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第二章 パッショナートな少女と歩く清夏の祭り
第35話 山荷葉と砂漠の薔薇と巡る夏祭り
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「でも、本当によく似合っているね。二人とも」
「ありがとうっ! ちゅーちゃんっ!」
「なんか思いついたように言われても、説得力無いんだけど?」
リシェーラさんから図星を付かれ、真夏なのに少しヒヤッとした。
「そ、そんなことないよ? あっ! 愛花達が着ていますよ。早く行きましょう?」
渡りに船というのはこのこと、手をふる愛花と省吾の姿が見えたので、二人に合流しようと皆を促した。
「アリス。リシェーラさんっ! こっちだよっ!」
「アイカちゃんっ! 久しぶりだねっ! あっ! 浴衣可愛いっ!」
「ほんと、可愛くてよく似合っているわ」
「リシェーラさん凄く綺麗です。アリスも凄く可愛い。二人とも良く似合ってるよ」
「えへへ。これ絢さんが用意してくれたんだ」
「え? そうなの。少し意外」
「それ、どういう意味かな? 愛花ちゃん?」
女性陣が戯れる中、僕は省吾と向き合った。眼鏡越しの鋭い目を向けられ少し緊張する。
幼馴染だから見慣れているとは言え、今日は状況が違う。
もう愛花から話を聞いている筈だけど、正直気まずい。
「ようっ! 宙人っ! 愛花から話は聞いていたけど、本当に美女二人侍らせて元気そうだな」
「ああ、省吾の方こそ、負けたっていうのに元気そうで何より」
「それを言うんじゃねぇよ。両手に花を抱えている奴に言われたくねぇな」
「そっちこそ、彼女連れなんて良いご身分だね」
憎まれ口をたたき合いながら僕は省吾とグータッチを交わし、肩を抱いて笑い合う。
省吾たち野球部は県大会決勝で敗退した。去年と成績は同じ。
でも自分がいなくても県大会決勝まで行けたことに関しては、不思議と寂しさは無かった。むしろ喜びや残念という気持ちの方が大きい。
「でも惜しかったね。省吾」
「ああ、でもまだ来年があるからな。最後まで諦めねぇよ。お前の夢の分も俺が甲子園に持って行ってやる」
「ああ、すまない省吾。僕はもう――」
「謝るのは俺の方だ。もう、お前は新しい夢の為に生きればいい」
「ありがとう。省吾」
「おーいっ! 二人とも行くよっ!」
省吾と話し込んでいると、愛花の声が聞こえ、振り返るといつの間にかはるか先から手を振る愛花の姿が見えた。
「行こうぜっ! 腹減っちまった」
「ああ、そうだね」
「ところで、その肩の猫はどうしたんだ?」
「ああ、ファイユさん。彼女はアリスの……そう、アリスが飼っている猫だよ」
「そうなのか。猫なのに『さん』付けなんだ?」
「そりゃあ、まぁ、年上だから」
「確かに、猫の一年は人間の4年分というからな。よろしく、ファイユさん」
「みゃ~」
徐にファイユさんは省吾へ手を差し出して、握手を求める仕草をしたので、僕の心臓が跳ね上がった。
確かに態度まではお願いしなかったけど、流石にこれは不味い――と思いきや。
「お、握手か? すげぇ、頭いいんだな」
猫らしからぬ行動に違和感どころか、省吾は全く気にも留めず、ファイユさんの握手に応じて小さくふってあげる。
頭よさそうに見えて、省吾は少し鈍いところがあるから、そのおかげで助かった。
祭りというのは欲望を解放させるような不思議な魅力がある。縁日の珍しさにアリスとリシェーラさんは心を奪われ、ひっきりなしに僕は連れまわされるのはそのせいなのかもしれない。
