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第三章 『新』展開! 『新』関係! 『新』天地!
第49話 明かされる。デキる女性の『仮面』の下
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「じゃあ、吸血種の腕を渡したヘンリー教授が襲われたのは……まさか釣ったんですか?」
「そ、それは違うわっ! ヘンリー教授が襲撃されたのは全くの偶然よっ! 正直に言うと、事情があってミイラの調査を依頼したわ。でもその所為で彼には……とても申し訳なかったと思っている。本当よ? 信じて頂戴」
グディーラさんが酷く狼狽して釈明する様子から、多分嘘じゃない。短い付き合いだけど不思議と信頼できる。
「ええ、信じます。グディーラさんは人を騙すような人じゃないですから、ただ……」
「ただ?」
「もうヴェンツェルがいなくなった以上、アルナを追う必要がない。そのことが腑に落ちないんです。一緒に対策を練ってくれようとしている。アルナに親身になって接して……いや利用しようとするんですか?」
我欲的で身勝手で、しかも守護契約士として範疇を越えた理由が自分にはある。
それに商売敵であるアルナに対し協力者として関係を求めるのは少し妙だった。
多分、僕の気持ちにもつけこんで監視として働かせることも織り込み済みだったと思う。
「ミナト、てめぇっ!」
「ハウア、待って」
噛みつこうとしてきたハウアさんをグディーラさんが止める。
「けどよ」
「大丈夫、任せて」
グディーラさんは向き直り改めて膝を交える。
「さっきのは正直……ちょっと悲しい言い方だったかな。だけどあなたの怒りも理解できる。そういう面もあったのは確かだから否定できない。それに信じ切れて貰えてないのは、ずっと顔を隠しているせいでもあるのだから当然よね」
「別にそんなことはありません――」
「いいのよ。気を遣わなくても……話を戻すわね。理由は2つ。1つはアルナの身柄とあの子が持つ【因果の薔薇】を護る必要が出てきてしまったから」
「ど、どうして【因果の薔薇】とアルナを?」
「ごめんなさい。本部の命令で貴方にその理由を教えることはできないの。立場上知る権利が無いというのが正確ね」
徐にグディーラさんは目元に手を掛ける。
「ただもう一つについては話すことが出来るわ。それは私の個人的な感情――いいえ、むしろ執着ね」
「グディーラさん待って! 違うんです! そんなこと望んでない!」
「止めろ! グディーラ!」
「いいの。いつまでも黙っていられないもの」
仮面を外し、グディーラさんは素顔を晒す。
最初に驚いたのは以前聞いていた傷なんてなく、小顔でとても整然とした顔立ちをしていた。
加えて気になったのは瞳の色。青く淡く輝いていて、まるでアルナと同じ――はっ!
「……グディーラさんって、まさか【有角種】だったんですか?」
「ええ、本名はエレシャ=ルクト=バングハント=グディーラと言うの。今まで通りグディーラで構わないわ」
「で、でも尻尾や、角が……髪も……」
と言いかけ、言葉を失う。グディーラさんには無かったのだ。
有角種が持つ他人種から疎まれ、忌み嫌わる身体的特徴が全て欠損している。
その意味が、何となく理解できてしまった。
グディーラさんが見ず知らずのアルナに良くしてくれていた理由も。
「髪は染めたの、角と尻尾は切り落としたのよ」
頭の左側を触りながら、グディーラさんは淡々と壮絶なことを口にする。
「私、守護契約士になる前は娼婦をしていたの。家が貧しくてね。稼ぐにはこの方法しかなかった。軽蔑した?」
できるわけがない。有角種の角を切るというのは爪を切るのと訳が違う。
表面こそ角鞘という爪に似た組織で覆われているけど、中は角芯という骨がある。
それに神経や血管だって……きっと想像絶する痛みだったのは間違いない。更に尻尾までって――背筋が凍りつく。
「……妹と弟がいたの。もし生きていたらちょうど貴方達ぐらいになっていたわね」
「生きていたら……って」
「……仕事から帰ってきたら、暴漢に襲われた後だったの。弟は首を刎ねられ、妹は慰みものにされた挙句。頸を締められ殺されていたわ。そんな私を救ってくれたのがネティスさんだった」
仮面をかけ直したグディーラさんは口元を綻ばせて、いつもの彼女に戻る。
「ごめんなさい。見苦しいものを見せてしまったわね」
「そんなこと……僕の方こそごめんなさい。疑ってしまって」
「別に良いのよ。気にしないで」
もう感情的に納得してしまった。やっぱり思っていた通りグディーラさんはいい人だ。
だけど言えることが一つある。それは――
「……だけど、グディーラさんは目元を隠さない方がいいと――」
突然グディーラさんからおでこを弾かれた。イテテ。
「ばぁか。大人を揶揄うんじゃないの」
本心なんだけどなぁ。
「私の感情を抜きにしても、現状アルナの保護は協会本部からの緊急指令。最優先に対処しなければならない。でもまずはこの状況をどうにかしないとね」
とグディーラさんと一緒に休憩室から出ると、協会内は野戦病院と化していた。
寝ている人の大半は抵抗力の弱い子供やお年寄りの人ばかり。
みんな顔色が悪い。
