37 / 164
第二章
翌日
しおりを挟む
昨日はあのまま風呂にも入らず泣き寝入りしてしまったようだ。
パチリと早朝に目が覚めた。
「⁈」
シルが横で俺を抱きしめるようにして眠っている。
驚きすぎて心臓が飛び出るかと思った。
俺は慢性的に睡眠が足りていないため、基本的に体温が低く朝の目覚めも悪い。
なのに昨晩はポカポカと心地よく、夢も見ずにぐっすりと眠ることができた。
それはどうやらシルのおかげだったらしい。
こうしてみると、こいつは無駄に顔がいいな。キリリと凛々しい目元。口角の少し上がった唇はスッキリと爽やかだ。
起こさぬようそっと形の整った鼻のラインをなぞってみた。
ふふふ。
俺もこんな顔なら別の人生があったのかもしれない。
なんだか起きてしまうのがもったいなくて、シルの腕の中にまた潜り込む。
すり、と胸元に頬を擦り寄せてみた。
うん、シルの匂いだ。なんだかとても安心する。
すると寝ぼけたシルが、無意識なのかぎゅうっと俺を抱きしめた。
温かい。なんて気持ちがいいんだろう。
幼い頃、俺の頭を撫でて抱き締め、夜寂しい時にはこっそり一緒に寝てくれた。
そんなシルが「ミルリース様」と俺から距離を置きだしたのはいつだったか。
寂しさを感じながらも、仕方がないのだと諦めていた。
だが、俺はずっとこの腕が恋しかったのだ。
気がつけば二度寝してしまっていたようだ。
「ミル。起きろ。学校に行く前に風呂に入ろうな?」
優しいシルの声で目が覚めた。
泣き寝入りしてしまった顔はさぞかしみっともないことになっているだろうと思ったが、寝ている間にシルが拭いてくれたのか、スッキリさっぱりとしている。
「……ついでに身体も拭いてくれればよかったのに」
らしくもないわがままを言ってしまったのは、目覚めた時につい「なんでシルは横にいないんだ」と思った恥ずかしさからだ。
俺の侍従なのだから俺より早く起きて支度してくれるのは当たり前のことなのに。
八つ当たりのようにむちゃなことを言われたシルはといえば、困ったように笑った。
「さすがに眠る子にそんな無体は、なあ?」
「?俺がいいと言ってるんだから、無体じゃないぞ?」
シルにされて嫌なことなどないのだから。
「うーん。そっちはあえて誰も教えてこなかったからなあ……。まあ、おいおい、な?」
と訳のわからないことを言われ、頭をくしゃくしゃにされた。
「こ、こら!」
「まあまあ、どうせ風呂に入るんだ。いいだろ?」
そのままヒョイっと抱き上げられてしまう。
「うわあっ!な、なんだ?」
いきなり宙に浮いた身体に驚き、慌ててシルにしがみつく。
「お姫様、お詫びにこのシルが風呂まで運んでしんぜましょう」
言葉どうり、まるで姫のように横抱きでバスルームに運ばれた。
「服は自分で脱げるか?」
聞いたくせに、優しい手つきでボタンを外してくれるシル。どうやら俺を甘やかしてくれるつもりのようだ。
貴族は使用人に全て世話をして貰うのが当たり前とされる。
だが、俺はシル以外そばに置かなかったから、シルが全てやることになる。
シルひとりに負担を負わせるのが申し訳なくて、俺は着替えも風呂もひとりですることにしているのだ。
少し恥ずかしいが、甘やかしが嬉しくてされるがままに大人しくしている。
そのまま風呂に入れられ頭と身体を洗われた。
柔らかく触れる指先はとても優しく、温かい。
あまりの心地よさにまた眠ってしまいそうになる。
「ふわぁ」
思わずあくびを一つ。
「こーら?寝るなよ?」
ちょん、と鼻の頭に泡の塊を乗せられた。
お返しにシルの鼻にも泡をつけてやる。
「ほら、ミル。大人しくしなさい」
「はーい。シルはお兄様というより……母親のようだな」
クスクスと笑えば「まいったなあ!そっちか!」とシルがガクリと項垂れた。
「いや、うちの母上のことではないぞ?一般的な、優しい母親のほうだ」
慌ててフォローしたのだがよほどショックだったのか一人でぶつぶつ言っている。
「うん、分かってた。ミルってば無意識に甘えてくるから、期待しちまったが……やっぱまだミルには早かったか……」
またしても
「おいおい覚えていこうな?」
と優しい顔で頭を撫で回された。
勉強以外にも覚えることが沢山ある。楽しみだ!
