3 / 3
それから
1
しおりを挟む
僕が再びロイドに会えてから、20年経った。
竜族は15歳で成人で、誕生日を迎えたその日に僕たちは本当の意味で番になった。
互いの逆鱗を飲ませ今世もオメガだった僕は、項を噛まれる。初めて愛しい人に噛んでもらえたのだ。
今彼は王兄として現竜王の補佐をしている。
そう、ロイドの次に王となったのは、彼の弟のロア。
僕のお兄様が宰相としてロア様を支えているのだ。
長年の牢屋生活と、僕を失ったことによる喪失感で、ロイドはかつての輝きを無くしてしまった。
けれど、再び僕に会えたことでリハビリだと笑い仕事をばりばりとこなしている。
城の騎士たちとも次々手合わせして、この間全員を5分以内に叩きのめしてやったぞ!と満面の笑みで帰ってきていた。
先に言っておくが、この国に住むものは全員竜人である。
竜人は身体能力が遥かに高く、たとえ力が弱い、虚弱だとされているオメガでさえそこらの人間より体力がある。
小さい時の僕がいい例だ。
オメガで幼かった僕でも息切れすることなく、直立の壁をスイスイ登れるのだ。
そしてそれが鍛えられた大人たち数十名を相手に、たった5分。
さすが元竜王。
「…様、奥様!そろそろ中に入って下さいまし。風が冷えてきましたわ、お体にもお腹の子にもよくありません!」
おっと、もうそんな時間か。
侍女のアンリが焦りながら忠告をしてくれたおかげで、やっと空気が冷たくなってきたことに気がついた。
そして…
「もうそろそろで会えるもんね、ありがとうアンリ。」
「いいえ、屋敷の者全員楽しみにしておりますから!」
僕のお腹の中には、新しい命が芽生えている。もう数週間で生まれる予定の子だ。
はち切れんばかりの大きさになったお腹を、ロイドはいつも愛おしそうに撫でる。
彼は、再び僕を失うことを恐れてほとんどこの屋敷から出すことはない。けれど、侍女か執事、護衛の誰かをつけるなら庭まで出ても良いと言われているのだ。
なんでも、この屋敷にいる人間は全員、ロイドによって直接しごかれ…鍛えられた竜人ばかりなのだ。
だからただの侍女に見えても普通の騎士より強い、なんてことはこの屋敷では当たり前だ。
軟禁されてはいるけれど、それで彼が安心するなら僕はそれでいい。家族に会えないわけじゃないし。
……いまだに不思議なのだけど、どうして前世の僕の記憶がロイドに流れたんだろう?
それに、あのとき僕が前世を思い出したことも。
なんか、仕組まれてた…?って思っちゃう。
まあ、過ぎたことを今考えてもどうにもならないけれど。
自室に戻って温かいミルクを飲ませてもらうと、少しうつらうつらとしてきたので、侍女の『少しお眠りになられては?』という言葉に甘えさせてもらった。
ほんの少しだけ、ロイドが帰って来る前には起きておくから…そう自分に言い訳をして夢の中へと飛び立った。
✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
ああ、これは夢だ。
こんなにも自由に空を飛び回ってるなんて。
僕の隣にはロイドがいて、美しい漆黒の鱗が太陽に照らされて朝露に濡れたかのように輝いている。
僕も彼よりは小さいけれど、銀の翼をはためかせて青い空を彼と微笑みながら飛んでいた。
よく見ると、彼の背中にはちょこんと何かが乗っていて、僕たちはそれを愛おしそうに見つめている。
そうか、君は一足先に僕たちに会いに来てくれたんだね。
僕たち家族は、それから色んな国を旅して、山を越えて、空を飛んで。
幸せな…夢。
✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
柔らかく頬を撫でる感触で僕は目を覚ました。
すると目の前に、眦を下げて微笑むロイドがいたのだ。
「あれ…ろい…?おかえりぃ…。」
「ああ。ただいま。ずいぶん幸せそうに寝ていたが、何か良い夢でも見たか?」
ロイドが帰る前に起きようと思ってたのに…。
「うん、ぼくたちがねぇ、このこといっしょにねぇ、そらをとんでたの…。そらをとんで、いろんなところをたびして…。ろいのりゅーかしたすがた、かっこよかったなぁ…。」
寝起きでぽやぽやしながらそう伝えて、ハッと気がついた。
彼が困ったようにこちらを見ていたのだ。
「あっ、別に空を飛びたいわけじゃなくて…!お腹の子とロイで一緒にいられたことがうれしかっただけなの…!」
慌てて弁明するが、彼は苦笑して僕の口に指を当て黙らせた。
「いいよ、わかってる。…私が無理矢理君をここに閉じ込めて…私達の一族は空を飛ぶことに生を見出す種族だから、君にとっては辛いだろうということはわかってるんだ…。」
「ぷはっ、違うよ!僕は前世は人間だからそういう欲はあまりない。でも今世は竜人だから、番を外に出したくないのもわかってる!
