣きながら殺したくないって叫んでいた姿が、頭から離れない。多分彼女にはきっと事情がある筈。
勿論現実を背けているだけだって気付いている。
でもそう思っていないと、心を保てない気がして……ほんと弱いな。僕は――
「坊主。それが身勝手な希望で現実逃避かもしれねぇって分かっているのよな?」
「容赦なぇな。おっさん」
「そういうなよ。まさかそんなことになっていると思わんがな。まぁ現状そのアルナって嬢ちゃんは昨夜から行方不明だ。寄宿学校に行ってみたが、もぬけの殻だったよ」
「おいおい、おっさん。まさか最初っから張っていたのか?」
「虱潰しが俺の捜査方法だって知っているよな? 例の殺人鬼の噂が立つ同時期に引っ越して来た人物は全員押さえている。あ、そうそうハウア、後でヘンリー教授の大学に案内してくれねぇか?」
「ああ、別に構わねぇぜ。じゃあその前に――」
「あの、レオンボさん?」
遮るように口を挟む。ずっとずっと後悔していた。故郷が焼かれた時も、今回も。
ずっと自分を変えたくて、強くなりたくて頑張ってきた。
だけど勇気を振り絞れなかったばっかりに、それを台無しにしてしまった。
僕も男。このままで終わってたまるかって気持ちがある!
「自分も捜査に加えてくれませんか?」
引き取られてすぐの頃。
両親を失い不貞腐れていた僕に、ハウアさんが言ってくれたことがあった。
何もやらなきゃ、今のままだぞって。
「お願いします! 我儘を言っているのは分かっています! 何を手伝えるかは分かりません! でも、もう逃げたくないんです! 立ち向かいたいんです!」
喉の奥が乾いて、声が詰まって、目頭が熱い。
もうあんな惨めな思いをするのは嫌だ! 絶対に!
「坊主。立ち向かうってどういう意味かちゃんと理解しているか?」
いつになくレオンボさんの真剣な眼差し。
いつもなら身震いを起しそうなものだけど、臆するわけにはいかない!
「……理解しているつもりです」
「んいや、分かっちゃいねぇな。そもそもその相手すら見えちゃいないだろ?」
「相手ですか?」
「なんだ? そんなことも分からねぇのかよ」
ハウアさんに少し退屈そうな顔される。どういうことなんだ?
「いいか。坊主。問題を解決するにはな。今自分が出来ることを一つずつ明確にすることだ。例えばよく人生の壁って話をするだろ?」
乗り越えられない壁は無いとか。確かに耳にする。
「あれってぇのはなぁ。一枚の大きな壁に思えて、実は重なって見えるだけの一段はちいせぇ階段なのさ。けどみんなそいつを錯覚する。誰も三段跳びしろなんて言ってねぇのにな?」
自分のペースで一歩ずつ登っていく。それでいいんだ。
要は己が出来ることを見つめ直せってことなんだ。
「まっ! 俺様の場合、立ちはだかる奴なんざ、全部ぶち壊してきたけどよ!」
傲岸不遜に高笑いするハウアさんを後目に呆れ顔をするレオンボさん。
「まぁ、おっさん。2年経ったんだ。そろそろ加えてやってもいんじゃねぇの?」
「そうだな……でもその前に坊主にはやらなければならないことがあるんじゃねぇのか?」
レオンボさんが指した先に、なんだ? テーブルの上に……あ、これは……。
「これはカレンの……クロリスへの手紙……」
流されなかったんだ。濡れないようジャケットの内ポケットに入れていたことが良かったのかもしれない。このままにしておけないよな……早く渡さなきゃ。
まだ少し湿っている。中身もぐちゃぐちゃになってしまった。
けど昨日やり残したことを果たしておきたい。これが今僕にできること。
「それとミナトが今やれるのは、身体を治すこと。まずはそれからじゃねぇか?」
意を決しベッドから這い出ようとした途端。視界がぐにゃり、あれ? 目の前が一周する。
「おっとっ! 大丈夫かよ。貧弱君」
バランスを崩して危うく倒れそうになったところを、ハウアさんが支えて助けてくれる。
「あ、ありがとうございます……ハウアさん。これをクロリスに届けたいんです」
「ったくしょうがねぇな。ちっと掴まっていろ。ヘンリーのところまで連れてってやっから。多分クロリスもいるだろうよ」
にっと歯をむき出しにして微笑み、ハウワさんは僕を病室の外へと連れ出してくれる。
「ありがとうございます。ハウアさん」
「なーにどうってことねぇよ。ミナトは俺様の弟分なんだからな」
本当に頼りがいがある兄を持てたこと今日ほど嬉しく思ったことは無いかも。
ハウアさんはコートの内ポケットから出した鉛筆を、レオンボさんへ投げた。
「うちのカミさんが、毎朝渡してくれるんだけどよぉ、いつもどこか行っちまうんだ」
毎回同じ言い訳。対格の良いわりに低姿勢で、つかみどころが無くて、いつも調子が狂うんだよなぁ。
「はぁ……それで、聴きたいこととは?」
