玻璃色の世界のアリスベル

朝我桜(あさがおー)

文字の大きさ
39 / 44
第二章  パッショナートな少女と歩く清夏の祭り

第38話 パッショナートな少女の刻むのは熱き血潮の滾り

しおりを挟む
 音の確認が終わって、ボーカル兼ギターの南美さんのアイコンタクトを合図にして、リシェーラさんがシンバルを打ち鳴らし、力強いビートが会場に響き渡った。

 女の子の切ない恋心を描いた唄を乗せて、活力に満ち溢れた旋律が大気を震わせて、僕の全身を叩きつけてくる。

 アリスのベースが鳴らす響きとリズムに、血液が音を立てて駆け巡り――。

 リシェーラさんがドラムを激しくビートを刻む度に、鼓動が激しく全身へと響いていく。

 静かに聞き入っていた会場の人達は、いつしか彼女たちの奏でる旋律に引き込まれ、歓喜の声が上がり、次第に熱気が包み込んでいく。

 ずっと彼女達の音楽に聞き入っていたかったのだけど、省吾と愛花もジャンプしているのにつられて僕も歓声を上げながらジャンプし始める。

 そしたらもう僕は一気に興奮を抑えきれなくなった。

 滾る血液の脈動、はち切れんばかりの心臓の鼓動、心の奥底から溢れ出てくる情熱の赴くままに歓声を上げる。

 曲も終盤に近付くに連れ、会場の熱気も最高潮に達して、観客のジャンプで地響きさえ起きたほどだ。


 一曲目が終わるも、会場の興奮は冷めやらない。
 舞台に立つアリスさん達からは、驚きを隠せないながらも、あまりの会場の歓喜の声に笑みが零れるのが見える。

 熱気と興奮に包まれ、ボーカル兼ギターの南美さんが徐に口を開いた。

「えっと、皆さん。種子島軽音楽部です。残念ながら事情があって今日このステージには、ベースの美優とドラムの紗香はいません。今日いる正式なメンバーはボーカル兼ギターの私、南美と、キーボードの遥香で、ベースとドラムは臨時でこの二人にお願いしました」

 汗びっしょりでまだ息を切らせながらも、南美さんは言い切って晴れやかな笑顔を見せた。
 南美さんからマイクを手渡されたアリスは、いつになく緊張した面持ちのまま、ゆっくりと口を開いた。

「ベ、ベースのアリスですっ! 始めまして、本番まで殆ど時間が無かったから、ちゃんと弾けているか、代役が務まっているかどうか不安だけど、瀬一杯頑張るので、みんな思いっ切り演奏するので聞いてくださいっ‼ そして続いては――」

 今度はリシェーラさんへとマイクが回る。

「ドラムのリシェーラよ。本当はあまり乗り気じゃなかったの。実は私、音楽を幼い時からやっていたけど、その時から奏でるのは上手いけど、表現力が足りないってずっと言われていて、だからいい思い出が無くて、だけどそんな私に、もう一度音楽への情熱を取り戻させてくれた男の子と、皆がいて………」

 興奮のあまり、リシェーラさんは息を詰まらせた。
 深呼吸して落ち着かせるリシェーラさんの様子を心配しつつ見守っていると、不意に愛花が肘で小突いてきた。

「情熱を取り戻させてくれた男の子って、宙人の事じゃない?」
「まさか? そんな場面なんて一度も無かったよ?」

 本当に身に覚えがない。リシェーラさんに言った言葉だって、『自分も心の赴くまま』だとか本当に当たり前のことしか言ってないように思える。

「多分、それは愛花の勘違いだよ」
「……朴念仁」

 何でため息交じりに罵られなければならないんだろう。まるで訳が分からない。
 愛花から謂われない罵倒を受けるも束の間、呼吸を整えたリシェーラさんが沈黙を破る。

「その人達のお陰で私は今ここにいる。だからみんなの想いと私の想いを乗せて精一杯演奏させてもらうわ。だからみんな聞いてください」

 偶然、舞台に立つリシェーラさんと目が合った。
 零れるような笑顔を向けるリシェーラさん。

 まさか……流石にそんな筈、ないない。自意識過剰にもほどがある。第一僕が好意を抱かれる理由が分からない。

 続いてキーボードの遥香さんはリシェーラさんから帰ってきたマイクを手に語りだす。

「残念だけど曲は二曲までしか用意できませんでした。ごめんなさい。そしてこの場をお借りして伝えたい事があります。実はボーカル南美が今度転校することに――」

 瞳を涙で滲ませながら、最後に手渡されたマイクを胸に南美さんは大きく息を吸って叫んだ。

「これで最後の曲になりますっ! みなさん聞いてください――」

 南美さんの言葉を合図に始まる最後の演奏。

 ポップで明るい調しらべに乗って、甘酸っぱい女の子の恋心を唄った詩がハートに響いていく。

 再燃する会場の興奮は、再び大地の胎動を呼び起こし、歓喜の声に大気が打ち震える。

 次第に夜の帳が下りていく、けど会場はまるで昼のような活気に満ち溢れ、思わず勘違いしてしまいそうだった。

 舞台の上で音楽に熱中する二人、とても晴れ晴れと熱い笑顔をして、そんな二人の姿が僕には会場のみんなの心を照らす真夜中の太陽に見えた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...