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五年後
閑話休題 ゲイルと公爵6
「お前、俺じゃなくてエリアナを選んだだろうが。
愛してたからじゃねえのかよ?
なのに、妻である以上に友とか同志とか母親ってなんだよ?
友とか同志なら俺だってよかっただろうがよ」
口にしたとたんハッとする。
俺、今何を言った?
俺だって良かっただろう、なんてまるで俺が……
頼む、フィオ。聞き流せ!
「ゲイル……今の言葉、都合よく解釈してよいか?」
フィオの声音が変わった。
ダメか。これ、聞き流す気ゼロだな。
「あー……酔ってんな、俺。
てか、俺のサフィが巣立つのかと思ったら、ちと気弱になっちまった。すまん」
「普段はこれくらいの酒、なんでもねえんだけどなあ」と笑って見せたが、ふと顔を上げた先にあった真剣な瞳の色に、言葉を失った。
「ゲイル。聞いて欲しい。私とエリアナのことだ」
「いや、もういいって!
お前らはお似合いの夫婦だった。それこそ失ったお前がおかしくなっちまうくらいに、愛し合うソウルメイトだったよ」
ははは、と笑いながらグラスに手をの伸ばせば、向かいからスッと伸びてきた手が俺の手をグラスごと包んだ。
火照った手の甲に触れるひんやりとしたフィオの掌。
「……でけえ手だなあ、おい」
クスクスと茶化してみせたが、フィオはそんな俺の逃げを許さなかった。
「ゲイル。私とエリアナは、同じ人を愛する同志だった。彼女は行き場のない私の心を救い、家族をくれた。
母の愛を知らぬ私に、まるで母親のような愛を与え寄り添ってくれたのだ」
ダメだ……聞くな。聞いちゃあダメだ。
「やめろ、フィオ。今さら……」
耳を塞ごうとするが、しっかりと手を握って放してくれない。
「ダメだ。言わせて欲しい。聞いてくれ、ゲイル。
彼女は…………とても似ていた。あなたに。
エリアナは……私と同じ想いを抱えていた。そしていつかその人と離れて見知らぬ誰かに嫁がねばならなくなることを恐れていた。
私も同じだ。一人では抱えきれぬほどの想いをいつかその人にぶつけてしまいそうで、その人を失うことを恐れた。
だから私たちは、お互いの気持ちを大切に胸に抱えたまま、家族となることを決めたのだ」
ポロリ、と涙がこぼれた。
なんだよ、それ。なんだよエリアナ。
お前たち、なんなんだよ!!
「後悔はしていない。エリアナは、とても素晴らしいものを私に与えてくれた。
冷たい公爵家を融かし、温めてくれた。
愛する素晴らしい息子を3人も与えてくれた。
だからこそ……エリアナを失ったとき、怖くなった。
私はエリアナを幸せにできたのだろうか、と。
彼女に与えられたものは大きい。なのに私は彼女に何も返せぬまま、彼女を逝かせてしまった……。
あなたへの気持ちとは違う。が、私は確かに彼女を愛していた。だが、それさえ伝えられずに……逝かせてしまった。
私に救いの手を伸ばさねば、彼女はもっと生きられたかもしれない。
あなたの横でほほ笑んでいられたかもしれない。
そもそも、三人目を望まなければ……。
後継ができた時点でエリアナを解放し、あなたの元に返していれば……そう思った。
私が彼女の命を奪った。
自らの愛を護るために彼女を利用し、その命を奪ったのだ。
サフィラスに何の罪もないことも分かっていた。
だが、エリアナを失った喪失感と罪悪感でつぶれそうになった私には、彼女の死のきっかけとなったサフィラスが私の罪の象徴に思えた。
勿論今ではそのようなことはないと理解している。
愛の形は一つではない。エリアナと私は、形は違えど愛し合っていた。
妻であり、母であり、姉であり、家族であり、私を救ってくれた恩人でもある。
彼女もきっと私の気持ちは分かっていてくれただろう。
だからこそ、息子を三人も残してくれたのだ。
エリアナは、命をかけてサフィラスを遺した。あの子は、全ての希望だ。幸せの象徴だ。
ゲイル、あなたがサフィラスを息子にすると宣言したとき、私は思ってしまった。
『息子は仮初の棲家から本来居るべき場所に戻っるのだ』と。
エリアナの愛の形が、あなたの元であなたの空洞を満たすのだと。私にできないことを息子がなしてくれるのだと。
だから、あなたがサフィラスを奪ったのではない。
私はエリアナの死を受け入れられなかった。あまりにも愚かだった。
あなたそれを正してくれただけだ。
これが……私の罪の全てだ」
「違う!」
俺は思わず叫んだ。
「ルーが前に言ってただろ?
