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第二章 パッショナートな少女と歩く清夏の祭り
第39話 蘇る情熱のアプリオリ
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舞台演目が全て終わり、アリスとリシェーラさんと合流した僕達は打ち上げ花火を見ようと芝生の上に腰を下ろす。
「お疲れ様、アリス、リシェーラさん」
僕は二人に買っておいた飲み物を手渡す。二人からは滲み出る汗が釉を塗ったように煌いて、胸元を濡らし、顔は火照ってように赤らんでいて、僕は妙に胸が詰まる。
「ありがとうっ! ちゅーちゃんっ!」
「悪いわね。宙人」
「どういたし――ちょ、ちょっと愛花、省吾っ⁉」
飲み物を渡した僕を押しのけるように、いや実際には押しのけて、愛花と省吾が二人の前に魅を乗り出してくる。
「二人とも凄かったよっ! 私、感動しちゃったっ!」
「俺もですっ! 今も心臓が震えてるっ! 興奮が収まらねぇよっ!」
「大げさだよぅ。それは元々、南美ちゃんたちの作った作詞、作曲が良かっただけ。私達はほんの少し力を貸しただけだよ」
「そうね。アリスの言う通りだわ。でもああいう音楽もあるのね。なんだか随分久しぶりに音楽を楽しんだ気がする」
軽音楽部のみんなは、病院に行く怪我をしたドラムの紗香さん付き添い、また夏風邪を引いてしまったベースの美優さんの見舞いに行くというので祭りを後にした。
そして別れ際。涙ながらに二人に感謝していた。
「軽音楽部のみんな、凄く二人に感謝していたね。ありがとうって」
「うん、凄く嬉しかった。それもちゅーちゃんのお陰だね」
アリスの言葉に耳を疑う。はっきり言って僕は一切何もしていないのだ。それを僕の手柄みたいに言われる理由も分からないけど、そんなことを言われたら軽音部のみんなにとても悪い気がしてならない。
「いや、それはアリスとリシェーラさんが――」
「いいえ、それは違うわ宙人。皆が、そして最後に宙人が私の背中を押してくれたから、あの舞台に立てたの。貴方のお陰でもう一度、私は音楽に対する情熱を取り戻せそうな気がする」
リシェーラさんは自分の過去を語ってくれた。
「私ね。本当は幼い時から打楽器が好きだったの。でも物凄く下手っぴでね。それからいっぱい練習したわ」
星空を眺めながら、幼い頃の日々を思い出すリシェーラさん。その顔はどこか儚げで憂に満ちている。
「練習して、努力して、技術だけなら誰にも負けないってぐらい自信をつけたわ。けどある時、打楽器の先生に言われたの。『貴女の演奏は技術だけで、心が籠っていない。表現力の欠片も感じない』ってね」
リシェーラさんが言うにはもう少しオブラートに包んだ言い方だったけど、先生の言っていることを端的に言うとそういう事らしい。
「でも、今日の演奏、リシェ―ラさんの気持ちが籠っていたよ? 情熱が凄く伝わってきた」
「アリスの言う通りだ。ドラムをたたくリシェーラさんとても生き生きしていた。凄く楽しそうに見えた」
「それは……」
じっと僕の顔を見るリシェーラさん。その顔は紅潮していて、眼差しは何かを訴えてかけてくるようにも見えた。
「やっぱり教えない」
「ふぇ~何で~リシェーラさん教えてよぅ~」
「アリスと宙人には絶対教えないっ!」
「ふぇ~何で~」
悪戯ぽっくリシェーラさんは微笑んで見せる。それからもアリスはリシェーラさんへねだってみるが頑なに拒んだ。
女の子ってホントよく分からないなぁ~
「あらあら、うふふ」
「っ!」
「えっ! ちょっと何? 今の」
「宙人、その頭の上のファイユさん。喋らなかったか?」
完全に油断していたそこへ、僕の頭にいたファイユさんがいつもの調子の「あらうふ」っぷりが発動。
僕とアリスは慌てふためき、ファイユさんの口を塞ぐ。
「えっと、これは――」
「あのね。これはね――」
怪訝な眼差しを向ける省吾と愛花。
ふと僕は妙案を思いつく。
「ああ、そう、これはアリスの腹話術だよ。ねっ! アリス?」
「えっ! えっ、ああっ! うんっ! そうなのっ! 『アラアラ、ウフフ』って、どうかなっ⁉ 上手でしょ⁉」
妙案とはよく言ったものだ。これで僕はバレないと思ったものだ。でも意外にアリスも声色とか結構そっくりだ。これはひょっとしていけるんじゃないか。
「ぷっ――」
僕とアリスが狼狽する様を後ろで眺めていたリシェーラさんが突然吹き出した。
「貴方達って面白いわね。笑ったら何だかお腹空いちゃった。まだ時間があるのよね。ちょっとソラトとアリスの二人で何か買ってきてくれないからしら?」
急に笑い出したかと思えば、今度は何か食べのもの買ってきて欲しいという。一体何なのか、心の浮き沈みが速すぎて訳が分からない。
女心と秋の空とは言うけど、このことを言うのだろうか? きっとどこか違うような気がする。
「別に良いですけど。それなら僕一人で」
「だってソラトは男の子じゃない。どうせ油っこいものばかり買ってくるでしょう? だからそうならないようにアリスが付いて行って欲しいの」
とんだ言いがかりだ。こう見えて僕はあまり運動しなくなった分、油は避けた食生活をしている。
でも、女の子が好きそうなものは少し疎いのは否めない。
「ああ、なるほど、そうい事なら私に任せて下さいっ!」
