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第三章 『新』展開! 『新』関係! 『新』天地!

第50話 はんなり佳人の『帰還』で前途に光明が差す⁉

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 すっと裏手から葉巻を吹かしたレオンボさんが現れた。

「レオンボさん! 戻ってきていたんですね!」

 自分が張れればいいけど、あれは【行動象術】の一種。【火】の【造形象術】と【水】の【行動象術】の【二重象術】を操るレオンボさんでしか出来ない。

「おうっ! 俺だけじゃねぇぞ。あいつも帰ってきている」

 レオンボさんが差す先に【青肌種アルク】の女性が、横たわる少女に己の象気を当てている姿が見えた。

「ヴィンダさん! うちの娘は大丈夫なんですか!?」

 えっと……この声パン屋の? ってことは、倒れているのはカレン!?

「そないに心配しいひんでもだんないさかい落ち着いとぉくれやす。グディーラ! 話終わったんなら早うこっち来て手伝うて!」

 青白い長髪に、青い瞳。異国情緒溢れる装い。それにこの雅でゆったりとした独特な南部方言は――。

「ヴィンダさん! 帰っていたんですね!」

「おぉ! みー坊やんか。うん、ついさっきな。再会を祝うて抱きしめたいとこやけど、今手離せへんの。かんにんな」

 負の象気が外へ【流】れ出し、女の子の血色がみるみる良くなっていく。

 流石【流】の象気の術士。ヴィンダさんが戻ってきてくれてよかった。でも――。

「……いや、もうそれはやめてください」

「いけずやわぁ~」

 先輩のヴィンダ=アーライさんは会う度。「かいらしい」って言いながら抱き付いてくるんだ。

 さらに僕の顔を胸に埋めようとしてくるので、ほんと勘弁してほしい。

 物凄く恥ずかしいから。

 羨ましいって思ったのなら、是非変わって欲しい。本当に苦しんだから。割と本気で。

「そんなことよりもカレンは?」

「なんや知り合いやったん? 心配せんでええ、あと少しで流し終わる」

「お兄……ちゃん……?」

 ふとカレンの瞼が開かれる。虚ろな目、何かを求めカレンの手が宙をさ迷う。

「握ったって」

 とグディーラさんに頷かれ、掴んだ。

「……クロリス……仲直り……出来たよ? 今度……遊びに……いくんだ……」

「そっか。うん、じゃあ早く、治さないとね」

「そや。このお兄はんの言う通りやで。眠らな良ならへんで?」

「……うん」

 ヴィンダさんのお陰で次第に顔色が良くなったカレンは安らかな寝息を立てた。

 これで一先ずは安心。

 しかしこんな幼気な子供が。やるせないし、とても許せるものじゃない。

「じゃあ、私はヴィンダの補助に回るわね。ハウア。後のことは任せるわ」

「おう! んじゃ――」

 髪を結び、すぐさまグディーラさんは病人の下へ駆け寄っていった。

「作戦会議と行くか!」

 ハウアさんより言い渡される作戦の全容。何のことはない。

 ハウアさんがマグホーニーを押さえているうちに、僕とアルナが協力して封印を行うというもの。

 実に単純シンプルだった。

「それが『考え』ですか?」

「いや、まぁ他に奥の手ってやつがあるんだけどよ。一先ずそいつが一番確実だからな」

 よく分からないけど、ため息が零れる。

 もうちょっとマシなのは無かったのかなぁ……などと卑屈になっていたら、突然頭の後ろを小突かれた。

「こぉら、男の子が一世一代の大勝負うちゅうときに、そないな顔しとったらあかんえ」

 振り返るといつしか処置を終えていたヴィンダさんが背後に立っていた。

「話は聞いたで、なんでも惚れたおなごんために体を張らなあかんそうやんか? そや、ヴィンダ姐さんがええこと教えたる」

 ヴィンダさんは愛用の瑞穂の扇、扇子を広げ、口元を隠しながら語ってくれた。

「商いで大事なことにはやら色々あるんやけど。そん中でもウチは、正直さと、誠実さや思てる。そら自分を売り込もうちゅうときにでも大切なことやで」

 商売好きで、金融関係に強いヴィンダさんらしい助言だった。

「ヴィンダさ――わぷっ!」

 と言葉を呑んだのも束の間、不意に僕の顔を自分の胸に押し当ててきた!

 く、苦しい! やめて! 恥ずかしい!

「気張りや男の子! そや! 帰ってきたらあんたの練習相手になったる! いざちゅう時もたついとったら恥かいてまうやん?」

 突然変なこと口にして、ヴィンダさんを慌てて引き剥がした。

「ぶあっ! なななな、なんてこというんですか!?」

接吻キスのことやで? なんか誤解したん? なんや……みー坊さえええんやったら別にあっちの方でもかまへんよ?」

「……………………………………………………~~~~~―――――ッ!??」

「ぷっ! あはは! そないに顔を真っ赤にしてもうて。ほんまにかいらしいなぁ、みー坊は!」

 くそぉ~~~また揶揄われた!

「こぉら、ミナト困っているじゃないの。その辺にしときなさい」

 グディーラさんが後ろからヴィンダさんの頭を丸めた紙で軽く小突いた。

「なんや? それともグディーラがみー坊の相手したる?」

「バ、バカ! なんてこと言うのよ! だいだいねぇ――」

「ほんまかいらしいなぁ、グディーラは――」

 グディーラさんがヴィンダさんを引き摺り去って、ほっとつくやハウアさんが肩を抱いてくる。

「安心しろ。もしもんときは俺様がどうにかしてやる」

 そうだよな。ハウアさんなら。そういう期待が少しあった。
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