本来なら俺とフィオがくっつき、サフィは俺が産むはずだったんだって。
エリアナはその前に他界していたはずだったんだって。
お前とエリアナの愛が、エリアナを救ったんだ。ライとリオという新たな命を産み出した。
エリアナは幸せだった!俺の知るエリアナは、いつも笑顔だった。
お前やライ、リオのことが愛おしいと。毎日がとても幸せなのだと、いつも言っていた。
だからエリアナのことで罪悪感なんて抱く必要なんてねえんだよ。
お前が言う通り、愛の形も夫婦の形もいろいろなんだ。
そもそもお前は公爵家の後継者。エリアナだって適齢期だった。
あのままなら、ふたりとも別の相手と政略婚していた未来だってありえたんだぞ?
俺は別だ。なんていったって『ゲイル』だからな?選ぶだけの力はある」
想像したのか、フィオの顔が困ったように歪んだ。
同時に俺の手を包む力も緩み、ようやく俺は自分の手を取り戻した。
「……だよな。想像したくねえよな?
…………うん。お前とエリアナが結ばれてくれてよかった。
エリアナは幸せだった。
もしまたお前と結婚するかどうか選べるとしても、きっとお前を選んだと思うぜ?
そもそも、ライとリオ、そして俺のサフィを世に送り出しただけで大成功だろうが!
失敗はお前がエリアナが想っていた以上にヘタレで閉じこもっちまったこと。それだけだ。
そこは一生反省しとけ!サフィにこき使われてろ」
半泣きで情けない表情のフィオの額をビシっと指ではじいてやる。
「うっ!な、何を……!」
「ははははは!捨てられた犬みてえな顔してっからだよ!
いいか。お前にも、もちろんエリアナにもサフィにも罪なんてもんはねえ。
あるのは愛だけだっての!
だから胸張って笑ってろ!エリアナの分も笑え!俺もそうするから」
愛してたからじゃねえのかよ?
なのに、妻である以上に友とか同志とか母親ってなんだよ?
友とか同志なら俺だってよかっただろうがよ」
口にしたとたんハッとする。
俺、今何を言った?
俺だって良かっただろう、なんてまるで俺が……
頼む、フィオ。聞き流せ!
「ゲイル……今の言葉、都合よく解釈してよいか?」
フィオの声音が変わった。
ダメか。これ、聞き流す気ゼロだな。
「あー……酔ってんな、俺。
てか、俺のサフィが巣立つのかと思ったら、ちと気弱になっちまった。すまん」
「普段はこれくらいの酒、なんでもねえんだけどなあ」と笑って見せたが、ふと顔を上げた先にあった真剣な瞳の色に、言葉を失った。
「ゲイル。聞いて欲しい。私とエリアナのことだ」
「いや、もういいって!
お前らはお似合いの夫婦だった。それこそ失ったお前がおかしくなっちまうくらいに、愛し合うソウルメイトだったよ」
ははは、と笑いながらグラスに手をの伸ばせば、向かいからスッと伸びてきた手が俺の手をグラスごと包んだ。
火照った手の甲に触れるひんやりとしたフィオの掌。
「……でけえ手だなあ、おい」
クスクスと茶化してみせたが、フィオはそんな俺の逃げを許さなかった。
「ゲイル。私とエリアナは、同じ人を愛する同志だった。彼女は行き場のない私の心を救い、家族をくれた。
母の愛を知らぬ私に、まるで母親のような愛を与え寄り添ってくれたのだ」
ダメだ……聞くな。聞いちゃあダメだ。
「やめろ、フィオ。今さら……」
耳を塞ごうとするが、しっかりと手を握って放してくれない。
「ダメだ。言わせて欲しい。聞いてくれ、ゲイル。
彼女は…………とても似ていた。あなたに。
エリアナは……私と同じ想いを抱えていた。そしていつかその人と離れて見知らぬ誰かに嫁がねばならなくなることを恐れていた。
私も同じだ。一人では抱えきれぬほどの想いをいつかその人にぶつけてしまいそうで、その人を失うことを恐れた。
だから私たちは、お互いの気持ちを大切に胸に抱えたまま、家族となることを決めたのだ」
ポロリ、と涙がこぼれた。
なんだよ、それ。なんだよエリアナ。
お前たち、なんなんだよ!!
