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3 お茶会
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グラジオラス公爵の後継者問題を解決すべく、父は迅速に行動へ移した。瞬く間に結婚が整ったので母や母の家族は驚いたという。
父が語るには…。純白のウェンディングドレスを纏った母は天使のように清らかで美しく、祖父に伴われ父のすぐ隣りへ立ったときしばらく見惚れたそうだ。
潤いのある肌は陽光に照らされ艶めき、上目遣いの大きな瞳は緊張した父が映しだされていた。温かみのあるブラウンの眼差しは父を認めて細くなる。父は神の前で母と将来を誓えたことを喜んだ。
王太后…。
当時王妃は父の胸中を巣食っていたが、控えめに微笑む母の姿を認めて、王妃との情熱はいつか思い出になるだろうと父は確信した。
その夜の失態は…。
母が父へ離婚を告げるまで、父は知る由もなかったが…。
ともあれ、父と母は初夜を迎え正式に夫婦になったのだった。
「あら…。嫌だ…。いらしたわ…」
「厚顔無恥とはあの方のことを言うのだわ…。よくこの場に来ようと思われましたものね…」
「王妃様、お可哀想…」
王妃のオレリアにお茶会へ招待されたメラニーは王宮へ訪れていた。
断りたい気持ちは山々なのだが、王族からの呼び出しにメラニーが辞退することは出来ない。
お茶会の参加は今回で五度目だ。
「王妃様がいらっしゃるのに…。公爵と結婚なさるなんて、余程、容姿にご自信があるのかしら?」
「田舎でお暮らしでしたでしょ?公爵様とご結婚なされば贅沢できるなんて夢を見たのではありませんこと?」
王妃の取り巻きたちはメラニーへ聞こえるよう嫌味を一様に言う。
そんな場へ誰が好き好んで出席したいなどと思うだろうか…。メラニーは内心辟易していた。
「何てことを仰っているの?グラジオラス公爵夫人は後継者を産むためだけに故郷を捨てて、親しいものもいない王都にいらっしゃるのですよ…。皆さん…。もっと、公爵夫人を労ってくださいませ…」
辺境の地から輿入れしたメラニーへ配慮して、王妃はお茶会へ招いているつもりのようだが、寧ろメラニーにとって針の筵で居心地が悪かった。
「王妃様…。王妃様は容姿が美しいだけでなく、心根も清らかでらっしゃる…」
「それに比べて、公爵夫人の格好をご覧なさい。貧相なドレスだこと…」
「王妃様を拝見なさって…。着飾っても無駄だと諦めてらっしゃるのでは?」
「それにしても…。もう少し場をわきまえてドレスを選ぶべきではありませんこと?」
確かにメラニーは王妃と比べ足元にも及ばない。
レースのあしらわれたラベンダー色のドレスを品よく着こなしているオレリアは、身につけているどの宝石よりも自身が輝きを放ち美しい。
透き通るような玉肌、鼻筋が通った滑らかな輪郭、小さな顔から溢れそうなほどの澄んだ空色の瞳が瞬く。星々を散りばめたかのように艶めく銀色の髪は真っ直ぐ腰まで伸びている。
仄かに赤い唇はふっくらとしており、鈴の鳴るような清らかに響く声音で話す。
シリルと同い年であるはずのオレリアは実年齢よりもずっと若く愛らしかった。
メラニーはといえば、装飾品を身につけることを好まずドレスは質素だ。本日は黄緑色のぼんやりとしたドレスを着ていた。
辺境にあるプブレウム伯爵領は自然豊かで、年頃になってから母に淑女としての教育を叩きこまれたものの、つい最近まで領地を駆け回っていた。
メラニーは汚れても平気で軽やかなドレスで充分だった。無駄に装身具などつけていると重たくて仕方ない。また、どこかに落としてしまいそうで不安だった。
別に華やかで贅沢なドレスをメラニーは否定しているわけではない。綺麗に着飾ったご婦人たちを見るのは嫌いではないし、麗しくて素敵な装いだと思っている。
温室で大切に育てられた美しい大輪の花に魅入られる人もいれば、道端の野草にふと目を留めれば咲いていた可愛らしい花へ癒される人もいる。
メラニーの姿形は後者の花へ分類される。お茶会の場では誰よりも地味だが、人それぞれ輝く場所がある。大草原の太陽の下、メラニーの力強い笑顔はここにいる誰よりも輝いているだろう…。
