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序章 逃げ出した翌日、とある孤独な少女と出会う
第12話 『求む!』 お天気お姉さん!
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「それは残念だったっスね」
あさっての方向に見ながらナキアさんは言う。
「でもパーヴェルのやつとはよくケンカになっけど、仕事はちゃんとやっているぜ?」
自分達が間に合わなかったとき、ほんとに助かっている、と恥ずかしげもなく語った。
花を持たせるつもりはなかったと思う。でも紛れもない事実だ。
「そうですか」満足そうに大佐がうなずく。「小官も聞いていた話よりも人情に厚い方でお会いできて光栄でしたよ」
「そりゃどうも、何を聞いていたかはきかないッスけど」
煙たそうに手をひらひらさせるのを見て、大佐はふっと笑った。
「ところで」急に大佐の眼光の鋭さが増す。「後ろにいるのは、我らの同志ではないかね?」
背中越しにアセナの方が跳ね上がる。
「ああ、街の子でウチの友達です。なんか夜空を見に来たとかで、そしたら運悪く【霊象獣】に出くわして保護したんです」
示し合わせたように適当な作り話をシャルがでっち上げる。
「そうですか」大佐は含みのある微笑を浮かべる。「それは災難だったね」
「んじゃ、そろそろオレ様たちは帰るんで」
「これは失礼した。今回は話を聞けて良かった。ぜひ参考にさせていただく、機会があったらまたお話を聞かせていただきたい」
できれば二度とごめんだ。社交辞令な別れのあいさつに無言で答え、さっさと俺らは退散した。
協会に返ってくると、アセナの横でシャルと俺はテーブルの上に溶けた。
「お疲れ様、みんな、それとナキア、お帰りなさい」
「おう、戻ったぜ。姐さん!」
「ふぁあ~、つかれた~」
「ほんと俺も……」
「戦えるとは言っていたけど……すごいねアセナ」
「ウチもびっくりした。ここまでやるなんて、歩き方からして腕が立つ子だなって前から思ってはいたけど……」
「ん、まぁ……帝国でね」アセナは頬をかく。「やっぱり気づかれていましたか」
「まぁね」とシャルはニカっと笑う。けどすぐに表情が曇り出した。
それこそカウンターで蜂蜜酒を注ぎながらナキアさんが「帝国? んじゃあ、向こうでも予報士をやっていたんか?」と話に乗る間も、シャルの目は遠くにあった。
雰囲気はまるで、今ラジオから流れているノスタルジックなジャズみたいで――やがて曲が終わると、おもむろに口を切る。
「……ごめんね、アセナさん、今まで冷たい態度とっちゃって」
「いえ、こんな素性の知れない私を信じられないのは無理もないですから」
「違うんだ」シャルは首を横に振った。「ウチね、少しうらんでいたんだ」
協会へ出向する前は医師団として紛争現場でケガ人の治療をしていたシャルは、敵国の【蒼血人】にいつしかあまり良い印象を抱いてなかったと打ち明けてきた。
いまでこそ落ち着いたけど、紛争中は【蒼血人】の治療をするのにも抵抗あったんだとか。
「医師団では血の色は関係なくけが人は全員治療する。それは分かっていたんだけどね」
「そうですか」納得したみたいにアセナはほっとした顔する。「そんなことが……」
「でもさ、今までずっと協会の仕事をして、今日分かったんだ」
シャルが物悲しそうな面持ちで顔を上げる。
「【紅血人】にだって悪い奴はいるし、【蒼血人】にもいい人はいるって、血の色とその人の人格は関係ないんだって……」
フッ――とシャルは優しく笑った。それはアセナを励ますものなのか、それとも自己嫌悪からかの自虐かはわからなかったけど。
「そんな――私はいい人なんかじゃ……」
やっぱり病み上がりだからかもな。要領を得ないのはしょうがない。
「にしてもまぁ、ウチに新たな【霊象予報士】が来てくれてうれしいぜ。これで――」
「ちょっと待ってください」アセナが叫ぶ。「まだ私はなるって決めたわけじゃ……」
「え~一緒にやろうよ~」
加わってくれると助かるし、側で守ることもできる。だけど本当にそれでいいのか?