それに、ここにいるのは僕が決めたことなの!
決してロイに閉じ込められてるつもりなんて無い!」
僕が大きな声を出したからだろうか、彼は目を大きく開いて驚いているようだった。
そして…やっぱり困ったように微笑んで、
「我が番には敵わないな。」
そう言ってベッドから起き上がった僕を優しく抱き締めた。
竜族は15歳で成人で、誕生日を迎えたその日に僕たちは本当の意味で番になった。
互いの逆鱗を飲ませ今世もオメガだった僕は、項を噛まれる。初めて愛しい人に噛んでもらえたのだ。
今彼は王兄として現竜王の補佐をしている。
そう、ロイドの次に王となったのは、彼の弟のロア。
僕のお兄様が宰相としてロア様を支えているのだ。
長年の牢屋生活と、僕を失ったことによる喪失感で、ロイドはかつての輝きを無くしてしまった。
けれど、再び僕に会えたことでリハビリだと笑い仕事をばりばりとこなしている。
城の騎士たちとも次々手合わせして、この間全員を5分以内に叩きのめしてやったぞ!と満面の笑みで帰ってきていた。
先に言っておくが、この国に住むものは全員竜人である。
竜人は身体能力が遥かに高く、たとえ力が弱い、虚弱だとされているオメガでさえそこらの人間より体力がある。
小さい時の僕がいい例だ。
オメガで幼かった僕でも息切れすることなく、直立の壁をスイスイ登れるのだ。
そしてそれが鍛えられた大人たち数十名を相手に、たった5分。
さすが元竜王。
「…様、奥様!そろそろ中に入って下さいまし。風が冷えてきましたわ、お体にもお腹の子にもよくありません!」
おっと、もうそんな時間か。
侍女のアンリが焦りながら忠告をしてくれたおかげで、やっと空気が冷たくなってきたことに気がついた。
そして…
「もうそろそろで会えるもんね、ありがとうアンリ。」
「いいえ、屋敷の者全員楽しみにしておりますから!」
僕のお腹の中には、新しい命が芽生えている。もう数週間で生まれる予定の子だ。
はち切れんばかりの大きさになったお腹を、ロイドはいつも愛おしそうに撫でる。
彼は、再び僕を失うことを恐れてほとんどこの屋敷から出すことはない。けれど、侍女か執事、護衛の誰かをつけるなら庭まで出ても良いと言われているのだ。
なんでも、この屋敷にいる人間は全員、ロイドによって直接しごかれ…鍛えられた竜人ばかりなのだ。
だからただの侍女に見えても普通の騎士より強い、なんてことはこの屋敷では当たり前だ。
軟禁されてはいるけれど、それで彼が安心するなら僕はそれでいい。家族に会えないわけじゃないし。
……いまだに不思議なのだけど、どうして前世の僕の記憶がロイドに流れたんだろう?
