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第二章 パッショナートな少女と歩く清夏の祭り
第28話 紅蓮の回廊七巡り
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赤、橙、黄など幾多の色が重なり、マーブル状に染め上げられた回廊。
しかし聳え立つ岩壁の影だというのに妙に明るかった。
どうやら岩自体が淡く光っていているようで、夕暮れ程度の明るさはあり、足元覚束ないという事はなさそうだ。
「ねぇ、ソラト。ここって一体なに?」
「多分、ここは三賢女の遺跡かな?」
「三賢女の遺跡?」
「アイカちゃん、それはね――」
「隠された楽譜? なにそれ、面白そう」
仕掛けの手口から、僕はベアトリッテ遺跡と同じ印象を感じる。手の込みようと良い、意外に意地の悪いところが共通点だ。
「ああ、それでさっき聞いてきたのね。まさか発見者が貴方達だったとはね」
「すいません、隠すつもりは無かったのですが、でも今日は新ツアーの下見ですから」
「あはは、別に責めているわけじゃないから安心して、でもここが本当に三賢女の遺跡だとしたら面白いわね」
アリスの話ではベアトリッテ遺跡の水晶碑の発見はニュースに取り上げられ、瞬く間に世界へと広がっていった。
各地で三賢女の遺跡の捜索が始まり、続々と見つかった。だけど問題はそこからで、彫像に刻まれた楽譜通り弾いても、水晶碑が現れることは無く。
更にアリスより遥かに卓越したプロの演奏家が幾度となく挑戦するも、現状水晶碑はベアトリッテ遺跡以外に現れていない。
科学技術で無理やり仕掛けを動かすことも出来るらしいけど、挑戦することに意味があるということと、遺跡を一部破壊する必要があるため、行われていないのだとか。
専門家の見立てでは何かほかに条件があるのではないかという結論に至っているらしい。
「まだこれが三賢女の遺跡って決まったわけじゃないけど、それにしても驚いたわ。こんな空間があったなんて、遊覧飛行で見た時は単なる岩の裂け目にしか見えなかったのに」
先へ進めば進むほど岩壁の裂け目は所々に現れ、回廊はまるで迷路のように入り組んでいく。
最初こそ来たところから真っ直ぐ進んでいた僕等だったけど、目の前に分かれ道が現れたので立ち止まる。
「さて、困ったわ。どうしようかしら、ソラトはどっちだと思う」
「というか、衛星写真でここら辺の地図を見れないのでしょうか?」
「そ、そうねっ! ソラトは頭いいのね――ってあれ、アリスとアイカは?」
さっきまで後ろに着いてきている筈だったアリスと愛花の姿がない。リシェーラさんと僕は岩壁の道を呆然と立ち尽くす。
「大変っ! どうしようっ! あの子達一体どこへっ⁉」
「ちょ、ちょっと待ってっ! リシェーラさんっ! 闇雲に探したら二重遭難になるってっ!」
リシェーラさんはハッと我に返るや否や、血相を変えて捜索を始めようとしたので、僕は慌てて止めた。
冷たいかもしれないけど、結局感情だけでは目的を果たせないことを、身をもって経験してしまった僕には、冷静になって状況確認することを最優先してしまう。
「ここはまず連絡を取ってみるのが先です。お互い通信手段を持っているんでしょう?」
「ごめん。まだ連絡先を交換していない。ソラトの方こそ連絡取れないの?」
「僕はこっちの世界の携帯端末を持っていないんです」
困った。スマホには確かにアリスと愛花の番号、アドレス、IDが入っているけど、スペクリムでは使えない。
スマホも僕と同じように暗黒物質に変換されるらしいけど、通信会社や人工衛星が違うとか、それ以前の根本的な問題。
「そうしたらとりあえず引き返しますか? 真っ直ぐ進んできたので、アリス達はどこかわき道に逸れたんでしょう? リシェーラさんは左を、僕は右を見ながら進みますんで」
「そ、そうね。そうしましょう」
リシェーラさんの声色がさっきまで明らかに違った。少し震えていて様子がおかしい。
捜索を開始する僕達はアリスと愛花の名前を叫びながら、来た道を戻る。
だけど、向こうからの返事はない。僕らの言葉だけが虚しく木霊する。
「リシェーラさん。大丈夫ですか?」
「え? 大丈夫よ? 早く二人を探しましょう」
明かに大丈夫そうな顔をしていない。不安になるのは分かるけど、捜索中も僕の着ている服の裾を掴んで離そうとしないのは尋常ではない。
僕も心配じゃない訳ではないけど、きっとアリスの事だ。多分何かに興味を惹かれて道に逸れたのかもしれない。愛花もそれに付き合っているんだろう。
「本当に二人ともどこに行ってしまったのかしら」
「大丈夫ですよ。きっとアリスの事だから何か面白いものを見つけたのかもしれません。どこかで道草を食っているだけだと思いますよ」
「そうだといいんだけど……」
自分で言うのも何だけど、僕も健全な青少年。怯えた女性が裾を掴んで隣を歩かれると、こう何か来るものがあって、とてもアリスには悪い気がしてならないのだ。
早いところ二人を見つけないと――
ん? ちょっと待て? でも何で僕はアリスに対して悪い気がするんだろう?
