あの子の花に祝福を。

ぽんた

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53.僕の薔薇。

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 そうだよね…こんな往来で、フィルお義兄様のことを『愛している婚約者』なんて…。いくら事実とは言え、赤裸々に言い過ぎた…。

 はっとして慌ててお兄様から離れると…

「そ、その…リード…。僕、まだ休憩時間残ってて…。リードも時間があれば、庭園で話さない?その…最近すれ違いが多かったし…ちゃんと話したいな、って…。」

「…わかった。その…私もすまなかった。感情に任せてあんな事を言ってしまうだなんて。」

 途端に漂う甘い空気。
 僕はほっとしてゆっくりとその場を離れることに成功した。

 あとはお若い2人でごゆっくり~、これルイスの持ってた恋愛小説に書いてあったの。
 こういう雰囲気になったらそう言う場面があったんだよ。

 ちなみにルイス、今はやることがあるみたいで離れてる。代わりに僕からは見えないけど護衛が沢山付いてるんだって。

 さてさて、僕は当初の目的だった図書館に行こう!

 ふふ、仲直りできそうでよかった~。
 お兄様たちが不仲だったら悲しいもんね。

 良いことをした!と、トタトタ廊下を歩き、庭園にそのまま行くことの出来る廊下へと出る。
 その庭園の見えるところには、今日も生き生きと咲く赤い薔薇が。

 とくとくと心臓が鳴るのを感じながら庭へ出て、僕達の象徴を少しの間だけ眺めることにした。









 水やりを終えたばかりなのだろうか。花弁に蜜のような水滴が日に照らされて輝いている。

 僕は―――

 僕たちは。

 僕たちは、薔薇が特別だった。

 理由は単純。僕達の痣が薔薇だから。

 だけど、それがなければ僕たちは運命になんか、なり得なかった。

 あんなに愛しているゼインが、もしかしたら他の人の運命になっていたのかもしれない。

 そんな妄想が心をキツく締め付けるほど恐ろしいもので。

 ゼインの声、熱い手のひら、甘くて蕩けてしまいそうなほど熱い眼差し。

 それが万が一。

 他人のものになっていたら。

 きっと僕は僕でなくなるのだろう。

 ゼインは僕だけの運命。

 僕だけの薔薇。

 僕だけの―――。





「ルカ?」

「ひょわ?!」

 髪を耳にかけていたところ、ひょい、と愛しく思っていたゼインが顔を出す。
 ただいきなりのことだったので、変な悲鳴をあげて盛大に後ろへ飛んでいってしまった。

「ご、ごめん…!そんなに驚くとは思わなくて…!」

 胸を押さえていると、手のひらにドッドッドッ、と心臓の音が直に響いている。
 それにさっきまで頭の中がゼインだらけだったし、居もしない『ゼインの運命だったかもしれない他人』に途轍もない嫉妬をしていたのが恥ずかしくなって、僕の顔は真っ赤だったと思う。

「う、ううん!!ちょっと考え事してたから大袈裟にびっくりしちゃっただけ…!!」

 するとどうだろうか。ゼインは困ったような表情をして額に手を当ててきたのだ。

「ルカ…?顔が真っ赤だよ。今日は天気が良いからね、外に長くいたら体調を崩してしまうよ?」

「ご、ごめんなさい…。その…薔薇があまりにも綺麗だったから…見惚れてたの。」

 もじもじ言う僕にクスリと笑うと、長い金髪を三つ編みにした彼は僕の頬にちゅっ、と音をさせて接吻をした。

「ふふ、わかるよ。私達の証のようなものだものね。昔はそこまで好きではなかったんだ。だけど、ルカと出会ってからは薔薇を見るたびにルカを思い出す。」

 愛しい想いを全面に出しながら薔薇を見つめる彼に、薔薇じゃなくてこちらを見てほしい。なんて我儘なことを思ってしまった。その眼差しは僕だけのものなのに、と。

「…ルカ?ふふ、薔薇に嫉妬したの?その顔は可愛いから…誰にも見せちゃだめだよ…?」

 そ、その顔ってなんだ…!ていうか何で嫉妬したっていうのがわかったんだぁ…!
 妖しく微笑むゼインにまたもや心臓はバクバクとなり、ぽすっ、と彼の胸に飛び込む。
 男らしいけど、どこか魅惑的な彼の香りに包まれて心を落ち着けていった。

