もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!

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五年後

閑話休題 ゲイルと公爵2

狼狽えるフィオを急かし(にしてもずいぶん人間らしくなったもんだ。すっかり表情豊かになった……いや、それは言い過ぎか。随分マシになった)厨房へ。
勝手知ったるとばかりに「とっておきの酒」が保存されている倉庫に忍び込む。

「お、おい、ゲイル。勝手にこのような……」

この期に及んでなんとか俺を諫めようとするフィオ。
無理矢理止めようと思えばできるのに、小声で言ってくるあたり、詰めが甘いんだよなあ。

「良いんだよ。なんで俺が場所を知ってると思う?昔から何度もハルトと来てんだよ。
つまり、持ち主のお墨付きってことだ。見つかったらハルトに責任をおしつけてやりゃあいい。
……うん、こいつと、こいつ。
……お、なかなかいいの隠してやがるな!さすがは王城だ」

ほい、ほい、とフィオに放れば慌てたようにパシッパシッと受け取る。

「これでお前もめでたく共犯だ。ようこそ、酒飲みの世界へ!
てか、こんな日くらいは許せ。
俺の命より大切な宝を手放すんだぜ?酒くらいじゃ割に合わねえ。
だろ?」

最後の言葉は思った以上に弱弱しいものになっちまった。俺ともあろうものが!
それに絆されたか、フィオが俄然乗り気になった。

「ゲイル。これも君の好みではないか?
……うむ。これなぞはなかなか手に入りにくいと聞く。
だがそれとて我らが宝の対価にはとうていおよばぬが、な。
私が言うのもなんだが……愛おしい息子の巣立ちなのだ。辛くとも、祝おうではないか。
それが親の矜持というもの。
だろう?
これは祝い酒だ。私ですまぬが……共に祝おう」

グイっと唇の端が持ち上がる。
どんな顔だよそれ。

祝い酒だって?
クソ、負けたわ。
お前の言う通りだ。自己憐憫に浸ってる場合じゃねえ。
愛おしい息子の巣立ちを祝ってやろう。
俺がすべきことはそれだ。



お前さあ……。ほんと、変わったよな。

俺とフィオの初めての出会い。
ボロボロのお前が飛び込んできたあの時からエリアナがいなくなるまで、俺はお前のことを家族だと思っていた。
表情を亡くすほどに自分をすり減らし、嬉しいも悲しいも分からなくなっちまってるお前が不憫で見ていられなかった。
俺が温めてやってもよかったんだが、エリアナがお前の手を取ってくれた。

俺がいうのもなんだが、エリアナは大した娘だ。
身体は丈夫ではなかったが、なんというか……丹力があった。
あの妖精みたいな外見からは想像もできぬほど、強くしたたかで。陽の光のように周りを明るくする。
そんな娘だった。

そう、サフィのように。

サフィのあの天真爛漫さ、無邪気さ、それと裏腹な豪胆さとしたたかさは、エリアナ譲りのものだろう。
エリアナを得たフィオが徐々に人間らしくなっていくのを嬉しく思っていた。
ライとリオという息子を得て、これからはもっと幸せになるのだろうと思っていたのに……。

お前はせっかく得た宝を、エリアナの消失と共に手放しちまった。
目を、心を閉じ、護るべきものを傷つけた。

何の罪もないサフィにお前がしたことは、決して許されることではない。
あの命が今ここにあるのは奇跡と言ってもいい。
それくらいギリギリだった。


だがお前は変わった。

サフィによる「父親じゃない」「公爵なんていらない」という言葉による衝撃が大きかったのだろう。

叩きのめされたお前は、サフィによる断罪を粛々と受け入れた。
恐らく、「リアナさえ生きていたらこうだっただろう」という方向に、自らの力で歩みだした。
幼子にどんな生意気を言われても黙って従い、己の罪なのだと、ライとリオと共にひたすらに献身を示し続けた。
試行錯誤しながら、不器用な愛を示し続けた。
サフィのみならず、ライとリオにも。
言葉にするのが苦手なお前が、必死で言葉を紡ぎ、ぎこちなくとも笑みを見せ。
「愛しているのだ」と必死で伝え続けた。

その期間、10年。

サフィの頼みは全て聞き届けた。
サフィのやりたいことをさりげなく裏から後押ししていたのを俺は知っている。
あの孤児院とギルドを巻き込んだ祭りに関しても、裏で動いていたんだろう?
ギルドの躍進を良く思わない輩を牽制し、余計な手出しをせぬよう手を回してたんだよな?
だからこそ、サフィが初めて動いたあの企画は大成功に終わった。
言わなかったけど、当たり前のように動いたお前が、俺は嬉しかったんだ。

他国の王族からの婚約の打診も、俺のところに来る前にレオンと共に握りつぶしていたんだろう?
あの「同性婚」のことだってそうだ。
あそこまでスムーズに行ったのは、レオンの根回しもあるが、お前、相当無理をしたんだろう?

誰に言われずとも、誰に知られずとも、ただ自分が傷つけてしまった息子のためにひたすらに献身し続けたフィオ。

サフィも、当初はフィオに対して怯えたり裾ぶりがあった。
だが、サフィは俺が思う以上に強かった。
徐々に割り切り、開き直り、そして、堂々と渡り合うようになった。
そして今ではフィオに対して好き勝手にふるまっている。
「アンタ」だの「それくらいできるでしょ!」だの言いたい放題。ぞんざいな扱いをするわりに、気軽に頼みごとをしたりこきつかったりする。
本当に嫌いなら、憎んでいれば、話しかけることすらしないだろう。
好きの反対は嫌いではない。「無」なのだ。
サフィはあれでいて苛烈だ。本当に嫌いなら、その存在を目に留めることすらなく、気に掛けることなどない。
だからフィオへのあの扱いは、サフィなりの甘えなのだと俺は思っている。
公爵にはその能力があるのだという信頼、公爵ならば自分の望みを叶えてくれるはずだという甘え。
そして、無意識に信じているのだ。公爵は絶対にサフィを裏切ることは無いのだと。自分はきちんと愛されているのだと。

だからおれもフィオをそう扱うことにした。
時にチクリと刺しつつも、ぞんざいに。気軽に。

なあ、フィオ。「もう許してやる」なんて言ってやらねえぞ?
俺はそこまで優しくねえ。
それだけのことをお前はしたんだからな。

だけど……お前はサフィという素晴らしい息子を俺に与えてくれた。
存分に愛せる、愛を注げる息子を俺にくれた。
それだけで俺はお前に恩があるんだ。
愛おしい息子をこの世に送り出してくれた全てに。エリアナに。お前に。俺は感謝しきれない。


だから、行動で示す。

もうお前はサフィとっくに許されているのだと。
お前も父親として喜び、悲しみ、憂いてもいいのだと。



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