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第二章 パッショナートな少女と歩く清夏の祭り
第25話 この、美景は悠久の歳月と広大な宇宙より
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車内で他愛の無い話に花を咲かせること凡そ30分。
「さて、ここがギャスパルト峡谷よ」
車から降りると僕らの目の前に壮大で深く幾重にも連なった七曲りの峡谷が広がっていた。
様々な色合いが層に成って幾つも連なる岩肌を、ヒューっと音と一緒に吹き抜けた乾いた空気は、三人の乙女たちの髪をすらすらと揺らす。
耳を澄ませば峡谷の壁に反響して聞こえる鳥の囀りと、岩肌を削り下流へと向かう水の音が聞こえてくる。
リシェーラさんが凝り固まった筋肉を解そうと背伸びをすると、僕等も釣られて一緒になって背伸びをする。
目いっぱい息を吸い、僕は温かい空気と一緒に大地の息吹を心に満たしていった。
「どう? アリス、アイカ、ソラト、良い眺めでしょう?」
「ええ、リシェーラさん。自然の作り出すものってこうも偉大なんでしょう」
「世界にまだこんな景色があるんなんて……」
「愛花、ここは別の惑星だよ?」
「そうだった……」
愛花の言葉を借りれば、宇宙にまだこんな景色が広がっているなんて、僕もつい最近まで考えたことも無かった。
約138億年の気が遠くなるほどの歳月と凡そ460億光年というため息が出る程の広大さから考えれば、宇宙には無数の絶景があるんだということは想像に難くない。
それこそ星の数ほどあるに違いない。
「これは悠久の歳月と広大な宇宙が産んだ奇跡だね」
「なんだろう。それは何かこそばゆい」
「う~ん、ちょっと恥ずかしいかな」
「ふぇ~なんで~」
でも、アリスの言う通りだ。本当にアリスの感受性の高さにはいつも驚かされる。
「さてと、みんなっ! 行くよっ! 車の中の水を持って行ってくれる?」
ん? 行く? どこへ?
突然のリシェーラさんからの投げかけに、アリスも愛花も鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。それは僕も同じだった。
「私が見せたかった場所はここじゃないわ。とっておきの場所はまた別にあるの」
リシェーラさんは車の中から麻のような繊維で織られたバッグを取り出すと、徐に僕のところに近づいてきて――
「はい、少年は男の子だから三つぐらい余裕よね?」
「うっ!」
「これには水が入っているから落とさないようにしなさい」
僕はそのバッグを三つ手渡され、あまりの重さに腕が抜けそうになった。
一体一つ何リットル入っているのか。
僕の両腕にまるで鉄の塊でも乗せられたかのようなズシリとした重さが伝わってくる。
僕を目の敵にしたかのような意地悪。
「り、リシェーラさん、まだ年齢の事を……」
「私もこう見えて、おばさんだから体力ないの。若い人に頑張ってもらわないと、ねっ!」
言葉の端々が妙にとげとげしい、案の定まだ気にしているようだった。
身から出た錆、口は災いの元、甘んじて受け入れよう。
「頑張れ、ソラトっ!」
「ソラト? 大丈夫? 一個持とうか?」
クスクスとほくそ笑む愛花とは対照的にアリスは僕に優しく声を掛けてくる。
本当に胸に染みる優しさ。
だけどここは男として女性に重い荷物を持たせるわけにはいかない。
男として偶には意地を張りたいときもある。
「大丈夫っ! これくらい余裕っ!」
「あらそう? じゃあ、これもお願いね」
「うぉぅっ!」
リシェーラさんから更にもう一袋、自分が持っていた水袋を重ねられ、腰に重く伸し掛かってきた。
「やっぱり、手伝おうか?」
「だ、大丈夫っ! ありがとうアリス」
アリスの気遣いが本当に胸に染みる。
「私のとっておきの場所はここからちょっと降りたところあるわ。じゃあ、トレイルハイキングと行きましょ?」
風化により滑らかになった岩壁の淵に設けられたなだらかな遊歩道を僕らは下っていく。
靴の下から凸凹した砂利や頁岩の感触が伝わってくる。
「結構険しいね。宙人、一個持とうか?」
「大丈夫だよ。偶には体を鍛えないとね。責めてアリスの隣を歩けるようにはなりたいからさ」
リシェーラさんの後をひょいひょいと顔色一つ変えず歩いていくアリスの姿を見て、僕は負けてられない気持ちになる。
野球をやっていたころの闘争心が少しだけ戻ってきたのかもしれない。
「ふ~ん……」
何だろう。愛花の顔に一瞬陰りが見えた様な……
「どうしたの? 愛花?」
「別にっ!」
愛花は何故か怒ったように、そっぽを向いてアリスの後を追って行った。
何なんだったんだ? 今の……って、いつの間にか少し離されてるっ!