「そういえば…もしかして図書館に行く予定だった?いつもこの道を通らないでしょ?どうして?」

  やっぱりゼインは鋭い…。

 僕はさっき起きたことを話すと、彼はお腹を抱えて蹲ってしまった。

「ゼ、ゼイン?!大丈夫?!」

 慌てて駆け寄り背中をさすると、微かに『くっくく…ぐふっ…!』と笑いを抑えている声が聞こえた。

「んもう!そんなに笑うことじゃないでしょ!」

 お兄様達の一大事だったのに!

「っごめん、ごめん…!いやぁ…仲がいいね、二人は。」

 目尻に涙を浮かべながらそう言うと、ゼインは僕を抱っこして立ち上がり、図書館がある方へ。

「あれ?ゼイン、お仕事はいいの?それとも図書館方面に用事?」

 ギクリ…と音が聞こえそうなほど動揺したのが伝わり、僕の口角は急降下。

「ゼイン~?ロバートさん探してるんじゃないの~?こんなことしててもいいの~?」

 首にしがみつき、耳元でコソコソと歌うようにして話す。ついでにマーキングするみたいに首筋にぐりぐりと頭を擦り付けたり、苦しまない程度に力一杯ゼインを抱き締めたり。

 途中からゼインがクスクスと笑うのが聞こえたけれど、遠くから微かにロバートさんの声が聞こえて、てちてち彼の背を叩き知らせる。

「ロバートさんの声が聞こえたよ!ほら、お仕事戻らないと!」

 声はどんどん僕たちの方へ近づいて、周りにいる使用人たちやここで働く貴族であろう人達は、ゼインに抱えられた僕の姿とロバートの声を聞いて色々察した表情をしている。

「…はぁ。仕方ないね、はい。図書館についたよ。休憩時間のときにまた来るから、良い子にしててね?」

 開け放たれた図書館の扉の前にそっと降ろされて、僕は返事をしようとしたが。

「殿下…、今日は休憩なんて無いものとお思いくださいませ…。」

 黒いオーラを背負ったロバートさんがゆらりとゼインの肩から顔を出し、肩に食い込むほどの力で手をかけていたのだ。

 ひっ!と言いそうになったがここは我慢…!お、お…おばけがでたかと…!
 彼の目には隈がくっきりと出ており、今までの激務の様子が伺える。これどれだけ睡眠削ったらこうなるんだ…。

「…わかった、わかったからその手を離してくれ。」

 その一言で降ろすも、じっとりとねめつけるような瞳は絶やさない彼。一転、僕の方へ向き直り柔らかな微笑みを見せてくれるが。

「ルカリオン様、本日殿下はお戻りにならないと覚悟してくださいませ。全てこの王子が悪いので、これを恨んでください。」

 王子を呼ばわりするロバートさん…!

 あわわ…とがくぶるするも、これが二人の日常なのはそばで見てきた僕なのでわかっている。

 でも…、最近ゼインは部屋に帰る時間が遅いんだ。
 笑顔を絶やさないようにしているのは分かる、僕を心配させないために。でも…疲れがにじんでいるのだろう、ふとした瞬間の表情が虚空を見つめているようで。

「ふふ…恨みはしないけど、ちゃんと休憩はしてね?少しだけでも良いから。ロバートさんも隈が酷いから、ちゃんと仮眠を取って。
 …じゃあゼイン、送ってくれてありがとうね!僕ちゃんと一人で帰れるから、心配しないでお仕事しててね!じゃあね!」

 名残惜しそうにこちらを見る彼の瞳を振り切って、僕は目当ての本を探しに本の海へと飛び込んだ。












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