しかし聳え立つ岩壁の影だというのに妙に明るかった。
どうやら岩自体が淡く光っていているようで、夕暮れ程度の明るさはあり、足元覚束ないという事はなさそうだ。
「ねぇ、ソラト。ここって一体なに?」
「多分、ここは三賢女の遺跡かな?」
「三賢女の遺跡?」
「アイカちゃん、それはね――」
「隠された楽譜? なにそれ、面白そう」
仕掛けの手口から、僕はベアトリッテ遺跡と同じ印象を感じる。手の込みようと良い、意外に意地の悪いところが共通点だ。
「ああ、それでさっき聞いてきたのね。まさか発見者が貴方達だったとはね」
「すいません、隠すつもりは無かったのですが、でも今日は新ツアーの下見ですから」
「あはは、別に責めているわけじゃないから安心して、でもここが本当に三賢女の遺跡だとしたら面白いわね」
アリスの話ではベアトリッテ遺跡の水晶碑の発見はニュースに取り上げられ、瞬く間に世界へと広がっていった。
各地で三賢女の遺跡の捜索が始まり、続々と見つかった。だけど問題はそこからで、彫像に刻まれた楽譜通り弾いても、水晶碑が現れることは無く。
更にアリスより遥かに卓越したプロの演奏家が幾度となく挑戦するも、現状水晶碑はベアトリッテ遺跡以外に現れていない。
科学技術で無理やり仕掛けを動かすことも出来るらしいけど、挑戦することに意味があるということと、遺跡を一部破壊する必要があるため、行われていないのだとか。
専門家の見立てでは何かほかに条件があるのではないかという結論に至っているらしい。
「まだこれが三賢女の遺跡って決まったわけじゃないけど、それにしても驚いたわ。こんな空間があったなんて、遊覧飛行で見た時は単なる岩の裂け目にしか見えなかったのに」
先へ進めば進むほど岩壁の裂け目は所々に現れ、回廊はまるで迷路のように入り組んでいく。
最初こそ来たところから真っ直ぐ進んでいた僕等だったけど、目の前に分かれ道が現れたので立ち止まる。
「さて、困ったわ。どうしようかしら、ソラトはどっちだと思う」
「というか、衛星写真でここら辺の地図を見れないのでしょうか?」
「そ、そうねっ! ソラトは頭いいのね――ってあれ、アリスとアイカは?」
さっきまで後ろに着いてきている筈だったアリスと愛花の姿がない。リシェーラさんと僕は岩壁の道を呆然と立ち尽くす。
「大変っ! どうしようっ! あの子達一体どこへっ⁉」
「ちょ、ちょっと待ってっ! リシェーラさんっ! 闇雲に探したら二重遭難になるってっ!」
リシェーラさんはハッと我に返るや否や、血相を変えて捜索を始めようとしたので、僕は慌てて止めた。
冷たいかもしれないけど、結局感情だけでは目的を果たせないことを、身をもって経験してしまった僕には、冷静になって状況確認することを最優先してしまう。
「ここはまず連絡を取ってみるのが先です。お互い通信手段を持っているんでしょう?」
「ごめん。まだ連絡先を交換していない。ソラトの方こそ連絡取れないの?」
「僕はこっちの世界の携帯端末を持っていないんです」
困った。スマホには確かにアリスと愛花の番号、アドレス、IDが入っているけど、スペクリムでは使えない。
スマホも僕と同じように暗黒物質に変換されるらしいけど、通信会社や人工衛星が違うとか、それ以前の根本的な問題。
「そうしたらとりあえず引き返しますか? 真っ直ぐ進んできたので、アリス達はどこかわき道に逸れたんでしょう? リシェーラさんは左を、僕は右を見ながら進みますんで」
「そ、そうね。そうしましょう」
リシェーラさんの声色がさっきまで明らかに違った。少し震えていて様子がおかしい。
捜索を開始する僕達はアリスと愛花の名前を叫びながら、来た道を戻る。
だけど、向こうからの返事はない。僕らの言葉だけが虚しく木霊する。
「リシェーラさん。大丈夫ですか?」
「え? 大丈夫よ? 早く二人を探しましょう」
明かに大丈夫そうな顔をしていない。不安になるのは分かるけど、捜索中も僕の着ている服の裾を掴んで離そうとしないのは尋常ではない。
僕も心配じゃない訳ではないけど、きっとアリスの事だ。多分何かに興味を惹かれて道に逸れたのかもしれない。愛花もそれに付き合っているんだろう。
「本当に二人ともどこに行ってしまったのかしら」
「大丈夫ですよ。きっとアリスの事だから何か面白いものを見つけたのかもしれません。どこかで道草を食っているだけだと思いますよ」
「そうだといいんだけど……」
自分で言うのも何だけど、僕も健全な青少年。怯えた女性が裾を掴んで隣を歩かれると、こう何か来るものがあって、とてもアリスには悪い気がしてならないのだ。
早いところ二人を見つけないと――
ん? ちょっと待て? でも何で僕はアリスに対して悪い気がするんだろう?
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