マグホーニーの象気よるものだとすぐに分った。
「俺の【煙】で協会の周りを結界で覆って何とか持たせている。坊主の【天】の象気程じゃなぇが、時間稼ぎにはなるはずだ」
「そ、それは違うわっ! ヘンリー教授が襲撃されたのは全くの偶然よっ! 正直に言うと、事情があってミイラの調査を依頼したわ。でもその所為で彼には……とても申し訳なかったと思っている。本当よ? 信じて頂戴」
グディーラさんが酷く狼狽して釈明する様子から、多分嘘じゃない。短い付き合いだけど不思議と信頼できる。
「ええ、信じます。グディーラさんは人を騙すような人じゃないですから、ただ……」
「ただ?」
「もうヴェンツェルがいなくなった以上、アルナを追う必要がない。そのことが腑に落ちないんです。一緒に対策を練ってくれようとしている。アルナに親身になって接して……いや利用しようとするんですか?」
我欲的で身勝手で、しかも守護契約士として範疇を越えた理由が自分にはある。
それに商売敵であるアルナに対し協力者として関係を求めるのは少し妙だった。
多分、僕の気持ちにもつけこんで監視として働かせることも織り込み済みだったと思う。
「ミナト、てめぇっ!」
「ハウア、待って」
噛みつこうとしてきたハウアさんをグディーラさんが止める。
「けどよ」
「大丈夫、任せて」
グディーラさんは向き直り改めて膝を交える。
「さっきのは正直……ちょっと悲しい言い方だったかな。だけどあなたの怒りも理解できる。そういう面もあったのは確かだから否定できない。それに信じ切れて貰えてないのは、ずっと顔を隠しているせいでもあるのだから当然よね」
「別にそんなことはありません――」
「いいのよ。気を遣わなくても……話を戻すわね。理由は2つ。1つはアルナの身柄とあの子が持つ【因果の薔薇】を護る必要が出てきてしまったから」
「ど、どうして【因果の薔薇】とアルナを?」
「ごめんなさい。本部の命令で貴方にその理由を教えることはできないの。立場上知る権利が無いというのが正確ね」
徐にグディーラさんは目元に手を掛ける。
「ただもう一つについては話すことが出来るわ。それは私の個人的な感情――いいえ、むしろ執着ね」
「グディーラさん待って! 違うんです! そんなこと望んでない!」
「止めろ! グディーラ!」
「いいの。いつまでも黙っていられないもの」
仮面を外し、グディーラさんは素顔を晒す。
最初に驚いたのは以前聞いていた傷なんてなく、小顔でとても整然とした顔立ちをしていた。
加えて気になったのは瞳の色。青く淡く輝いていて、まるでアルナと同じ――はっ!
「……グディーラさんって、まさか【有角種】だったんですか?」
「ええ、本名はエレシャ=ルクト=バングハント=グディーラと言うの。今まで通りグディーラで構わないわ」
「で、でも尻尾や、角が……髪も……」
と言いかけ、言葉を失う。グディーラさんには無かったのだ。
有角種が持つ他人種から疎まれ、忌み嫌わる身体的特徴が全て欠損している。
その意味が、何となく理解できてしまった。
グディーラさんが見ず知らずのアルナに良くしてくれていた理由も。
「髪は染めたの、角と尻尾は切り落としたのよ」
頭の左側を触りながら、グディーラさんは淡々と壮絶なことを口にする。
「私、守護契約士になる前は娼婦をしていたの。家が貧しくてね。稼ぐにはこの方法しかなかった。軽蔑した?」
できるわけがない。有角種の角を切るというのは爪を切るのと訳が違う。
表面こそ角鞘という爪に似た組織で覆われているけど、中は角芯という骨がある。
それに神経や血管だって……きっと想像絶する痛みだったのは間違いない。更に尻尾までって――背筋が凍りつく。
「……妹と弟がいたの。もし生きていたらちょうど貴方達ぐらいになっていたわね」
「生きていたら……って」
「……仕事から帰ってきたら、暴漢に襲われた後だったの。弟は首を刎ねられ、妹は慰みものにされた挙句。頸を締められ殺されていたわ。そんな私を救ってくれたのがネティスさんだった」
仮面をかけ直したグディーラさんは口元を綻ばせて、いつもの彼女に戻る。
「ごめんなさい。見苦しいものを見せてしまったわね」
「そんなこと……僕の方こそごめんなさい。疑ってしまって」
「別に良いのよ。気にしないで」
もう感情的に納得してしまった。やっぱり思っていた通りグディーラさんはいい人だ。
だけど言えることが一つある。それは――
「……だけど、グディーラさんは目元を隠さない方がいいと――」
突然グディーラさんからおでこを弾かれた。イテテ。
「ばぁか。大人を揶揄うんじゃないの」
本心なんだけどなぁ。
「私の感情を抜きにしても、現状アルナの保護は協会本部からの緊急指令。最優先に対処しなければならない。でもまずはこの状況をどうにかしないとね」
とグディーラさんと一緒に休憩室から出ると、協会内は野戦病院と化していた。
寝ている人の大半は抵抗力の弱い子供やお年寄りの人ばかり。
みんな顔色が悪い。
マグホーニーの象気よるものだとすぐに分った。
「俺の【煙】で協会の周りを結界で覆って何とか持たせている。坊主の【天】の象気程じゃなぇが、時間稼ぎにはなるはずだ」
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