と、コンコンと部屋の扉がノックされた。
「ミルリース様、失礼致します。
お食事はどうなさいますか?」
使用人が朝食の確認に来た。これまで「家族で食堂で食べるのが当然」だとわざわざ聞かれたことなど無かったのに。
どこか怯えたような強張った声音から察するに、昨晩アルバートに理解させた結果なのだろうか?
全く変わり身が早いことだ。
扉に向かおうとするシルを腕を掴むことで引き留め、風呂から大声で返事を返す。
行儀?知ったことか!
「食事は全て部屋でとる。今後はシリウスと2人分、部屋の前まで運ばせてくれ!」
「かしこまりました。では、出来次第食事をお持ちいたします。失礼いたします」
厄介ごとが片付いた俺は、ご機嫌でシルを見上げた。
「さあ、朝食は取りに行く必要はない。ここまで運んでくれるぞ?
これでシルにも時間ができたな?
シルも一緒に風呂に入れ。命令だ」
「はあ⁈」
「俺もシルを洗ってやる。ほらほら!」
パチリと早朝に目が覚めた。
「⁈」
シルが横で俺を抱きしめるようにして眠っている。
驚きすぎて心臓が飛び出るかと思った。
俺は慢性的に睡眠が足りていないため、基本的に体温が低く朝の目覚めも悪い。
なのに昨晩はポカポカと心地よく、夢も見ずにぐっすりと眠ることができた。
それはどうやらシルのおかげだったらしい。
こうしてみると、こいつは無駄に顔がいいな。キリリと凛々しい目元。口角の少し上がった唇はスッキリと爽やかだ。
起こさぬようそっと形の整った鼻のラインをなぞってみた。
ふふふ。
俺もこんな顔なら別の人生があったのかもしれない。
なんだか起きてしまうのがもったいなくて、シルの腕の中にまた潜り込む。
すり、と胸元に頬を擦り寄せてみた。
うん、シルの匂いだ。なんだかとても安心する。
すると寝ぼけたシルが、無意識なのかぎゅうっと俺を抱きしめた。
温かい。なんて気持ちがいいんだろう。
幼い頃、俺の頭を撫でて抱き締め、夜寂しい時にはこっそり一緒に寝てくれた。
そんなシルが「ミルリース様」と俺から距離を置きだしたのはいつだったか。
寂しさを感じながらも、仕方がないのだと諦めていた。
だが、俺はずっとこの腕が恋しかったのだ。
気がつけば二度寝してしまっていたようだ。
「ミル。起きろ。学校に行く前に風呂に入ろうな?」
優しいシルの声で目が覚めた。
泣き寝入りしてしまった顔はさぞかしみっともないことになっているだろうと思ったが、寝ている間にシルが拭いてくれたのか、スッキリさっぱりとしている。
「……ついでに身体も拭いてくれればよかったのに」
らしくもないわがままを言ってしまったのは、目覚めた時につい「なんでシルは横にいないんだ」と思った恥ずかしさからだ。
俺の侍従なのだから俺より早く起きて支度してくれるのは当たり前のことなのに。
八つ当たりのようにむちゃなことを言われたシルはといえば、困ったように笑った。
「さすがに眠る子にそんな無体は、なあ?」
「?俺がいいと言ってるんだから、無体じゃないぞ?」
シルにされて嫌なことなどないのだから。
「うーん。そっちはあえて誰も教えてこなかったからなあ……。まあ、おいおい、な?」
と訳のわからないことを言われ、頭をくしゃくしゃにされた。
「こ、こら!」
「まあまあ、どうせ風呂に入るんだ。いいだろ?」
そのままヒョイっと抱き上げられてしまう。
「うわあっ!な、なんだ?」
いきなり宙に浮いた身体に驚き、慌ててシルにしがみつく。
「お姫様、お詫びにこのシルが風呂まで運んでしんぜましょう」
言葉どうり、まるで姫のように横抱きでバスルームに運ばれた。
「服は自分で脱げるか?」
聞いたくせに、優しい手つきでボタンを外してくれるシル。どうやら俺を甘やかしてくれるつもりのようだ。
貴族は使用人に全て世話をして貰うのが当たり前とされる。
だが、俺はシル以外そばに置かなかったから、シルが全てやることになる。
シルひとりに負担を負わせるのが申し訳なくて、俺は着替えも風呂もひとりですることにしているのだ。
少し恥ずかしいが、甘やかしが嬉しくてされるがままに大人しくしている。
そのまま風呂に入れられ頭と身体を洗われた。
柔らかく触れる指先はとても優しく、温かい。
あまりの心地よさにまた眠ってしまいそうになる。
「ふわぁ」
思わずあくびを一つ。
「こーら?寝るなよ?」
ちょん、と鼻の頭に泡の塊を乗せられた。
お返しにシルの鼻にも泡をつけてやる。
「ほら、ミル。大人しくしなさい」
「はーい。シルはお兄様というより……母親のようだな」