なんだか乗り気なアリス。さっきのファイユさんの件はこの際棚に上げるけど、リシェーラさんの態度に僕は妙な違和感を覚えた。
でも、その違和感の正体が何なのかよく分からない。
まぁ、いいか。
「お疲れ様、アリス、リシェーラさん」
僕は二人に買っておいた飲み物を手渡す。二人からは滲み出る汗が釉を塗ったように煌いて、胸元を濡らし、顔は火照ってように赤らんでいて、僕は妙に胸が詰まる。
「ありがとうっ! ちゅーちゃんっ!」
「悪いわね。宙人」
「どういたし――ちょ、ちょっと愛花、省吾っ⁉」
飲み物を渡した僕を押しのけるように、いや実際には押しのけて、愛花と省吾が二人の前に魅を乗り出してくる。
「二人とも凄かったよっ! 私、感動しちゃったっ!」
「俺もですっ! 今も心臓が震えてるっ! 興奮が収まらねぇよっ!」
「大げさだよぅ。それは元々、南美ちゃんたちの作った作詞、作曲が良かっただけ。私達はほんの少し力を貸しただけだよ」
「そうね。アリスの言う通りだわ。でもああいう音楽もあるのね。なんだか随分久しぶりに音楽を楽しんだ気がする」
軽音楽部のみんなは、病院に行く怪我をしたドラムの紗香さん付き添い、また夏風邪を引いてしまったベースの美優さんの見舞いに行くというので祭りを後にした。
そして別れ際。涙ながらに二人に感謝していた。
「軽音楽部のみんな、凄く二人に感謝していたね。ありがとうって」
「うん、凄く嬉しかった。それもちゅーちゃんのお陰だね」
アリスの言葉に耳を疑う。はっきり言って僕は一切何もしていないのだ。それを僕の手柄みたいに言われる理由も分からないけど、そんなことを言われたら軽音部のみんなにとても悪い気がしてならない。
「いや、それはアリスとリシェーラさんが――」
「いいえ、それは違うわ宙人。皆が、そして最後に宙人が私の背中を押してくれたから、あの舞台に立てたの。貴方のお陰でもう一度、私は音楽に対する情熱を取り戻せそうな気がする」
リシェーラさんは自分の過去を語ってくれた。
「私ね。本当は幼い時から打楽器が好きだったの。でも物凄く下手っぴでね。それからいっぱい練習したわ」
星空を眺めながら、幼い頃の日々を思い出すリシェーラさん。その顔はどこか儚げで憂に満ちている。
「練習して、努力して、技術だけなら誰にも負けないってぐらい自信をつけたわ。けどある時、打楽器の先生に言われたの。『貴女の演奏は技術だけで、心が籠っていない。表現力の欠片も感じない』ってね」
リシェーラさんが言うにはもう少しオブラートに包んだ言い方だったけど、先生の言っていることを端的に言うとそういう事らしい。
「でも、今日の演奏、リシェ―ラさんの気持ちが籠っていたよ? 情熱が凄く伝わってきた」
「アリスの言う通りだ。ドラムをたたくリシェーラさんとても生き生きしていた。凄く楽しそうに見えた」
「それは……」
じっと僕の顔を見るリシェーラさん。その顔は紅潮していて、眼差しは何かを訴えてかけてくるようにも見えた。
「やっぱり教えない」
「ふぇ~何で~リシェーラさん教えてよぅ~」
「アリスと宙人には絶対教えないっ!」
「ふぇ~何で~」
悪戯ぽっくリシェーラさんは微笑んで見せる。それからもアリスはリシェーラさんへねだってみるが頑なに拒んだ。
女の子ってホントよく分からないなぁ~
「あらあら、うふふ」
「っ!」
「えっ! ちょっと何? 今の」
「宙人、その頭の上のファイユさん。喋らなかったか?」
完全に油断していたそこへ、僕の頭にいたファイユさんがいつもの調子の「あらうふ」っぷりが発動。
僕とアリスは慌てふためき、ファイユさんの口を塞ぐ。
「えっと、これは――」
「あのね。これはね――」
怪訝な眼差しを向ける省吾と愛花。
ふと僕は妙案を思いつく。
「ああ、そう、これはアリスの腹話術だよ。ねっ! アリス?」
「えっ! えっ、ああっ! うんっ! そうなのっ! 『アラアラ、ウフフ』って、どうかなっ⁉ 上手でしょ⁉」
妙案とはよく言ったものだ。これで僕はバレないと思ったものだ。でも意外にアリスも声色とか結構そっくりだ。これはひょっとしていけるんじゃないか。
「ぷっ――」
僕とアリスが狼狽する様を後ろで眺めていたリシェーラさんが突然吹き出した。
「貴方達って面白いわね。笑ったら何だかお腹空いちゃった。まだ時間があるのよね。ちょっとソラトとアリスの二人で何か買ってきてくれないからしら?」
急に笑い出したかと思えば、今度は何か食べのもの買ってきて欲しいという。一体何なのか、心の浮き沈みが速すぎて訳が分からない。
女心と秋の空とは言うけど、このことを言うのだろうか? きっとどこか違うような気がする。
「別に良いですけど。それなら僕一人で」
「だってソラトは男の子じゃない。どうせ油っこいものばかり買ってくるでしょう? だからそうならないようにアリスが付いて行って欲しいの」
とんだ言いがかりだ。こう見えて僕はあまり運動しなくなった分、油は避けた食生活をしている。
でも、女の子が好きそうなものは少し疎いのは否めない。
「ああ、なるほど、そうい事なら私に任せて下さいっ!」
なんだか乗り気なアリス。さっきのファイユさんの件はこの際棚に上げるけど、リシェーラさんの態度に僕は妙な違和感を覚えた。
でも、その違和感の正体が何なのかよく分からない。
まぁ、いいか。
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