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54.聖者召喚。
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僕はあの後、魔物百科事典を借りて部屋へと帰った。
この頃、妙な胸騒ぎがするのだ。
最近あちこちで魔物の噂を聞くようになって、ゼインが忙しいのは十中八九それが原因だろう。
魔物が辺境の村に現れてほぼ壊滅状態だとか、現れたことのない王都に近い街も、下っ端の魔物が見られるようになったとか。
魔物なんて、僕は一度も見たことがない。温かくてご飯の心配もする必要のない、幸せな世界にいさせてもらっているから。
でも、世の中にはそうじゃない人もいる。
だから、僕になにか出来ることはないかと考えて魔物の本を借りてきたのだ。
彼のいない部屋で、ペラペラと紙をめくる音が響く。
図鑑にはあらゆる異形の魔物達が描かれており、弱点や特徴がまとめてあった。
基本魔物には、身体のどこかに魔石が埋まっている。分かりやすく額についていたり胴体や背中などについている場合は所謂雑魚と言われるもの。
魔石さえ壊せば一発KO、だけどそこを狙わなくてもちゃんと命を狩ることはできるみたい。
ふむふむと読み進めていき、ある文が嫌に目にとまった。
「聖者召喚…?」
図鑑の丸々1ページを使って、昔行われた禁忌魔法について、注意書きのようなことが事細かに書かれていたのだ。
まず、『聖者召喚』とは。
名こそは素晴らしいもののように聞こえるが、その実災厄をばら撒く悪の根源。聖者が召喚された瞬間、魔物の動きが活発になりスタンピードという災害を引き起こす。
召喚には100名もの命を代価とし、招かれるのは異世界の人間。
その人間はこの世界に招かれた時、膨大な魔力量を身につけられるらしい。
そしてその魔力を元に…
「魔王に…変化する…?」
聖者が魔力を使用すれば使用するほど魔王化が進み、最後には自我が埋もれ、代わりに本能が前面に出る。
魔王となった聖者は、世界を破滅しつくさんとする…。
ただし、召喚した者のいる国は世界が終わっても尚、繁栄が約束される。
どういう…ことだ…?
そういえば、おとぎ話で聞いたことがある。
昔々、魔王が人々を苦しめておりました。
人々の大切な物や家族を奪い、それをめちゃくちゃに壊して、泣く人々の顔を見て笑うのです。
ところが、ある一人の若者が剣を片手に魔王へと歯向かいます。
周りの人達は彼まで失いたくないと必死に止めました。ですがその若者は人々を説得し続け、それに心打たれた数人の仲間と共に魔王討伐の旅へと出るのです。
力自慢の格闘家、怪我を治せる僧侶、魔法が得意な魔法使い、そして若者は勇者として。
魔王の元へたどり着いた4人は、力を合わせて無事倒すことが出来ました。
魔王のいなくなった世界は再び平和が舞い戻り、人々は幸せに暮らすことが出来ましたとさ。
これはどこにでもある冒険譚だと思っていた。だけど、これが事実なのだとしたら。
これらのことが最近起きていることと無関係とは思えない。
……ゼインが帰ってきたら言おう。
あ…でも…。疲れて帰ってきてるのに、憶測で心配させるようなこと言っても良いのかな…。
ぐるぐる、ぐるぐると考えていると、扉のノック音で思考が中断された。
『ルカ様、ただいま戻りました。』
ルイスだ!
ルイスならなにか良い案をくれるかも!
「おかえりルイス~!」
ページを開いたままぱたぱたと扉へ迎えに。扉を開くと、そこにはいつもと変わらないルイスの姿が。
「お側を離れてしまい、申し訳ありません。本日はもう予定はないので、ルカ様のお側におれますよ。」
「わ~い!じゃあルイス、ゆっくりしてね!なんか皆最近忙しいみたいで、疲れてるみたいなの。ルイスはちゃんと休憩とってる?無理してない?」
僕の第二の兄とも言えるルイスの手を引っ張り、近くのソファへと座らせる。その隣に僕も座ると、くすくすと笑い声が。
「ふふ、ルカ様、ありがとうございます。私は大丈夫ですよ。それより私に何か聞きたいことがあるのでは?」
な、何でわかった…!!僕そんなに分かりやすいのかな…?!
なんでもお見通しなルイスは、僕が話し出すのを待っているようだ。
「あの…ね…。」
僕は魔物図鑑で読んだことを全て話した。僕の考えも。そしてそれをゼインに話してもいいものかも。
ルイスなら、的確なアドバイスをくれるだろうと思ってたんだ。
「ふふ、ルカ様は思いやりがあるとは思っていましたが、まさかこれほどとは。素晴らしいですね。」
「えへへ…じゃあどうしよう、ゼインには…」
「殿下には言う必要はないと思いますよ。あくまであのおとぎ話は創作されたものですからね。それに…その百科事典に書かれていることも、事実がわかりませんし。異世界からの召喚なんて、あるわけないですよ。」
「ルイス…?」
おかしい。ルイスは僕の話を真っ向から否定するなんてこと、今までなかったもの。
まるで………僕に何かを見せないようにしているみたいだ。
「で、でも…ルイス…。」
「ルカ様。……私、紅茶を入れてきますね。お待ち下さい。」
それ以上の話は無用とばかりに話をそらされ、ルイスは部屋を出ていってしまった。
何か、必死に耐えているような…辛そうな…そんな瞳をして。
僕が手伝ってはいけない仕事を多く抱えているゼイン、何かに近づけないように話をそらしたルイス。
そして、噂になっている魔物たちの活性化。
ルイスに関しては、僕が王宮に来てから傍を離れることが多くなっていた。
一体…一体何が起きているんだ?ゼイン達は、僕に何を隠している?