二人の勧誘にくちびるをぎゅっと結んでうつむいて、アセナは思い悩んでいる。
やっぱりこの際だからちゃんと聞くべきなのかな。それとも……。
「ちょっといい、みんな」
静まり返ってしまっていたところに、カサンドラさんが話を切り出した。
「悪いんだけど、少しアセナさんと二人っきりで話しをさせてもらっていいかな?」
ちらっとアセナを見た。彼女は驚くことも口を開くわけでもなく、うつむいたまま。
なんだか込み入った話になりそうな予感。心配だけどここは任せた方がいいのかな。
「んじゃ、三人で飯食いに行くか? 今日はオレ様がおごってやるからよ」
「えっ!? ほんとやったーっ!」
「いや、でもちょっと――」
いいから来いよ。とナキアさんに半ば腕ずくで夜の街へと引きずり出された。
まぁそれが気遣いだって、すぐに理解できたけど。
黄金色の【霊気灯】が照らす夜の繁華街――。
「ナキアの旦那! 帰っていたんかい!」
「おう! ついさっきな!」
「ナキア~たまにはウチによっていってよ~」
「わりぃな、今日は未成年連れてんだ。また今度な!」
すれ違う人から度々声を掛けられ、町の人から人望の厚さがうかがえる。
「そう心配すんなって、姐さんに任せておけば大丈夫だ。悪いようにはしねぇよ」
「ほんとに?」ナーバスにシャルが弱音を吐く。「……心配だよ」
「ま、アンシェルがあの嬢ちゃんを戦わせたくないって気持ちは分かるが、しばらく二人で話し合わせてやれ」
「ナキアさんにはお見通しだね」
「何年の付き合いだと思ってんだぁ? とにかく今日は気分転換にパーッとやろうぜ!」
あさっての方向に見ながらナキアさんは言う。
「でもパーヴェルのやつとはよくケンカになっけど、仕事はちゃんとやっているぜ?」
自分達が間に合わなかったとき、ほんとに助かっている、と恥ずかしげもなく語った。
花を持たせるつもりはなかったと思う。でも紛れもない事実だ。
「そうですか」満足そうに大佐がうなずく。「小官も聞いていた話よりも人情に厚い方でお会いできて光栄でしたよ」
「そりゃどうも、何を聞いていたかはきかないッスけど」
煙たそうに手をひらひらさせるのを見て、大佐はふっと笑った。
「ところで」急に大佐の眼光の鋭さが増す。「後ろにいるのは、我らの同志ではないかね?」
背中越しにアセナの方が跳ね上がる。
「ああ、街の子でウチの友達です。なんか夜空を見に来たとかで、そしたら運悪く【霊象獣】に出くわして保護したんです」
示し合わせたように適当な作り話をシャルがでっち上げる。
「そうですか」大佐は含みのある微笑を浮かべる。「それは災難だったね」
「んじゃ、そろそろオレ様たちは帰るんで」
「これは失礼した。今回は話を聞けて良かった。ぜひ参考にさせていただく、機会があったらまたお話を聞かせていただきたい」
できれば二度とごめんだ。社交辞令な別れのあいさつに無言で答え、さっさと俺らは退散した。
協会に返ってくると、アセナの横でシャルと俺はテーブルの上に溶けた。
「お疲れ様、みんな、それとナキア、お帰りなさい」
「おう、戻ったぜ。姐さん!」
「ふぁあ~、つかれた~」
「ほんと俺も……」
「戦えるとは言っていたけど……すごいねアセナ」
「ウチもびっくりした。ここまでやるなんて、歩き方からして腕が立つ子だなって前から思ってはいたけど……」
「ん、まぁ……帝国でね」アセナは頬をかく。「やっぱり気づかれていましたか」
「まぁね」とシャルはニカっと笑う。けどすぐに表情が曇り出した。
それこそカウンターで蜂蜜酒を注ぎながらナキアさんが「帝国? んじゃあ、向こうでも予報士をやっていたんか?」と話に乗る間も、シャルの目は遠くにあった。
雰囲気はまるで、今ラジオから流れているノスタルジックなジャズみたいで――やがて曲が終わると、おもむろに口を切る。
「……ごめんね、アセナさん、今まで冷たい態度とっちゃって」
「いえ、こんな素性の知れない私を信じられないのは無理もないですから」
「違うんだ」シャルは首を横に振った。「ウチね、少しうらんでいたんだ」
協会へ出向する前は医師団として紛争現場でケガ人の治療をしていたシャルは、敵国の【蒼血人】にいつしかあまり良い印象を抱いてなかったと打ち明けてきた。
いまでこそ落ち着いたけど、紛争中は【蒼血人】の治療をするのにも抵抗あったんだとか。
「医師団では血の色は関係なくけが人は全員治療する。それは分かっていたんだけどね」
「そうですか」納得したみたいにアセナはほっとした顔する。「そんなことが……」
「でもさ、今までずっと協会の仕事をして、今日分かったんだ」
シャルが物悲しそうな面持ちで顔を上げる。
「【紅血人】にだって悪い奴はいるし、【蒼血人】にもいい人はいるって、血の色とその人の人格は関係ないんだって……」
フッ――とシャルは優しく笑った。それはアセナを励ますものなのか、それとも自己嫌悪からかの自虐かはわからなかったけど。
「そんな――私はいい人なんかじゃ……」
やっぱり病み上がりだからかもな。要領を得ないのはしょうがない。
「にしてもまぁ、ウチに新たな【霊象予報士】が来てくれてうれしいぜ。これで――」
「ちょっと待ってください」アセナが叫ぶ。「まだ私はなるって決めたわけじゃ……」
「え~一緒にやろうよ~」
加わってくれると助かるし、側で守ることもできる。だけど本当にそれでいいのか?
二人の勧誘にくちびるをぎゅっと結んでうつむいて、アセナは思い悩んでいる。
やっぱりこの際だからちゃんと聞くべきなのかな。それとも……。
「ちょっといい、みんな」
静まり返ってしまっていたところに、カサンドラさんが話を切り出した。
「悪いんだけど、少しアセナさんと二人っきりで話しをさせてもらっていいかな?」
ちらっとアセナを見た。彼女は驚くことも口を開くわけでもなく、うつむいたまま。
なんだか込み入った話になりそうな予感。心配だけどここは任せた方がいいのかな。
「んじゃ、三人で飯食いに行くか? 今日はオレ様がおごってやるからよ」
「えっ!? ほんとやったーっ!」
「いや、でもちょっと――」
いいから来いよ。とナキアさんに半ば腕ずくで夜の街へと引きずり出された。
まぁそれが気遣いだって、すぐに理解できたけど。
黄金色の【霊気灯】が照らす夜の繁華街――。
「ナキアの旦那! 帰っていたんかい!」
「おう! ついさっきな!」
「ナキア~たまにはウチによっていってよ~」
「わりぃな、今日は未成年連れてんだ。また今度な!」
すれ違う人から度々声を掛けられ、町の人から人望の厚さがうかがえる。
「そう心配すんなって、姐さんに任せておけば大丈夫だ。悪いようにはしねぇよ」
「ほんとに?」ナーバスにシャルが弱音を吐く。「……心配だよ」
「ま、アンシェルがあの嬢ちゃんを戦わせたくないって気持ちは分かるが、しばらく二人で話し合わせてやれ」
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