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第一章 どうして僕が彼女を『放』っておけなかったのか
第19話 昨日まで『失意』のどん底でした。でも何をすべきかなんて簡単なことだったんです。
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「ハウアさん! なんでっ!?」
「俺様は師匠がいなくても、自分の為に鍛えてんだよ」
ハウアさんはシッシシッシと架空の敵へ拳を交えて汗を流している。
やっているのは〈影打〉、想定した相手との組手と型の確認を兼ねた練習方法だ。
「なんでじゃねぇよ。それより言うことがあんじゃねぇのか?」
そうだよね。まずは昨日のアルナを追いかけて、そのまま帰ってしまったこと謝らなきゃ。
「昨日はすいませんでした」
「おう! てめぇが嬢ちゃんを追いかけて行った後、大変だったんだぞ? わざわざおっさんを呼んだり、医者を呼んだり、現場を調べたりしてな」
「本当にすみませんでした」
ハウアさんは〈影打〉を止め、汗を拭う。
「そりゃもういいからよ。で? どうした?」
「それが……」
つい答えに渋ってしまった。昨夜のうちに気持ちの整理はついている。
けど今回の事件は恐らくヴェンツェル教授が深く絡んでいる。そうなると……。
「なんだ? しけたツラしやがって、さては、手酷くフラれたな?」
「違いま……違いませんね。うん、フラれたようなもんです」
結局昨日は説得に失敗した。あくまでも昨日は、だ。
「それでも……友達のアルナを放っておくことなんてできないんです」
あんな状態のアルナを一人にしておけない。
「少しはマシな顔つきになったみてぇじゃねぇか。それにしたって開き直るの早ぇな。昔のお前ならウジウジ悩んでいたのによ?」
「そうですね。以前だったら、ウジウジ考えた挙句、何も出来なかったと思う」
確かに両親が吸血種に殺されて間もない頃の僕だったら、きっと何も決められなかった。
「これなら大丈夫そうだな」
「え? 何がです?」
「あぁいや、走りながら話すぜ。そうと決まれば行くぞっ!」
僕等は全力疾走と影打を交互に繰り返して、持久力と瞬発力を鍛える。
懐かしいなぁ~昔は二人して師匠に馬で追いかけられながらやっていたっけ。
あぁ~もしかしたら毎日欠かさず、天候、気温関係なく続けていたから、根性が付いたのかも。
「ミナト。あのアルナとかいう嬢ちゃんだけどなっ!」
走りながら良く喋れるな。
「おっさんが調べたんだけどよっ!」
立ち止まり、間髪入れず影打を開始。
「嬢ちゃんの身元だけどよ。【馨灣】の香木商家、【劉家】の令嬢ってのは間違いねぇ、けどな。そいつは表向きだ。【劉家】には裏の顔があんだよ」
「裏の顔?」
「ああ、裏社会を牛耳る【参纏會】の一柱っつぅな。つまり、【劉家】ってのは暗殺者の一族なんだよ。要は商売敵って奴だ」
「は? アルナが暗殺者……?」
俄かには信じられなかった。
だって日頃見ているアルナの笑顔からはとても想像できなかったから。
でもそれが本当なら彼女が言っていたことの意味が段々と見えてくる。
「噂は聞いたことがあります。先の戦争でアンティス領になって、政府が撲滅に動いたはずじゃなかったですか?」
今から約50年前に起きた【霊乱戦争】。
きっかけは一時期、【麗月】が霊鉄綱の輸出を禁止したのが原因。
その戦いで【麗月】は敗れ、馨灣はアンティスに永久割譲された。
「良く知ってんじゃねぇか。まぁ、裏には裏の事情があるっつーことよ。で、今度はミナトの番だ。昨日あったことを話してみろよ」
僕は昨夜アルナに告げられたことを全てハウアさんに打ち明ける。
掟や一族がどうとか、ヴェンツェル教授に関わるなとか。そして最後に別れの言葉も全部。
「おいおい、マジか?」
「恐らく……ヴェンツェル教授は何か隠しているみたいで」
「そうじゃねぇっ!」
「え? どういうことです?」
どこか解釈が間違っていたかな?
ん? 何故僕の肩にポンと手を置く?
それにハウアさんの眼、まるで憐れむかのような。
心なしかイラっとするんだけど?
「ミナト……お前、本当に別れ話を切り出されたんだな。冗談のつもりだったんだが……悪かった。昨日飯を奢るっていったもんな、詫びに今日はちゃんと連れてってやるよ。好きなもん頼め」
「やめてくださいっ! なんでそっちの方向に持って行くんですか!」
突然訳の分からない慰め方をされ、うんざりした。いやまぁあながち外れてはいないんだけど。
「なんだ? 違うのかよ?」
ただ、そのぽかんとすっとぼけたハウアさんの表情には、無性に腹が立つ。
「僕が言いたいのは、一連の事件に、ヴェンツェル教授が深く関わっているかもしれないってことで……」
「なんだ。そんなことか」
「そんなことかって……」
ん? どういうことだ? 依頼人が怪しいって説明しているのに、ハウアさん、眉一つ動いていない。
「んなこと、端っから気付いているよ。もちろんおっさんもな」
「はぁーっ!? 何で話してくれなかったんですかっ!?」
「言ってどうなるって訳でもねぇだろ? つーかてめぇ嘘が下手くそじゃねぇか」
「うっ! じゃあ、なんで引き受けたんですか?」
確かに嘘を付くのが上手くないよ。多分もう態度に出ると思う。
でも最初から疑っていたのなら、なんで請けたんだろう?