クスクスと笑えば「まいったなあ!そっちか!」とシルがガクリと項垂れた。
「いや、うちの母上のことではないぞ?一般的な、優しい母親のほうだ」
慌ててフォローしたのだがよほどショックだったのか一人でぶつぶつ言っている。
「うん、分かってた。ミルってば無意識に甘えてくるから、期待しちまったが……やっぱまだミルには早かったか……」
またしても
「おいおい覚えていこうな?」
と優しい顔で頭を撫で回された。
勉強以外にも覚えることが沢山ある。楽しみだ!
と、コンコンと部屋の扉がノックされた。
「ミルリース様、失礼致します。
お食事はどうなさいますか?」
使用人が朝食の確認に来た。これまで「家族で食堂で食べるのが当然」だとわざわざ聞かれたことなど無かったのに。
どこか怯えたような強張った声音から察するに、昨晩アルバートに理解させた結果なのだろうか?
全く変わり身が早いことだ。
扉に向かおうとするシルを腕を掴むことで引き留め、風呂から大声で返事を返す。
行儀?知ったことか!
「食事は全て部屋でとる。今後はシリウスと2人分、部屋の前まで運ばせてくれ!」
「かしこまりました。では、出来次第食事をお持ちいたします。失礼いたします」
厄介ごとが片付いた俺は、ご機嫌でシルを見上げた。
「さあ、朝食は取りに行く必要はない。ここまで運んでくれるぞ?
これでシルにも時間ができたな?
シルも一緒に風呂に入れ。命令だ」
「はあ⁈」
「俺もシルを洗ってやる。ほらほら!」
3,438
あなたにおすすめの小説
おしまいのそのあとは
makase
BL
悪役令息として転生してしまった神楽坂龍一郎は、心を入れ替え、主人公のよき友人になるよう努力していた。ところがこの選択肢が、神楽坂の大切な人を傷つける可能性が浮上する。困った神楽坂は、自分を犠牲にする道を歩みかけるが……
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
【8話完結】勇者の「便利な恋人」を辞めます。~世界を救うより、自分の幸せを守ることにしました~
キノア9g
BL
「君は便利だ」と笑った勇者を捨てたら、彼は全てを失い、私は伝説の魔導師へ。
あらすじ
勇者パーティーの万能魔術師・エリアスには、秘密があった。
それは、勇者ガウルの恋人でありながら、家事・雑用・魔力供給係として「便利な道具」のように扱われていること。
「お前は後ろで魔法撃ってるだけで楽だよな」
「俺のコンディション管理がお前の役目だろ?」
無神経な言葉と、徹夜で装備を直し自らの生命力を削って結界を維持する日々に疲れ果てたエリアスは、ある日ついに愛想を尽かして書き置きを残す。
『辞めます』
エリアスが去った翌日から、勇者パーティーは地獄に落ちた。
不味い飯、腐るアイテム、機能しない防御。
一方、エリアスは隣国の公爵に見初められ、国宝級の魔導師として華麗に転身し、正当な評価と敬意を与えられていた。
これは、自分の価値に気づいた受けが幸せになり、全てを失った攻めがプライドも聖剣も捨てて「狂犬」のような執着を見せるまでの、再構築の物語。
【勇者×魔導師/クズ勇者の転落劇】
※攻めへのざまぁ要素(曇らせ)がメインの作品です。
※糖度低め/精神的充足度高め
※最後の最後に、攻めは受けの忠実な「番犬」になります。
全8話。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜
明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。
その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。
ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。
しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。
そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。
婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと?
シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。
※小説家になろうにも掲載しております。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる