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序章 こうして僕は『殺』されかけました

第14話 届けられた一枚の『予告状』 まずはこれをお読みください。

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 翌日。早速、レオンボさんとハウアさんと僕の三人はヴェンツェルていに訪れた。

 ヴェンツェル邸はボースワドゥムの貴族の屋敷。

 レンガ造りのフラットな屋根に透かし彫りの欄干やラウンドアーチのアーケード。

 装飾用付け柱が多くみられる。

 心理的な敷居の高さもだけど、実際塀も門も高くて、その威圧感につい尻込みしてしまう。

「今日は打ち合わせっつー話だし、そんなに固くなるな。つーか初めて会う訳じゃねぇてめぇの方が緊張してんじゃねぇよ。ほら行くぞ」

 不安で一杯な僕をさほど気にも留めず敷地内へと足を踏み入れるハウアさん。

 昔からそういうところハウアさんってほんと無神経なんだよな。

 敷地には綺麗に手入れをされた庭園があり、彫刻を施された噴水や垣根の回廊に色とりどりの花。

 庭を見れば家主が分かるとは言うけど、その通りかも。

 無機質な微笑みに恐怖を覚えたことが少し恥ずかしい。

 反対にハウアさんは「けっ! 見栄を張った悪趣味な家だ。いかにも貴族様って感じだな」と鼻で笑う。

 同じ人間でも抱く感想ってこうまで変わるものかぁ?

「お、そうだ、認可証貰ったんだってな? 坊主」

「は、はい。グディーラさんから昨日」

「良かったじゃねぇか。それにしても坊主の自然体行が【天】とはな」

「陰気なこいつにすげぇ似合わねぇだろ?」

 こればかりは同感。正直優柔不断で意気地のない自分には勿体ない。

「そぉかぁ? 俺は良いと思うがな。むしろハウアの方が違和感あるだろ? だって【月】だろ?」

「うるせぇな。ほっとけ」

 そうかな? 本人は臍を曲げているけど、僕はハウアさんらしいと思う。

「そんじゃ雑談はこれくらいにして、坊主がC級初の依頼主へ挨拶に行くとするか」

 玄関扉の前まで到着した僕等は早速門を叩いた。

 扉の向こう側から「はい」という聞き覚えのある男性の声がした。

 てっきり使用人の方が出迎えてくれるのかと思っていたら、ヴェンツェル教授本人が現れた。

「おや? 君は確かミナト君だね? もしかして依頼を受けてくれたというのは……」

「はい! お世話になります」

「俺達は守護契約士協会のもんで、約束の打ち合わせに来たんですがね」

「ええ、お待ちしておりました。どうぞお入りください」

 とヴェンツェル教授は快く迎え入れてくれた。

 屋敷内は溜息が出そうなほど豪華で、長い廊下には温かい日差しが差し込み、つい眠くなりそう。

 各部屋には歴代のアンティス女王の肖像画や彫像が飾られていて、とても重厚な雰囲気。

「あのぅ、ヴェンツェル教授。使用人の方がいらっしゃらないようなのですが」

「あはは、使用人? 今の時代、田舎の貴族に使用人を雇える財力なんてないよ」

「という割に、こんな豪邸に住めるだけの金はあるんだな」

「ちょっとハウアさん。すいません、ヴェンツェル教授、気を悪くさせてしまって」

 ヴェンツェル教授は仮にも貴族! 加えて現在は顧客! まったくハウアさんは、躊躇いもせず皮肉って!

 仕事をふいにされたらどうするつもりなんだよ。

「構わないよ。実のところ叔父から屋敷を譲り受けただけでね。自分で手に入れたものじゃないんだ。だから行き届いていないところもあってね。お恥ずかしい限りだよ」

 ハウアさんの嫌味な発言に、ヴェンツェル教授は笑って答えてくれる。良かった。教授は全然気にしていないみたいで安心した。

「まさか、三人の守護契約士の方に来てもらえるとは……。では、お茶を用意しますので、どうぞお掛けになってお待ちくだ――」

「いいえ結構です。それよりも早速以来の話に移りませんかねぇ」

 場を離れようとしたヴェンツェル教授を、レオンボさんが引き留める。

 別にお茶ぐらいいいんじゃないのかなぁ。今まで座ったことの無い高級椅子の感触を味わう暇もない。

「そうですか。では、先日《雨降りの悪魔》から送られてきた殺害予告というのがこれです」

 すっとテーブルの上に置かれたのは一枚の書簡。

 とても綺麗な字で単調に――7月20日、19時、お前を殺す――と、たった一文書かれている。

 20日というと約1週間後だ。

「ふむ、この手紙だけでは《雨降りの悪魔》からとは言い切れませんね。他に何か?」

 レオンボさんの指摘はもっともなんだけど、僕は別のことを考えていた。

 凄く達筆だけど、アルナのってこんな筆跡じゃなかったような……?

 少しだけ見たことがあるけど、アルナのはもっと丸くて、可愛らしかった筈。

「はい、実は昨日から何者かに監視されている気がしましてね。行く先々で見かけるんですよ。離れた場所から様子を窺う黒尽くめの人影を。ご存じだと思いますが、被害者の中にうちの生徒がいたことを……」

「ええ……因みに今おっしゃった黒装束の人相とかはわかりますか?」

 ヴェンツェル教授は首を横に振る。まぁ当然だよね。遠くから人相なんて分かる訳ない。

「それにしては随分落ち着いてんじゃねぇか。命を狙われている状況だってのによ」

 確かにヴェンツェル教授は至って涼しい顔をしていた。

 動揺なんて微塵も感じないし、玄関先でも平然と迎え入れた。
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