「俺様は師匠がいなくても、自分の為に鍛えてんだよ」
ハウアさんはシッシシッシと架空の敵へ拳を交えて汗を流している。
やっているのは〈影打〉、想定した相手との組手と型の確認を兼ねた練習方法だ。
「なんでじゃねぇよ。それより言うことがあんじゃねぇのか?」
そうだよね。まずは昨日のアルナを追いかけて、そのまま帰ってしまったこと謝らなきゃ。
「昨日はすいませんでした」
「おう! てめぇが嬢ちゃんを追いかけて行った後、大変だったんだぞ? わざわざおっさんを呼んだり、医者を呼んだり、現場を調べたりしてな」
「本当にすみませんでした」
ハウアさんは〈影打〉を止め、汗を拭う。
「そりゃもういいからよ。で? どうした?」
「それが……」
つい答えに渋ってしまった。昨夜のうちに気持ちの整理はついている。
けど今回の事件は恐らくヴェンツェル教授が深く絡んでいる。そうなると……。
「なんだ? しけたツラしやがって、さては、手酷くフラれたな?」
「違いま……違いませんね。うん、フラれたようなもんです」
結局昨日は説得に失敗した。あくまでも昨日は、だ。
「それでも……友達のアルナを放っておくことなんてできないんです」
あんな状態のアルナを一人にしておけない。
「少しはマシな顔つきになったみてぇじゃねぇか。それにしたって開き直るの早ぇな。昔のお前ならウジウジ悩んでいたのによ?」
「そうですね。以前だったら、ウジウジ考えた挙句、何も出来なかったと思う」
確かに両親が吸血種に殺されて間もない頃の僕だったら、きっと何も決められなかった。
「これなら大丈夫そうだな」
「え? 何がです?」
「あぁいや、走りながら話すぜ。そうと決まれば行くぞっ!」
僕等は全力疾走と影打を交互に繰り返して、持久力と瞬発力を鍛える。
懐かしいなぁ~昔は二人して師匠に馬で追いかけられながらやっていたっけ。
あぁ~もしかしたら毎日欠かさず、天候、気温関係なく続けていたから、根性が付いたのかも。
「ミナト。あのアルナとかいう嬢ちゃんだけどなっ!」
走りながら良く喋れるな。
「おっさんが調べたんだけどよっ!」
立ち止まり、間髪入れず影打を開始。
「嬢ちゃんの身元だけどよ。【馨灣】の香木商家、【劉家】の令嬢ってのは間違いねぇ、けどな。そいつは表向きだ。【劉家】には裏の顔があんだよ」
「裏の顔?」
「ああ、裏社会を牛耳る【参纏會】の一柱っつぅな。つまり、【劉家】ってのは暗殺者の一族なんだよ。要は商売敵って奴だ」
「は? アルナが暗殺者……?」
俄かには信じられなかった。
だって日頃見ているアルナの笑顔からはとても想像できなかったから。
でもそれが本当なら彼女が言っていたことの意味が段々と見えてくる。
「噂は聞いたことがあります。先の戦争でアンティス領になって、政府が撲滅に動いたはずじゃなかったですか?」
今から約50年前に起きた【霊乱戦争】。
きっかけは一時期、【麗月】が霊鉄綱の輸出を禁止したのが原因。
その戦いで【麗月】は敗れ、馨灣はアンティスに永久割譲された。
「良く知ってんじゃねぇか。まぁ、裏には裏の事情があるっつーことよ。で、今度はミナトの番だ。昨日あったことを話してみろよ」
僕は昨夜アルナに告げられたことを全てハウアさんに打ち明ける。
掟や一族がどうとか、ヴェンツェル教授に関わるなとか。そして最後に別れの言葉も全部。
「おいおい、マジか?」
「恐らく……ヴェンツェル教授は何か隠しているみたいで」
「そうじゃねぇっ!」
「え? どういうことです?」
どこか解釈が間違っていたかな?
ん? 何故僕の肩にポンと手を置く?
それにハウアさんの眼、まるで憐れむかのような。
心なしかイラっとするんだけど?
「ミナト……お前、本当に別れ話を切り出されたんだな。冗談のつもりだったんだが……悪かった。昨日飯を奢るっていったもんな、詫びに今日はちゃんと連れてってやるよ。好きなもん頼め」
「やめてくださいっ! なんでそっちの方向に持って行くんですか!」
突然訳の分からない慰め方をされ、うんざりした。いやまぁあながち外れてはいないんだけど。
「なんだ? 違うのかよ?」
ただ、そのぽかんとすっとぼけたハウアさんの表情には、無性に腹が立つ。
「僕が言いたいのは、一連の事件に、ヴェンツェル教授が深く関わっているかもしれないってことで……」
「なんだ。そんなことか」
「そんなことかって……」
ん? どういうことだ? 依頼人が怪しいって説明しているのに、ハウアさん、眉一つ動いていない。
「んなこと、端っから気付いているよ。もちろんおっさんもな」
「はぁーっ!? 何で話してくれなかったんですかっ!?」
「言ってどうなるって訳でもねぇだろ? つーかてめぇ嘘が下手くそじゃねぇか」
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確かに嘘を付くのが上手くないよ。多分もう態度に出ると思う。
でも最初から疑っていたのなら、なんで請けたんだろう?
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