「ねぇ、貴女もそう思うでしょ?」
不意に黄色のドレスの裾を揺らしているリナリア侯爵家の令嬢が、隣にいる貴婦人へ相槌を促す。それを認めたオレリアは嫋やかに微笑みながらも令嬢を諌めた。
「そんなことを尋ねてはいけません…。グラジオス公爵夫人はブプレウム侯爵夫人の身内なのですから、彼女が困っているではありませんか?」
「王妃様は何とお優しい…。そうは言われましても…。ねぇ?」
王妃のお茶会には王都で交友が少ないメラニーだけでは心許ないだろうとメラニーの兄嫁ベアトリスが呼ばれていた。
ベアトリスは争いごとが苦手で派手なことを好まず、社交界パーティーへ赴くこともなかったのだが、王妃のお茶会となればメラニー同様、格下であるベアトリスが断れるはずもない…。
ベアトリスは内心嫌々ながら、消え入りそうなか細い声で同意した。
「わたく…し…も…そう思います…」
メラニーはベアトリスの横顔を眺めながら気の毒に思った。お茶会へ集う夫人や令嬢たちはメラニーを欠点を粗探して逐一告げては、ベアトリスへ返答を求める。
私がグラジオス公爵家へ嫁がなければお義姉様が巻き込まれることはなかったのに…。
ベアトリスは世間でいう美人ではないが可愛らしい人だ。
メラニーの兄ランスは若くから宰相補佐という重役に就いており、顔立ちもそこそこ男前だ。
辺境の伯爵家を継ぐことが決まっていたため、令嬢たちの結婚相手の候補としては敬遠されても致し方ないのだが、それでもランスは結婚市場で人気が高かった。
社交界で我こそはと群がる令嬢たちに嫌気がさすぐらいには…。
舞踏会で壁の花になって大人しく立っていたベアトリス…。その慎ましい姿にランスは心惹かれ婚約を申し出た経緯がある。
心根の優しいベアトリスはメラニーに対する悪口へ反論したかったが、内向的な性格のベアトリスには難しいことだった。
しかも、周囲は高位貴族ばかりでベアトリスは同意しなければならない雰囲気に流されて泣く泣く頷いていた。
その内、ベアトリスは心の病にかかってしまった。
見舞いに訪れたメラニーへ涙ながらにベアトリスは謝った。メラニーはベアトリス事情を汲んでおり、巻き込んでしまったことへ深く謝罪したのだった。
父が語るには…。純白のウェンディングドレスを纏った母は天使のように清らかで美しく、祖父に伴われ父のすぐ隣りへ立ったときしばらく見惚れたそうだ。
潤いのある肌は陽光に照らされ艶めき、上目遣いの大きな瞳は緊張した父が映しだされていた。温かみのあるブラウンの眼差しは父を認めて細くなる。父は神の前で母と将来を誓えたことを喜んだ。
王太后…。
当時王妃は父の胸中を巣食っていたが、控えめに微笑む母の姿を認めて、王妃との情熱はいつか思い出になるだろうと父は確信した。
その夜の失態は…。
母が父へ離婚を告げるまで、父は知る由もなかったが…。
ともあれ、父と母は初夜を迎え正式に夫婦になったのだった。
「あら…。嫌だ…。いらしたわ…」
「厚顔無恥とはあの方のことを言うのだわ…。よくこの場に来ようと思われましたものね…」
「王妃様、お可哀想…」
王妃のオレリアにお茶会へ招待されたメラニーは王宮へ訪れていた。
断りたい気持ちは山々なのだが、王族からの呼び出しにメラニーが辞退することは出来ない。
お茶会の参加は今回で五度目だ。
「王妃様がいらっしゃるのに…。公爵と結婚なさるなんて、余程、容姿にご自信があるのかしら?」
「田舎でお暮らしでしたでしょ?公爵様とご結婚なされば贅沢できるなんて夢を見たのではありませんこと?」
王妃の取り巻きたちはメラニーへ聞こえるよう嫌味を一様に言う。
そんな場へ誰が好き好んで出席したいなどと思うだろうか…。メラニーは内心辟易していた。
「何てことを仰っているの?グラジオラス公爵夫人は後継者を産むためだけに故郷を捨てて、親しいものもいない王都にいらっしゃるのですよ…。皆さん…。もっと、公爵夫人を労ってくださいませ…」
辺境の地から輿入れしたメラニーへ配慮して、王妃はお茶会へ招いているつもりのようだが、寧ろメラニーにとって針の筵で居心地が悪かった。
「王妃様…。王妃様は容姿が美しいだけでなく、心根も清らかでらっしゃる…」