「あれは何だろうっ⁉ ねぇ! ちゅーちゃんっ! 今度はアレをやってみようよっ!」
「アリスっ! 今度は私の番よっ! ねぇ宙人? 私、アレが食べてみたいわ」
「ちょ、ちょっとまって二人とも、そんなに強く引っ張らないでくれ」
僕は逃がさないとばかりにアリスとリシェーラに腕を絡まれている。
これは相当恥ずかしい。耳たぶが熱くなっているのが分かる。
二人から抱き着かれているのには訳がある。
逸れると危ないからという理由でなるべく手を繋いでいきましょう、みたいな話を愛花が言い出して、そこまでは良い。
更に愛花は、やっぱり手だけだと逸れるかもしれないからもっとくっ付いた方が良いかもしれません。などと言い出したから両腕を絡まれるという現在の状態に落ち着いた。
ファイユさんは肩だと狭いので、僕の頭に移動している。
後ろで省吾にぴったり寄り添い、くすくすと笑っているのが聞こえてくる。
くそ、愛花の奴、確信犯だな。
「ねぇ、宙人。これは何て書いてあるの?」
「あ、ああ、これは安納芋ソフトクリームって書いてあります。食べて見ますか?」
「えーっ! ちゅーちゃんっ! 私も欲しいな?」
「みゃー」
「ファイユさんもですか? はぁ……分かったよ。奢るから、そう引っ張らないでくれ」
美女二人から甘えられているというのに、嬉しさよりも、気疲れが先に来るのは何故だろう。
「そうかっ! ありがとなっ! 宙人っ!」
「きゃーっ! 宙人っ! ありがとうっ!」
「省吾たちまで集る気っ! あーもうっ! 好きにしてくれっ! 絢さんも日頃お世話になっているお礼に一つ奢らせてください」
アリス達の楽しんでいる姿を見ることが出来たのも、今回絢さんが誘ってくれたお陰でもある。
日頃何かとお世話になっている絢さんには、この程度の事で報いる事なんてできるとは思っていないけど、それでも僕は感謝の意を伝えたかった。だけど絢さんは――
「折角だけど、私はこれから機構の方の出し物があって、舞台の方へ行かなければならないので外させてもらいますね。皆さんどうぞお祭りを楽しんでいってください」
「ありがとうっ! ちゅーちゃんっ!」
「なんか思いついたように言われても、説得力無いんだけど?」
リシェーラさんから図星を付かれ、真夏なのに少しヒヤッとした。
「そ、そんなことないよ? あっ! 愛花達が着ていますよ。早く行きましょう?」
渡りに船というのはこのこと、手をふる愛花と省吾の姿が見えたので、二人に合流しようと皆を促した。
「アリス。リシェーラさんっ! こっちだよっ!」
「アイカちゃんっ! 久しぶりだねっ! あっ! 浴衣可愛いっ!」
「ほんと、可愛くてよく似合っているわ」
「リシェーラさん凄く綺麗です。アリスも凄く可愛い。二人とも良く似合ってるよ」
「えへへ。これ絢さんが用意してくれたんだ」
「え? そうなの。少し意外」
「それ、どういう意味かな? 愛花ちゃん?」
女性陣が戯れる中、僕は省吾と向き合った。眼鏡越しの鋭い目を向けられ少し緊張する。
幼馴染だから見慣れているとは言え、今日は状況が違う。
もう愛花から話を聞いている筈だけど、正直気まずい。
「ようっ! 宙人っ! 愛花から話は聞いていたけど、本当に美女二人侍らせて元気そうだな」
「ああ、省吾の方こそ、負けたっていうのに元気そうで何より」
「それを言うんじゃねぇよ。両手に花を抱えている奴に言われたくねぇな」
「そっちこそ、彼女連れなんて良いご身分だね」
憎まれ口をたたき合いながら僕は省吾とグータッチを交わし、肩を抱いて笑い合う。
省吾たち野球部は県大会決勝で敗退した。去年と成績は同じ。