アリス達は僕の遥か下の方、目算で凡そ20mの高さだろうか。
既に谷底の川に差し掛かっていたので、僕も慌ててアリスの後を追った。
「さて、ここがギャスパルト峡谷よ」
車から降りると僕らの目の前に壮大で深く幾重にも連なった七曲りの峡谷が広がっていた。
様々な色合いが層に成って幾つも連なる岩肌を、ヒューっと音と一緒に吹き抜けた乾いた空気は、三人の乙女たちの髪をすらすらと揺らす。
耳を澄ませば峡谷の壁に反響して聞こえる鳥の囀りと、岩肌を削り下流へと向かう水の音が聞こえてくる。
リシェーラさんが凝り固まった筋肉を解そうと背伸びをすると、僕等も釣られて一緒になって背伸びをする。
目いっぱい息を吸い、僕は温かい空気と一緒に大地の息吹を心に満たしていった。
「どう? アリス、アイカ、ソラト、良い眺めでしょう?」
「ええ、リシェーラさん。自然の作り出すものってこうも偉大なんでしょう」
「世界にまだこんな景色があるんなんて……」
「愛花、ここは別の惑星だよ?」
「そうだった……」
愛花の言葉を借りれば、宇宙にまだこんな景色が広がっているなんて、僕もつい最近まで考えたことも無かった。
約138億年の気が遠くなるほどの歳月と凡そ460億光年というため息が出る程の広大さから考えれば、宇宙には無数の絶景があるんだということは想像に難くない。
それこそ星の数ほどあるに違いない。
「これは悠久の歳月と広大な宇宙が産んだ奇跡だね」
「なんだろう。それは何かこそばゆい」
「う~ん、ちょっと恥ずかしいかな」
「ふぇ~なんで~」
でも、アリスの言う通りだ。本当にアリスの感受性の高さにはいつも驚かされる。
「さてと、みんなっ! 行くよっ! 車の中の水を持って行ってくれる?」
ん? 行く? どこへ?
突然のリシェーラさんからの投げかけに、アリスも愛花も鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。それは僕も同じだった。
「私が見せたかった場所はここじゃないわ。とっておきの場所はまた別にあるの」
リシェーラさんは車の中から麻のような繊維で織られたバッグを取り出すと、徐に僕のところに近づいてきて――
「はい、少年は男の子だから三つぐらい余裕よね?」
「うっ!」
「これには水が入っているから落とさないようにしなさい」
僕はそのバッグを三つ手渡され、あまりの重さに腕が抜けそうになった。
一体一つ何リットル入っているのか。
僕の両腕にまるで鉄の塊でも乗せられたかのようなズシリとした重さが伝わってくる。
僕を目の敵にしたかのような意地悪。
「り、リシェーラさん、まだ年齢の事を……」
「私もこう見えて、おばさんだから体力ないの。若い人に頑張ってもらわないと、ねっ!」
言葉の端々が妙にとげとげしい、案の定まだ気にしているようだった。
身から出た錆、口は災いの元、甘んじて受け入れよう。
「頑張れ、ソラトっ!」
「ソラト? 大丈夫? 一個持とうか?」
クスクスとほくそ笑む愛花とは対照的にアリスは僕に優しく声を掛けてくる。
本当に胸に染みる優しさ。
だけどここは男として女性に重い荷物を持たせるわけにはいかない。
男として偶には意地を張りたいときもある。
「大丈夫っ! これくらい余裕っ!」
「あらそう? じゃあ、これもお願いね」
「うぉぅっ!」
リシェーラさんから更にもう一袋、自分が持っていた水袋を重ねられ、腰に重く伸し掛かってきた。
「やっぱり、手伝おうか?」
「だ、大丈夫っ! ありがとうアリス」
アリスの気遣いが本当に胸に染みる。
「私のとっておきの場所はここからちょっと降りたところあるわ。じゃあ、トレイルハイキングと行きましょ?」
風化により滑らかになった岩壁の淵に設けられたなだらかな遊歩道を僕らは下っていく。
靴の下から凸凹した砂利や頁岩の感触が伝わってくる。
「結構険しいね。宙人、一個持とうか?」
「大丈夫だよ。偶には体を鍛えないとね。責めてアリスの隣を歩けるようにはなりたいからさ」
リシェーラさんの後をひょいひょいと顔色一つ変えず歩いていくアリスの姿を見て、僕は負けてられない気持ちになる。
野球をやっていたころの闘争心が少しだけ戻ってきたのかもしれない。
「ふ~ん……」
何だろう。愛花の顔に一瞬陰りが見えた様な……
「どうしたの? 愛花?」
「別にっ!」
愛花は何故か怒ったように、そっぽを向いてアリスの後を追って行った。
何なんだったんだ? 今の……って、いつの間にか少し離されてるっ!
アリス達は僕の遥か下の方、目算で凡そ20mの高さだろうか。
既に谷底の川に差し掛かっていたので、僕も慌ててアリスの後を追った。
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