それに、あのとき僕が前世を思い出したことも。
なんか、仕組まれてた…?って思っちゃう。
まあ、過ぎたことを今考えてもどうにもならないけれど。
自室に戻って温かいミルクを飲ませてもらうと、少しうつらうつらとしてきたので、侍女の『少しお眠りになられては?』という言葉に甘えさせてもらった。
ほんの少しだけ、ロイドが帰って来る前には起きておくから…そう自分に言い訳をして夢の中へと飛び立った。
✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
ああ、これは夢だ。
こんなにも自由に空を飛び回ってるなんて。
僕の隣にはロイドがいて、美しい漆黒の鱗が太陽に照らされて朝露に濡れたかのように輝いている。
僕も彼よりは小さいけれど、銀の翼をはためかせて青い空を彼と微笑みながら飛んでいた。
よく見ると、彼の背中にはちょこんと何かが乗っていて、僕たちはそれを愛おしそうに見つめている。
そうか、君は一足先に僕たちに会いに来てくれたんだね。
僕たち家族は、それから色んな国を旅して、山を越えて、空を飛んで。
幸せな…夢。
✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
柔らかく頬を撫でる感触で僕は目を覚ました。
すると目の前に、眦を下げて微笑むロイドがいたのだ。
「あれ…ろい…?おかえりぃ…。」
「ああ。ただいま。ずいぶん幸せそうに寝ていたが、何か良い夢でも見たか?」
ロイドが帰る前に起きようと思ってたのに…。
「うん、ぼくたちがねぇ、このこといっしょにねぇ、そらをとんでたの…。そらをとんで、いろんなところをたびして…。ろいのりゅーかしたすがた、かっこよかったなぁ…。」
寝起きでぽやぽやしながらそう伝えて、ハッと気がついた。
彼が困ったようにこちらを見ていたのだ。
「あっ、別に空を飛びたいわけじゃなくて…!お腹の子とロイで一緒にいられたことがうれしかっただけなの…!」
慌てて弁明するが、彼は苦笑して僕の口に指を当て黙らせた。
「いいよ、わかってる。…私が無理矢理君をここに閉じ込めて…私達の一族は空を飛ぶことに生を見出す種族だから、君にとっては辛いだろうということはわかってるんだ…。」
「ぷはっ、違うよ!僕は前世は人間だからそういう欲はあまりない。でも今世は竜人だから、番を外に出したくないのもわかってる!
それに、ここにいるのは僕が決めたことなの!
決してロイに閉じ込められてるつもりなんて無い!」
僕が大きな声を出したからだろうか、彼は目を大きく開いて驚いているようだった。
そして…やっぱり困ったように微笑んで、
「我が番には敵わないな。」
そう言ってベッドから起き上がった僕を優しく抱き締めた。
11
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
狂わせたのは君なのに
一寸光陰
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
【完結済】どんな姿でも、あなたを愛している。
キノア9g
BL
かつて世界を救った英雄は、なぜその輝きを失ったのか。そして、ただ一人、彼を探し続けた王子の、ひたむきな愛が、その閉ざされた心に光を灯す。
声は届かず、触れることもできない。意識だけが深い闇に囚われ、絶望に沈む英雄の前に現れたのは、かつて彼が命を救った幼い王子だった。成長した王子は、すべてを捨て、十五年もの歳月をかけて英雄を探し続けていたのだ。
「あなたを死なせないことしか、できなかった……非力な私を……許してください……」
ひたすらに寄り添い続ける王子の深い愛情が、英雄の心を少しずつ、しかし確かに温めていく。それは、常識では測れない、静かで確かな繋がりだった。
失われた時間、そして失われた光。これは、英雄が再びこの世界で、愛する人と共に未来を紡ぐ物語。
全8話
大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。
でも貴方は私を嫌っています。
だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。
貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。
貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる