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第二章 パッショナートな少女と歩く清夏の祭り
第27話 赤き秘境へと誘う地鳴り
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僕と愛花は化石の水族館の中心で、一休みして喉を潤す。
「う、美味いっ! この世界の水は何て美味いんだっ!」
「ほんと、喉が渇いていたってこともあるけど、なんてすっきりして冷たくて美味しいんだろう」
ただの無色透明の水なんだけど、砂漠の中を数日歩き続けて漸くありつけた水ぐらいの味がする。
勿論そんな経験は一度も無かったし、大袈裟な気もするけど、感動を言い表すには全然足りなかった。
「大げさよ。ただの水によくそこまで感動できるわね」
リシェーラさんが笑うのも無理はない。反論も出来ない。
いつもなら会話の合間にこそばゆい台詞が、アリスの口から飛んできそうなところなのだけど、今のアリスは化石に興味津々で、岸壁に張り付くように眺めている。
「実際、とても面白い地層ですね。どうやってできたんだろう」
「ソラト。もしかして興味ある?」
何気ない好奇心だったのだけれど、リシェーラさんが少しだけ目の色を輝かせて食いついてきた。
「まぁ、うん、少し興味が出た――」
僕が『興味』という単語を口にした途端、顔がぱぁっと晴れて、妖艶な顔つきが急に無邪気で子供っぽい顔に変わる。なんだか嫌な予感がしてきた。
「えっとこの地質が何でこうなったかと言うと、プレートテクトニクス理論は知っているのよね? それじゃあ、この地形の起源は、今から凡そ8千年前に起こった大規模な褶曲――」
案の定、リシェーラさんから懇切丁寧な解説を聞くことになる。
どうやって隆起して、捻じ曲げられたか、何年経って分かったのか、地形、地質の事を語るリシェーラさんはとても生き生きしている。
楽しそうに地質の事を語るリシェーラさんの姿は、宇宙を語るアリスととてもよく似ている気がした。
興味がない訳じゃないし、確かに少し面白い話だと思う。
だけど次第に僕も愛花も相槌を打つだけの首振り人形と化していく。
「それでね――」
「ねぇっ! みんなっ! ちょっとこっち来て見てっ! 何かこの先に空洞があるみたいだよっ!」
リシェーラさんの話にアリスの溌溂とした声が割り込んで心の中で僕は少しだけ安堵した。
隣座っていた愛花に至っては露骨に安堵の表情を浮かべたので、空かさず僕は話題を切り替えなくてはならなくなった。
「と、とりあえずリシェーラさん。話はまた今度ゆっくり聞かせて、ちょっとアリスの処に行ってみようよ? ひょっとしたら何か貴重なものを発見したのかもしれない」
「えぇ、そうね、この続きはまた今度ね」
アリスは一か所の岩壁に耳を立てている。
「こう、壁を叩くと妙な音がするんだ」
僕等はアリスと同じようにノックを繰り返して、反響を確認してみるが、違いがあまりよく分からない。
「確かに、向こう側に空洞があるようね」
「私にはちょっとよく分からないです」
「僕もだ」
「地球人には聞こえにくいのかも、一体この先には何があるんだろう?」
「そうかもしれないわね。ただ遊覧飛行もやっているのだけれど、その時見た限りじゃ、この先は全て岩壁だった筈なのよね、多分洞窟じゃないかしら?」
「どうやったら先に行けるんでしょう?」
岸壁に埋まっているのは化石ばかり、先に通じる手掛かりになりそうなものは見当たらない。
「ねぇ、宙人。この魚みたいな化石とアンモナイトみたいな化石って一緒の年代だったかなぁ……どうも違和感があるんだけど? それとも地球と違う進化を辿っているからなのかな?」
「地球の場合、教科書通りなら硬骨魚類は既に登場していたはずだから、別にあってもおかしくないんじゃないかな?」
「そっかっ!」
僕らの会話を聞いていたリシェーラさんが何か閃いたように声を上げて、岩壁を舐めるように何かを探し始める。
「あったっ!」
リシェーラさんが無数の化石の中から何かを見つけた。
「アリス。ちょっとこれ見て、この化石なんだけど、年代が違うのよね」
「はい、えっと、これって、確かに下の化石よりずっと古いものですよね」
「何々、アリス。どういう事? それが何?」
アリス達の後ろから愛花と一緒に眺める魚と虫のような化石が、所謂アリス達の惑星、ユルデにおける示準化石に相当するらしい。
魚の化石の方が新しく、虫のような化石の方がずっと古いもの、だけど、実際の遅漏には虫のような化石が新しい地層にあった。
「だとすれば、間違いなのはこっちね」
リシェーラさんが指先で、虫のような化石に触れると、化石は淡く紅い光を放ち始めた。
「正解みたい」
紅い光は瞬く間に、紅い輝線となって地層全体と走ったかと思いきや、今度は突如地面が揺れ始める。ベアトリッテ遺跡で水晶碑が現れた時と同じような地鳴りだ。
「一体何が起きているのっ!」
「ちょ、ちょっと愛花……」
一体何が起きているのか分からず動揺する愛花は、僕の腕に必死にしがみついてきて、肋が当たって正直痛い。
「リシェーラさん、アイカちゃん、ソラト。見てっ!」
異変に気付いたアリスが指を差す。先ほどまで一枚だった岩壁が縦に真っ直ぐな亀裂が走り、徐に奥へと通じる赤い回廊が現れた。
「う、美味いっ! この世界の水は何て美味いんだっ!」
「ほんと、喉が渇いていたってこともあるけど、なんてすっきりして冷たくて美味しいんだろう」
ただの無色透明の水なんだけど、砂漠の中を数日歩き続けて漸くありつけた水ぐらいの味がする。
勿論そんな経験は一度も無かったし、大袈裟な気もするけど、感動を言い表すには全然足りなかった。
「大げさよ。ただの水によくそこまで感動できるわね」
リシェーラさんが笑うのも無理はない。反論も出来ない。
いつもなら会話の合間にこそばゆい台詞が、アリスの口から飛んできそうなところなのだけど、今のアリスは化石に興味津々で、岸壁に張り付くように眺めている。
「実際、とても面白い地層ですね。どうやってできたんだろう」
「ソラト。もしかして興味ある?」
何気ない好奇心だったのだけれど、リシェーラさんが少しだけ目の色を輝かせて食いついてきた。
「まぁ、うん、少し興味が出た――」
僕が『興味』という単語を口にした途端、顔がぱぁっと晴れて、妖艶な顔つきが急に無邪気で子供っぽい顔に変わる。なんだか嫌な予感がしてきた。
「えっとこの地質が何でこうなったかと言うと、プレートテクトニクス理論は知っているのよね? それじゃあ、この地形の起源は、今から凡そ8千年前に起こった大規模な褶曲――」
案の定、リシェーラさんから懇切丁寧な解説を聞くことになる。
どうやって隆起して、捻じ曲げられたか、何年経って分かったのか、地形、地質の事を語るリシェーラさんはとても生き生きしている。
楽しそうに地質の事を語るリシェーラさんの姿は、宇宙を語るアリスととてもよく似ている気がした。
興味がない訳じゃないし、確かに少し面白い話だと思う。
だけど次第に僕も愛花も相槌を打つだけの首振り人形と化していく。
「それでね――」
「ねぇっ! みんなっ! ちょっとこっち来て見てっ! 何かこの先に空洞があるみたいだよっ!」
リシェーラさんの話にアリスの溌溂とした声が割り込んで心の中で僕は少しだけ安堵した。
隣座っていた愛花に至っては露骨に安堵の表情を浮かべたので、空かさず僕は話題を切り替えなくてはならなくなった。
「と、とりあえずリシェーラさん。話はまた今度ゆっくり聞かせて、ちょっとアリスの処に行ってみようよ? ひょっとしたら何か貴重なものを発見したのかもしれない」
「えぇ、そうね、この続きはまた今度ね」
アリスは一か所の岩壁に耳を立てている。
「こう、壁を叩くと妙な音がするんだ」
僕等はアリスと同じようにノックを繰り返して、反響を確認してみるが、違いがあまりよく分からない。
「確かに、向こう側に空洞があるようね」
「私にはちょっとよく分からないです」
「僕もだ」
「地球人には聞こえにくいのかも、一体この先には何があるんだろう?」
「そうかもしれないわね。ただ遊覧飛行もやっているのだけれど、その時見た限りじゃ、この先は全て岩壁だった筈なのよね、多分洞窟じゃないかしら?」
「どうやったら先に行けるんでしょう?」
岸壁に埋まっているのは化石ばかり、先に通じる手掛かりになりそうなものは見当たらない。
「ねぇ、宙人。この魚みたいな化石とアンモナイトみたいな化石って一緒の年代だったかなぁ……どうも違和感があるんだけど? それとも地球と違う進化を辿っているからなのかな?」
「地球の場合、教科書通りなら硬骨魚類は既に登場していたはずだから、別にあってもおかしくないんじゃないかな?」
「そっかっ!」
僕らの会話を聞いていたリシェーラさんが何か閃いたように声を上げて、岩壁を舐めるように何かを探し始める。
「あったっ!」
リシェーラさんが無数の化石の中から何かを見つけた。
「アリス。ちょっとこれ見て、この化石なんだけど、年代が違うのよね」
「はい、えっと、これって、確かに下の化石よりずっと古いものですよね」
「何々、アリス。どういう事? それが何?」
アリス達の後ろから愛花と一緒に眺める魚と虫のような化石が、所謂アリス達の惑星、ユルデにおける示準化石に相当するらしい。
魚の化石の方が新しく、虫のような化石の方がずっと古いもの、だけど、実際の遅漏には虫のような化石が新しい地層にあった。
「だとすれば、間違いなのはこっちね」
リシェーラさんが指先で、虫のような化石に触れると、化石は淡く紅い光を放ち始めた。
「正解みたい」
紅い光は瞬く間に、紅い輝線となって地層全体と走ったかと思いきや、今度は突如地面が揺れ始める。ベアトリッテ遺跡で水晶碑が現れた時と同じような地鳴りだ。
「一体何が起きているのっ!」
「ちょ、ちょっと愛花……」
一体何が起きているのか分からず動揺する愛花は、僕の腕に必死にしがみついてきて、肋が当たって正直痛い。
「リシェーラさん、アイカちゃん、ソラト。見てっ!」
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