あの子の花に祝福を。

ぽんた

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55.ブチギレルカ様。

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 結局、あれからの数週間。

 ゼインをはじめに色んな人に魔物の噂を聞いてみたのだ。

 王様、王妃様、ケイジスお義兄様様、エスターお義兄様、母様、父様、お兄様…etc。

 だが、皆一様に口を噤むのだ。困ったように視線を迷わせて、そんな噂は聞いたことがないという。

 そして、ルカくんは気にしなくて良いよ、とも。

 だから僕は―――

「ごめんね、ルイス。それからどこかで見てる護衛さんたちも。」





















 ✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿























 ~ゼインSide~

 ルカが最近色々と勘付いたのだろう、多数の人間に魔物の増加の噂についての話を尋ねて回っているようだ。
 私にも聞きに来た。

『ねぇゼイン…。その、勘違いだったらごめんね?最近…魔物の活性化について噂を聞いてて…。それって、本当?』

 聞いてはいけないことを聞いている時のように、おどおどしてこちらを伺うように話す。

 きっと使用人や文官などが話していたのを聞いてしまったのだろう。
 そしてそれを誰かに聞いたら、私が事前に伝えていたために皆口を噤み…、次第に聞くのがいけないのではないかと思った…というところだろうか。

 魔物の活性化については、あの『聖者』が関わっているためにおいそれとルカに伝えるわけにはいかないのだ。

 ただ…万が一の時のために、根回しをしておいてよかった。ルカは普段のほほんとしているが、実際は賢いし私のこととなると酷く鋭い観察眼を持つ。

 それが嬉しくあるものの…今回はどうか…安全な所にいてほしいと願ってしまうのだ。

 ルイスから聞いたが、ルカはもう『聖者召喚』について本で知ってしまったそうだ。

 なんとかその場は誤魔化したと言っていたが、後日からの聞き込み…。きっと…薄々勘付いているのだろう。

 不穏な気配がする国、『ミヌレ』。

 ルカのもう一人の父であるあの神が私に告げたこと…、密かに王家の影を使い調べたら…。

 本当に聖者を召喚していたとは…。

 いや、あの方を疑っていたわけではないのだ。ただ、どうしても私の目で確かめたかったというものがある。

 以前から魔物が増えているとは思っていたが、召喚されてからは一層増えており、スタンピードが起きて壊滅した村もある。

 フースカやエスター義兄上の母国、ガラノース。他にも様々な国でスタンピードの報告が上がっている。だが唯一魔物の影響もなく急激に豊かになっている国は…ミヌレだった。

 文献の通り、召喚者のいる国は繁栄するらしい。全く…どうしてそこまでして国を繁栄させたいのか。他国と交易したほうが有益だろうに…。

 あれが魔王化する前にどうにか食い止めねばならない。あの方は彼を『闇を詰め込んだような人間』と言った。

 それに幼い子を虐待するような人間だ。

 ならば。

「……殺すか、『タジマルイ』。」

 そう、ひとりごちた時だった。

「どういうこと…?ゼイン…。」

 いるはずのない、守るべき子が目の前に呆然と立っていたのだ。























 ✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿























 ~ルイスSide~

 やられた!

 私は何のためにルカ様に仕えているというのだ!

 この時のために魔道具も付けていたのに何故発動しなかった?!

「くそっ…!くそっ…!ルカ様…!」

 あの時のように意識を失わせるものではなく、眠らせるものではあったが、私を含め部屋の外や屋外で護衛をしている者達まで眠るとは!

 一体何故そんな事が起こりうるのか!

 既に護衛が目を覚まし殿下へ報告しに行ったが…!どうか、どうか無事でいてくださいルカ様…!

 廊下を走り抜けて主を必死に探していると、天井から思いもよらぬ人物が出てきたのだ。

「っ…!あ、あなたは…殿下の…!」

「お久しぶりです、ハチです。ルカリオン様、無事に見つかりました。殿下の執務室にいらっしゃいます。」

 殿下直属の影部隊のハチ様が伝えてくれ、共にそこへ向かうと。

『どうして言わなかったの!!ゼインのバカッ!!』

 バシッ!!

 初めて聞くルカ様の怒号と、何かを叩くような音が聞こえてきた。

「殿下、失礼しますよ。」

 ルカ様が元気そうでよかった…!と安堵したのも束の間、ハチ様は動じずに扉を開いたのだ。

 すると。

 呆然と椅子にもたれ掛かっている殿下と…顔を真っ赤に染めてブチギレ状態のルカ様がそこにいらっしゃった。

「ル、ルカ様…?」

 ぐりん、と振り向いたルカ様はまるで般若の如く。
 こちらに降り注がれる視線は当に死の宣告そのもので、一瞬の瞬きの間にも己の心が砕け散りそうなほどの威力がある。
 ツカツカ歩み寄る、普段は天使の羽音と聞いていたそれも、今やナタを持った鬼が私を今か今かと殺しに来る足音にしか聞こえず。

「ねぇ、ルイス。」

 鈴を転がしたような声音だと思っていたものも、己の死期が走り全速力でこちらに近づくような音に変わり果てていた。

「は、はいっ…」

「僕はさぁ…将来第二王子妃になるの。わかってるよね?」

「はいっ…!」

「ならさぁ…それ相応のやるべきこともあるでしょう?
 僕は皆の上に立って、ゼインと共に将来の王を支えなきゃなの。
 なのにさぁ…守られるだけの妻なんてどこにいるの?いないよね?
 わかってるよ僕が今まだ子供だってことは。
 でもさぁ、僕一人が守られて皆が大変な目にあうのは違うでしょ?
 普通の子供ならそれで良いかもしれないけどさぁ、僕はアーバスノット公爵家の次男なの。そして第二王子の婚約者なの。
 世界が終わるかもしれないってときに、しかも僕がよく知る人間がこの世界に来たってときに、自分だけがぬくぬくと過ごせるわけないでしょうが!
 …僕だって!!何の覚悟もなくゼインの傍にいるわけじゃない!!」

 ルカ様の思いを聞いて、私は目が覚めたような心地だった。

 ルカ様は自分のために誰かが傷つくのを酷く嫌う方だ。

 皆必死にこの純粋な人を守ろうとするばかりに、その方法を取ってしまった。

 まだ誰かが倒れたり傷ついたりした訳では無いが、ルカ様は近いうちに誰かがそうなることを薄々気付いていたのだろう。

 日々帰りが遅くなる殿下に、皆の疲れた顔。ロバート様も目の下に隈ができていた。

 そしてあの噂と、少ししか聞いたことがないが聖者という、前世でルカ様と関係があった悪人。

 聖者のことを知っているのに、守りたいからという理由でただ守られているのは…窮屈で、悲しいのだろう。

 目の前で涙を堪えながら啖呵を切ったルカ様。

 長い間、ずっとお側で見てきたというのに…。

 いつの間にか、大人になられてしまった。

 まだまだ子供らしい所は多い。だが、公爵家の名と、王子の婚約者という肩書が、この方を成長させたのだろうな。

 そう、思っていると。

「っひぐ……っうぅ…!うわあああああん!!ごっ、ごめんなさいゼインっ…!!ぶってっ……!ごめっ、ごめなさっ…!!うええええん!!」

 己が何をしたか思い出したのだろう、未だ呆けている殿下に大泣きしながら謝り近づいていった。殿下はルカ様の泣き声に意識を戻されて、くすりと笑い抱きしめる。

 やはり…まだまだ子供なのでしょうね。

 私はその方が良いと…そのままでいて欲しいと願うのは…、駄目でしょうか。


















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