「後悔はしていない。エリアナは、とても素晴らしいものを私に与えてくれた。
冷たい公爵家を融かし、温めてくれた。
愛する素晴らしい息子を3人も与えてくれた。
だからこそ……エリアナを失ったとき、怖くなった。
私はエリアナを幸せにできたのだろうか、と。
彼女に与えられたものは大きい。なのに私は彼女に何も返せぬまま、彼女を逝かせてしまった……。
あなたへの気持ちとは違う。が、私は確かに彼女を愛していた。だが、それさえ伝えられずに……逝かせてしまった。
私に救いの手を伸ばさねば、彼女はもっと生きられたかもしれない。
あなたの横でほほ笑んでいられたかもしれない。
そもそも、三人目を望まなければ……。
後継ができた時点でエリアナを解放し、あなたの元に返していれば……そう思った。
私が彼女の命を奪った。
自らの愛を護るために彼女を利用し、その命を奪ったのだ。
サフィラスに何の罪もないことも分かっていた。
だが、エリアナを失った喪失感と罪悪感でつぶれそうになった私には、彼女の死のきっかけとなったサフィラスが私の罪の象徴に思えた。
勿論今ではそのようなことはないと理解している。
愛の形は一つではない。エリアナと私は、形は違えど愛し合っていた。
妻であり、母であり、姉であり、家族であり、私を救ってくれた恩人でもある。
彼女もきっと私の気持ちは分かっていてくれただろう。
だからこそ、息子を三人も残してくれたのだ。
エリアナは、命をかけてサフィラスを遺した。あの子は、全ての希望だ。幸せの象徴だ。
ゲイル、あなたがサフィラスを息子にすると宣言したとき、私は思ってしまった。
『息子は仮初の棲家から本来居るべき場所に戻っるのだ』と。
エリアナの愛の形が、あなたの元であなたの空洞を満たすのだと。私にできないことを息子がなしてくれるのだと。
だから、あなたがサフィラスを奪ったのではない。
私はエリアナの死を受け入れられなかった。あまりにも愚かだった。
あなたそれを正してくれただけだ。
これが……私の罪の全てだ」
「違う!」
俺は思わず叫んだ。
「ルーが前に言ってただろ?
本来なら俺とフィオがくっつき、サフィは俺が産むはずだったんだって。
エリアナはその前に他界していたはずだったんだって。
お前とエリアナの愛が、エリアナを救ったんだ。ライとリオという新たな命を産み出した。
エリアナは幸せだった!俺の知るエリアナは、いつも笑顔だった。
お前やライ、リオのことが愛おしいと。毎日がとても幸せなのだと、いつも言っていた。
だからエリアナのことで罪悪感なんて抱く必要なんてねえんだよ。
お前が言う通り、愛の形も夫婦の形もいろいろなんだ。
そもそもお前は公爵家の後継者。エリアナだって適齢期だった。
あのままなら、ふたりとも別の相手と政略婚していた未来だってありえたんだぞ?
俺は別だ。なんていったって『ゲイル』だからな?選ぶだけの力はある」
想像したのか、フィオの顔が困ったように歪んだ。
同時に俺の手を包む力も緩み、ようやく俺は自分の手を取り戻した。
「……だよな。想像したくねえよな?
…………うん。お前とエリアナが結ばれてくれてよかった。
エリアナは幸せだった。
もしまたお前と結婚するかどうか選べるとしても、きっとお前を選んだと思うぜ?
そもそも、ライとリオ、そして俺のサフィを世に送り出しただけで大成功だろうが!
失敗はお前がエリアナが想っていた以上にヘタレで閉じこもっちまったこと。それだけだ。
そこは一生反省しとけ!サフィにこき使われてろ」
半泣きで情けない表情のフィオの額をビシっと指ではじいてやる。
「うっ!な、何を……!」
「ははははは!捨てられた犬みてえな顔してっからだよ!
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