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第二章 パッショナートな少女と歩く清夏の祭り
第40話 鏡界を越えた布衣の交わり
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何だかよく分からないまま、僕はアリスと二人っきりで出店を回ることになった。
ついでに省吾と愛花の分も食い物も買ってくるように言われて、立ち上がり様にリシェーラさんから「頑張りなさい」と囁かれた。
ファイユさんを愛花に預ける際にも、何かリシェーラさんと愛花の様子もおかしかった。
愛花の『リシェーラさん。いいの?』という言葉に対して、リシェーラさんは『いいのよ』と言って返すという、何かとても変な会話だった。
何にせよ、リシェーラさんの愛花と同じような言葉に、その時は煩わしく思ったのだけど――
「あっ! これも買って行こうよ。ちゅーちゃんっ!」
「そんなに買って行っても食べ切れないって、っていうか僕の財布が空になりそうだよ」
半ば強引に僕の腕を引っ張るアリスを見ていると、妙に意識してしまう。
僕がアリスに抱いている感情は、尊敬と憧れ。惚れた腫れたの邪な感情は持っていない筈なのに……
これも全部リシェ―ラさんがあんなことを言うからだ。
「どうしたの? ちゅーちゃん? 急に黙り込んじゃって」
「うわぁっ‼」
「うぷさんっ‼」
アリスが急に顔を覗き込んできたので、思わず僕は変な声を上げて仰け反ってしまった。
「びっくりしたなぁもう、急に変な声を上げて、どうしたの?」
「ご、ごめん。大丈夫、うん、僕は大丈夫だ」
「変なちゅーちゃん」
愛嬌のある微笑を浮かべるアリス。不覚にも僕の胸の高鳴りを覚えてしまう。
僕は正直なところアリスの事どう思っているのかと考え事が無い訳じゃない。本当は『恋』をしているんじゃないかとか、それこそ思わず思春期の女の子かって言いたくなるぐらい。
でも、結論はいつも決まって尊敬と憧れ、そして感謝だった。
「なんか、こうしていると『弟』が出来たみたいで嬉しいな」
薄々気付いていたけど、アリスは僕を『弟』みたいなものだとしか思っていない。
実年齢的なものはさておき、経緯は違うけど、同じ灰色の時を過ごし、自殺未遂を犯し、互いに同じ苦悩と苦痛を知っている。
そう思えば、確かに姉弟のようなものと言えるのかもしれない。
「もしかして、子供の頃、アリスは弟とか欲しかった?」
「うん、そうだね。弟でも妹でも、『きょうだい』が欲しかったかな。ちゅーちゃんといると姉弟ってきっとこんな感じなのかなぁ~って」
「まぁ、でも確かに僕も子供の頃、姉には振り回されていたから、そういう意味じゃ、同じような感じかな」
「振り回すなんて、ちゅーちゃんったら酷いなぁ~もうっ!」
「ゴメンゴメン、そういうつもりで言ったんじゃないんだ」
アリスは臍を曲げてしまって、顔を合わせようとしてくれない。
ますいなぁ~ こんなに怒るなんて……初めてだ。
「アリスといると落ち着くというか、気に置けないっていうか、僕もアリスの事『姉』のように感じているっていうか……」
なんでこんなに僕は必死になっているんだろう?
アリスもどういう訳か、肩を震わせて――震わせて?
「もしかして、アリス……」
僕はアリスの顔を覗き込むと、必死に笑いを堪えていた。
「アリス、君という奴は……」
「ごめーん。そんなに怒んないで、二人っきりになるなんてあんまりなかったから、つい燥ぎたくなっちゃったんだ」
悪戯っぽく笑うアリス。本当に笑顔が絶えない『姉』だ。
一緒にいて本当に飽きない。それは多分本当に彼女は毎日が楽しんでいるからなんだろう。自然とこっちまで楽しくなって元気になる。
本当にアリスには敵わないな。
『弟』として揶揄われ、弄られつつ、食べ物を買い溜めした僕とアリスは、そろそろ本当に花火が恥ってしまうので、皆の処への元へ引き返す。
「ちょっとたくさん買っちゃったね。こんなに食べられるかな?」
「まぁ、余ったら野球部部長である省吾が食うから大丈夫だよ」
僕の両腕一杯に抱えられた食べ物の数々を見てアリスは、今さながら不安になっている。
そもそもあれもこれもと買い込んだアリスのせいなのだけれど?