ざわざわと肌を撫でるような、説明のつかない不快感がそこら中に漂っているようだった。
この頃、妙な胸騒ぎがするのだ。
最近あちこちで魔物の噂を聞くようになって、ゼインが忙しいのは十中八九それが原因だろう。
魔物が辺境の村に現れてほぼ壊滅状態だとか、現れたことのない王都に近い街も、下っ端の魔物が見られるようになったとか。
魔物なんて、僕は一度も見たことがない。温かくてご飯の心配もする必要のない、幸せな世界にいさせてもらっているから。
でも、世の中にはそうじゃない人もいる。
だから、僕になにか出来ることはないかと考えて魔物の本を借りてきたのだ。
彼のいない部屋で、ペラペラと紙をめくる音が響く。
図鑑にはあらゆる異形の魔物達が描かれており、弱点や特徴がまとめてあった。
基本魔物には、身体のどこかに魔石が埋まっている。分かりやすく額についていたり胴体や背中などについている場合は所謂雑魚と言われるもの。
魔石さえ壊せば一発KO、だけどそこを狙わなくてもちゃんと命を狩ることはできるみたい。
ふむふむと読み進めていき、ある文が嫌に目にとまった。
「聖者召喚…?」
図鑑の丸々1ページを使って、昔行われた禁忌魔法について、注意書きのようなことが事細かに書かれていたのだ。
まず、『聖者召喚』とは。
名こそは素晴らしいもののように聞こえるが、その実災厄をばら撒く悪の根源。聖者が召喚された瞬間、魔物の動きが活発になりスタンピードという災害を引き起こす。
召喚には100名もの命を代価とし、招かれるのは異世界の人間。
その人間はこの世界に招かれた時、膨大な魔力量を身につけられるらしい。
そしてその魔力を元に…
「魔王に…変化する…?」
聖者が魔力を使用すれば使用するほど魔王化が進み、最後には自我が埋もれ、代わりに本能が前面に出る。
魔王となった聖者は、世界を破滅しつくさんとする…。
ただし、召喚した者のいる国は世界が終わっても尚、繁栄が約束される。
どういう…ことだ…?
そういえば、おとぎ話で聞いたことがある。
昔々、魔王が人々を苦しめておりました。
人々の大切な物や家族を奪い、それをめちゃくちゃに壊して、泣く人々の顔を見て笑うのです。
ところが、ある一人の若者が剣を片手に魔王へと歯向かいます。
周りの人達は彼まで失いたくないと必死に止めました。ですがその若者は人々を説得し続け、それに心打たれた数人の仲間と共に魔王討伐の旅へと出るのです。
力自慢の格闘家、怪我を治せる僧侶、魔法が得意な魔法使い、そして若者は勇者として。
魔王の元へたどり着いた4人は、力を合わせて無事倒すことが出来ました。
魔王のいなくなった世界は再び平和が舞い戻り、人々は幸せに暮らすことが出来ましたとさ。
これはどこにでもある冒険譚だと思っていた。だけど、これが事実なのだとしたら。
これらのことが最近起きていることと無関係とは思えない。
……ゼインが帰ってきたら言おう。
あ…でも…。疲れて帰ってきてるのに、憶測で心配させるようなこと言っても良いのかな…。
ぐるぐる、ぐるぐると考えていると、扉のノック音で思考が中断された。
『ルカ様、ただいま戻りました。』
ルイスだ!
ルイスならなにか良い案をくれるかも!
「おかえりルイス~!」
ページを開いたままぱたぱたと扉へ迎えに。扉を開くと、そこにはいつもと変わらないルイスの姿が。
「お側を離れてしまい、申し訳ありません。本日はもう予定はないので、ルカ様のお側におれますよ。」
「わ~い!じゃあルイス、ゆっくりしてね!なんか皆最近忙しいみたいで、疲れてるみたいなの。ルイスはちゃんと休憩とってる?無理してない?」
僕の第二の兄とも言えるルイスの手を引っ張り、近くのソファへと座らせる。その隣に僕も座ると、くすくすと笑い声が。
「ふふ、ルカ様、ありがとうございます。私は大丈夫ですよ。それより私に何か聞きたいことがあるのでは?」
な、何でわかった…!!僕そんなに分かりやすいのかな…?!
なんでもお見通しなルイスは、僕が話し出すのを待っているようだ。
「あの…ね…。」
僕は魔物図鑑で読んだことを全て話した。僕の考えも。そしてそれをゼインに話してもいいものかも。
ルイスなら、的確なアドバイスをくれるだろうと思ってたんだ。
「ふふ、ルカ様は思いやりがあるとは思っていましたが、まさかこれほどとは。素晴らしいですね。」
「えへへ…じゃあどうしよう、ゼインには…」
「殿下には言う必要はないと思いますよ。あくまであのおとぎ話は創作されたものですからね。それに…その百科事典に書かれていることも、事実がわかりませんし。異世界からの召喚なんて、あるわけないですよ。」
「ルイス…?」
おかしい。ルイスは僕の話を真っ向から否定するなんてこと、今までなかったもの。
まるで………僕に何かを見せないようにしているみたいだ。
「で、でも…ルイス…。」
「ルカ様。……私、紅茶を入れてきますね。お待ち下さい。」
それ以上の話は無用とばかりに話をそらされ、ルイスは部屋を出ていってしまった。
何か、必死に耐えているような…辛そうな…そんな瞳をして。
僕が手伝ってはいけない仕事を多く抱えているゼイン、何かに近づけないように話をそらしたルイス。
そして、噂になっている魔物たちの活性化。
ルイスに関しては、僕が王宮に来てから傍を離れることが多くなっていた。
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