【本編完結】悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。

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第二章

初めての友達の家

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ジークの案内で邸に。
するとなんと玄関ホールの扉の前に、執事と使用人がずらりと並んで迎えてくれた。

「スノーデン様、お連れ様、ようこそいらっしゃいました。
わたくしはオルフェウス侯爵家執事、セバスチャンと申します。
お待たせしてしまいまして申し訳ございません。
ジーク様をお送り頂きありがとうございます」

「いや、こちらこそ約束もなくすまない。
スノーデン公爵家が長男、ミルリース・スノーデンだ。よろしく頼む。
彼は私の従者で、シリウス・ブレイン」

「シリウス・ブレインと申します。
ジーク様のお言葉に甘えてお邪魔させて頂きました。突然の訪問をお許しください」

「シリウス様は、ブレイン伯爵家の三男でいらしてね、僕の尊敬する先輩でもあるんだ。
皆にもそのように心得てもらいたい」

「承知いたしました。
では、お茶のご用意をさせて頂いております。
どうぞこちらに…」




「残念ながら、家族は領地の視察で留守にしておりまして」と詫びるジークに、俺はほっと息をつく。

「いや、友人の家に訪問するのは初めてだから、少し緊張していたんだ。
こんなことを言ってはいけないのだろうが……お留守だと分かって少し安心した。
お会いするときに備えてシルと練習しておくから、またご挨拶する機会をもらえると嬉しい」

まじめに告げれば、爆笑されてしまった。

「あははは!もう!ミルって、ほんとに最高だ!
何を練習するつもりなの?
ミルリースはそのままで十分だよ。公爵家当主としての教育もきちんとされているんだし、立ち居振る舞いも完璧!何も心配する必要はないと思うけど?」

「そうだといいが。ジーク友人のご家族には好かれたいからな。柄にもなく緊張してしまって余計なことをしでかしそうだ」

「ミルリース様は自己評価が低いんですよ。作法もなにもかも申し分ないのですが。
まあ、こういう真面目なところもミルリース様のおかわいらしいところですけれど。
大丈夫、練習しましょうね?ミルリース様のお好きなだけお付き合いしますよ?」

「うん。よろしく頼む」

俺とシルのやりとりに、ジークがうわあ、と苦笑した。

「ミルってほんとうにシル先輩が大好きだよねえ。
そりゃこれだけ大事にされてたらそうなるのか……」

「シルは大切な家族だからな」

「ミルは私の大切な人ですからね」

「うーん…。同じようなセリフなのに微妙に違うんだよね……。まあ、二人が幸せならいいか」

ところでこれ飲んでみて、とジークは手ずからお茶を淹れてくれた。

実は、先ほどからポットからは甘い香りが漂っているので気になっていたんだ。
ベースは確かにアールグレイなのだが……何だろう?
見た目は紅茶そのものだ。
しかし、フルーツの甘やかな香りが漂っている。

「ミルはこれ好きだと思うんだ。
飲めばわかると思うよ。飲んでみて?」

「!!甘い!これは……りんごか?」

「正解!」

パチンと片目をつぶるジーク。

「ミルも甘いものが好きでしょう?だから絶対気に入ると思ったんだ。
それで寄ってもらったんだけど……どう?気に入った?」

「ああ!凄く気に入った!なぜ紅茶からりんごの香りと味がするんだ?」

それはね…、とポットを開けて見せてくれた。

「!茶葉と一緒にリンゴの皮を入れているのか!これはまた…!」

「少し厚めに果肉を残して皮をむくんだ。それがポイントだね。
紅茶だから、甘いけどさっぱりするでしょ?
パンケーキと相性がいいんだ。
でも、今はきっとお腹いっぱいではいらないよね。
帰ったらまた試してみて?お土産に渡すから」

「ありがとう。楽しみだ」

シルも「わかりました」と頷く。
凝り性のシルのことだ。最高の紅茶とパンケーキを用意してくれるに違いない。



その日は美味しいお茶を頂き、お土産にとそのお茶の葉だけでなくりんごまで頂いてしまった。
ジークの領地の名産なのだそうだ。心遣いが嬉しい。

じゃあね、と門まで見送ってくれたジークは、俺たちが見えなくなるまで手を振ってくれた。

明日会えるのにやはり別れるのは少し寂しいな。
こんな感情を抱くのも初めてで、その寂しさがなんだか面はゆい。
寂しいのに何故か胸はぽかぽかしている。

「…楽しかったな」

満足げにため息をつく俺の頬をシルが優しく撫でた。

「今日は色々なことがあったみたいだな。いい友達ができて良かった。
とても美味しいお茶だったな、ミル。
お土産にもらったから、帰ったらすぐに淹れてやろうか?」

少し冷たいシルの体温が火照った頬に気持ちいい。
俺は思わずシルの手を掴むとそのまま頬を摺り寄せてしまった。

「ふふ。取り繕うのをやめてから、甘えん坊が増してないか?」

「シルが甘やかすからいけないんだ。
ついでにわがままも聞いてくれ。
帰るのはもう少し後でもいいか?
せっかくの最高の一日なんだ。家で嫌な顔を見ながら食事するなんて御免だ」

「確かにな。どうする?」

「マージの店に寄っていこう!
買い付け用のリストを作った。渡しておきたい。
それに……せっかくだ、アルを誘って打ち合わせもかねて食事、というのはどうだろうか?」

「ははは!そりゃあいい!あいつも喜ぶぞ?
じゃあ公爵家に遣いをやろう。しばらく勉強会で帰りが遅くなるから食事は家族とは別にする、ってな。
それでいいか?」

「ああ!それがいい!
……実はな。街に拠点となる邸を借りたい。
それもアルに相談しようと思うんだが、どう思う?」

いくらなんても気が早いと笑うだろうか?
でもどうせなら「自分の家」が欲しい。
シルと俺が暮らす家。
公爵家のように財力を見せびらかすような邸ではなく、寛げる温かな邸が。

「気が早いな。だが、いいと思うぞ?
お前には、あんな屋敷より新しい『家』が必要だ。
どんな場所がいいとか、邸の希望はあるか?」

「ゆくゆくは一階を店に、上を居住区としたい。だから商業地区。
しかし、ある程度の広さが欲しい。家賃を考えると、メインストリートではなく数本離れた場所がいいだろうな。
三階建てで、最上階を私室に、二階は食堂、談話室、応接室。一階を店舗兼事務所にしたい。
倉庫は別に借りようと思う」

「ははは!もう借りる気満々じゃないか!
じゃあ、徐々にそっちに荷物を移すか?いつ廃嫡させてもいいように」

「ああ、それがいい。早く廃嫡させたいものだな!」

話をしているうちにワクワクしてきた。

「なあ、楽しみだな、シル!」

「そうだな!楽しみだ!」


前に見たアルとシルのやつを真似て、「ほら」と手のひらをシルに向けて出す。

パアン!

手を打ち合わせたいい音が響く。

「あははは!楽しい!」

少し前までは、耐え忍ぶ未来しか見えなかったのに。
地位も血の繋がった家族も婚約者も、全てを捨てる決意をしたら、その先には楽しみしかなかった!







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