「ゴメンね」
唐突にアリスは沈んだ顔をする。財布にされた事を除けば、別に怒っている訳じゃなかった。
「別に大丈夫だよ。僕も頑張って食べるし」
「そうじゃなくて、愛花ちゃんに自殺未遂のこと話したこと。今更だけどごめんね。勝手にしゃべっちゃって」
なるほど、僕が『野球』という単語を口にしたからか。
正直、それこそもう済んだ話で、それ以前に僕は気にも留めていなかった。
「気にしていないよ。過ぎたことだしね。それ以前にアリスに言われるまでそのことを忘れていたくらいだし、むしろ感謝しているんだ」
「え?」
そう、僕は感謝していた。愛花達との僕が身勝手に作り出した蟠りを解消してくれたこともそうだけど、それ以上に――
「最初の遺跡からの帰り道、君が誘ってくれたおかげで、世界の見方が変わったんだ。自分が見ていたものがほんの一部に過ぎないってことを知ることが出来た。そのおかげで愛花や省吾の僕に対する思いを真正面から受けとめることが出来た。それに……」
「それに?」
「リシェーラさんと出会え、こうして世界を越えてみんなと夏祭りを楽しむことが出来た。アリスの演奏もまた聞くことが出来たしね。だからありがとう」
僕のそれは自然と出たアリスへの心からの感謝の言葉の言葉だった。
ついでに省吾と愛花の分も食い物も買ってくるように言われて、立ち上がり様にリシェーラさんから「頑張りなさい」と囁かれた。
ファイユさんを愛花に預ける際にも、何かリシェーラさんと愛花の様子もおかしかった。
愛花の『リシェーラさん。いいの?』という言葉に対して、リシェーラさんは『いいのよ』と言って返すという、何かとても変な会話だった。
何にせよ、リシェーラさんの愛花と同じような言葉に、その時は煩わしく思ったのだけど――
「あっ! これも買って行こうよ。ちゅーちゃんっ!」
「そんなに買って行っても食べ切れないって、っていうか僕の財布が空になりそうだよ」
半ば強引に僕の腕を引っ張るアリスを見ていると、妙に意識してしまう。
僕がアリスに抱いている感情は、尊敬と憧れ。惚れた腫れたの邪な感情は持っていない筈なのに……
これも全部リシェ―ラさんがあんなことを言うからだ。
「どうしたの? ちゅーちゃん? 急に黙り込んじゃって」
「うわぁっ‼」
「うぷさんっ‼」
アリスが急に顔を覗き込んできたので、思わず僕は変な声を上げて仰け反ってしまった。
「びっくりしたなぁもう、急に変な声を上げて、どうしたの?」
「ご、ごめん。大丈夫、うん、僕は大丈夫だ」
「変なちゅーちゃん」
愛嬌のある微笑を浮かべるアリス。不覚にも僕の胸の高鳴りを覚えてしまう。
僕は正直なところアリスの事どう思っているのかと考え事が無い訳じゃない。本当は『恋』をしているんじゃないかとか、それこそ思わず思春期の女の子かって言いたくなるぐらい。
でも、結論はいつも決まって尊敬と憧れ、そして感謝だった。
「なんか、こうしていると『弟』が出来たみたいで嬉しいな」
薄々気付いていたけど、アリスは僕を『弟』みたいなものだとしか思っていない。
実年齢的なものはさておき、経緯は違うけど、同じ灰色の時を過ごし、自殺未遂を犯し、互いに同じ苦悩と苦痛を知っている。
そう思えば、確かに姉弟のようなものと言えるのかもしれない。
「もしかして、子供の頃、アリスは弟とか欲しかった?」
「うん、そうだね。弟でも妹でも、『きょうだい』が欲しかったかな。ちゅーちゃんといると姉弟ってきっとこんな感じなのかなぁ~って」
「まぁ、でも確かに僕も子供の頃、姉には振り回されていたから、そういう意味じゃ、同じような感じかな」
「振り回すなんて、ちゅーちゃんったら酷いなぁ~もうっ!」
「ゴメンゴメン、そういうつもりで言ったんじゃないんだ」
アリスは臍を曲げてしまって、顔を合わせようとしてくれない。
ますいなぁ~ こんなに怒るなんて……初めてだ。
「アリスといると落ち着くというか、気に置けないっていうか、僕もアリスの事『姉』のように感じているっていうか……」
なんでこんなに僕は必死になっているんだろう?
アリスもどういう訳か、肩を震わせて――震わせて?
「もしかして、アリス……」
僕はアリスの顔を覗き込むと、必死に笑いを堪えていた。
「アリス、君という奴は……」
「ごめーん。そんなに怒んないで、二人っきりになるなんてあんまりなかったから、つい燥ぎたくなっちゃったんだ」
悪戯っぽく笑うアリス。本当に笑顔が絶えない『姉』だ。
一緒にいて本当に飽きない。それは多分本当に彼女は毎日が楽しんでいるからなんだろう。自然とこっちまで楽しくなって元気になる。
本当にアリスには敵わないな。
『弟』として揶揄われ、弄られつつ、食べ物を買い溜めした僕とアリスは、そろそろ本当に花火が恥ってしまうので、皆の処への元へ引き返す。
「ちょっとたくさん買っちゃったね。こんなに食べられるかな?」
「まぁ、余ったら野球部部長である省吾が食うから大丈夫だよ」
僕の両腕一杯に抱えられた食べ物の数々を見てアリスは、今さながら不安になっている。
そもそもあれもこれもと買い込んだアリスのせいなのだけれど?
「ゴメンね」
唐突にアリスは沈んだ顔をする。財布にされた事を除けば、別に怒っている訳じゃなかった。
「別に大丈夫だよ。僕も頑張って食べるし」
「そうじゃなくて、愛花ちゃんに自殺未遂のこと話したこと。今更だけどごめんね。勝手にしゃべっちゃって」
なるほど、僕が『野球』という単語を口にしたからか。
正直、それこそもう済んだ話で、それ以前に僕は気にも留めていなかった。
「気にしていないよ。過ぎたことだしね。それ以前にアリスに言われるまでそのことを忘れていたくらいだし、むしろ感謝しているんだ」
「え?」
そう、僕は感謝していた。愛花達との僕が身勝手に作り出した蟠りを解消してくれたこともそうだけど、それ以上に――
「最初の遺跡からの帰り道、君が誘ってくれたおかげで、世界の見方が変わったんだ。自分が見ていたものがほんの一部に過ぎないってことを知ることが出来た。そのおかげで愛花や省吾の僕に対する思いを真正面から受けとめることが出来た。それに……」
「それに?」
「リシェーラさんと出会え、こうして世界を越えてみんなと夏祭りを楽しむことが出来た。アリスの演奏もまた聞くことが出来たしね。だからありがとう」
僕のそれは自然と出たアリスへの心からの感謝の言葉の言葉だった。
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