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第三章
ルディアスの謝罪、そして公爵との最後
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静けさを破ったのは、ルディアスだった。
彼は沈痛な表情で俺に頭を下げた。
王族の彼が、あのいつも不遜な態度で俺を見下していた彼が、俺に頭を下げたのだ。
「……謝ってすむことではないが、謝らせてほしい。すまなかった。申し訳なかった。
お前がどんな扱いをされているのかも気づかず、お前の前でのうのうとレオリースを褒め、お前を貶めた。
私も彼らと同じだ。お前に愛されたいと願いながらそれを素直に出せず、その苛立ちをお前にぶつけていた。
お前につらく当たりながら、お前が私に助けを求めないことを不満に思っていた。
レオリースとの噂も知りながら、お前がヤキモチを妬いてくれるのでは、とそれを放置していた。甘かった。不遜だった。
私の愚かな行動をあげだせばきりがないな」
ふっと切ない笑みを見せる。
「高等部に入りレオリースが居なくなればチャンスだと思っていた。お前と二人になれば素直に気持ちが伝えられるのではないかと。これまでのことを謝罪してお前とまた向き合えるのではないかと……そんな安易で都合のいいことを考えていたのだ。
だが、もう私との結婚はありえないということを理解した。私は……それだけ酷いことをしていたのだな。
もう一度言おう。本当にすまなかった」
「今のお前は、幸せそうだ。……よき居場所をみつけたのだな。
私は……お前との婚約破棄を受け入れる。
公爵にはこれ以上お前を利用させぬ。公爵が除籍を認めぬなら、私が証人となろう。父にかけあい除籍を認めさせる。それでいいか?」
通じた、と思った。
俺の言葉がまったく通じなかったルディアスに、初めて俺の言葉が届いた。
そしてルディアスの言葉も俺に届いた。
もうルディアスに関してはこれでいいと思った。
最初の出会いだけで彼を締め出したのは俺も同じだ。
俺の彼に対する気持ちは「諦め」でしかなく、シルに対するような気持ちを抱けなかった。
ルディアスにもそれは伝わっていたのだろう。だからルディアスもムキになっていたのだ。
もう少し早く、お互いに心を割って話し合ってさえいれば何か変わったのかもしれない。
「ああ。それでいい。よろしく頼む、ルディアス」
うむ、と目を細めるルディアス。
「また私の名を呼んでくれたな。……ありがとう」
泣きそうな声だった。
そしてルディアスは打って変わって厳しい視線を公爵に投げかける。
「……公爵にはこれまでの責任を取らせるつもりだ。
少なくとも、公爵が暴力を振るった際にはミルリースはまだ私の婚約者だ。
王族の婚約者を虐げ、貶め、暴力を振るった罪は重いぞ。覚悟しておくとよい」
公爵は急に小さくなったように見えた。
いつも若作りしている夫人も、一気に10は老けたように見える。
2人とも力を失ったように目を見開いて茫然としていた。
俺はそんな公爵たちに頭を下げた。
「これまで育てていただきありがとうございました。衣食住を与えてくださったことには感謝いたします。
今後は私のことは他人だとお思いください。私もそう致しますので。
私は今日このままシルと家を出ます。
除籍届につきましては、後日改めてサインしにまいりますので、ご用意のほどを。
では、失礼いたします」
「!!どこに行くというのだ!一人で生きていけるものか!
世の中はそこまで甘くはないのだぞ?」
「新居は既に用意してあります。
今後のことはご心配なく。すでに私は商会の運営を始めております。全て手筈は整えておりますので」
にっこりと告げる。
「……全て手回し済みということか……」
公爵はガクリと項を垂れたのだった。
「ルディアス、ではまた学校で。
これからは単なる知り合いとしてよろしく頼む」
「ああ。……知り合いとしてな。せめてもの詫びに、除籍後も学校に通い続けられるよう手配しよう。
君の幸せを祈る。ミルリース」
俺の背に「僕はどうなるの?ねえ?」という声がしたが、それに応えるものはいなかった。
俺は自分で自分の進退を決めた。レオリースもそうすればいい。それだけだ。
部屋で最後の荷物をまとめる。
これでも15年暮らした部屋だ。この部屋にはシルとの思い出がたくさんある。
「なあ、この柱のキズ覚えてるか?」
「毎年ミルの誕生日に身長を測って刻んだやつだな。……ずいぶん小さかったんだなあ……」
「シルがここに刻んでくれるたびに、家族みたいだなと嬉しかった。
この柱……削って持ってはいけないか?」
「それは無理だが……新居でもやろうぜ?これからのミルを刻もう」
最後の身長を測って刻む。これが最後のキズだ。
「何年か後に誰かこの部屋でこのキズを指でたどるのかもな?」
どうかその子は幸せであってほしい。