でも自分がいなくても県大会決勝まで行けたことに関しては、不思議と寂しさは無かった。むしろ喜びや残念という気持ちの方が大きい。
「でも惜しかったね。省吾」
「ああ、でもまだ来年があるからな。最後まで諦めねぇよ。お前の夢の分も俺が甲子園に持って行ってやる」
「ああ、すまない省吾。僕はもう――」
「謝るのは俺の方だ。もう、お前は新しい夢の為に生きればいい」
「ありがとう。省吾」
「おーいっ! 二人とも行くよっ!」
省吾と話し込んでいると、愛花の声が聞こえ、振り返るといつの間にかはるか先から手を振る愛花の姿が見えた。
「行こうぜっ! 腹減っちまった」
「ああ、そうだね」
「ところで、その肩の猫はどうしたんだ?」
「ああ、ファイユさん。彼女はアリスの……そう、アリスが飼っている猫だよ」
「そうなのか。猫なのに『さん』付けなんだ?」
「そりゃあ、まぁ、年上だから」
「確かに、猫の一年は人間の4年分というからな。よろしく、ファイユさん」
「みゃ~」
徐にファイユさんは省吾へ手を差し出して、握手を求める仕草をしたので、僕の心臓が跳ね上がった。
確かに態度まではお願いしなかったけど、流石にこれは不味い――と思いきや。
「お、握手か? すげぇ、頭いいんだな」
猫らしからぬ行動に違和感どころか、省吾は全く気にも留めず、ファイユさんの握手に応じて小さくふってあげる。
頭よさそうに見えて、省吾は少し鈍いところがあるから、そのおかげで助かった。
祭りというのは欲望を解放させるような不思議な魅力がある。縁日の珍しさにアリスとリシェーラさんは心を奪われ、ひっきりなしに僕は連れまわされるのはそのせいなのかもしれない。
「あれは何だろうっ⁉ ねぇ! ちゅーちゃんっ! 今度はアレをやってみようよっ!」
「アリスっ! 今度は私の番よっ! ねぇ宙人? 私、アレが食べてみたいわ」
「ちょ、ちょっとまって二人とも、そんなに強く引っ張らないでくれ」
僕は逃がさないとばかりにアリスとリシェーラに腕を絡まれている。
これは相当恥ずかしい。耳たぶが熱くなっているのが分かる。
二人から抱き着かれているのには訳がある。
逸れると危ないからという理由でなるべく手を繋いでいきましょう、みたいな話を愛花が言い出して、そこまでは良い。
更に愛花は、やっぱり手だけだと逸れるかもしれないからもっとくっ付いた方が良いかもしれません。などと言い出したから両腕を絡まれるという現在の状態に落ち着いた。
ファイユさんは肩だと狭いので、僕の頭に移動している。
後ろで省吾にぴったり寄り添い、くすくすと笑っているのが聞こえてくる。
くそ、愛花の奴、確信犯だな。
「ねぇ、宙人。これは何て書いてあるの?」
「あ、ああ、これは安納芋ソフトクリームって書いてあります。食べて見ますか?」
「えーっ! ちゅーちゃんっ! 私も欲しいな?」
「みゃー」
「ファイユさんもですか? はぁ……分かったよ。奢るから、そう引っ張らないでくれ」
美女二人から甘えられているというのに、嬉しさよりも、気疲れが先に来るのは何故だろう。
「そうかっ! ありがとなっ! 宙人っ!」
「きゃーっ! 宙人っ! ありがとうっ!」
「省吾たちまで集る気っ! あーもうっ! 好きにしてくれっ! 絢さんも日頃お世話になっているお礼に一つ奢らせてください」
アリス達の楽しんでいる姿を見ることが出来たのも、今回絢さんが誘ってくれたお陰でもある。
日頃何かとお世話になっている絢さんには、この程度の事で報いる事なんてできるとは思っていないけど、それでも僕は感謝の意を伝えたかった。だけど絢さんは――
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