「それに比べて、公爵夫人の格好をご覧なさい。貧相なドレスだこと…」
「王妃様を拝見なさって…。着飾っても無駄だと諦めてらっしゃるのでは?」
「それにしても…。もう少し場をわきまえてドレスを選ぶべきではありませんこと?」
確かにメラニーは王妃と比べ足元にも及ばない。
レースのあしらわれたラベンダー色のドレスを品よく着こなしているオレリアは、身につけているどの宝石よりも自身が輝きを放ち美しい。
透き通るような玉肌、鼻筋が通った滑らかな輪郭、小さな顔から溢れそうなほどの澄んだ空色の瞳が瞬く。星々を散りばめたかのように艶めく銀色の髪は真っ直ぐ腰まで伸びている。
仄かに赤い唇はふっくらとしており、鈴の鳴るような清らかに響く声音で話す。
シリルと同い年であるはずのオレリアは実年齢よりもずっと若く愛らしかった。
メラニーはといえば、装飾品を身につけることを好まずドレスは質素だ。本日は黄緑色のぼんやりとしたドレスを着ていた。
辺境にあるプブレウム伯爵領は自然豊かで、年頃になってから母に淑女としての教育を叩きこまれたものの、つい最近まで領地を駆け回っていた。
メラニーは汚れても平気で軽やかなドレスで充分だった。無駄に装身具などつけていると重たくて仕方ない。また、どこかに落としてしまいそうで不安だった。
別に華やかで贅沢なドレスをメラニーは否定しているわけではない。綺麗に着飾ったご婦人たちを見るのは嫌いではないし、麗しくて素敵な装いだと思っている。
温室で大切に育てられた美しい大輪の花に魅入られる人もいれば、道端の野草にふと目を留めれば咲いていた可愛らしい花へ癒される人もいる。
メラニーの姿形は後者の花へ分類される。お茶会の場では誰よりも地味だが、人それぞれ輝く場所がある。大草原の太陽の下、メラニーの力強い笑顔はここにいる誰よりも輝いているだろう…。
「ねぇ、貴女もそう思うでしょ?」
不意に黄色のドレスの裾を揺らしているリナリア侯爵家の令嬢が、隣にいる貴婦人へ相槌を促す。それを認めたオレリアは嫋やかに微笑みながらも令嬢を諌めた。
「そんなことを尋ねてはいけません…。グラジオス公爵夫人はブプレウム侯爵夫人の身内なのですから、彼女が困っているではありませんか?」
「王妃様は何とお優しい…。そうは言われましても…。ねぇ?」
王妃のお茶会には王都で交友が少ないメラニーだけでは心許ないだろうとメラニーの兄嫁ベアトリスが呼ばれていた。
ベアトリスは争いごとが苦手で派手なことを好まず、社交界パーティーへ赴くこともなかったのだが、王妃のお茶会となればメラニー同様、格下であるベアトリスが断れるはずもない…。
ベアトリスは内心嫌々ながら、消え入りそうなか細い声で同意した。
「わたく…し…も…そう思います…」
メラニーはベアトリスの横顔を眺めながら気の毒に思った。お茶会へ集う夫人や令嬢たちはメラニーを欠点を粗探して逐一告げては、ベアトリスへ返答を求める。
私がグラジオス公爵家へ嫁がなければお義姉様が巻き込まれることはなかったのに…。
ベアトリスは世間でいう美人ではないが可愛らしい人だ。
メラニーの兄ランスは若くから宰相補佐という重役に就いており、顔立ちもそこそこ男前だ。
辺境の伯爵家を継ぐことが決まっていたため、令嬢たちの結婚相手の候補としては敬遠されても致し方ないのだが、それでもランスは結婚市場で人気が高かった。
社交界で我こそはと群がる令嬢たちに嫌気がさすぐらいには…。
舞踏会で壁の花になって大人しく立っていたベアトリス…。その慎ましい姿にランスは心惹かれ婚約を申し出た経緯がある。
心根の優しいベアトリスはメラニーに対する悪口へ反論したかったが、内向的な性格のベアトリスには難しいことだった。
しかも、周囲は高位貴族ばかりでベアトリスは同意しなければならない雰囲気に流されて泣く泣く頷いていた。
その内、ベアトリスは心の病にかかってしまった。
見舞いに訪れたメラニーへ涙ながらにベアトリスは謝った。メラニーはベアトリス事情を汲んでおり、巻き込んでしまったことへ深く謝罪したのだった。
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