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第二章 パッショナートな少女と歩く清夏の祭り
第34話 初々しき装いと新しき仲間との心遣り
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ヴィスルでの一件から数日が過ぎ、相変わらず僕はアリスと共にバイトの日々を送っていた。ただ一つ変わったことがある。それはある日を境に始まった。
「ねぇねぇっ! ちゅーちゃんっ! 制服出来たんだっ! どうかなっ⁉」
8月3日午前中。僕はファイユさんの旅行会社で書類整理のバイトをしている。因みに会社名はツォンレツェッタというらしい。
一先ずそれはさておき、アリスが今、僕の前に会社の制服が出来たという事でお披露目にしに来ている。
残念なことに『ちゅーちゃん』というあだ名はアリスの中で固定されてしまった。
再三に渡り「やめて欲しい」と言ったのだけど、アリスは「え~、やだよ~ ちゅーちゃんってかわいいもん」と一蹴され、説得は功を奏せず、僕は諦めた。
アリスの装う制服は目が覚めるような白を基調としたワンピースと白くて小さめの帽子が可愛く。
裾や袖その他ところ何処に青と赤の刺繍がアクセントになっていて可愛く、遠くからでもはっきりと可愛いことが分かるだろう。
じゃかあしいっ! さっきから可愛いって何だっ⁉
ヴィスルから帰ってきてからというもの、丁寧に感想を抱いている脳裏に、どこからともなく可愛いという単語が挟まれるという僕は今、謎の奇病に掛かっている。
しかし、変わったことというのは奇病の件じゃない。
「ほらっ! リシェーラさんもっ!」
「ちょ、ちょっと何よこれっ! 地味なのを選んでって言ったでしょっ⁉ 50過ぎているのに、この格好は無理しすぎているわよっ⁉」
「そんなこと無いよ? それでも地味な方だよ? そんなこと言いながらリシェーラさん、ちゃんと着てくれて嬉しいっ!」
「そ、それはっ!」
リシェーラさんがアリスに引っ張られるようにして現れる。アリスと同じデザインの制服で、だけど刺繍は色違いで赤と黒で、リシェーラさんらしい熱情と艶美さが出ていてよく似合っていると思う。
地球人で50歳を過ぎてその恰好されると正直かなり痛すぎるけど、スペクリム人なら19歳の容姿だから別に僕には何の違和感も覚えない。
それどころかリシェーラさんの服を押さえ、顔を真っ赤にして恥じらう姿が妙に可愛らしく。
白き二人の可憐な妖精が佇む姿は、まるで室内に大輪の花が咲いたような印象を受け、僕は思わず生唾を呑む。
「喉を鳴らすなっ!」
「す、すいませんっ! でも二人とも凄く良く似合っている。凄く可愛い」
「えへへ。やったねっ!」
「あらあら、うふふ、二人ともよく似合っているわ」
元気いっぱいに歓声を上げるアリスと、恥ずかしさのあまり茹蛸になっているリシェーラさんを眺めながらファイユさんはいつもの優しい微笑みを向ける。
つい先日リシェーラさんは、以前のショップ店員の仕事を辞めて、突然現れるや否やファイユさんに「働かせてください」と言ってきたのだ。
そんなリシェーラさんに対して、ファイユさんはいつも通り優しく微笑んで、「あらあら、うふふ、採用」と一言――で現在に至る。
「さて、今日のお仕事はここら辺にして、お祭りに行きましょうか?」
「本当にファイユさんも来るんですか?」
「ええ、絢さんから、お誘い頂いたんだもの」
ファイユさんは宙返りをすると、さっきまで二足歩行の猫人間の姿から、地球にどこにでもいる白い綺麗な猫の姿に変わって僕の肩に乗った。
「これでいいかしら?」
「くれぐれも人までは喋らないでくださいね。どうしてもの時は『にゃー』か『みゃー』でお願いします」
「にゃ~」
鳴き声の声色からは不安しか感じない。まぁ、見た目はどっからどう見ても猫だから大丈夫だろう。
実は今日、種子島の中種子の方で祭りがあって、絢さんからに是非とのお誘いを受け、会社のみんなで行くことになった。
種子島の紹介であれば昼の部のパレードを見て欲しいというのもあったけど、午前中は業務があったため、夜の部の参加となった。
まぁ、夜の部の方が屋台もあるし、花火もあるし、楽しんでもらえるかもしれない。
「さて、それじゃあ。行きましょうか?」
会場へと訪れると、黄昏時というのに煌々と明かりが灯り、威勢のいい呼び声と食欲をそそる香りが溢れている。
行き交う町の人達誰しもが祭りの熱狂に血が騒ぐようで、賑やかな笑い声に溢れている。
僕の傍らには浴衣に袖を通したアリスとリシェーラさん。二人とも浴衣を着るのは初めてで動きがぎこちなく見える。
アリスは白と紫のハイビスカス柄で涼しい色合が印象にぴったりで、リシェーラさんは紺と紫の朝顔柄で大人びた印象がイメージ通りで良く似合っている。
「二人とも浴衣の方にあっていますよ」
「ええ、ありがとうございますっ! 絢さんっ!」
「凄く涼しくて可愛いんですけど、動きにくいんですね」
「浴衣というのはそういう物ですから、けどそういう動きにくさから生まれる美しい動きがあるんです」
得意気に絢さんは浴衣の文化について、アリスとリシェーラさんに語る。当の本人は宇宙局の制服だけど。
