オタクニートの受難

沖葉由良

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第一章

第四話

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 最初のコンタクトからすれば、最悪だった藤咲との出会いも、今となれば良かったことのように思う。現金かもしれないが、やつのお陰でこうして兄弟とも仲直り(?)できたし、親が俺を見る目も以前より優しくなったように思う。
 藤咲は仕事だからかなんなのか、あの最初のコンタクト以降俺には触れることさえなくなった。べ、別にああいうのを期待してる訳じゃない!わけじゃない…けど…、なんというか、逃げるなと言われて逃げられると、追いたくなるというか…。…これが、リア充の「恋の駆け引き」というやつだろうか…?だとしたら大成功だな…





        *





 俺がバカみたいな考えを巡らせてる間にも時間は過ぎていき、気づけば半日が終わっていた。


「…もう、こんな時間か」


 呟いて、誰もいない部屋を見渡す。俺の部屋には、ベッドと机、洋服ダンスなど、必要最低限のものしか置いていない。というのも、俺がニートだったがゆえ、「自分の食い扶持くらい自分で賄え!」とのお達しで趣味で集めたものをちまちま売り払った結果だ。
 こうしてみると、見て、楽しんでいた頃が懐かしく思えるほどなにもなく、自分の趣味…というか、それに費やしていた時間も金も、他のものに使えばわりと回りが変化して、グッズに埋もれていたのは何も部屋の床だけじゃなかったんだな…としみじみ感じた。


「しかし、来ねぇな…アイツ」


 閉まったまま開くことのなくなった扉を眺めてポツリと呟き、小さくため息なんてついてる自分になぜか笑えてきた。少し前まではアイツが来たらまた何かされやしないかとビクビクしてたっていうのに…。
 俺は机に向き直り、ペンを片手に作業の続きに取り組むことにした。これさえやっていれば何も考えなくて済むからだ。




 シャッシャッと紙の上を走るペンの音を聞きながら、ひたすらに渡された書類をまとめていく。俺はわりとこの作業が好きだった。たぶん、「ニート更正機関」だかなんだかが俺の性格とかを考慮して考えたんだろう。確か、始めにそんなことを言われた気がする。覚えてないが…。
 天井を見上げ、ボーッとしていると、なにやら急に部屋の外が騒がしくなってきた。ちらほらとどこか浮かれてるような姉と妹の声も聞こえ、かと思ったら扉がノックされた。


「兄ちゃん、客」

「え?客…?」

「うん。なんか、…すげぇ美人」

「はい?」


 弟がすごく訝しげな顔をするので俺は心当たりが全くないことを伝えて、渋々部屋を出て、階下にある客間へと向かった。
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