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ユグドラシル初日

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 次の瞬間、俺が目を開けると、森の中に居た。

 どうして、森に・・・
 人里がよかったよ・・・

 などと、色々思うが、取り敢えずは現状の確認を優先する。


 まず俺の服装。

 ☆
 アウターはキャメルのチェスターコート
 インナーはパーカー
 頭に毛糸のニット
 下半身はデニムパンツ。
 靴は黒いシンプルなもの。
 腰にはオシャレなベルトとポーチ

 ☆

 うむ、さっきと同じだ。

 右手首にある銀の腕時計もそのままだ。

 ま、確かに服装の設定とかやってないけど。

 設定したのは顔形、身長、体格とかだけだし。


 ちなみにこれらの設定は
 身長172㎝、(←163cm)
 体格は細身だが筋肉質、(←細身だが筋肉無い)
 肌の色、ホクロもシミも一つもない綺麗な色白肌、(←チャームポイントはそばかす)
 髪はストレートの短い黒紫髪、(←クル毛がコンプレックス。陸上部に居たせいで髪が焼けて茶色になった)
 瞳はダークブルー(←普通に黒)
 優男・・・・(←頼りない男)


 ・・・・・・・悪かったな。
 盛りすぎたよ。
 でも、どうせなら気のすむままにやりたいだろ。
 原形をとどめていないけど、原形何て残したら後悔するだろ。

 うん、俺は悪くない。

 一通り自己正当を終え、次に持ち物の確認にをする。
 ポーチを前に持ってきて、大きいポケットを開けた。
 ポケットの中には、
 ティッシュ、ハンカチ、手帳、筆記用具、手鏡、櫛、香水、虫除けスプレー、コンドーム、美沙へのクリスマスプレゼント、財布、マンションの鍵、飲みかけのドリンク(午後の紅茶)、マイウ棒×2本、チューインガム(残り四つ)、メガネ、スマートフォン、仕事用携帯、本
 が入っていた。

 そこそこ使えそうなものがあったことに満足する。
 一応虫除けスプレーを体にかけ、対策もしておく。
 異世界の虫に効くかどうかは疑問だが、やっておいて損はないはずだ。

 俺は虫除けスプレーをポーチに再び戻した。
 次は、小さいポケットのチャックを開いた。

 右ポケットには愛読本『罪と罰』、左ポケットには輪ゴムとチェスのポーン一つが入っていた。

 ――――無くなっていたチェスの駒が見つかった・・・

 何かの拍子に紛れ込んでしまったのだろう。どれだけ部屋を探し回っても見つからない訳だ。
 若干スッキリした俺は、何となくポーンをポケットに入れ、輪ゴムは元に戻した。

 時計を見る。
 長針は『Ⅺ』に短針は『Ⅵ』を刺している。

 飛ばされる直前に見た時刻が11:20分だから、あれから10分しか経っていないようだ。
 タイムロスなしのワープだったらしい。さすが神だ。ハイスペックだ。
 でもま、

 「この世界とは、結構ずれあるみたいだけど・・・。」

 森の中で若干陰ってはいるが、間違いなく今は昼だ。
 太陽が真上近くにある。

 ちなみに、この世界の太陽は地球と同じようなものではなく、二つあった。

 不思議だと思いながら眺めると、

双子太陽

 という文字がARのように出てくる。

 ん?なんだこれ。
 確かに二個あるけど・・・
 形も大きさもクリソツだけど・・・

 目をこすってもう一度見上げるとやはり『双子太陽』という文字が半透明に浮かんでくる。

 これはあれか?そう言う仕様なのか?

