【本編完結】悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。

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第一章

嫌な奴と遭遇

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注文を済ませしばしのち。

机の上にズラリと並ぶ色とりどりのケーキ!
こんなに素晴らしい光景があるだろうか。

「シル、シル! 素晴らしいな! 」

あまりの嬉しさに大興奮の俺。
シルは行儀悪く机に肘をつき、、そんな俺を見て口元をによによさせている。

その甘い視線になんだか急に恥ずかしくなり、言い訳めいたことを口にしてしまった。

「……俺にとって天国みたいな状況なんだ。いいじゃないか。ちょっとくらいはしゃいだって」

「悪いとはいってない。ミルが幸せそうで俺も嬉しい。はしゃいでるミルは可愛いなって思っていただけだ」

「俺の代名詞は『可愛げのない奴』だぞ? シルはちょっと目がおかしい」

「俺にはそう見えるんだからいいだろ? 言わせろよ。俺だってずっと言うのを我慢してきたんだから。もう解禁していいんだろう? 」

「……そんなに見られたら食いにくいだろうが」

唇をとがらせて抗議すれば、シルがとんでもない事を言い出した。

「じゃあ、俺が食わせてやろう。最初はどれがいい? 」

「は? 」

「ミルが好きなイチゴからにしようか? ほら、あーん」

ひょいっと俺からフォークを奪うと、イチゴケーキのイチゴをサクッと刺して俺に差し出す。

「ま、まさかそれを俺に食えというのか? マナー以前の問題だろう! そういうことは赤子や幼児にするものだ! 」

「赤子にするだけじゃないんだけどなあ」

目を優しく細めたシル。それでも止める気はないようだ。

「悪役なら絶対にしない行動だぜ? 悪役をやめるんなら勇気を出してやってみろ! ほら! 」

甘いクリームをまとわせた魅惑的な赤いイチゴを、目の前でゆらゆらと揺らされる。
ツヤツヤと輝くイチゴに真っ白なクリームが途方もなく映えていた。
ああ……

クソっ!

あーん、と小さく口を開けば、キュッとイチゴが中に押し込まれる。

「!!」

美味い! 甘酸っぱいイチゴの果汁が口中に溢れ出た。同時に滑らかなクリームが柔らかく溶けだしてくる。酸味と甘みの素晴らしいハーモニー! 

もっと、と口を開ければ「ふは! 」と笑いながらシルがつぎつぎと口に運んでくれる。

数口食べたところで、今度は濃厚なチョコ。そして次は……
ちょうどいいタイミングでチェンジされては差し出されるケーキ。俺は夢中で口を開け続けた。

「シル! シル! これがいい! 俺はこれが気に入った! 」





「ミルリースか?!」

そこに俺の至福の時間を邪魔するものが現れた。
クソ王子、ルディアスだ。
平民の衣装だというのに、よく気付いたものだ。うざいことこの上ない。
とりあえず知らぬふりを貫いてみよう。

「……どなたですか? 」

首を傾げ、「去れ」という気持ちをのせた氷点下の視線を向ける。
だが敵もさるもの。俺の拒絶をものともせずに近づいてきた。

「まさか、婚約者の顔を見忘れたのか? 」

「私に婚約者などいませんが? 」

あくまでも他人を装う。
せっかくの楽しい時間を邪魔されてたまるか! あがけるだけあがいてやる! 

だが、王子は眉をくいっとあげ、こうのたまった。

「ふざけているのか? ミルリース。そんな服くらいで分からないとでも? 」

そこまで馬鹿ではなかったようだ。残念だ。
俺は大きくため息をついた。
仕方ない。応対するしかないようだ。せっかく楽しんでいたのに、至福の時間が台無しだ。

に何の御用でしょうか? 、気を遣ってわざわざ知らぬふりをして差し上げましたのに」

いつも俺と会っているときに「無駄な時間だ」というくせに、なんなんだコイツは! 
ルディアスのいつものセリフを逆手に取って嫌味を言ってやると、さすがに決まりが悪いとみえ、少しひるんだ。

「そ、それはそうだが……。いや、お前、今日は入学式だぞ! なぜ来なかった! 体調不良で休みと聞いたが、まさかこのようなところでサボっていようとは! 」

心配より先に俺の揚げ足取りか。そこまで俺が気に入らないなら、わざわざ話しかけてくるなよ。

「熱があったのですが、もう下がりましたので。食欲がないので、せめて食べられそうなものをと側近が気を遣ってくれたのです。気晴らしを兼ねて邸から連れ出してくれたのですよ」

「食べられそうなものって……か? 」

意外そうな表情でじろじろと机一杯のケーキを見るルディアス。
悪いか! 何を食おうと俺の勝手じゃないか。

です。悪いですか? 好きなのです」

「嘘をつくな! いつも私との茶会では食べていなかったではないか! レオは喜んで食べていたというのに、お前は不機嫌そうにしていただろうが! 」

食べられなかったのです。父に『女子供の食べるようなものは嫡男にふさわしくない』とおりましたので。それがなにか? あなたに迷惑をおかけしましたでしょうか? 」

「は⁈ 禁止⁈ 意味がわからん! レオは食べていたのに? 」

ああ、そうだよ! レオにはなんだって許して俺にはなんだって許されなかったんだ! それが公爵家なんだよ! 
再度大きくため息をつくことで、何とかいらだちを抑えた。
コイツはどうしてこんなに俺に絡むんだ? 嫌いなら放っておいてくれ。

「では、そういうことで。殿下もお忙しいでしょう? お友達が待っていらっしゃいますよ? 」

さっさと行け、という意味を込めて口だけで笑ってやる。

「ミルリース様は私がしっかりと邸までお連れ致しますので、ご安心を」

タイミングよくシルがクソ王子を促してくれる。

「あ、ああ」

ルディアスはまだ納得しないような顔で、不承不承去っていった。




「なんなんだアイツは。せっかく楽しんでいたのに! 」

怒りに任せマナー無視で紅茶をガブ飲みしてやれば、シルが意味ありげに笑った。

「……俺はなんか分かっちまったけどな? 」

「何が分かったんだ? 
シル! 今度はそれを食う! ムカついたら腹が減った!
ん? その分ケーキがたくさん食えるなら、アイツもいい仕事をしたと言えるのか? 」

「ははは! ミルを怒らせてミルの腹を減らす仕事か! 」

「うるさい! ほら、早く食わせろ! 」

やけになって「あーん」と大口を開けてやる。

「アレがまだ見ているぞ? いいのか? 」

ふん! 

「だから見せてやるんだよ。これは悪役らしくないんだろ? ちょうどいい」

今日はとことん「らしくないこと」をしてやると決めたのだ。記念すべき「俺とシルの新しいスタート」なのだからな! 


結局ケーキは五つ分くらい俺の腹に入った。いや、ちょっと話を盛ってしまった。少なくとも三つ分以上は腹に入っているはずだ。
なぜなら容量オーバーで動けなくなってしまったからだ。情けない。次回は無理をしすぎないようにしよう。

俺が食い散らかした残りを、シルは嫌な顔ひとつせず全部平らげてくれた。
おまけに動けなくなった俺を膝枕でべンチで休ませてくれている。
腹は苦しいが、悪くない気持ちだ。頭を撫でる手も気持ちいい。

こんな風にゆっくりするのは初めてだ。
知らず、口元が緩んでいたようだ。

「良かった。ミル、回復してきたのか? 」

「いや、まだだ。……もうしばらくそうしてくれ」

「ふふふ。いいぜ? 好きなだけしてやる」

うん。悪くない。




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