「そう固くなるなって。こいつぁ形式的なもんだ」
緊張ならあなたの巧みな話術でとっくに解けていますって。
昨日起きたことを掻い摘んで話しをした。
彼女は泣きながら殺したくないって叫んでいた姿が、頭から離れない。多分彼女にはきっと事情がある筈。
勿論現実を背けているだけだって気付いている。
でもそう思っていないと、心を保てない気がして……ほんと弱いな。僕は――
「坊主。それが身勝手な希望で現実逃避かもしれねぇって分かっているのよな?」
「容赦なぇな。おっさん」
「そういうなよ。まさかそんなことになっていると思わんがな。まぁ現状そのアルナって嬢ちゃんは昨夜から行方不明だ。寄宿学校に行ってみたが、もぬけの殻だったよ」
「おいおい、おっさん。まさか最初っから張っていたのか?」
「虱潰しが俺の捜査方法だって知っているよな? 例の殺人鬼の噂が立つ同時期に引っ越して来た人物は全員押さえている。あ、そうそうハウア、後でヘンリー教授の大学に案内してくれねぇか?」
「ああ、別に構わねぇぜ。じゃあその前に――」
「あの、レオンボさん?」
遮るように口を挟む。ずっとずっと後悔していた。故郷が焼かれた時も、今回も。
ずっと自分を変えたくて、強くなりたくて頑張ってきた。
だけど勇気を振り絞れなかったばっかりに、それを台無しにしてしまった。
僕も男。このままで終わってたまるかって気持ちがある!
「自分も捜査に加えてくれませんか?」
引き取られてすぐの頃。
両親を失い不貞腐れていた僕に、ハウアさんが言ってくれたことがあった。
何もやらなきゃ、今のままだぞって。
「お願いします! 我儘を言っているのは分かっています! 何を手伝えるかは分かりません! でも、もう逃げたくないんです! 立ち向かいたいんです!」
喉の奥が乾いて、声が詰まって、目頭が熱い。
もうあんな惨めな思いをするのは嫌だ! 絶対に!
「坊主。立ち向かうってどういう意味かちゃんと理解しているか?」
いつになくレオンボさんの真剣な眼差し。
いつもなら身震いを起しそうなものだけど、臆するわけにはいかない!
「……理解しているつもりです」
「んいや、分かっちゃいねぇな。そもそもその相手すら見えちゃいないだろ?」
「相手ですか?」
「なんだ? そんなことも分からねぇのかよ」
ハウアさんに少し退屈そうな顔される。どういうことなんだ?
「いいか。坊主。問題を解決するにはな。今自分が出来ることを一つずつ明確にすることだ。例えばよく人生の壁って話をするだろ?」
乗り越えられない壁は無いとか。確かに耳にする。
「あれってぇのはなぁ。一枚の大きな壁に思えて、実は重なって見えるだけの一段はちいせぇ階段なのさ。けどみんなそいつを錯覚する。誰も三段跳びしろなんて言ってねぇのにな?」
自分のペースで一歩ずつ登っていく。それでいいんだ。
要は己が出来ることを見つめ直せってことなんだ。
「まっ! 俺様の場合、立ちはだかる奴なんざ、全部ぶち壊してきたけどよ!」
傲岸不遜に高笑いするハウアさんを後目に呆れ顔をするレオンボさん。
「まぁ、おっさん。2年経ったんだ。そろそろ加えてやってもいんじゃねぇの?」
「そうだな……でもその前に坊主にはやらなければならないことがあるんじゃねぇのか?」
レオンボさんが指した先に、なんだ? テーブルの上に……あ、これは……。
「これはカレンの……クロリスへの手紙……」
流されなかったんだ。濡れないようジャケットの内ポケットに入れていたことが良かったのかもしれない。このままにしておけないよな……早く渡さなきゃ。
まだ少し湿っている。中身もぐちゃぐちゃになってしまった。
けど昨日やり残したことを果たしておきたい。これが今僕にできること。
「それとミナトが今やれるのは、身体を治すこと。まずはそれからじゃねぇか?」
意を決しベッドから這い出ようとした途端。視界がぐにゃり、あれ? 目の前が一周する。
「おっとっ! 大丈夫かよ。貧弱君」
バランスを崩して危うく倒れそうになったところを、ハウアさんが支えて助けてくれる。
「あ、ありがとうございます……ハウアさん。これをクロリスに届けたいんです」
「ったくしょうがねぇな。ちっと掴まっていろ。ヘンリーのところまで連れてってやっから。多分クロリスもいるだろうよ」
にっと歯をむき出しにして微笑み、ハウワさんは僕を病室の外へと連れ出してくれる。
「ありがとうございます。ハウアさん」
「なーにどうってことねぇよ。ミナトは俺様の弟分なんだからな」
本当に頼りがいがある兄を持てたこと今日ほど嬉しく思ったことは無いかも。
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