 とか考えながら、目線を動かすと『雲』とか『空』とか色んな文字が浮かんできた。
 この時ようやく俺は、そういやぁ、『鑑定』取ったな!と思い出す。
 本当にゲームみたいだった。


 (けどまぁ・・・。情報が微妙に雑なんだよなぁー。
  見る対象が悪いんだろうか・・・。)

 もっとこう親切に説明してくれるかと思ってたんだが、そうでも無いのかもしれない。
 確かめる意を込めて、自分の手を見てみる。

伊藤 敦
職業 無し
種族 ヴァンパイア Lv.1
Aスキル
『鑑定』『筋力増強(極)』『握力増強(大)』『威圧Lv.1』
Bスキル
『MP補正(極)』『獲得スキルポイント上昇(大)』
収納品
『吸血グローブ』
保有スキルポイント・・・20P

 おおっ!なんかすごい出てきた!
 いや、自分の事だから詳しく出ただけか?
 まあ、どっちでもいいな。
 今の俺は自分の事すらよく知らない天涯孤独の無一文だからな。
 自分の事でも知れるのは有難い!

 もう一度しっかり見てみる。


 伊藤 敦・・・これは俺の名前だ。ヴァンパイアぽく無いけど、慣れ親しんだ名と言うのは妙に落ち着く。

 職業 無し・・・うん、これは仕方ない。気にする事じゃないぞ。
         ハローワークの場所くらいは教えて欲しかったけど・・・
         あるかな?あるといいな。

 種族・・・ヴァンパイア。これは設定通りだ。

 Aスキル・・・『鑑定』『筋力増強(極)』『握力増強(大)』『威圧Lv.1』
 Bスキル・・・『MP補正(極)』『獲得スキルポイント上昇(大)』

 初めて分からない単語が出てきた。
 Aスキル?Bスキル?
 何が違うのだろうか?

 何だろう?と思って、その文字を見つめて見ると

 Aスキル・・・MPを消費することによって発動できるスキル
 Bスキル・・・常時発動のスキル

 てなものだ出てきた。

 予想以上に便利な鑑定君。
 俺は満足げに頷き、この要領でどんどん見ていった。

 収納品は所謂『アイテムボックス』のような、固有の異次元空間に収納されているものらしい。だからポーチに入っている物は出てこなかったのだ。あと、この中では時間と空間が切り離されているため、入れた状態のまま腐ったり錆びたりしないらしい。逆に初めから腐ってるものは腐ったまんまだ。当然だ。

 保有スキルポイントは読んだまんまのもので、今あるのが20P・・・
 これを使おうと意識すると、選ぶスキル一覧が頭になだれ込んできたが、使うのはやめておいた。
 もう少しこの世界の事を知ってからの方がいいだろうからな。

 その後も、鑑定を使いながらいろんなものを見ていく。

雑草・・・何処にでも生えている草。

岩・・・只の岩。

土・・・普通の土。

枯れ葉・・・普通の枯れ葉。

ポプラの木・・・割とどこにでもある木。

ポプラの木はケヤキのような、高木の広葉樹で。
高さは2m~4mくらい。
所々に白い木の実が付いており、形はまんまリンゴだった。

俺はそれを一つ取って、鑑定してみる。
食べれるなら貴重な食糧源になるかもしれない。
期待が高まる。


ポプラの実・・・ポプラの木から取れる木の実。一年を通して取ることが出来るが、味はいまいち。一応食用に入る。毒は無い。

おお?ずいぶんとネガティブな説明が出てきましたよ。
,,
一応食用に入るらしいみたいだが。
これってやっぱヤバいのか?
そんなぎりぎりのライン行くほど、ヤバい食べ物なのか?

正直食指は進まないが、贅沢を言ってられる状況でもない。
それに今、かなり腹減ってるから、美味しく食べられる気がするんだ。

俺は、満を持して、その食べ物を口に入れた。

パクリ


ん?んんん?
何だろうこれ・・・?
決してマズくはないんだが、
美味しくもないんだが、
味がしない。
おまけに磨り潰した豆腐を食べてるような歯ごたえの無さ。
たくさん食べたら腹下しそうな食べ物である。

けどまぁ、不味くはない。
何度も言うがマズくない!


俺はそう結論付けると、もう5,6個ポプラの実を摘まみ取り、『収納ボックス』へと入れた。


――――――――ユグドラシルに来てから一時間経過。
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