「いくぞ、ミル」
「ああ、行こう。俺たちの家に」
これが俺の、俺たちの新しい旅立ちだ。
彼は沈痛な表情で俺に頭を下げた。
王族の彼が、あのいつも不遜な態度で俺を見下していた彼が、俺に頭を下げたのだ。
「……謝ってすむことではないが、謝らせてほしい。すまなかった。申し訳なかった。
お前がどんな扱いをされているのかも気づかず、お前の前でのうのうとレオリースを褒め、お前を貶めた。
私も彼らと同じだ。お前に愛されたいと願いながらそれを素直に出せず、その苛立ちをお前にぶつけていた。
お前につらく当たりながら、お前が私に助けを求めないことを不満に思っていた。
レオリースとの噂も知りながら、お前がヤキモチを妬いてくれるのでは、とそれを放置していた。甘かった。不遜だった。
私の愚かな行動をあげだせばきりがないな」
ふっと切ない笑みを見せる。
「高等部に入りレオリースが居なくなればチャンスだと思っていた。お前と二人になれば素直に気持ちが伝えられるのではないかと。これまでのことを謝罪してお前とまた向き合えるのではないかと……そんな安易で都合のいいことを考えていたのだ。
だが、もう私との結婚はありえないということを理解した。私は……それだけ酷いことをしていたのだな。
もう一度言おう。本当にすまなかった」
「今のお前は、幸せそうだ。……よき居場所をみつけたのだな。
私は……お前との婚約破棄を受け入れる。
公爵にはこれ以上お前を利用させぬ。公爵が除籍を認めぬなら、私が証人となろう。父にかけあい除籍を認めさせる。それでいいか?」
通じた、と思った。
俺の言葉がまったく通じなかったルディアスに、初めて俺の言葉が届いた。
そしてルディアスの言葉も俺に届いた。
もうルディアスに関してはこれでいいと思った。
最初の出会いだけで彼を締め出したのは俺も同じだ。
俺の彼に対する気持ちは「諦め」でしかなく、シルに対するような気持ちを抱けなかった。
ルディアスにもそれは伝わっていたのだろう。だからルディアスもムキになっていたのだ。
もう少し早く、お互いに心を割って話し合ってさえいれば何か変わったのかもしれない。
「ああ。それでいい。よろしく頼む、ルディアス」
うむ、と目を細めるルディアス。
「また私の名を呼んでくれたな。……ありがとう」
泣きそうな声だった。
そしてルディアスは打って変わって厳しい視線を公爵に投げかける。
「……公爵にはこれまでの責任を取らせるつもりだ。
少なくとも、公爵が暴力を振るった際にはミルリースはまだ私の婚約者だ。
王族の婚約者を虐げ、貶め、暴力を振るった罪は重いぞ。覚悟しておくとよい」
公爵は急に小さくなったように見えた。
いつも若作りしている夫人も、一気に10は老けたように見える。
2人とも力を失ったように目を見開いて茫然としていた。
俺はそんな公爵たちに頭を下げた。
「これまで育てていただきありがとうございました。衣食住を与えてくださったことには感謝いたします。
今後は私のことは他人だとお思いください。私もそう致しますので。
私は今日このままシルと家を出ます。
除籍届につきましては、後日改めてサインしにまいりますので、ご用意のほどを。
では、失礼いたします」
「!!どこに行くというのだ!一人で生きていけるものか!
世の中はそこまで甘くはないのだぞ?」
「新居は既に用意してあります。
今後のことはご心配なく。すでに私は商会の運営を始めております。全て手筈は整えておりますので」
にっこりと告げる。
「……全て手回し済みということか……」
公爵はガクリと項を垂れたのだった。
「ルディアス、ではまた学校で。
これからは単なる知り合いとしてよろしく頼む」
「ああ。……知り合いとしてな。せめてもの詫びに、除籍後も学校に通い続けられるよう手配しよう。
君の幸せを祈る。ミルリース」
俺の背に「僕はどうなるの?ねえ?」という声がしたが、それに応えるものはいなかった。
俺は自分で自分の進退を決めた。レオリースもそうすればいい。それだけだ。
部屋で最後の荷物をまとめる。
これでも15年暮らした部屋だ。この部屋にはシルとの思い出がたくさんある。
「なあ、この柱のキズ覚えてるか?」
「毎年ミルの誕生日に身長を測って刻んだやつだな。……ずいぶん小さかったんだなあ……」
「シルがここに刻んでくれるたびに、家族みたいだなと嬉しかった。
この柱……削って持ってはいけないか?」
「それは無理だが……新居でもやろうぜ?これからのミルを刻もう」
最後の身長を測って刻む。これが最後のキズだ。
「何年か後に誰かこの部屋でこのキズを指でたどるのかもな?」
どうかその子は幸せであってほしい。
「いくぞ、ミル」
「ああ、行こう。俺たちの家に」
これが俺の、俺たちの新しい旅立ちだ。
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