今、アリスとリシェーラさんが袖を通している浴衣は絢さんが用意したものだ。地球の伝統文化に触れて欲しいという綾さんの計らいによるもの。
絢さんは意外にも良い仕事をする――じゃなく、粋な方だった。
「ねぇねぇっ! ちゅーちゃんっ! 制服出来たんだっ! どうかなっ⁉」
8月3日午前中。僕はファイユさんの旅行会社で書類整理のバイトをしている。因みに会社名はツォンレツェッタというらしい。
一先ずそれはさておき、アリスが今、僕の前に会社の制服が出来たという事でお披露目にしに来ている。
残念なことに『ちゅーちゃん』というあだ名はアリスの中で固定されてしまった。
再三に渡り「やめて欲しい」と言ったのだけど、アリスは「え~、やだよ~ ちゅーちゃんってかわいいもん」と一蹴され、説得は功を奏せず、僕は諦めた。
アリスの装う制服は目が覚めるような白を基調としたワンピースと白くて小さめの帽子が可愛く。
裾や袖その他ところ何処に青と赤の刺繍がアクセントになっていて可愛く、遠くからでもはっきりと可愛いことが分かるだろう。
じゃかあしいっ! さっきから可愛いって何だっ⁉
ヴィスルから帰ってきてからというもの、丁寧に感想を抱いている脳裏に、どこからともなく可愛いという単語が挟まれるという僕は今、謎の奇病に掛かっている。
しかし、変わったことというのは奇病の件じゃない。
「ほらっ! リシェーラさんもっ!」
「ちょ、ちょっと何よこれっ! 地味なのを選んでって言ったでしょっ⁉ 50過ぎているのに、この格好は無理しすぎているわよっ⁉」
「そんなこと無いよ? それでも地味な方だよ? そんなこと言いながらリシェーラさん、ちゃんと着てくれて嬉しいっ!」
「そ、それはっ!」
リシェーラさんがアリスに引っ張られるようにして現れる。アリスと同じデザインの制服で、だけど刺繍は色違いで赤と黒で、リシェーラさんらしい熱情と艶美さが出ていてよく似合っていると思う。
地球人で50歳を過ぎてその恰好されると正直かなり痛すぎるけど、スペクリム人なら19歳の容姿だから別に僕には何の違和感も覚えない。
それどころかリシェーラさんの服を押さえ、顔を真っ赤にして恥じらう姿が妙に可愛らしく。
白き二人の可憐な妖精が佇む姿は、まるで室内に大輪の花が咲いたような印象を受け、僕は思わず生唾を呑む。
「喉を鳴らすなっ!」
「す、すいませんっ! でも二人とも凄く良く似合っている。凄く可愛い」
「えへへ。やったねっ!」
「あらあら、うふふ、二人ともよく似合っているわ」
元気いっぱいに歓声を上げるアリスと、恥ずかしさのあまり茹蛸になっているリシェーラさんを眺めながらファイユさんはいつもの優しい微笑みを向ける。
つい先日リシェーラさんは、以前のショップ店員の仕事を辞めて、突然現れるや否やファイユさんに「働かせてください」と言ってきたのだ。
そんなリシェーラさんに対して、ファイユさんはいつも通り優しく微笑んで、「あらあら、うふふ、採用」と一言――で現在に至る。
「さて、今日のお仕事はここら辺にして、お祭りに行きましょうか?」
「本当にファイユさんも来るんですか?」
「ええ、絢さんから、お誘い頂いたんだもの」
ファイユさんは宙返りをすると、さっきまで二足歩行の猫人間の姿から、地球にどこにでもいる白い綺麗な猫の姿に変わって僕の肩に乗った。
「これでいいかしら?」
「くれぐれも人までは喋らないでくださいね。どうしてもの時は『にゃー』か『みゃー』でお願いします」
「にゃ~」
鳴き声の声色からは不安しか感じない。まぁ、見た目はどっからどう見ても猫だから大丈夫だろう。
実は今日、種子島の中種子の方で祭りがあって、絢さんからに是非とのお誘いを受け、会社のみんなで行くことになった。
種子島の紹介であれば昼の部のパレードを見て欲しいというのもあったけど、午前中は業務があったため、夜の部の参加となった。
まぁ、夜の部の方が屋台もあるし、花火もあるし、楽しんでもらえるかもしれない。
「さて、それじゃあ。行きましょうか?」
会場へと訪れると、黄昏時というのに煌々と明かりが灯り、威勢のいい呼び声と食欲をそそる香りが溢れている。
行き交う町の人達誰しもが祭りの熱狂に血が騒ぐようで、賑やかな笑い声に溢れている。
僕の傍らには浴衣に袖を通したアリスとリシェーラさん。二人とも浴衣を着るのは初めてで動きがぎこちなく見える。
アリスは白と紫のハイビスカス柄で涼しい色合が印象にぴったりで、リシェーラさんは紺と紫の朝顔柄で大人びた印象がイメージ通りで良く似合っている。
「二人とも浴衣の方にあっていますよ」
「ええ、ありがとうございますっ! 絢さんっ!」
「凄く涼しくて可愛いんですけど、動きにくいんですね」
「浴衣というのはそういう物ですから、けどそういう動きにくさから生まれる美しい動きがあるんです」
得意気に絢さんは浴衣の文化について、アリスとリシェーラさんに語る。当の本人は宇宙局の制服だけど。
今、アリスとリシェーラさんが袖を通している浴衣は絢さんが用意したものだ。地球の伝統文化に触れて欲しいという綾さんの計らいによるもの。
絢さんは意外にも良い仕事をする――じゃなく、粋な方だった。
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